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東京都在住のオーディオマニアです。リビングオーディオです。狭いスペースを与えられてやっています。MPS-5,Marklevinson No32Lなどを愛用中。クラシックはほとんど聞かず、ポップス、ラッ…

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日記

天空と大地:Constellation audio VirgoとTAD C600の私的比較レビュー :その弐

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2012年02月12日


引き続いてその弐です。
ここではTAD C600についての私見を述べたあと、
VirgoとC600を比較検討します。
あくまで私見です。


3.TAD C600の外観について

① 攻撃的デザイン:

TAD C600は
鋭くカットされた独特の鉱物的なデザインを持つアンプであり、
どこを触っても、
明らかにアールがつけられた箇所はないように思える。
エッジで手が切れそうだ。
実際は巧妙な面取りがなされ
手が切れたりすることは全くないが。
徹底的になにかをやり尽くし、そしてやり遂げたという、
緊張感と達成感がアンプの顔に出ている。
横幅はかなりあり、存在感のある体躯だ。
中央で彫り深く分けられたフロントパネルに
分厚いアクリルインゴットがはめ込まれている。
その奥に出る黄色い表示は、あえて粗いデジタル表示である。
この表示の選択は音質的な観点からなされたものと聞く。
ディスプレイの両脇にあるタッチボタンの選択も然り。

両側にはセレクターノブ、ボリュウムノブが
かなり離れてセットされている。
この離れ具合は、私には個性的と取れて、
デザインのアクセントとなっている。
また、近年、あまりないほどに
大きく重厚なノブも好ましい。
ボールベアリングによる、
このボリュウムの回し味は極めて滑らかであるが
適度な重量感もあり、
カラカラと軽く回り過ぎない良さがある。
セレクターの操作感もカチッカチッと小気味よく、かなりイイ感じだ。
全体の印象や触った感触からは
数十年の耐用年数を設定しているような、
途轍もない質実剛健さ、頑丈さが印象に残る。

② C600のチャンネルセパレーション

左右のチャンネルセパレーションを重視して
筐体内部にある
左右のフルバランス、デュアルモノ回路の間には
アルミの板による仕切りが入っているが、
ガンメタルカラーのトップパネルまでも
真ん中で左右二枚に分けられているとは徹底している。
C600はラックに押し込んで使うことが多いのだろうが、
私は、このアンプ、むしろ床に置いてみたい。
この、あえて二枚の板で組まれ、
12本のビスで固定されるトップパネルを眺め、
TADのテッテー的を感じつつ
所有感に浸る方が私の好みだ。

C600はTADの機器ではお決まりの
鍛造アルミの重たい台の上にセットされ、
スパイクによる三点支持を受けている。
このような台や足の数、形状の選択は
29kgの本体重量とあいまって
ソリッドかつスパルタンな音調を予感させる。

③ 電源は重厚な別筐体:

電源供給については、
船の舳先のようなデザインを与えられた
重たい電源部からということになるが、
これも左右別々のラインで供給されるのは、お約束。
内部には大きな400VAのトロイダルトランスが鎮座する。
この筐体はかなり重厚なつくりであり、
Virgoのそれとは気合の入り方が違うが、
ここまでやる必要があったのかという人もいる。

④ リモコンは可も無く不可も無く:

リモコンは細身の、シンプルなもの。
操作は分かりやすいが、機能も少ない。
これは、このアンプの価格等から考えると、
やはり少しチープな感じがあるので、
CH Precisionのリモコンぐらいに工夫のあるものにしてもいい。


4.C600の音質:

① 困難な試聴条件:

4回の試聴とも
組み合わせたパワーアンプはTAD M600である。
最近のC600のデモでは
大抵はこのパワーアンプとペアになっているようだ。
この超弩級パワーは
他のプリとの組み合わせも何回か聞いているので
キャラクターはわきまえているつもりである。
やはり、C600よりも、
やや強く自分の個性を出してくるタイプと思う。
その勢いで、デモの大半はC600ではなく、
このパワーアンプの音を聞いてしまうことになるので、
C600単体の音の傾向が把握しにくい。
その意味でC600の試聴はかなり難しい。
だから4回も聞きに行ったのである。
試聴ごとに使うスピーカーは
JBL、TAD、B&W等様々に変わり、
送り出しもTAD D600やEsoteric、DS等様々であった。
しかし、一回の試聴の中で
スピーカーや送り出しを換えても
音の全体のインプレッションはガラリと変わることがない。
やはりパワーアンプの支配力が大きいのだろうと思う。
しかし、
時に懸命に、時にノホホンと聞いているうち、
システムのトータルサウンドは頭の中で徐々に整理され、
M600の音からはみ出した、
C600自身の音が聞こえてくるようになったように思う。
試聴のソファーから立ち上がり、筆を執る。

② 透徹して芯のあるC600の音像、音場:

