日記
UHD-BD「Dunkirk」:ついにあの「Revenant」を超えたのか!?
2017年12月19日
本日12月19日、「発売前日にお届け」というAmazonの売り文句通り「Dunkirk」のUHD-BDが届きました。

このディスクは映像や音声に語りどころがたくさんあるのですが、映像マニアとしてはまず監督のクリストファー・ノーランに言及しない訳にはいきません。映画マニア受けする監督としても名声を確立しているノーランは、近年「バットマン・ビギンズ」で人気フランチャイズのリバイバルを深く重いストーリーでやってのけた後、ダークナイト三部作を完結させた一方で、「インセプション」「インターステラー」といったオリジナルストーリーの映画でも賞賛を浴び、今や超一線級の監督としての地位を確固たるものにしています。やりたいことをやりながら興行成績が素晴らしいのもすごいところ。この監督には映像にも大きな思い入れがあり、絶滅危惧種であるIMAXフィルム撮影の数少ない支持者の筆頭としても有名です。
通常のフィルム撮影は、35mmフィルムや70mmフィルムを「縦に」回して撮影しますが、IMAXフィルム撮影とは撮影する際に、70mmのフィルムを「横に」回して使用します。パーフォレーション(フィルムの送り穴)で測ると、通常は35mm X 4パーフォレーションとか、70mm X 5パーフォレーションですが、IMAXはなんと70mm X 15パーフォレーションと圧倒的に大きな面積を使用し、その分記録できる情報量が多くなっています。

画質的には圧倒的に有利なIMAXですが、短所もたくさんあります。まずコスト。下で解説しているような大規模予算の大作でないとまずIMAXフィルム撮影は実現しません。また、機材も大きく重く(この映画で使われたIMAX MK3は24kg)、撮影アングルが自ずと限られるほか、被写界深度の浅さから調整も難しいことも短所。さらにオペレーション時の騒音が大きく、収音を困難にしており、この映画に会話シーンが少ない大きな理由とも言われています。そしてアスペクトレシオが1.44:1と他のシネマフォーマット(1.85:1や2.35:1など)と大きく異なり、IMAX映画館でさえオリジナルの1.44:1で上映できるシアターは少なく(日本には大阪に一箇所)、さらにフィルム上映となると世界中に数える程しかありません。予算の問題をクリアしても、商業価値が限られている以上、IMAXフィルム撮影を行うには強い信念が必要でしょう。ノーラン監督はそれを(ふんだんに)持っているようです。
もともとアトラクションやイベント用の映像製作の為の機材として使用されていたIMAXフィルムカメラを、「ダークナイト」で初めて商業映画に使用したのがノーランでした。その後、IMAXフィルムカメラを大々的に使用した作品は10作品しかありません。
ダークナイト(2008)N
トランスフォーマー リベンジ(2009)
ミッション:インポッシブル ゴーストプロトコル(2011)
ダークナイト ライジング(2012)N
ハンガーゲーム2(2013)
スタートレック イントゥダークネス(2013)
インターステラー(2014)N
スター・ウォーズ フォースの覚醒(2015)
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生(2016)N
ダンケルク(2017)N
Nマークがノーランが監督かあるいはプロデューサーや脚本として関わった作品で、10作品中のなんと半数を占めます。しかもほとんどは作る前から大ヒットが予想できるブロックバスターのフランチャイズばかりで、オリジナル作品はノーランの「インターステラー」と「ダンケルク」のみ。そして他のブロックバスターの予算が軒並み200億円を超えている一方で、「ダンケルク」の予算は半分と言われています。ちなみに「ダンケルク」は史実を基にした戦争映画(ダンケルクは地名のフランス語読みですが、映画の登場人物は英国人ばかりなのでみんな「ダンカーク」と発音しています)で、スーパーヒーローものや家族全員で行くアニメなどと異なり、大ヒットが約束されている訳ではありませんでした。確かにキャストは有名ながら渋いところ(ノーラン映画ではおなじみになったトム・ハーディやキリアン・マーフィ、マーク・ライランスやケネス・ブラナー)を要所に配する一方で、一番スクリーン時間が長い若い兵士たちは無名の新人が起用されていて、一人10億以上かかりそうな豪華キャストはいませんが、それでもその固い意志には頭が下がります。さらにノーランは所有の特別なIMAXレンズを、「スター・ウォーズ フォースの覚醒」を監督したJJエイブラムスや「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」のザック・スナイダーに貸し出したりもしたそうです。この映画ではIMAXのフィルムカメラの他に、パナビジョンのカメラも使われていますが、全編70mm収録という近年珍しい作品です。また、デジタルインターミディエイトを使っていないという情報もあり、その分フィルムの可能性を最大限に生かした映画と言えそうです。
ちなみにノーランはNetflixは「映画館での視聴体験を駆逐しかねない」として、否定的な立場をとっています。フィルムで製作し、大画面、大音響で暗い中で集中してストーリーを観ることがノーランにとってベストの視聴方法なのでしょう。
さて「ダンケルク」ですが、横浜在住の私には映画を観に行く為に大阪に行くのは難しく、9月の公開当時、川崎にあるIMAXシアターで鑑賞しました。その時の印象は実は期待したほどのインパクトはなく、解像感は平均的でちょっと抜けの悪い映像で、ガッカリしました。スクリーンが大きい分、画素やその揺らぎが見えてしまい、品位という意味でもイマイチでした。これは先日封切りした、「Revenant」と同じARRIの6.5Kデジタルシネマカメラで撮影し、IMAX上映した「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」も同じでした。ただ、これは川崎のシアターのIMAXプロジェクターが2KのDLPで最新のものではないことが原因だろうと思ってもいました。そして、自宅でリアル4Kでレーザー光源のプロジェクターで観るUHD-BDの印象は全く異なるものでした。映像のユニフォミティや解像度さらにダイナミックレンジは確実に川崎のIMAXシアターを上回り、おかげで精緻なディティールが際立つ一方で、大きなボケは美しく、全体に柔らかい雰囲気のある画調はまさにフィルムルック。ただ、「Revenant」の様に純粋に映像美を楽しむシーンは少なく、あくまでも臨場感を高める要素としてこのラージフォーマットのフィルム映像が使われており、それは確かにこの映画を特別なものとしています。また、HDRも効果的でデジタルに比べ明部の階調が飛びにくいフィルムの特性をうまく見せてくれています。音響もストーリーのスケールの大きさとマッチして大迫力。ただし、DTS-HD MAで、DTS:XやAtmosではありません。3D映像を完全無視したクリストファー・ノーラン監督は、3D音響も無視してかかるのでしょうか。ノーランの次回作はセルフリメイクの「メメント」。公開時期も決まっていませんが、次にどの様な映画を見せてくれるのか楽しみです。



