ベルウッド
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日記

ロンドンから吹いてくる風 (ポール・ルイス)

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2019年03月02日

椀方さんが、デジタルエアチェックにはまっていると日記に書いておられますが、私も同じようにはまっています。

FMチューナーは、同じC-FT50。録音は、業務用デジタル・レコーダーDN-700Rを使用しています。下級機でも録音性能は同じですが、あえて、この上級機を選んだのはタイマー録音が便利だったからです。実際、このタイマーはとても便利で、個別日時、曜日時間など多様なセットが簡単にできて重宝しています。

定期的にチェックしているのが、NHKFMの「ベストオブクラシック」。

世界中の演奏会を、月曜から金曜まで毎日放送しているライブ番組で、巨匠から気鋭の若手まで、日本での演奏会はもちろん本場ヨーロッパの音楽祭など多彩で貴重なライブ音源を放送してくれますので、エアチェックはいまや私の《新譜》(?)の大層を占めるようになってきました。




最近、気になった音源は、アリス・沙良・オットの昨年9月東京オペラシティのリサイタル。

これにとても感心しました。これからもっと聴こうと、そう思った直後に、難病の多発性硬化症の告白があり、ショックを受けました。

実は、オットに対しては、これまでとても冷ややかでした。初めて聴いたのが10年前のアンサンブル金沢との共演で、その時のアンコールは、当時ちょうど二十歳になったばかりの彼女が得意にしていた「ラ・カンパネラ」。ピアノというのは恐ろしいもので、注目されればされるほど会場にはピアノ学習者が押しかけます。その時も、私の背後から「ずいぶんと音を飛ばすわね」との中年女性ふたりのささやき声が…。確かに派手に得意気に弾くほどに音楽が軽く浅かったと感じました。その後は、美人ゆえの人気ぶりといささか醒めた目で見ていたのです。それが、この音源を聴いてすっかり見直して、これからもっと聴こうと、そう思った矢先でした。

彼女にはテクニックはあっても、技巧にスタミナがないという印象があって、そのことが尾を引いていました。録音セッションではごまかせても実演では難しい。そういうまがい物じみた人気が嫌だったのです。このエアチェック音源は、たまたまドビュッシーにはまっていたことがあって聴き入ったのですが、とうとう最後まで聴き通してしまいました。気持ちを覚醒させ、それでいて暖かみのある優雅さや気品がある、とても魅力的なフランスのエスプリに満ちた音楽。

多発性硬化症といえば、かつて、ジャックリーヌ・デュ・プレの音楽生命を奪った難病です。当時と比べれば、現代は医学も発達していて進行を遅らせる薬剤なども開発されているそうですが難病であることは変わっていません。すぐに音楽活動を中止するということではないようですが、彼女が病気とどう向き合っていくのか、そのこともあわせて彼女からは目が離せない…そんな気持ちになってしまいました。




もうひとりのピアニストが、ポール・ルイス。

ゲオルグさんがしきりに取り上げているピアニスト。天才とか英才教育とは対極的な異色のキャリアの若手ですが、つい、ある種のキワモノを想像してしまい、躊躇していました。

ふと気がつくと、そのポール・ルイスのライブ音源が手元にあったのです。



ルイスは、東京銀座・王子ホールで全4回のHBB PROJECTというリサイタルシリーズを企画していて、昨年11月のその第2回の収録音源。HBBとは、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスのイニシャルです。

聴いてみると、キワモノとの予想とは正反対で、実にオードドックスな音楽作りと音色です。端正な音楽というほどに正統で、しかも、底知れぬ魅力を備えていて、思わず聴き惚れてしまいました。

特に魅力を感じたのは、その音色です。この音色はどこかで聴いたことがある。誰かのピアノとよく共通している。そのことを、ベートーヴェンのバガテルを聴きながらずっと考えていました。最初に思い浮かべたのはアンジェラ・ヒューイットです。でも、どうも違う。彼女は、英国人を父に持つカナダと英国の二重国籍です。この音色や音楽観は、アングロサクソンということなのかしら。ロンドンを拠点に活躍するということでは、内田光子がいますが、ぜんぜん違う。もちろん天才少女だったデュプレとは人種が違うというほど違う。

