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日記

ショスタコーヴィチ交響曲第7番「レニングラード」

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2019年01月06日

どんぐりさんの日記に触発されて本文を書いています。この曲と、どんぐりさんが愛聴盤として取り上げておられたバーンスタイン/シカゴ響の演奏については、日記へのレスでは書き切れないほどの思いがあったからです。



さて…

この曲にはどうしても「プロパガンダ」としての履歴がつきまといます。

私は30年ほど前に、この曲の実演をシカゴ交響楽団で初めて聴いたのです。金管を二手に分けての大編成で、しかも、機能的な強大さを誇ったアメリカ・ナンバーワンのオーケストラによる大音量はとうてい日本のオーケストラでは到達できない物量であって、私はとてつもない衝撃を受けたのです。同時にそのあまりに外見的で空疎な演奏に鼻白む思いもしたのでした。

シカゴ響というとてつもない規模と性能を誇る楽団による雄叫びは大ホールの壁を叩きつけるようにわんわんと鳴る。これを目の当たりにすると、何と空疎な狂乱と居丈高で暴力的な《正義》なのかと気が萎えてしまったのです。そのことはレニングラード・フィルとて同じことで、これを近代国家総力戦のさなかで作曲させ、演奏されるなんて、壊滅的な戦災を負った日本人としては信じがたく、そんな国に戦争を仕掛けたのかと、ひどく虚しく思えたのです。

その時に頭をよぎったのは、トスカニーニとストコフスキーのアメリカ初演をめぐる争いです。

この曲は、戦争当時、ソ連ばかりではなく西側各国をも熱狂させたのです。それは「大祖国戦争」への戦意高揚とはまた別の「反ナチ・反ファッショ」の熱狂でした。スコアは、政権中枢の疎開地クイビシェフ(現・サマーラ)でマイクロフィルム化しドイツ軍の包囲網のなかを極秘裏にイスタンブール経由で西側に持ち出され、ロンドンに続いて米国にも持ち込まれ、その初演が計画されました。その初演をめぐっては、クーセヴィツキーなども加わっての激しい争奪となったのです。なかでも互いに対抗意識があったトスカニーニとストコフスキーの対立は熾烈を極めました。

結局は、NBCの思惑もあってトスカニーニが米国での初演(実際にはNBCのスタジオ8Hからのラジオ放送初演)を勝ち取ることになります。彼を突き動かし、ストコフスキーに哀願までさせたのは、彼自身の「反ファシズム」としての信念と自負だったのでしょう。ところが、戦後またたく間に東西冷戦を迎え、スターリニズムの内情が伝えられ、マカッシーズムの旋風が吹き荒れる。そのことが大いに彼の情熱を醒まさせてしまいました。後年になってトスカニーニは「こんな作品で初演を争ったことを恥じる」とこの曲を貶めています。

この曲は、作曲当時、物量を誇示する超弩級の大編成も含めて「戦意高揚」のための壮大であからさまなプロパガンダだったということは否定できない事実です。

だからこそ「大祖国戦争」ただなかのソ連ばかりではなく、戦時から終戦直後にかけて欧米諸国でしばしば取り上げられた大人気の曲でした。そのユーフォリアは、東西冷戦とともに急速に萎んでいきます。どうしてもつきまとう「勧善懲悪」の皮相さと「暴力」をはらんでいて凄まじいからこそ、そういう一時的な熱狂が醒めるのも速かった。

私が、そのシカゴ響の演奏を聴いた当時、すでにショスタコーヴィチの「証言」などが評判となっていて、彼の多くの楽曲の演奏解釈や聴き手の姿勢が大きく変わり始めていました。その中で、この曲の解釈見直しは遅れていたのかもしれません。ショスタコーヴィチは、この曲をナチドイツに包囲されたレニングラードの町に踏みとどまって完成させた…ということをまだまだ信じている人がほとんどだったのです。

しかし、「証言」によって演奏解釈が大きく変わっていき、ベルリンの壁が崩壊した後も、バーンスタインは終生変わらずに熱心にショスタコーヴィチに取り組み続けました。その深層には、ウクライナ系ユダヤ人の2世というバーンスタインの出生があるのだと思います。ユダヤ迫害のナチズムへの抵抗と共闘という戦中・戦後のユーフォリアが冷め切っても、同じようにユダヤ人を抑圧し迫害する全体主義への抵抗という共感を持ち続けたのではないでしょうか。

