minormeeting
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2011年、4年間の上海駐在を終えて東京に帰任。 狭い部屋でオーディオと家族と同居しています。 一生懸命に生きていれば音楽はもっと感動できる、を信じて。 2017年、10年ぶりに上海にま…

日記

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「二つの部屋」/第二話:過去にタイムスリップする部屋

「過去に戻るか、現代に蘇らせるか」
・・・それが違いだ。


逢瀬の「音が見える部屋」と並んで私のお気に入りのオーディオルームがある。
「過去にタイムスリップする部屋」。

20畳を超える専用ルームで、英国製アンティーク椅子に座りながら、英国製他のヴィンテージ機器が音楽を奏でる。機器の詳細は不明。音源はもちろんアナログであるが、カートリッジを含めて私には馴染みのない製品だ。

出てくる音はおおよその予想を覆し、繊細で清廉、ノイズレスで何よりバランスが良い。目を閉じると確かにホールを感じる。ソースは50年~70年代のクラシックが多いが、システムの年代と整合させているのだという。

レコードというと最低限のフロアノイズ(ヒスノイズ)や時折生じるパチパチ音(クリックノイズ)は不可避と思われがちだが、正しく整備されセッティングされた機器やソフトからは、これらノイズは極限まで排除されている。このため音楽の海に遠慮なく潜水することが出来る。ただし、日によって調子が異なるそうで、オーナーはそれを自らの経験不足と言うが、私からするといつも期待以上の音が鳴っている。

部屋に入った瞬間にある種の緊張を感じる。まるでコンサートホールに足を踏み入れた際に感じる空気と同じである。広い部屋にはオーディオとアンティーク家具しかない。床やカーペットはダークな色調でまとめられ、昼間であっても厚いカーテンがかかっていること、そして何より固有の静寂感がそう感じさせるのだろう。

私が心地よい緊張を感じたままリスニングルームのセンターに置かれた木製の椅子に座ると静かにアナログに針が落とされる。最初は軽い音楽、例えばバッハのパルティータとかモーツアルトのピアノソナタから始めることが多い。夏は水出しコーヒー、冬はホットコーヒーが準備される。ここまでほとんど会話はなく、そしてそのまま静かに音楽を聴くことになる。

頃合いを見て再生が中断され次のディスクに移行するわけだが、そこでようやく近況や音楽の話をすることになる。第二幕は、ミケランジェリやフランソワが弾くショパンのピアノソナタなどを聴くことが典型的と言ってよい。このあたりまで来ると、私はこの部屋に入る前までに抱えていた心配事や考え事、物欲などというものから解放され、素直に音楽の中に没入できるのである。

私はアナログディスクを所有していないので、毎回、友人のおすすめ音楽を聴くことになる。音楽鑑賞の後はだいたい彼の手料理を頂くことになるわけだが、音楽も含めてメニューは毎回お任せで全てが進行してゆく。



コーヒーをお替りする頃になると、曲は協奏曲や交響曲に移っている。よく聴くソースは、シベリウス、ワーグナー、ベートーヴェンそしてマーラーである。順番もだいたいこのような感じで、部屋の外も暗くなり本格的にオーディオルームが薄暗いコンサートホールになってくると、「大地の歌」や「第九」が鳴り始めることになる。

一連の曲目はまるで一人の人生を見るようだ。生まれたばかりの子供と重なる性善的なバロックから始まり、若いころの快活な時代、それから成熟期を経て老年期に至る。人生のピークを迎えるころにはワーグナーのタンホイザー序曲が盛り上げ、人生の終わりは大地の歌の告別が告げる。
毎回このような濃密な時間を過ごすことになるのだが、帰るころには一つの修業でも終えたような感覚で、少なくとも精神的には一つ年を重ねたような気になるのである。

