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羽毛の懐に抱くもの ―― アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン デュオ・リサイタル

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2019年02月21日

イブラギモヴァといえば、震災の年に所沢で聴いたバッハの無伴奏が忘れられません。会場は針を落とせば聞こえるかという極限までに静まりかえり、その漆黒の静寂の闇のなかで、まるで真っ白な羽毛が宙に浮遊し舞うかのように美しい音楽でした。

彼女たちのリサイタルは、どちらかと言えば、一人の作曲家に集中したプログラム。バッハもそうでしたし、今回のツアーではブラームス・ツィクルスも組まれています。でも、この日は、むしろ、時代と様式も広げた多様な作曲家とその作品を取り上げています。バラエティに富んでいて、それがある種のくつろぎを与えてもくれます。

最初のベートーヴェンは、ウィグモア・ホールのライブCDのように突き詰めたものではなく、ヴィヴラートをかけた豊かな音色で緩やかで平穏なロマンを感じさせる新境地のベートーヴェン。

所沢のバッハで感じたのは、その運弓の絶妙なコントロールがもたらす多彩で繊細なテクスチュアの宇宙のような技巧の凄味でした。それは、これまでにはない才能であって、ヴァイオリニストの系譜に新たなものを付け加えるものと感じさえしたのですが、このベートーヴェンもそういう触覚的な質感や静謐で極度に微細な音色の美しさは巧に活かされています。

二曲目のヤナーチェクでは、そういうイブラギモヴァの本来の持ち味と1曲目のベートーヴェンで宣言した新しい境地が、いっそうの深みを感じさせるものでした。

ヤナーチェクと言えば弦楽四重奏などでも、どちらかと言えば激しい攻撃的な演奏や民俗色を露わにする演奏を期待してしまうのですが、イブラギモヴァの演奏は、ずっと品格のある格調の高いロマンスに満ちた音楽。ティベルギアンのピアノはクリスプで、カットグラスかあるいは教会のステンドグラスのような輪郭と色彩が交錯する面白さがあって、ヤナーチェクの美学に新しい発見のようなものをもたらしてくれます。

そして、第3楽章から顕著になる、ガガガッというように突然、弦を擦るような激しい音。それが激しいというよりは、心の不穏なざわめきのような、あるいは、不吉な風が揺らす梢の音のような、ずっと人間的で自然な音です。そういう擦弦音の断片が遠のくように終楽章も終結していきます。そこには熱烈ですが静謐で沈潜した思いが残りました。

休憩後の最初は、ケージの作品。

もともとは武満の作品とアナウンスされていましたが、それを変更してのケージ。「6つのメロディ」と題していますが、メロディとは呼びがたいほど無表情で簡素な断片が、小さなアート作品の羅列のように示される連作。でも、そこには瞬間瞬間に感じさせる、やはり触感と閃きの感覚があります。ケージは確かに武満に大きな影響を与えた作曲家ですが、決して極端に抽象的で観念的なものの啓示だけではなく、こういう綺麗で実在的なアートもあったのかという小さな発見です。イブラギモヴァは、ノン・ビブラート奏法の古楽的アプローチも極めていますが、そういう運弓技巧は、決して、時代様式的な固定観念ではなくて、こんなケージにもとても相性が良いのだということに感心してしまいます。

終曲は、待望のシューマン。

シューマンは、第一にピアノの作曲家であって、ヴァイオリンのための楽曲は決して多くはありません。それなのにそのヴァイオリン作品を不思議とヴァイオリニストは弾きたがる。その魅力は何なんだろうという問いかけに見事に答えてくれるような演奏でした。

何よりも冒頭の激しい重音の響き。それはベートーヴェンから、ヤナーチェク、ケージへと巧に準備し伏線を引いてクレッシェンドしてきた熱烈な火傷のような【触感】の炸裂です。

これを聴いただけで一気にシューマンの世界に引き込まれてしまいました。ヴァイオリンだけに息の長い旋律線を引いていきますが、シューマン独特の互い違うように並行して先を争うようにティベルギアンのピアノと競い合っていきます。そういうやむにやまれぬ衝動で何かに向かっていくロマンスの世界に心が突き動かされます。なるほど、一方のプログラムではブラームスなんだと、何だか双曲の絵のひとつを見損なった迂闊ささえ感じてしまいました。

ふたりが、この日の謎解きを終えた出題者のようににんまりして弾いたアンコールが、やはり、シューマンでした。







アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン
  ヴァイオリン&ピアノ デュオ・リサイタル
土曜ソワレシリーズ《女神(ミューズ)との出逢い》
2019年2月16日(土) 17:00
横浜市青葉台 フィリアホール 横浜市青葉区民文化センター
(1階12列11番)