ショスタコーヴィチにも、その交友や民俗音楽採取研究活動を通じて、東ヨーロッパのロマやユダヤの音楽への共感が潜んでいました。バーンスタインは、自身の持つ血の記憶によってそういう埋め込まれたショスタコーヴィチの音楽的暗号にも密かに目覚めていったのではないでしょうか。それが熱い感情移入を呼び込み、演奏を深化させていった。他の指揮者のショスタコーヴィチ演奏と画するのはそういうところなんだと思うのです。

一方、80年代末までのシカゴ交響楽団にもローカリティが強く残っていました。団員も聴衆も東欧諸国からのユダヤ系移民一世、二世が多かったし、ベルリン・フィルなどよりよっぽどドイツ的な音がしました。シカゴという街は、ロシア正教公認のアメリカ正教会信徒最大の都市であり、ポーランド人やウクライナ人にとっては母国の外にある最大の同胞人口を有する都市でもあるのです。ちなみに、アメリカンフットボールのシカゴベアーズが、スーパーボールを制覇した時(1986年)の人気ヘッドコーチ、マイク・ディトカは、ウクライナ系とポーランド系移民を父母としていました。

アメリカのオケから、そういう祖国への心情や言葉が聞こえてこないというのは多国籍国家を理解しない日本人にはありがちな決めつけなのです。この演奏には、シカゴ響という名人オーケストラの確かな技巧と揺るぎない集中力が最大限発揮されています。彼らからショスタコーヴィチへの深い共感とそこから得られる霊感を引き出したものこそ、バーンスタインの深い音楽理解と熱い感情移入だったのだと思うのです。

バーンスタインが他でもないシカゴ交響楽団とこの曲の傑作ともいうべき演奏を遺した…ということには必然性があったのだと信じています。

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  1. ベルウッドさん
    この曲を実際聴かれたのですね。

    >外見的で空疎な演奏
    生演奏もオーディオと同じで音楽的なバランスをとるのが難しいのでしょうね。
    この点オーディオの演奏の方が音楽として聴きやすいかもしれません。
    放送では飢えで楽員たちが死んでいく様子、ヒトラーの兵糧攻めに対して湖の氷を道路に見立て脱出しますが砲撃を受け亡くなってしまう。など証言や演出がとてもリアルです。
    これらすべてがこの曲の背景にありますのでとても感動的です。

    byどんぐり at2019-01-06 19:10

  2. ベルウッドさん おはようございます

    再レス失礼します。

    日記を精読させていただきました。

    詳しいご説明ありがとうございます。お陰様でこの曲への関心がより深まりました。

    お祭り騒ぎのような大編成でのコンサートでは静かな部分の音楽どころではありませんね。笑ってしまいます。

    こういう形で米国のみならず諸外国ででこの曲が大フィーバーしたのでしょうか。
    やはりプロパガンダが見え隠れしますね。
    しかし作曲家のバーンスタインはこの曲の真の素晴らしさを見抜いていたのでしょう。
    ですからこのような「深い音楽理解と熱い感情移入」ができこの様な素晴らしい音楽に成ったのだと思います。

    byどんぐり at2019-01-07 09:49

  3. どんぐりさん

    レニングラードが900日に及ぶ包囲戦に耐え抜いたことは、ソ連のみならず反ナチ戦争を勝ち抜いた各国にとって英雄として称賛されました。しかし、その犠牲者は、戦死者、飢餓による餓死、病死も含めれば100万人以上だったとされています。ドイツ軍は、レニングラードを包囲封鎖したあとはモスクワを目指します。だから、ドイツ軍は、この逃げ場のないる陸の回廊にある都市を陥落というよりも飢餓に追い込む作戦で徹底したのです。

    放送は見ていないので、よくはわかりませんがお話しでは、そういうレニングラードの攻防を描いたもののようですね。ショスタコーヴィチの交響曲については、そういう戦争ストリーのひとつとして語られているのでしょう。いわば、この交響曲のオモテ面を描いた「正史」とでもいうのでしょうか。

    芸術というものは、ある意味では命ある生き物のようなところがありますので、生命力のある芸術はそういう歴史を生き抜いて、さらに様々な意味合いと感動をもたらすものなのでしょう。バーンスタイン/シカゴ響の録音には、そういう意義を感じ取ることができます。

    byベルウッド at2019-01-07 10:03

  4. ベルウッドさん

    遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
    今年もよろしくお願いいたします。

    数年前までほとんどクラシックは、聞かなかったのですが、
    以外なほど、ショスタコーヴィチは、好きになり、交響曲では、一番聞いている気がします。
    ただ、ボーっと聞いていた性か、時代背景までは、気にしていませんでした。

    でも、ソ連(ロシアではなく)、スターリン、プロハガンダ、反体制、何かが引っかかていました。

    今回のテレビとベルウッドさんの日記で、益々、興味が出てきました。
    一体、彼は、どうなることを狙ったのか?
    何も狙わずに時代に翻弄されたのか?