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レス一覧
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20日の日に来ました!
暗くなるのを待って、Oppo205 + Regza 有機EL 65/910の前で食い入るように見ました。確かにディテールは「Revenant」程は出ていませんが、映画の完成度は遙かに上だと思いました。
今から三十年以上前、ドーバーからカレーへフェリーで渡ったことが有ります。カレーからオステンドに向かっていたとき、ダンケルクの海岸によって貰いました。その時の光景が鮮やかによみがえってきたのには驚きました。
空撮や海の描写が素晴らしいです。これはアナログの勝利ですね。
Blurayでも見ました。これだけ見たのでは解らないでしょうが、ノーラン監督が、なぜIMAXに執着しているかは解らないでしょう。
byGRF at2017-12-21 21:52
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元住ブレーメンさん、どもです。
こちらに円盤が届くのが年明け以降になりそうです。
SWも未だ観に行けてません。
来週にでも観に行けたらなと思っているのですが、良席にもこだわりたいので中々タイミングが・・・
例のサンプルを試してみました。
数値は現状から1.45倍ほど輝度が上がりますね。
AV各紙で主要なPJを使ったテスト試写を特集して頂けると嬉しいのですが。
そういう企画あっても良さそうですよね。
ではでは。
byガッツ at2017-12-21 22:50
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GRFさん、「ダンケルク」はノーラン作品史上最短なのですが、他の重層難解なノーラン作品と異なり、ストーリーがストレートなのが史実を描くのに功を奏したと感じました。冒頭のシーンなど、本当にダンケルクの街で撮ったそうですが、ノーラン監督のこだわりを感じます。
ガッツさん、毎度です。話題の新型ですね。店舗にデモ機が来てもZ1の方の常設デモ機は普通ないので、雑誌のテストは歓迎しますが、視野角やユニフォミティなど結局自分の目で見てみないとなんとも言えないかなと思っています。
by元住ブレーメン at2017-12-22 11:41
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