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第3番 変ホ長調 op.12-3
ヤナーチェク:ヴァイオリン・ソナタ

ジョン・ケージ:ヴァイオリンとピアノのための6つのメロディ
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調 op.121

(アンコール)
シューマン/夕べの歌

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  1. お早うございます。先日は有難うございました。

    ティベルギアンとイブラギモヴァの二人、そろそろ違う相手との演奏を試してみても良いのではという思いがありました。以前から何度か書いているのですが、イブラギモヴァはソロや、キアロスクーロでの方がもっと自由に、自分の思いを羽ばたかせている気がしてしょうがないのです。皆さんが仰っておられた、あのホールのピアノの「鳴らなさ」が影響していたのかもしれません。あるいは、日記で書いておられる様に、この演奏会が最後のシューマンに向けての伏線だったとすると、当方のシューマンへの低感度が、解決のない疑問符を抱えたままになった最大の原因かもしれません。

    byパグ太郎 at2019-02-23 07:24

  2. パグ太郎さん

    先日は楽しかったですね。ありがとうございました。

    確かに、いろいろパートナーやアンサンブルを換える試みもあってもよいかもしれません。

    最近の若い世代は、デビュー早々から積極的に共演者を換えたり、室内楽アンサンブルに参加したりしています。イブラギモヴァは、モスクワのグネーシン音楽学校からさらにロンドンのメニューインスクールへと進み、いわば英才教育の秘蔵っ子、超エリートです。どうしても一時代前のスター・ソロプレーヤーという考えが色濃く残っているのかもしれません。

    一方のティベルギアンも、よいピアニストですが、よきパートナーとはいえ、ややイブラギモヴァの《伴奏》ピアニストということで、彼女のヴァイオリンに合わせる引き立てるという立場で少し窮屈な感じに陥っているのかもしれません。今は、伴奏という言葉はほとんど死語の世界で、デュオ・パートナー、共演ピアニストなどと紹介される時代です。

    それにしても、当日は私のコンサート通いでも珍しい4人のコミュメンバーが一堂に会したわけですが、皆さんの意見がぜんぜん違ってひと各々だったのが面白かったです。

    やはり、パグ太郎さんにはシューマンは鬼門でしたか(笑)。

    byベルウッド at2019-02-24 11:35

  3. ベルウッドさん、遅レスで失礼します。

    上のレスで言われていますが、神奈川県の小ホール公演にコミュメンバーが4名も顔を合わせたのは驚きました。座る席も各々でしたので、別々にチケットを取られたのですよね。偶然なのか、趣向が一致したのか不明です。それでも、皆で選ぶ席位置が大きく違ったのも興味深かったです。

    弱音を得意とし、多用するイブラギモヴァだったので一番前の席を取って正解?と思ったら、一番後ろ側に座っていたベルウッドさんがよく聞こえたと言われていたので、ホールの音響は奥深いと思いました。ついでですが、自分もシューマンよかったです。

    byヒジヤン at2019-02-25 12:46

  4. ヒジヤンさん

    先日は楽しかったですね。

    コンサート後の鑑賞戦でも楽しかったです。皆さん、遠慮のない意見や感想の率直なぶつけ合いでしたので、各々がずいぶんと違っていたのがとても面白かったです。

    でも、同じ空間で同じ音楽同じ演奏を聴いていたという共感は、ちゃんとありましたね。あくまでも各々の感じ方、受け止め方なんだと思います。だから、余計に面白かったです。

    イブラギモヴァの持ち味からすれば、やっぱり、最前列というのは大正解ではないでしょうか。前列で聴いていると後ろの席では聞こえないのではないかと思われての問いがけには「いや、ちゃんと聞こえた」ということですが、やはり、後ろに座っていた立場としては聞こえていないものもあったのではないかと自信が持てないところはあります。本当に微弱の音であっても、後方の席まで届かせるというのはホールというよりは、演奏者の力なんではないかと思います。

    シューマンはよかったですね。でも、シューマンを良いと言ったのは4人中、我々2人だけでした(笑)。

    シューマンのソナタのCDとしては、クレーメル/アルゲリッチの名演名盤があります。帰宅後、(サブシステムですが)聴いてみて改めてその素晴らしい演奏に感動しました。録音も素晴らしいと思います。ぜひ、聴いてみて下さい。この盤も、ドイツプレスのオリジナル盤に限ったほうがよいだろうなあと思いました。

    byベルウッド at2019-02-25 13:44

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