    これを機会にとりあえず、「証言」を読んでみることにしました。

    byいたちょう at2019-01-07 21:23

  5. いたちょうさん

    こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。

    ショスタコーヴィチは、クラシック音楽ファンでも好きと嫌いが分かれるようです。ドイツ音楽などに詳しいディープなファンでも、好きになれない、苦手だというひとがけっこういらっしゃいます。ちょっと小難しいところと、ひょうひょうとしてひょうきんな軽さが同居していてとらえどころがないからでしょうか。

    そういうとらえどころのなさとか、ひねくれたところの背景となった体制の現実とか冷戦時代とかを知ると、けっこうその音楽が面白くなってくるかもしれませんね。

    byベルウッド at2019-01-08 08:18

  6. ベルウッドさん

    再々レス失礼します。


    >音楽ファンでも好きと嫌いが分かれる

    私がブルーノワルターに傾倒していたとき、ワルター版のCDを買いあさりましたが、ワルターの演奏するチャイコフスキーのCDは見当たりませんでした。このことがずっと気になっていました。

    ユダヤ人のワルターは単純にロシア音楽が嫌いだったのでしょうね。私の見落としかも知れませんが・・・

    byどんぐり at2019-01-09 07:45

  7. どんぐりさん

    確かにワルターのチャイコフスキーというのはあまりピンときませんね。でもまったくないわけではありません。ホロビッツとのピアノ協奏曲もありますし、若い頃の古い録音で悲愴などの交響曲の録音も行っています。

    ワルターは確かに人種的にはユダヤ系ですが、ベルリン生まれでキリスト教徒であり、しかも大変な教養人でトーマス・マンらの文人とも深い交流関係を持ちました。自身もナチの迫害を受けましたが、戦後、フルトヴェングラーのシカゴ交響楽団指揮者就任について激しい反対運動があってもこれには加わりませんでした。

    ユダヤ人がロシア音楽を嫌うということは、特にないと思います。

    というか、ポーランドやバルト三国、フィンランドあたりでは、ロシア人もドイツ人も極めて不人気ですね。長い歴史があります。旧東ドイツやハンガリーでのロシア憎悪は、むしろ、ソ連体制への憎悪でしょうね。

    なかでも、ウクライナのロシア憎悪は極めつけです。こちらは、歴史的な民族対立とソ連時代の体制憎悪が重なっています。ウクライナでは、ソ連時代になってもロシア人によるユダヤ人迫害が続いたので、ことはなかなか複雑です。ショスタコーヴィチの交響曲第13番「バビ・ヤール」はそのことの告発を含んでいてスキャンダルとなりました。ムラヴィンスキーはこの曲の初演を断っています。当局の圧力があったからとも言われますが真相は不明です。

    年末に、NHKFMでオイストラフ特集がありました。オイストラフもウクライナ出身のユダヤ系でしたが、彼もショスタコーヴィチと深い交友関係があり、ともに同じように生きづらい人生を送っていますが、放送ではあまりそういうことは語られなかったですね。

    byベルウッド at2019-01-09 14:21

  8. ベルウッドさん

    ご説明ありがとうございます。

    またまた長い間の溜飲が下がりました。

    >ユダヤ人がロシア音楽を嫌うということは、特にないと思います。
    誤解を持ったままでいることは良くないですね。
    ヨーロッパの複雑な歴史を抱えている国々での音楽はわが国のシンプルな音楽とは異なるのでしょうね。

    でもいつも多くのユダヤ人の音楽家(ピアニスト、指揮者、イスラエルフィルなど)を聴くとより高い次元の感性を感じてしまいます。

    今回のレスは本題とは異なり失礼しました。そして大変勉強になりました。ありがとうございました。返レスは不要です。

    byどんぐり at2019-01-09 16:08

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