パグ太郎
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クラシック中心に聴いています。オーディオは手段と考えてはいるものの、気がつくと手段の魔力に取り付かれてしまうことも多く、日々修行をしております。

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アルゲリッチ・酒井茜ピアノデュオコンサート:音楽の力を引き出すのは「魔法使いのお婆さん」か「地母神」か

本題に入る前に。
大好きなソプラノ歌手ジェシー・ノーマンの訃報が飛び込んできました。
ワーグナー、R.シュトラウスの新たな魅力を教えてくれた、そしてフランス歌曲の魅力を広げたくれた偉大な歌手の想いでは色あせることは無いでしょう。ご冥福をお祈りします。


********ここからが本日の日記です********

プロコフィエフの『シンデレラ』を、プレトニョフが二台ピアノ用に編曲した作品のこの録音は、何度も弊日記に登場しています。
中でも、真夜中の大時計の鐘と共に、魔法の効き目が失われて全ての夢物語が崩壊していく情景でのピアノの重低音の強打12発が問題。普通に鍵盤を打っている、弦を拳で叩いている、いや、バチで叩いている、いやいや、これは足踏みの音だと、配信の動画証拠やら、編曲楽譜の確認やらを含めて、諸説出てまいりまして、未だ結論が出ていないという状況になっております。

 各説には、夫々、「ご自身のシステムではこう聴こえる」という、音楽・演奏解釈とは別の「熱い思い」も混じりあっているのが、このコミュニティらしい所ではあったのかもしれません。 

さて、その超局所的一大事に、最終結論が示される時が来たのです! 話題の編曲作品を献呈されているアルゲリッチ本人が来日公演でこの曲を演奏するというのです。流石にプレトニョフ自身が登場するのではないのですが、彼女が相手に選んだのは、日本でも海外でも幾度も共演をして可愛がっている酒井茜。これは、積年の疑問を解消する絶好の機会、何を置いても聴きに行かなくては!って、動機としては若干首を傾げたくなるのは否めませんが・・・・。 


ということで、サントリーホールの『酒井茜&マルタ・アルゲリッチ ピアノ デュオリサイタル』に行ってまいりました。このテーマでメッセージなど頂いた皆様方にもお声がけをさせて頂いた中、当日のご都合がついたGRFさんとOrisukeさんのお二人とご一緒させていただきました。プログラムは、モーツァルトの「4手のためのピアノ・ソナタ」、問題の(?)『シンデレラ』、そして後半は『春の祭典』のストラヴィンスキー自身の編曲による2台ピアノ版というデュオ・ピアノ好きには堪らない構成です。 

プロコフィエフやストラヴィンスキーのピアノ編曲版なんて、一般受けしそうにないマニアックなプログラムだと思っていたのですが、アルゲリッチの人気を反映してか、サントリーホールはほぼ満席。それに、女性客の比率が高い。なんてぼんやり考えていると、奏者二人がご登場、さっと座って間も置かずに、いきなりモーツァルトの連弾が始まります。こちらの心の準備も出来ていません。そのためか、若書きのモーツァルトらしい、軽やかで愉悦感あふれる時間の流れを感じることが出来ぬまま終了。どうなってしまうのかという一抹の不安を、次の『シンデレラ』の別人かと思える気合の入った演奏は拭い去ってくれました。

 いや、凄い。何が凄いかというとアルゲリッチの魔法の力です。一見してそれほど力が入っているとか、表現のダイナミックさに驚くとか、そういうことはなく、大きな両手が鍵盤を滑っているだけなのです。それなのに、情景の移り変わり、場の空気や明暗の転換が、その一滑りで演出されていくのです。まさしく魔法使いのお婆さん(失礼)の杖の軽い一振りです。そして、その演出された情景の中で酒井の硬質でダイナミックなピアノが、シャンデリアの煌めきの中で踊るシンデレラの様に跳躍し続けている。こちらは、まだまだ若く、魔法使いのお婆さんに負けるまいと、相当力が入って、表情付けにも工夫を凝らしています。夢見心地で聞きほれている内に、気が付けば大時計12発で、魔法の時間が終わりを迎えてしまいました。いや、凄かった。 

お伽噺の『シンデレラ』でこのあり様です。大地の豊穣の男神に捧げる乙女の生贄の儀式という『春の祭典』になったら、どこまで行ってしまうのだろうかというのが、休憩時間の想いでした。が、後半も最初から最後まで、当方の想いの上を行く飛んでもない演奏でした。『シンデレラ』のアルゲリッチが「魔法使いのお婆さん」なら、こちらは正しく大地・豊穣の「地母神」そのもの(春の祭典に登場するのは、愛欲と大地の豊穣を司る男神ですが)。アルゲリッチの左手から繰り出される重低音は、女神の足踏みの様に、大地を目覚め揺り動かし、大気を震わせる、そういう深いエネルギーを持って、大ホールの空間を包み込んでしまっていました。その春に目覚めた大地の中で、犠牲となる乙女の狂おしい舞踏を酒井の硬質な指さばきが表現していきます。原曲のオーケストラ版でもここまで、原始的な自然の覚醒の力・狂気を描き出している演奏は滅多にない、そういう恐ろしさを感じました。 

もう、呆然として拍手するだけだったのですが、あれだけ弾いた後で、2曲もアンコールに応えるとは。それも、ラヴェルの『マ・メール・ロア』から『妖精の園』と『パゴタの女王』の優しく繊細な美しい響き。フランス音楽の響きに耳が洗われる思いがいたしました。 

ということで、大満足の三人で感想会の祝杯を挙げたのですが、普段であれば丁々発止の感想が飛び出すこの三人が、揃って「何も言うことなし」ということになったという事実からも、その夜の演奏の凄さが窺い知れたのであります。めでたしめでたし。 

えっ? シンデレラの時計12発はどうなったか? 酒井は立上がって手の平で弦を直接叩いていました。でも、会場に鳴りひびいていたのはアルゲリッチの左手の最低音の打鍵の響きで、そこに酒井の弦を叩く異音がかぶさって独特の音色を作り出していたと思います。ただ、それはプレトニョフとの録音とはまた違う印象で、、、。 でも、そんなことは、もうどうでも良くなってしまったというのが本当の所。それこそが音楽の力なのかもしれません。    

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Phileweb登録後1年、気が付くとスピーカー導入していました(2018/6)。所有製品はHRS130ですが、製品DBに登録がないので、一番近いもので代替しています。 10数年愛用したアンプが逝ってしまったので、久々の機器更新をしました(2017/6)。

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