不思議なのは、彼とはオーディオらしい話をほとんどしないことだ。話の大半は音楽についてである。フォノアンプ、ケーブル、パワーアンプなど質問しなければ何もわからないシステムだが、出てくる音を聴くと、システムの詳細な情報などは無用と思えるほどの説得力がある。もちろん、私にはヴィンテージオーディオの知識が全く足りていないというのもあると思うが、本人も多くを語ることはない。


さて、肝心の音質である。これを語らないとタイムスリップするという本当の意味が伝わらない。

この部屋の音はコンサートホールの2階席に相当する。概ね目線よりも低いポジションで、スピーカーより後ろ側にステージが展開する。初めて聞くと、若干肩すかしを食らうかもしれない。この音は老獪だ。肩の力が抜けていて、こちらが「楽しませてくれるかな」と期待していてもスルリと交わされてしまう。オーディオ的に評価されることを達観的に見越しているのか、すぐにはその実力が分からないのである。

しかし時間が経つにつれ、この部屋の音こそ「何も足さない・何も引かない」音だということに気づくだろう。ハイエンド・オーディオの褒め言葉として繰り返されるこのフレーズは、我々よりも年齢を重ねたこの機器にも当てはまる。つまりそれくらい自然な音なのだ。

いつから、我々はアナログやヴィンテージの音が古臭いもの、特異なものという先入観を持ったのだろう。
私は、この部屋でオーディオを聴くまで、「昔の人は悪い音で音楽を聞くしかなかったので、かわいそうだった」と思っていた。しかし、実際にかわいそうなのは中途半端なデジタル機器で音楽を聴いている我々だった、ということが、やんわりとそしてゆっくりと諭されたのである。

確かにデジタル時代になって音を自由に加工できるようになった。しかし、人工的な加工があまりに過多となったことで、我々オーディオマニアはヒットソングが楽しめなくなったのではないか。大半のPOPSの録音が普遍的に悪いことは我々の常識だ。ハイエンド・オーディオで聴いても、音が良くならないようなソフトが巷に溢れている状況は、実は非常に不幸なことで、昔の人がこの状況を知れば、逆に同情するに違いない。

アナログに対する先入観が消え去り、素直に「良い音」を受け入れた時、今までに感じたことのない不思議な体験をした。1960年代のロンドンでレコーディングされたマーラーを聞いていた時に「懐かしい」と感じたのである。まるで自分がその演奏会に行っており、後日、録音でその日の演奏を聞いた時に感じるであろう懐かしさ。自分が生まれる前の演奏を聴いているのに、懐かしいという感情が生じる・・・なんとも背筋が寒くなるような体験である。そう、タイムスリップ。このシステムは、過去の演奏がそのまま再生されるので、現代に生きる我々はその音を通じて過去に戻れるのだ。イメージ的には、ロイヤル・フェスティバル・ホールの2階席の前の空中にポカンと窓が開いてそこから過去の演奏を生で聴いてきたような感覚。

逢瀬の音が見える部屋で同じ音源を再生してみると、もちろん別の演奏に聞こえるのは予想通りとしても、聞き手の印象が全く反対であることが分かった。音が見える部屋では、かなり新しい録音のように聞こえるのに対し、タイムスリップする部屋では過去の演奏がそのまま鳴っている印象である。同じ演奏を、聞き手が過去に戻って聴くのか、あるいは演奏を現代に蘇らせるのかの違いと言ってよい。


さて、私のシステムはどちらに向うのか?

残念ながら答えは選択式ではない。というのも、タイムスリップする部屋を手に入れることは、音が見える部屋よりも難しく相当の技量が必要だからだ。理想的にはどちらも所有したいがそれは無理というもの。

まずは「音の見える部屋」を造ろう。
彼の地での生活を彩るため、あきらめではなく嬉々として。


二つの部屋・完

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FIDELIX

CAPRICE

¥168,000(税込)

発売:-

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うわさの32bitDACの実力とは如何に!?

