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ストリングスオーケストラの魅力 (紀尾井ホール室内管定期演奏会)

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2019年02月12日

東京の空に雪の舞う寒い一日でしたが、トップクラスのオールスター弦楽器軍団の魅力たっぷり、新しい境地を楽しませる紀尾井ホール室内管弦楽団の定期演奏会でした。



テーマを〈アポロンに寄せて〉と題しての、この日の演奏会はすべて弦楽器だけの室内オーケストラの曲ばかり。それも、編成や楽器配置が全て違う、というものでした。実は、私の指定席である、2階中央席に座ってステージを俯瞰するのは久しぶりでもあったのです。



最初は、ドビュッシーやラヴェルらがフランス音楽の規範と尊崇したフランス古典派のクープラン。

原曲は、コレッリなどイタリアで人気のあったトリオ・ソナタに範を求めたもので、もともとは二台のヴァイオリンと通奏低音の三声部から成り立っています。ステージ上には、左右に第一と第二のヴァイオリン群が対峙し、中央にチェロが2台、とその後ろにチェンバロ、その右手にコントラバス1台で通奏低音グループを成しています。通常の弦楽5部のパートから、ヴィオラだけを欠いたような姿ですが、原型はあくまでもトリオソナタ。シンプルですが、3プルトのふたつのヴァイオリン群、合計12台のヴァイオリンの対位法を駆使した高音域の豪華な響きがとても典雅で美しい。イタリアとフランスの宮廷音楽の合体はウィーン音楽のルーツそのものと思わせる新しい発見もありました。

バッハのヴァイオリン協奏曲は、ウィーン・フィルのコンサートマスターでもあるホーネックさんの弾き振り。編成は、古典派の典型である弦5部ですが、やはりバッハの時代の独奏協奏曲の様式を残し、ヴァイオリンを両翼に配した合奏オーケストラと独奏ヴァイオリンが対等に対峙します。弾き振りとはいっても、ホーネックさんはキューを出す程度で、合奏オーケストラは、コンサートマスターのバラホフスキーさんがリードしていて独立性が高い。ヴィオラが加わると、内声部がとても充実してきてバッハらしい和声進行と対位法の躍動があって心が高揚させられるのです。

前半、最後は一気に20世紀へと飛躍してイギリスのヴォーン・ウィリアムズの幻想曲。イギリス音楽の教会音楽の祖トマス・タリス賛ともいうべき曲で音楽そのものはとても保守的。メインの弦5部は、第一・第二が左手に寄せられる二十世紀型。そのオーケストラの後方にさらに1プルトずつのやはり5部からなるセカンドオーケストラが壇上に横に並びます。この2部のオーケストラに加えて、メインオーケストラに各首席が、ソリストとして弦楽四重奏曲パートを形成するという3段構えになっています。これは、教会のオルガンを模した音響効果を狙ったもの。

後方のセカンドオーケストラは、スウェルボックスの役割を担います。

スウェルボックスとは、日本人にはあまりなじみがないかもしれませんが、オルガンのパイプの音量の増減を与えるためのシャッター付のボックスのようなもので、普段は閉じていますが音量を大きくするときはシャッターが開くという仕掛け。



セカンドオーケストラは、とても地味な響きですが、要所要所で全体の響きがふわーっと厚みを増してたっぷりと膨れあがるようで、こうして生の演奏に接してその響きの仕掛けが初めて理解できたように感じました。オルガンを思わせるロングトーンの心地よさは格別のもの。

それにしても、このヴォーン・ウィリアムズは見事でした。

紀尾井ホール室内管弦楽団は、伝統的にウィーン正統の中欧音楽を規範としていて、ホーネックさんを指揮者として迎えたのもそういうウィーン正統への貪欲さからだとさえ思います。そのウィーンからすれば、イギリスやスカンジナビアの音楽は、気質がずいぶんと違っていて、そのためにレパートリーからは遠ざけてきたように思っていました。だから、今回のこの演奏はとても新鮮。これほどこの曲をを見事に演奏出来るなら、むしろ、イギリスや、あるいはシベリウスなどスカンジナビアは室内管弦楽楽曲の宝庫です。どんどんとレパートリーに上げて欲しいとさえ思いました。



後半は、武満の「レクイエム」。

言うまでもなく世界の武満の出世作ですが、編成も配置ももっとも保守的。

いわゆる二十世紀型で、ストコフスキーが創始したとも言われますが、二十世紀半ばにはアメリカだけではなくこれが世界標準になっていました。左から中央、右へと第一・第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロと音域順に並べる。主にアメリカのオーケストラの配置で、ベルリン・フィルもそうでした。ウィーン・フィルなどはヴィオラを最右翼に、チェロを正面右手に配置していて、かつてのNHK交響楽団もこれを頑なに標準にしていました。この日の紀尾井ホール室内管もこちらの配置。

