ベルウッド
ベルウッド
クラシック音楽ファン:よい演奏会があると知れば遠征もいといません。オーディオシステムは、音楽そのものを楽しむのが本来というモットーのもとにコストパファーマンス重視で小ぶりな装置を目指します。正統オーデ…

マイルーム

メインシステム
メインシステム
持ち家(戸建) / リビング兼用 / オーディオルーム / 16畳~ / 防音なし / スクリーンなし / ~2ch
スピーカー:    PSD T4 Limited Special-ネットワークレス・マルチアンプ駆動 調音パネル:    Escart Ventoスクエア パワーアンプ:   金田式DCアンプ…
所有製品

レビュー/コメント

レビュー/コメントはありません

カレンダー

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

最新のレス

お気に入り製品

お気に入り製品はありません

日記

美しき超絶技巧 ダニール・トリフォノフ

このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年01月26日

音楽鑑賞モードにすっかり浸りきっている最近、ちょっと釘付け状態にさせられているのがダニール・トリフォノフ。



これまで気がつかなかったピアニストだったが、それも無理もないところがあるのです。2010年のショパン・コンクールで第3位。翌年の入賞者ガラ・コンサートで初来日、その秋に紀尾井ホールでリサイタルを開いたときには、チャイコフスキー国際コンクールのグランプリ覇者となっていた。それはあっという間のできごとだったのですから。

欧州ではいまや大変な人気だそうですが、その急成長ぶりになかなか私のほうが追いついていなかったのです。家人が「ヨーロッパで聴きたい」…というので、「けっこう来日しているし紀尾井とか小さめなリサイタルホールで聴いたらいい」と言ったら、「今や超大物扱いよ。サントリーホールでなければ聴けないわよ」とまで言うのでちょっと驚きました。

それでCDを聴いてみようと思ったのです。まだ20歳台半ばでレパートリーもまだ多くないせいかCDは少ない。とりあえずリサイタルのライブ録音などは避けました。チャイコフスキーの協奏曲などもいかにも急ごしらえの印象が否めません。何しろトリフォノフは、ショパン・コンクールに続けて翌年5月にルービンシュタイン国際コンクールに優勝するまではこの曲はまだレパートリーになっていなかったという。課題曲であるこの曲をチャイコフスキー国際コンクールで弾いたのはほとんどぶっつけ本番。その直前に友人たちの学生オーケストラと合わせたのが初めてだったというのです。

というわけで、聴いたのはリストの「超絶技巧」という2枚組アルバムとラフマニノフだけ。そのたったの2組のアルバムにずっと釘付け状態になっているというわけです。

ともに超絶技巧を要する曲だが、実に繊細で美しい。

トリフォノフは、1991年ロシアのニジニ・ノヴゴロド生まれ。英才教育で知られたグネーシン音楽学校で学んだ俊英ですが、なぜかそのままモスクワ音楽院に進まずに渡米してクリーブランド音楽院でセルゲイ・ババヤンに師事している。いわゆるロシアン・ピアニズムの系譜だけれど、強靱さ、豪奢で深みのある重厚な響きというロシア派主流のイメージとは一線を画しているのは、そういう系譜のせいなのでしょうか。

リストは、最近よく聴くようになりました。

その大きなきっかけは、一昨年の欧州旅行。リストの棲家、それはワイマールの最後の家であったり、バイロイトの最後に息をひきとった家であったり、ブタペストのリスト音楽院として残されたアパートであったりするのですが、その質素な暮らしぶりに感銘を受けたからです。派手な技巧というイメージが何となく疎ましかったリストでしたが、教育者として、音楽の啓蒙者として、新たな潮流を支持した楽界の重鎮として、人望の篤かったこの音楽家がようやく理解できたのです。特に、演奏旅行に必ず持ち歩いたという練習用の音の出ない鍵盤を前にして、この偉大な音楽家の真実をようやく知ったという思いでした。



トリフォノフのリストの超絶技巧は、技巧といっても繊細なピアニシモを基本とした音楽。精妙を極めた微妙な強弱の綾。 色彩が豊かで、表情豊かな響きが軽やかに躍動するのです。そこにはロシアン・ピアニズムのまた別の側面に気づかせてくれるところがあります。



有名なパガニーニ大練習曲の「ラ・カンパネッラ」を聴くと、まるで羽毛が舞うかのように軽々と鍵盤上を跳躍する。出だしはむしろゆったりとした指運びで、次第に気分を高めていく。あの壮絶な半音階スケールからのトリルもクレッシェンドからふっと短いディミニエンドでpに移るところは精妙。延々と続く繊細なトリルの下に再びテーマが戻ってきますが、それは天使が舞い降りてくるかのように密やかに柔らかく軽やかで限りなく美しい。超絶技巧練習曲の「マゼッパ」でも、並み居る腕自慢のピアニストでもどこかヒロイックな行進曲と化してしまうところですが、もっと人間の迷いや弱い一面さえも感じさせる複雑な心情が伝わって来ます。決して技巧の披瀝でも、独自の解釈を押しつけるものでもないのに、このアルバムのどこを聴いても、そういう浸透度の高い響きがしてきて、聴いていると自然と背筋が真っ直ぐになってくるような気がします。