C600のサウンドは透徹し切っており、音の中心には確たる芯がある。
そして地球の大地の持つ重力や磁力を感じるサウンドでもある。
程よい重量感があり、地に足のついた安定感が醸し出されている。
音は不用意に浮き上がることなく、
確かな足取りでリスナーに向かってくる。
このアンプを通すと音楽のリズムには曖昧さがなくなり
最近のアンプでは得にくい
がっちりとした重みのあるリズムセクションが得られる。
また、この手のアンプにありがちな
中低域にエネルギーを集めるようなそぶりは微塵もなく
密やかながら、超ワイドレンジを主張しているところが心憎い。
また十二分に煮詰められたサウンドではあるが、
濃厚さに傾かず、いたずらに硬質な音調でもない。
むしろ全体の傾向としては
見かけによらず透明でやや柔らかいところも面白い。
さらに、
シリアスで太みのある音像感と
奥行き方向に深みのある音場感のバランスがとても良い。
普通は、
あちらを立てればこちらが立たない、音像と音場の関係だが、
C600の絶妙なバランス感覚は
この問題に対するTADの回答なのだろう。
また、ボリュウムを絞っても音像がまるでやせないことも
最高級プリの証だと思う。

③ C600のダイレクト感:

このアンプのサウンドは別な言い方をすれば。
非常に優秀なフェーダーを使った時に聞かれる、
鮮度の高さ・ダイレクト感と
非常に優秀なプリアンプを使った時に聞かれる、
超高SN、超低歪み、超高解像度が共存するサウンドとも言える。

ここで言うダイレクト感は
信号が通る部品点数を
可能な限りシンプルに絞り込んだアンプやフェーダーに聴かれる、
時に異様なほどの音の鮮度、ハイスピード感であり、
C600のサウンドのハイライトのひとつと思われる。
この音の鮮度感とスピードにより、
素のままの、化粧っ気のない音が、
テンションの高さを保ったまま、
リスナーの鼓膜に直結する勢いで飛び込んでくる。
このオーディオ的突破力は素晴らしい。
音の情報としてあるものをあるだけ出すという
TADのポリシーの徹底が、このような音を生むのだろうか。

④ C600の高解像度、立体感、磐石の安定感:

諸特性は極めて優秀であることは一聴して分かるレベルだが、
聞き込むと、音数の多さや克明な気配成分の描写から、
解像度の高さがまず主眼にあるように思われる。
また、SNの高さから来る背景空間の透徹度も極めて高く
この背景から、ポリゴン風の立体感を持って
音像が立ち現れることも特徴である。

また、鍵盤を打ち抜くような、
強烈なパワーを秘めた曲を大音量で爆発させても
一切、うろたえる様子なく、
着々と安定して音楽を推進する落ち着きは
大地のような磐石さである。
M600とのペアでは、
工事現場で重機が鉄の杭を力一杯に打ち込むような
激しい衝撃音も豪放磊落に演ってみせるが、
その次の瞬間には
ゆるぎなく静まり返ることもできてしまう。
静かなる武者とでも言おうか、やはり男のアンプだ。

打てば響くダイレクト感と
基本性能の高さに裏打ちされた
抜群の安定感、音像と音場のバランス感覚が
このアンプの本態のようだ。

⑤ C600の音に足りないもの:

ただし、C600では
柔らかく包み込むゆとり感や官能的な艶にはやや乏しい。
一部の真空管アンプに聞かれるような情緒、
微風にそよぐような植物的なデリカシー、
音の内部から醸し出される
フルボディワインのような芳醇さもなくはないが、
そういう意味では若干弱い音というのは確かだ。
また、C600の派手さのない質実剛健な音調は
ウキウキと可愛らしい気分を高揚させたい
女性ボーカルによるポップスナンバーと
ソリがやや合わなかったこともある。
一途な音質追求の姿勢と引き換えに
多様な音楽性には乏しいと言えるかもしれない。
C600の音楽の守備範囲は
オールラウンダーと言っても問題ないほど広いが、
それぞれの分野の音楽性に
寄り添うような鳴り方ができるアンプたちには
いささか遅れをとる場面もあろう。

TAD C600のパンフレットの書き出しは
「オーディオ信号を正確に伝送するには・・・」で始まる。
既述したVirgoのパンフレットの文言とは全く対照的である。
やはり音楽性よりも
正確な信号伝達という技術的側面が
強くフューチャーされているようだ。

⑥ C600の価格設定:

C600の絶対的価値は認めるとしても
300万という価格はどう考えるべきだろう。
純国産は高くつくのか?
キャラクターは異なるにせよ、
Virgoの筐体や音を考えたとき、
C600に割安感はないと思う。
また、日本のライバルである
アキュフェーズやラックスマンの最高級プリと比較して
どう考えるべきであろう。
個性はかなり異なるが、
その音のグレード、ディテールの仕上がり等を考えて、
価格分の上乗せがC600にはあるのか・・・。
これは、
オーディオファイルひとりひとりの判断に委ねられる。