「レクイエム」は、戦争の記憶と武満自身の生死の深刻な対峙を黒々と反映したシリアスな曲で、そこには日本人独特の死生観や美学も潜んでいるような気がしますが、ホーネックさんはそういう曲を本場地元で指揮することにちょっと自信なさげだったような気がします。曲が曲だけに演奏が終わっても拍手が薄めだったのですが、それに答えるホーネックさんの、ちょっと戸惑うようなはにかみを浮かべた笑顔が印象に残りました。

最後は、ストラヴィンスキー。

第一次世界大戦後のいわゆる「新古典主義」時代の代表作で、それ以前の大管弦楽編成の複雑な響きや変拍子の嵐のようなモダニズムから打って変わったように小編成のシンプルな楽想へとそのスタイルを激変させた時代。その室内楽的編成は、中欧やロシアのロマのバンド風であったりもするのですが、「ミューズを率いるアポロ」は、むしろ、厳格なまでに形式的で古楽的。それでいて虚飾を排した極端に抽象的でストイックなまでのシンプルさに徹したモダニズムの気風が漲っています。しかも、そういう表面にはとても複雑で直感に抵抗するような意匠が潜んでいて、なかなか演奏する方も、聴く方にとってもひと筋縄でいかないところがあります。

実は、この曲は、事前に一日だけ定期会員限定の公開リハーサルがあって、練習をつぶさに見学しています。Harubaruさんをお誘いしてでかけてみましたが、まだ週半ばにもかかわらず、完成度が高いことに驚き本番には大いに期待していました。

この曲では、配置は二十世紀型ですが、チェロがさらに第一・第二とパートが分かれていて全部で弦楽6部となり内声部が充実。ヴォーン・ウィリアムズとともに弦楽オーケストラとしては大型で複雑な構成です。コントラバスなどは響きとリズムのミックスによってはさいらに細分(Div.)されますし、各パートの首席がソロやソロ合奏で室内楽的な響きも出すなどより精妙な書法が用いられています。

リハーサルでは、最前5列目中央の、いわゆる"かぶりつき"席に二人で陣取って、すっかりその音に惚れ込んでしまい、ずっとその席で聴き通してしまいました。やはり、この弦楽オーケストラの編成では、音の鮮度や繊細さ、分離や立体感ということで、かぶりつきが断然、有利だったように思えます。ヴォーン・ウィリアムズもそうでしたが、独奏ヴァイオリンのソロや、トップによる室内楽的なアンサンブルの響きが際立っていて、残念ながらステージから遠ざかるに従ってそのせっかくの鮮度と立体感が不足してしまっていいくのです。

もうひとつリハーサルで印象的だったのは、コンサートマスターのバラホフスキーさんが積極的に指揮者のホーネックさんに助言し、提案し、全体をリードしていたこと。例えば「ここは、チェロは他のパートを待つようにして」とか「この部分は垂直のラインを厳格に一画、一画、きちんと揃えて」などなど、この曲の神髄とも言える精妙で静謐なリズムをこと細かに言い当てていました。もちろんホーネックさんも、細かなアーティキュレーションなど、実に細かい指示を出していました。これだけ徹底して磨きあげられるのも、弦楽器だけだからではないでしょうか。

本番も実に素晴らしい演奏でしたが、第一場の終わりから第二場のクラシック・バレエ様式の各舞踏が、ちょっとウィーン趣味が出過ぎてパウダーシュガーや生クリーム過剰の甘口になってしまった。もっと取り付く島もないぐらいの辛口の厳格さを通して欲しかった。それでも、最後のアポテオーズは見事でした。

紀尾井ホール室内管弦楽団の弦楽器奏者たちがいかにハイレベルにあるかを見せつけるコンサートでした。二列目、三列目まで在京オケのトップクラスが並ぶ選抜オケの実力を目の当たりにさせられ、ウィーン・フィル、バイエルン放送響やパリ管のコンサートマスターらのソロの豪華な技巧と音色も魅力たっぷりで、そこにヴィオラの馬渕昌子さんの重厚な音色が加わります。そういうベテラントップに肩を並べて、若い童顔の伊東裕さんの甘い歌うようなチェロが一段と印象的でした。









紀尾井ホール室内管弦楽団 第115回定期演奏会
<ミュトスとロゴスⅡ アポロンに寄せて>
2019年2月9日(土) 19:00
東京・四谷 紀尾井ホール
(2階センター 2列22番)

ライナー・ホーネック(指揮、ヴァイオリン)
紀尾井ホール室内管弦楽団
(コンサートマスター:アントン・バラホフスキー)

クープラン:パルナッスス山もしくはコレッリ讃
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調BWV1041
ヴォーン=ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲

武満 徹:弦楽のためのレクイエム
ストラヴィンスキー:ミューズを率いるアポロ

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