いったい誰だろうと思っていたところ、突然、降りてきたのがアルフレッド・ブレンデル。

なぁーんだと思いました。ルイスはブレンデルの弟子なのです。似ていて当たり前。思い浮かべるのにしばし時間がかかったのは、人種にちょっとこだわってしまったからです。でもブレンデルはまさしくロンドンを拠点にして活動してきたピアニストです。

ブレンデルというのは、中庸の音楽家。若い時代には決してそうではなかったようですが、円熟してから、旧フィリップスに遅咲きともいうべきメジャーデビューした頃には、ベートーヴェンやハイドン、シューベルト、リストらの中欧正統音楽の伝統をバランスよく体現する規範的で中庸の音楽を奏するピアニストでした。

でも、中庸というのはアーティストとしては実に難しい立ち位置です。

現に、ブレンデルは確かに高い評価と尊敬を勝ち得た大巨匠ですが、その人気はどこか地味で、引退後の人気は静かにフェードアウトしていっているという印象さえあります。ちょうどドイツ・オーストリー系の正統音楽に目覚めていた頃の私にとっては、買って間違いのない新譜といえばブレンデルだったので棚はブレンデルだらけ。ちょっと学校の教科書のような感じです。それでも、今聴き直しても、常に、新たな発見があるのがブレンデル。中庸と凡庸とはまったく似て非なるものなのです。

ハイドンまで聴き進んできて、思うのは、久々に男性的なピアノだと感じること。こういう落ち着いた堂々と正面を向いたフレージングでなおかつ余裕とか遊びのある音楽は、近年ではなかなか聴けなくなってしまいました。いわゆるジョンブル気質というのでしょうか、頑なな保守性と果敢な冒険心が同居していて、そのなかに潜めた痛烈な風刺精神。ブレンデルのハイドンとよく似ていて、ポゴレリッチなどとは明らかに違うのですが、でもやっぱりブレンデルとは違う。



ブレンデルは、ハイドンの古典的美質を磨いています。それは、エディンバラのパブのバーカウンター正面の棚のようににぎやかでしかも整然と並ぶボトル棚のよう。一方で、ルイスは同じパブですが、カウンターで一杯引っかけて談笑しているかのようなハイドン。日常的で中庸ですが、そこには自由な遊びと愉悦が込められている。なんとしたたかな保守性なんでしょうか。

そういうマッチョな印象が一変したのがブラームス。

実に女性的。作品119の4つの小品の第1曲が鳴り始めた途端に、その艶やかで繊細な音色の半透明なくすみにあっと驚いてしまいました。ブラームスと言えば、確かにロマンチックで情熱的な音楽ですが、それは男性的。クララ・シューマンの影響もあってか、男女の対話的なとこも少なくないですが、その視点はあくまでも男性的。ところがルイスのブラームスは、全身全霊すべて女性的。こんなブラームス体験は初めてという気さえしてきます。師のブレンデルのブラームスといえば、協奏曲の録音は目に浮かびますが、そういえばソナタやこうした小品の演奏はまったく思いつきません。ブレンデルはブラームスを協奏曲以外は弾かなかったのかしらと、それはもう、途方に暮れるほどの思いがしてきました。

ポール・ルイス…新たな才能あふれる中庸のピアニストの登場です。




かつては、FM放送を聴いて、レコードやCDを買ったものです。昔からレコード雑誌の新譜評が大嫌いで、とにかく実際に聴いてから判断する主義だったのでFM放送は貴重な音源でした。カーステレオなどで、はっと耳についた演奏は、演奏が終わって演奏家の名前が放送されるまで駐車スペースに車を入れてじっとアナウンスを待っていることもありました。今の時代は、もっとずっとお手軽なので、音楽ソフトを先ず買ってみるということなのでしょうが、私は今でもそういう気にはなれません。そういう私にとってFMエアチェックというのは、新たな武器になりそうです。




▽アリス・紗良・オット ピアノ・リサイタル

「ベルガマスク組曲」 ドビュッシー作曲
「ノクターン変ロ短調 作品9第1」 ショパン作曲
「ノクターン変ホ長調 作品9第2」 ショパン作曲
「ノクターンハ短調 作品48第1」 ショパン作曲
「バラード第1番ト短調 作品23」 ショパン作曲
「夢」 ドビュッシー作曲
「グノシエンヌ第1番」 サティー作曲
「ジムノペディ第1番」 サティー作曲
「グノシエンヌ第3番」 サティー作曲
「夜のガスパール」 ラヴェル作曲

