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ラルス・フォークト ピアノリサイタル
紀尾井ホールにラルス・フォークトを聴きに行った。 シンプルだが機知に富んだ構成で、演奏も面白かった。 フォークトはドイツ生まれでハノーファー音楽演劇大学で学んだ、ドイツ正統のピアニスト。ところが活動はとても広範囲で多彩。実際に聴いてみても「ドイツ正統」という枠には収まらない独特の音楽考察と自由な演奏スタイルを持っている。 プログラムは、シューベルトとベートーヴェンのそれぞれの晩年の難解なピアノソナタにシェーンベルクの「6つの小品」を組み合わせたもの。会場のアナウンスで、当初の予定を変更し、シェーンベルクを後半の冒頭にも演奏されることが告げられた。すなわちシェーンベルクの同じ「6つの小品」を二度繰り返して前半後半それぞれの冒頭に演奏し、しかも演奏者の希望で拍手無しで次のシューベルトやベートーヴェンを続けて演奏するという。 これが不思議な効果をもたらした。 シェーンベルクの後に続けてシューベルトを聴くと、いつものシューベルトとは違っている。同じように、シェーンベルクの後のベートーヴェンも違う。シューベルトとベートーヴェンそれぞれに先だって演奏されたシェーンベルクは同じ曲なのに響きが違う。 シューベルトでは、旋律的な歌謡性がすっかり昇華されてしまって音の高さ、ダイナミックス、打楽器的なタッチといった元素に分解されてしまい、あてどもなくさまよいふわふわと漂うような感覚でどこまでいっても解決のつかない不条理な堂々巡りのような感覚を強く感じてしまう。それが先に聴いたシェーンベルクの作用なのだろうか。 同じようにシェーンベルクの後に続けて、ベートーヴェンを聴くと、とても自由で奔放で明るく華やいでさえいる。ベートーヴェンの晩年のソナタといえば、内省的で深い信仰に満ちた音楽であるかのように受け止められるのが常なのだけれど、それがそういう重たさがない。その前に弾かれたシェーンベルクは、シューベルトの時よりも明るくより華やかで、いつもの仄暗いシェーンベルクとは違って聞こえた。それがそう弾き分けていたのか、それとも互い違いに演奏されたシューベルトやベートーヴェンの作用なのかはわからない。 シェーンベルクのピアノ曲を私たちの世代に啓蒙し根付かせたのはポリーニなのだと思う。1974年に録音された「シェーンベルクピアノ作品集」(国内盤)には昭和50年度芸術祭参加とのクレジットがあるが、そのライナーノーツで音楽評論家の船山隆氏は、1973年パリ・シャンゼリゼ劇場でのポリーニのリサイタルから受けた衝撃を伝えている。その時のプログラムもシェーンベルクやウェーベルンとベートーヴェンの作品109と111のソナタを組み合わせたものだったそうだ。 しかし、このフォークトのプログラムは「組み合わせ」ということをさらに超えているような気がする。 確かに、シェーンベルクの音楽は、ベートーヴェンやシューベルトのウィーン古典派の調性の多様性、変調技法の果てにたどり着いた様式だというふうに説明される。歴史は、逆行・遡行することはないから、そういう一方通行的な発展変成だということだと思う。 でもこうやって聴かされると、後の時代のシェーンベルクがベートーヴェンやシェーンベルクに影響を与えているかのような錯覚を憶えてしまう。 先にシェーンベルクを演奏することによって、ベートーヴェンとシューベルトの晩年の難解なソナタにまた新しい光が当てられ別の様相を発見する。逆に、大作曲家のソナタの作用で、シェーンベルクがいくつもの相貌を見せてくることをも発見する。無調性の音楽というのは、それ自体は無意味だけれど聴き手の心理を反映するロールシャッハ・テストのようなものだということだろうか。 音楽と音楽との間には確かな関係がある。 音楽的なスピリッツが人間の心理に連続して与える際の順列のようなものもあるだろう。場合によっては、その時間的順位が逆転して朔行することもある得るのではないか。そのことをフォークトが意識していた確かな証拠がある。 フォークトが、アンコールを日本語でアナウンスした言葉は、「ベートーヴェンのアリエッタのあとに、バッハのアリアを演奏します」だったからだ。 ゴールトベルク変奏曲の主題である「アリア」は、まさに、生と死の際(きわ)にあるような明るい多幸感に満ちた、まさに香華の音楽だった。 ラルス・フォークト ピアノ・リサイタル 2015年6月29日(月) 19:00 東京・四ッ谷 紀尾井ホール シェーンベルク:6つのピアノ小品Op.19 シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番ハ短調D958 シェーンベルク:6つのピアノ小品Op.19 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番ハ短調Op.111 (アンコール) バッハ:ゴールドベルク変奏曲~アリア
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