5.VirgoとC600の比較検討について

① 柔と剛、拡散性と求心性、音楽性と純粋性:

どちらのアンプも筐体や回路に対照的な工夫があります。
穏健でリビングのインテリアに溶け込むデザインのVirgoと
マニアックで攻撃的な外観であるC600。
一方のVirgoは曲線を多用し、
C600は徹底して直線で攻めるという具合です。
また、
Virgoは徹底的に各部を振動から“浮かす”ことで
高音質を得ようとしているようですが
C600では
アルミニウムのリジッドなハウジングの中に回路を閉じ込め、
しっかりと固定し、
あくまでガッチリしたモノ作りを目指しています。
これらの違いは柔と剛の対比に集約できます。

音質そのものについては
柔と剛という具合に単純には分けられないように思います。
むしろ、拡散性と求心性の対比と言ったほうがいいような。
天空に漂う雲や空気の流れ、
天女の羽衣をイメージするVirgoのサウンドは
広く周辺に拡散してゆく傾向を感じます。
一方、大地に埋め込まれた
巨大なクリスタルをイメージするC600の音は
剛直さのみならず柔軟性も兼ね備えていますが、
システムの音響全ての焦点が合う特異点へと
音を集中させてゆくような求心的な振る舞いを感じます。

また忘れてならないのは
信号の純粋性に加えて音楽性をも重視するCostellationの立場と
信号の純粋性を最重要視し、
音楽性にあえて言及しないTADの立場という
二つの態度の対立でしょう。
これは二つのアンプの決定的に違う側面です。

基本性能の高さはスペック上では
大きな差はないはずの2つのアンプですが、
その印象には大きく異なるイメージがつきまとっていますね。

② 革新か伝統か:

これも私見ですが、音作りの方針の違いも指摘できます。
Virgoでは
既存のオーディオの作法を越えたサウンドを
技術と音楽性の融合の中に見出そうとしているように見えます。
全体として、
過去のオーディオの持つ「いかにも」ハイエンドな指向性を超えた、
新たな美音の追求を感じます。
価格もイカニモというものでなく、意外な安さがあり、
価格破壊という言葉さえも試聴では出ていました。
(230万は絶対値としては安くはないですが、
同クラスのサウンドのアンプとなると、
海外製ではもっと高価なものが散見されます)
C600では逆に
トラディッショナルなオーディオの手法を
そのまま発展、延長することで、
究極の高音質を手に入れようという、
伝統的で奇をてらわないアプローチが
根底にあるように見えます。
その手堅さは、結局は高くついた、ということでしょうか。

革新か伝統か。
そんなに簡単に割り切れるものとも思いませんが、
二台のアンプの比較の中で、
その言葉が浮かんだのは確かです。


6.このレビューのまとめ(元々のコンセプトとともに):

人は天と地の間で生きる者です。
我々を包み込む、その二つの大いなる存在へ、
ちっぽけな人間のあこがれ、夢や思いが向けられるのは
必然であり自然でしょうけれど、
二つのプリアンプを通した音を聞くことが、
そこに通じていくとは
それらを実際に聞くまで思い到りませんでした。

多様性というものが
世界の未来を形成する最大の要因と
私は常に思います。
実に、
このVirgoとC600の対比の鋭さこそ
オーディオの多様性そのものでしょう。
音楽性か純粋性か。革新か伝統か。天空か大地か。
たまたま生まれついたオーディオシーンの中で
どちらに組するのか。
私個人はC600の一途さよりも
Virgoのスマートさにより強い魅力を感じます。

Jeff Rowland design groupが
数年前に発表したフラッグシッププリアンプCriterionも
かなり優れたものと思います。
そのデザインもさることながら、
このプリアンプのサウンドは
漆黒の静寂感が際立って素晴らしい。
背景音が、言わば深海のように静かで、闇が深い。
まさに深海のイメージを持つプリアンプです。

実は当初、
今回の私的レビューの題名は
「空と大地、そして海」でした。
すなわち深海の音を持つCriterionを
第三極として考えていたのです。
これら3つの音の比較レビューは
現代ハイエンドオーディオの音の傾向を
ある程度は俯瞰しうる文章になりそうに思われましたが、
それが完成した時点で
かなり大部の文章となってしまいました。
私ごときでは
上手い区切りすら考えつきません。
いろいろ思案のあげく
発表から数年経ち、いくつかのレビューもあり、
既に何度も中古を目にしたようなCriterionの記述は
Hotな話題とは言えないということで割愛しました。
とはいえ
このPhile webでの上奉書屋の実質的なフィナーレとなるレビュー、
果たしてこれでよかったのか?
今も自問自答の最中です。

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