(アンコール)
「亡き王女のためのパヴァーヌ」 ラヴェル作曲

~東京オペラシティコンサートホールで収録~
(2018年9月27日)




▽ポール・ルイス ピアノ・リサイタル
「11のバガテル 作品119」 ベートーベン作曲
「ピアノ・ソナタ 変ホ長調 Hob.XVI:49」 ハイドン作曲
「ピアノ・ソナタ ロ短調 Hob.XVI:32」ハイドン作曲
「4つの小品 作品119」 ブラームス作曲

(アンコール)
「「7つのバガテル」 から第1曲 作品33第1」 ベートーベン作曲
「アレグレット ハ短調 D.915」 シューベルト作曲

~東京・王子ホールで収録~
(2018年11月20日)

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  1. ベルウッドさんの書かれているとおり、小生のHAP-Z1ESに新たにリッピングする音源のほとんどが、ベストオブクラシックで放送された演奏会収録音源になります。

    今まで録り損ねた音源も数多くありますが、BSクラシック倶楽部と違い、FMはなかなか再放送にならないのが辛いですね。

    この日記に書かれている二人のアーティストも録り漏らした口で、悔しい限りです。

    by椀方 at2019-03-02 13:55

  2. ベルウッドさん
    こんにちは

    ポール・ルイスとブレンデルに関しての評、さすが!と思って拝見いたしました。

    >落ち着いた堂々と正面を向いたフレージングでなおかつ余裕とか遊びのある音楽
    >頑なな保守性と果敢な冒険心が同居していて、そのなかに潜めた痛烈な風刺精神
    >カウンターで一杯引っかけて談笑しているかのようなハイドン

    いっぱい心に触れるフレーズでした。
    上記のような音楽は誰でもできるものではないということをおっしゃっているんだと思いましたです。。。

    でもそれで終わりではなかったのですね。特にブラームスの件、今2人のバラード集を聞き比べてきたところのですが、ルイスのピアノはホントに女性的に聞こえました。スローパートで左手の和音に右手の旋律を重ねていくときのタッチなど、なんとも甘美。。。一発で魅了されてしまいました。

    byゲオルグ at2019-03-02 14:38

  3. ベルウッドさん

    沙羅・オットのニュースには心が痛みます。やはり、デュ・プレのことをどうしても考えてしまいます。あの裸足姿の演奏がもう一度聞けるようになること、いえ、その前に、何とか病気を克服することを、願わずにはおれません。

    そんな気分の所に、プレヴィンの訃報が入り、ため息が止まらない週末です。

    byパグ太郎 at2019-03-03 12:17

  4. 椀方さん

    確かにBSはけっこう再放送がありますね。こちらは海外音源の放送があるのでいっぱいなんでしょうね。クニャーゼフのバッハ無伴奏は半分だけしか録れていなかったのですが、今月、2日続きでまた全6曲やってくれそうです。

    byベルウッド at2019-03-03 13:40

  5. ゲオルグさん

    そもそもポール・ルイスって名前があまりに平凡ですよね。

    ゲオルグさんの日記を拝見しなければ、何も知らないまま聴かずに消去してしまったかもしれません。とてもよいピアニストですね。すっかり気に入りました。

    ブレンデルも、あらためてすばらしいと思います。

    byベルウッド at2019-03-03 13:45

  6. どんぐりさん

    アリス=沙良・オットさんって、とても日本語が上手なのでびっくりしました。実は、BSクラシック倶楽部の画像も見たのですが、フランスをテーマに取り組むことにしたら、その魅力に取り憑かれたしまったと楽しげに語っていました。収録時には病気のことは、本人もまだ知らなかったのでしょう。そう思うと胸が痛みます。

    byベルウッド at2019-03-03 13:57

  7. パグ太郎さん

    FBだったかブログだったかで、ファンの方がサインをもらって感激したことを綴っていました。才能があふれてていて美人ではち切れんばかりのポジティブオーラを放っていて、自分とは全く別の世界にいる人だとまぶしくて仕方がなかったと…。それだけに信じられないような突然の病魔です。不条理としか言いようがないです。でも、ほんとうにポジティブな人ですから、きっと運命を克服していくと思っています。

    byベルウッド at2019-03-03 14:09

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