技巧が技巧を超絶して、感性の極みにまで達するということを感じさせるのは、ラフマニノフの音楽ではさらに顕著。



何かの限界を超えるところの緊張とか、達成感のような感動はもちろんですが、それをさらに超越して、そこに甘美でロマンチックな憧憬のようなものを感じさせるのです。香り高いブーケのような芳しさのなかに凜として生きる孤独の美しさのようなものさえ感じさせるラフマニノフ。トリフォノフは、一心不乱に弾くというよりは、時に華美になることを避けそっとオーケストラに間合いを譲るような精妙さと謙虚さがあります。そしてオーケストラのうまいこと、うまいこと。フィラデルフィア管ってこんなにうまかったのかと唖然とするほど。ザルツブルクのウィーン・フィルとのブルックナーではあまり感心しなかったヤニック・ネゼ=セガンですが、この指揮ぶりは見事です。あの有名な第18変奏も、決してハリウッド風の卑俗さが微塵もなく、終結部への起点として沈み込むような情感を描いています。録音もとびきりの優秀録音です。

音だけを聴いているとなかなか想像がつきませんが、ルックスの良さ、演奏の派手な身振りがその人気を高めているという要素もあるのだそうです。トリフォノフは年末のベルリン・フィル/ジルベスターコンサートに登場し、ラトルとの初共演も果たしています。その映像が、今週のBSプレミアムで放送(プレミアム・シアター 11/29深夜0時~)されます。前半の五嶋みどりのバッハ無伴奏全曲の撮りおろしとともに見逃せないプログラムです。

次回の日記→

←前回の日記

レス一覧

  1. こんばんは

    >トリフォノフのリストの超絶技巧は、技巧といっても繊細なピアニシモを基本とした音楽。精妙を極めた微妙な強弱の綾。

    このリストのアルバム発売当初に配信サイトですごく推されていて試聴したら、おっしゃるとおりの印象でした。かなり驚きました。。。まさに「ヒロイックな行進曲」然としたものを感じなかったし、さまざまな大きさの波が幾重にも折り重なるように音が聞こえてきたからでした。

    リストご本人の人柄にふれるエピソードも拝見して、こういう演奏こそリストが志向していたものなのかな~となんとなく思ってしまいました。

    BSのトリフォノフの演奏もたのしみです!
    ご紹介ありがとうございました。

    byゲオルグ at2017-01-26 21:49

  2. ゲオルグさん

    もう聴かれてますか。配信サイトでも推奨されていたのですね。

    >さまざまな大きさの波が幾重にも折り重なるように音

    まさにそういう感じですね。リストは、ロ短調ソナタとか晩年のちょっと荘重な曲を聴くことはあっても、初期の派手な曲はちょっと苦手だったのですが、このCDを聴いてちょっと考えが変わりました。

    byベルウッド at2017-01-27 10:51

  3. ベルウッドさん

    こんにちは。先日(1月21日)Barbican Hallで彼のコンサートがあり、友人と出かけた家内は大興奮で帰って来ました。彼女によれば、このレベルの感動は、初めてキーシンを聴いた時以来らしいです。

    その時は適当に聞き流していたのですが、ベルウッドさんの日記を読んで、野暮用でコンサートをスキップしたことを本当に後悔しています。

    byのびー at2017-01-27 16:47

  4. のびーさん

    奥様、聴きに行かれたのですね。初めてのキーシン以来というコメントにちょっと凄味がありますね。うちの家内にもぜひ伝えたいと思います。コメントを聞いたらそれ見たことかという顔をするだろうなぁ。でも、ロンドンもウィグモアホールではなくて、バービカンなんですね。こりゃあ、紀尾井ホールどころではないですねぇ。

    byベルウッド at2017-01-28 12:37

  5. borya と申します。いつもすばらしい記事を読ませていただいておりました。

    小生、トリフォ君とは2010ショパンコンクールの第三次予選を現地で聞いてからのその特異(?)な音質と音の粒立ちに魅せられてきまして、地元のホールでは握手、スイス ヴェルビエ音楽祭では一昨年、誠に貴重な、ゲルギエフ、マツーエフ、トリフォでの3重奏を聞いて参りました。
     なんというか魅力のある音を奏でる青年ではNo1ではないでしょうか。
    今年も彼はヴェルビエに来るようで、この音楽祭の主催者(エングストローム氏)にかなり気に入られているようです。
     今年はまた家内と共にとても生を聴いてみたかった仏のルカデバルグを聞きにいく予定でいます。スイスアルプスの山中で聴くピアノの音は都会のホールとは響きが異なるものだとよくわかります。

    byborya at2017-01-31 18:05

  6. boryaさん

    スイスまで追っかけですか。すごいですね。
    ルツェルンのピアノフェスティバルにも登場するようですね。家内が行くとか行かないとか騒いでます(笑)。

    一応、今のうちに手配できることとして、秋の読響公演のチケットは確保してみました。こちらはスイスならぬ池袋です(爆)。

    byベルウッド at2017-02-03 12:00

レスを書く

レスを書くにはログインする必要があります
ログインする