日記
「キリスト教と音楽」(金澤正剛 著)読了
2021年01月21日
西洋音楽とキリスト教は切っても切れない関係にあります。
しかし、キリスト教徒でもないのに、やれクリスマスには歌い騒ぎ、バッハの「マタイ受難曲」は至高の芸術だとか、モーツァルトの「レクイエム」が自分の一番好きな曲だとか言って、いい気になっている日本人の何と多いことか。
それほどに西洋音楽とキリスト教の関係は深い。それはわかっていても、音楽を楽しむには、何もキリスト教徒である必要はない…、とも思います。本来、教会の中での宗教儀礼として奏されていた音楽であっても、今はそういう場を離れたコンサートホールなどの会場で演奏されることも多い。それほどクラシック音楽はユニバーサルなものになっているからです。
かといって何も知らないでいるというのも心許ない。どこまでその曲を理解して楽しめているのか大いに怪しいからです。
本書は、とてもわかりやすく親切に、キリスト教と音楽のことをひとつひとつ丁寧にひもといてくれます。
教会でバッハの曲を聴いていて、最後のコラールで周囲が一斉に起ち上がって歌い出した時にはまごついてしまうこともあります。あるいはウィーンの宮廷の日曜礼拝で少年合唱団を聴いても、長々とした説教に意表をつかれてしまうことも。「レクイエム」は、近代になってもいろいろな作曲家が劇的な曲を書いて私たちを楽しませてくれますが、その礼拝の式次第や構成内容、歌われている詩歌の典拠などがわかるとその感動や感慨もいっそう深まるはずです。
特に私たちが疎いのは、キリスト教特有のカレンダーのこと。
クリスマスとは何なのか、復活祭とは何か…ということはおぼろげながらわかっていても、バッハが毎週のように「カンタータ」を作曲したことの背景や、それぞれの曲の主題の意味や音楽の性格づけのことは十分に理解できていません。教会カンタータと教会暦との密接な関係や、コラールにこめられた民衆の思いなどについて系統的に示してくれているのは類書にはありません。とても参考になります。
キリスト教と言っても、国や地域によって様々であって、音楽との接し方も違います。カトリックとプロテスタントの区別になじみのない私たち日本人には、ドイツなどのプロテスタント地域では、決して《アヴェ・マリア》を歌わないこともあまり知られていません。聖母マリア賛美について一章をもうけて詳しく書かれていることはとても参考になります。
オルガンがどうして教会と一体となった楽器なのかということも知ることができます。本場ヨーロッパのオルガンを聴くには教会に足を踏み入れるしかないのですが、演奏の後に長々と説教が続いて抜け出しそびれることもありますが、ミサなどの式次第を知れば異教徒の音楽ファンなりの振る舞いもあることがわかります。オルガンのお国柄による違いも宗派の考え方の違いだということもわかり、また、教会付オルガン奏者には必須だという即興演奏の由来も理解できました。
時代によっては全くなじみのない作曲家や曲名が続いて退屈するところもありますが、改めてもっと聴いて親しみたいと思えばよき手引きにもなります。巻末にでもディスコグラフィでもあればとも思いますが、人気があって繰り返し演奏されるものから、録音としては希少なものまで様々で、きりがないということだったのかもしれません。
オラトリオの起源と歴史についてなど、その範囲はルネサンスやバロックなど、いわゆる古楽の領域にとどまらず、その様式やテーマの変遷をたどって広くロマン派や二十世紀音楽にまで紹介が及んでいます。古楽ファンはもとより、広くクラシック音楽ファンにも一読をお勧めします。

キリスト教と音楽
ヨーロッパ音楽の源流をたずねて8
金澤 正剛 著
音楽之友社
第1章 キリスト教の礼拝と音楽
第2章 教会暦のはなし
第3章 礼拝の式次第について
第4章 教会とオルガン
第5章 クリスマスの音楽
第6章 救世主の受難をめぐって
第7章 復活祭をめぐって
第8章 レクイエム
第9章 聖母マリアへの賛美
第10章 オラトリオの起源と歴史
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ベルウッドさん
今回のキリスト教と音楽ですが
いいもの読まれましたね、感慨深かったですか
キリスト教の讃美歌などはバッハ等いいものが多いですね
ベートベン等も深くはキリスト教に根差すと思います
キリスト教は聖書に由来するので
聖書は読まれましたか?
わたくしは牧師ではありませんが。
bypyhon at2021-01-21 12:03
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pyhonさん
私はクリスチャンではありませんが、近所だったのでプロテスタント系教会の幼稚園に通いました。紙芝居などで聖書の物語を教えてもらっていたことをおぼろげに覚えています。幼稚園は無くなってしまいましたがその教会は今もあって、後で調べたらあの大正デモクラシーの論客・吉野作造も通っていたそうです。
そんなこともあったせいかごく若い頃に「創世記」「ヨブ記」や「福音書」などは一通り読みました。いわゆる聖書ではなくて岩波文庫でしたが。
本書は、聖書を知っている知っていないにかかわらず、クラシック音楽が好きなひとにとっていろいろ知らなかったことがあって面白いと思います。
それは、本書が音楽の本だからです。著者はあくまでもルネサンス音楽を専門とする音楽史の専門家です。宗教を教えているわけではないのです。
著者が、ハーバード大留学時代に友人の家庭に招かれたときに、ふとクリスマスツリーはいつ飾って、いつ片付けるのかということを聞いてみたらとても明確な答えが返ってきて驚き、それがキリスト教の例祭節に基づいていることに初めて気づいたということを書いています。そういう私たちの目線でいろいろと丁寧に説明されていて、読んでいて興味はつきません。
byベルウッド at2021-01-21 22:16
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