CapriceというDACの存在は、私がまだ上海にいたころネットサーフィンをしていて知った。



当時はまだ発売前であり、32bitという新しいDAC素子を搭載している点に注目したのである。

32bitの素子で代表的なものは、バーブラウン、旭化成およびESS社から出ているが、そもそも32bitで録音した音源がないので、存在意義にはいささか疑問がある。



しかし、マニアとして32bit素子の出現には胸がときめくものがあり、当然、音を聞いてみたいなあと思っていた。




日本に戻って、本格的にDACを選び始めた時、Capriceは当初、候補に入っていなかった。

どうしてもマニアックすぎる気がしたし、そもそも店で売ってない。

第3、第4ロットまで売り切れという人気で、手に入りそうにない。

それから、変な表現であるが、値段が安すぎるという不安があった。



最終候補に挙がってきたのは、dCS、WeissそれからBerkley AudioのAlpha DACである。

ESS9018搭載の機種はないが、搭載機でどうしても欲しいと思うモノはまだない。



Weissについては上海の友人が猛烈に勧めていたので興味を持ったが、現物も見たことがなく音も聴いたことがないので後回しとなった。

(上奉書屋さんのレビューを読んでいれば、印象は違ったかもしれませんが)


dCSは高価で、購入対象は中古になる。欧米のサイトなどでElger plusなどの掘り出し物を物色し始めた。

同時にAlpha DACについてもリサーチを開始。

Alpha DACは国内でも買えるが、内外価格差が大きいため、やはり米国から直輸入の方向で考えた。



HPを見に行くと、なんと「8月にSeries 2が出た」とある。

大幅な変更ではないが、デジタル処理を見直したようだ。

米国のネット上でも「確実な音質向上」との評価があり、直輸入するならコレだと思った。

しかし販売店に問い合わせると、「すごい人気で納期は2カ月かかる」とのこと。。



2カ月は長い。ちょうどLAT1の到着に合わせて友人が家に遊びに来ることになっている。

どうせなら、LAT1の到着までに買えたら一緒にテストできるし楽しいなぁ。



思い出して、改めてFidelixのHPを見た。



Fidelix社のHPは情報量が膨大であり、読んでみると技術志向であり、技術者魂が感じられる。

あまりに商売っ気がなく、却って日本的な美学というモノを感じた。

私はそういう主張は好きである。



ファンによる熱烈な高評価に加え、発売されるロットは毎回完売。

値段は168,000円と検討していた機種に比べて著しく安い。



メールで問い合わせたところ、なんと「今なら即納可能」との返事。

デジタルロックの問題でトランスポートを選ぶという情報もあったが、既に対策済みとのこと。



Capriceは、候補に入っていなかったにもかかわらず「今すぐ買えます。明日送れます。」というメールはあまりにも魅力的だった。



商品は確かに3日後に到着した。LAT1と同じ日に到着したのである。



商品の発注をしてから、思い出して、某SS誌上での三浦氏が商品紹介記事を読みなおした。

「このDACはものすごく音が良い!」と絶賛されていて期待が高まった。

裏側はこんな感じ。
デジタルフィルターなどのスイッチが付いている。



DACの足はなんとボルトの丸い頭を利用したものだった。




さすがにそのまま置く気になれず、マグネシウムのスパイク受けを下に敷いた。




さて実際の音質であるが、最初から、あっけなく良い音が出た。

しかしそれは、SA8400との差替えによる相対的な比較であって、肝心のLAT1がまだ調子が悪いのでまだ本領は確認できていない。



バーンインには約1週間程かかりますと説明書に書いてある。

これは本当だった。

初日は音が硬かったが、2日目でかなりスムーズになり、1週間くらいでかなり安定した。



しかしデジタル機器は、エージングで大化けすることはないと思っている。

良いモノは最初から良く、最初に悪い印象モノは、劇的には良くならない。



Capriceは比較的変化は大きい方と言っていいだろう。

一週間経って、どういうわけか、音量も少し大きくなったような気がする。



ネットではハイエンドDACと十分に渡りあえる実力があるとの評価を良く見る。

