日記
ツィメルマンの弾くブラームスのピアノソナタ
2019年03月03日
昨日3月2日の夕方に兵庫県立芸術文化センター大ホールで開催された、クリスチャン・ツィメルマンのピアノ・リサイタルを聴いてきました。

曲目はショパンのマズルカ、ブラームスのソナタ、休憩をはさんで再びショパンのスケルツォという構成でした。
ツィメルマンのショパンは多くの録音を残していますが、ブラームスはコンチェルトはあるものの、ソナタだと若い時代の録音はあるようですが既に廃版になっており手に入りにくくなっています。

2千人収容の会場を埋め尽くした聴衆の大半はツィメルマンファンの模様で、開演前から異様な熱気で暑く感じるほど。
最初にョパンのマズルカが4曲通しで弾かれました。
最初は何かを探るように、どこかしらおずおずとした遠慮も感じられましたが、徐々にエンジンがかかってくると、ピアノの響きが会場の隅々までに放射されるように活き活きとした演奏に変化していきました。
輝く宝石のような音がピアノから立ち昇ってくるかと思えば、重層的な祈りの響き。
流石にショパン弾きで名を成したツィメルマンだけあって、手慣れた熟練の技を披歴してくれます。
そして、4曲弾き終わるとホッとした安堵の表情を浮かべ、はにかんだような微笑を浮かべながらステージから下がりました。
再び現れるまでファンの拍手が鳴り止みませんが、これは儀礼的なもの。
次に弾かれたブラームスのソナタ第2番が素晴らしかった!
まだ19歳の若きブラームスが作曲家として最初に書き上げたのがこのピアノソナタ第2番で、クララ・シューマンに献呈されたこの曲には、どこかしらベートーベンのソナタのような響きも聞こえてくるようです。
兎に角、情熱的であり、また内省的でもあり、若きブラームスが秘めた恋心をそのまま楽譜に書き写したかのよう。
ショパンのような装飾性に富んだ響きとは一味違いますが、とてもロマンティック。
いつしか、ツィメルマンのピアノと会場の響きが一体化して一つの楽器のように鳴り響き、シンクロナイズしたような一体感を感じるようになりました。
小ホールの室内楽ではこのような感覚はよく起きますが、大ホールでは滅多にないことで、ツィメルマンもこのシンクロナイズした感覚にスイッチが入ったようで、時おり微笑みを浮かべながら素晴らしい演奏を聴かせてくれました。
一音一音の響きが研ぎ澄まされていくと、普段の生活ではとても聞き取れないような微弱な音やハーモニーを聞き取ることができる。
そのような不思議な体験でした。
休憩後に演奏されたショパンのスケルツォは良く聞く曲目ですが、会場全体がシンクロした状態で聴く演奏を、どう表現していいかわからないほどです。
ツィメルマンもそのような会場との一体感がとても嬉しかったのでしょう。
万雷の拍手とブラボー、スタンディングオベーションに応えて投げキッスを返した後に、ブラームスのバラード集から3曲も演奏してくれました。
演奏会が跳ねた後の高揚した気持ちは何物にも代えがたい宝物になります。
今回のツィメルマン・ピアノリサイタルで、ブラームスのピアノソナタ集を手に入れたいものだと強く思いましたが、廃版故に程度の良い中古を探したいと思いました。

(演奏曲目)
ショパン:マズルカ 第14番 ト短調 op.24-1
ショパン:マズルカ 第15番 ハ長調 op.24-2
ショパン:マズルカ 第16番 変イ長調 op.24-3
ショパン:マズルカ 第17番 変ロ短調 op.24-4
ブラームス:ピアノ・ソナタ 第2番 嬰ヘ短調 op.2
第1楽章:アレグロ・ノン・トロッポ、マ・エネルジーコ
第2楽章:アンダンテ・コン・エスプレッシオーネ
第3楽章:スケルツォ、アレグロ
第4楽章:ソステヌート
休憩
ショパン:スケルツォ 第1番 ロ短調 op.20
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 op.31
ショパン:スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 op.39
ショパン:スケルツォ 第4番 ホ長調 op.54
アンコール
ブラームスの4つのバラードから、第1曲、第2曲、第4曲
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レス一覧
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どんぐりさん、コメントありがとうございます。
ところで、ツィメルマンは小生と同い年なんです。
ピアノは彼専用のもので、日本には複数台置いてあるとか。
鍵盤セットに付いているハンマーの感覚やフエルトの硬さなどが彼の好みに合わせて調整されているようです。
調律には開演30分まで非公開で行われていましたが、休憩時間には調整は行われず
by椀方 at2019-03-03 20:23
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椀方さん、
こんばんは。
素晴らしいコンサートだったようですね。
ツィメルマンは何度か生で聴いていますが、アンコールを聴いた記憶がありません。
彼はアンコールとサイン会はしないピアニストだと思っていました。(笑)
聴衆の反応も含めてよほど充実した気持ちになったのでしょうね。
そんなコンサートに立ち会われたのはすごくラッキーで幸せなことだったのではと推測いたします。
byK&K at2019-03-04 18:56
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K&Kさん、コメントありがとうございます。
確かに、ツィメルマンを西北で聴くのはこれで3度目になりますが、サイン会は無いですね!?
あのコンサート会場の一体感は、言葉で言い尽くされませんね。
会場からのスタンディングオベーションに対して、ツィメルマンは何度も投げキッスをしてくれたので、追っかけらし淑女の方々のテンションも最高でした。
by椀方 at2019-03-04 20:23
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椀方さん
素晴らしい演奏とその興奮が伝わってくる鑑賞記で、読ませていただいているこちらまで気持ちが高揚してきました。
ツィメルマンは、30年以上前にたまたまザルツブルク音楽祭で聴いたのが最初です。まだ金髪の颯爽とした美青年でしたが、実は、戒厳令の厳寒のワルシャワから命からがら亡命して間もない頃。そういう懸命さとと同時に、それとは裏腹の輝きがありました。そんなことを、ジャケットの若い写真を見て思い出してしまいました。
ツィメルマンは、とてつもない美音へのこだわりや探求と、深い内向性が両立している稀有なピアニストだと思います。亡命を果たしたしたものの、西側の音楽界には何のあてもなかった彼に手を差し伸べ支援した音楽家たちにいつまでも尊敬と感謝の気持ちを持ち続けている、そういう熱い感情も感じさせます。
ブラームスは、亡命者ではありませんが、事実上の処女作であるソナタ2番は、もしかしたらそういうツィメルマンの思いをブラームスのシューマン夫妻への尊崇の気持ちに重ね合わせているのではないかと、勝手に想像してしまいました。
ツィメルマンのブラームス、これからの録音があるのでしょうか。期待が高まります。
byベルウッド at2019-03-05 17:05
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ベルウッドさん、コメントありがとうございます。
まだ若い頃の演奏を聴かれたことがあるんですね。
アルバムジャケット写真を見ると、今の白髪オールバックとは全く違います。
本当に、円熟期のうちにブラームスを再録音して欲しいものだと思います。
by椀方 at2019-03-07 08:05
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