実は購入にあたって、Fidelixの中川社長と数回メールのやり取りをした。

BerkeleyのAlpha DACと迷ってますと伝え、「実際に比較したことがあります」という意味深な回答を得た。

Capriceの方が明らかに良い、と言わないところがニクい。しかし行間からは、そう読み取れるのである。



168,000円という値段は、オーディオ機器の尺度で言うと、ミドルクラスの価格帯にも入らない。

だが、この価格で本当に良い音が出るなら、こんなに良い話はないと思う。



テストは、可変出力で直接PWアンプを駆動に加え、XLR固定出力で真空管プリを通してPWを駆動し両社を比較した。

また、SA8400のアナログ出力を、Capriceのアナログ入力に入れて、セレクターで瞬時に8400の内蔵DACとCapriceを比較できるようにした。



CapriceとSA8400の音質がこんなに違うなんて本当に驚いた。



SA8400でご機嫌にJAZZを聴いていて、Caprice DACに切り替えると、今までほとんど聞こえなかったシンバルのハイハットの音が急に現れた。友人と二人で思わず笑ったくらいに、出てくる音楽のバランスが全然違っていた。



とにかくワイドレンジで、情報量が明らかに多い。



一旦Capriceの音を聞いてからSA8400に戻すと、まるでレコードでも聴いているかのように中低域に的を絞った超ナロウレンジなサウンドに驚く。あまりのバランスの違いに、オールドジャズ専門のプレイヤーなんじゃないかと思えてくる。


どう考えてもオーディオ的にはCapriceの勝利であった。

クリアで情報量が多く、動作が正確で申し分ない。

中域の充実した熱いサウンドにも魅力を感じるが、手持ちの90%のCDはCapriceで聞きたい。



豊富な入出力もとても便利(かなり狭いけど。。)



色々とテストした結果、このように思った。



Capriceの音はハイエンド機器と同レベルかというと、それはちょっと違うような気がする。

ハイエンド機器は、もっと空気の密度を上げたような音が出るはずだ。

うっそうとした音の中に生命力溢れる音楽の感動を見つけることが出来るような。



Capriceは確かに物理特性が優れている。

細かい音まで全部の音が聞こえるとか、上から下まで伸びきっているという項目では素晴らしい。

しかしながら、やや音が薄いのだ。

息苦しい程に密度の濃い音で部屋を埋め尽くすというハイエンドDACの凄みはない。




しかし幸いなことにLAT1とは相性が良いと思う。

巨大なLAT1が思いのほかナチュラルな音を出す大きな要因になっているのは間違いない。

特にテレビの音声を聞く時は、明瞭すぎて却って気持ちいい。



無色透明系のCapriceに、中域の分厚い真空管プリを組み合わせ、デジタルアンプでLAT1を駆動する変則システム。

その思いがけないハーモニーに今は満足している。

しばらくはハイエンドDACに投資しなくて済みそうである。

【SPEC】●DAC:ES9018(ESS社製32bit) ●ダイナミックレンジ:131dB ●S/N比:131dB ●歪率:0.00064%(5.4V出力時、BW=30kHz) ●対応フォーマット:192kHz/24bit ●入力:デジタル(COAX)×2、デジタル(TOS)×2、アナログ(RCA)×2 ●出力:アナログ(RCA)×1、アナログ(XLR)×1 ●外形寸法:150W×50H×250mm ●質量:約2kg

マイルーム

LAT1 & Evolutionの部屋
LAT1 & Evolutionの部屋
借家(マンション) / リビング兼用 / オーディオ・シアター兼用ルーム / 16畳~ / 防音なし / スクリーンなし / ~2ch

東京のマンションで、なんとかリビングオーディオやってます。 上海のオーディオ専用ルームが懐かしい! <現在のシステム> 2011年12月~のシステム SACD: Krell Evolution 505 Pre: Krell Evolution 202 PW: Triode VP-120SE 改 SP: Krell Lat-1 DAC: Fidelix Ca…

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