パグ太郎
パグ太郎
クラシック中心に聴いています。オーディオは手段と考えてはいるものの、気がつくと手段の魔力に取り付かれてしまうことも多く、日々修行をしております。

マイルーム

パグ太郎の部屋
パグ太郎の部屋
持ち家(戸建) / リビング兼用 / その他 / 16畳~ / 防音あり / スクリーンなし / ~2ch
10数年愛用したアンプが逝ってしまったので、久々の機器更新をしました。
所有製品
  • プリメインアンプ
    OCTAVE V110SE
  • ハードラック
    QUADRASPIRE QAVM
  • RCA/BNCオーディオケーブル
    KIMBER KABLE KS-1020
  • 電源ケーブル
  • 電源ケーブル
    KIMBER KABLE PK-10Gold

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日記

海を渡るピアノを巡る3つの物語、あるいは文明の衝突について

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2017年10月07日

楽器というものは音を奏でる道具である以外にも様々な顔を持っていて、演奏する人、製作する人、聴く人、メンテナンスする人、収集する人、売る人、買う人、投資する人、運ぶ人・・・様々な人を巻き込み、色々な人間ドラマを作り出す因になるようです。それだけであれば、絵画であっても、書籍であっても、茶道具であっても同じかもしれませんが、音楽という要素が絡んで、より情念に直接響くドラマを生み出したり、果ては霊が宿るようなことまであるようで・・・・。 そういう楽器の代表格はやはり、ヴァイオリンとピアノでしょうか。今日は、ピアノが主人公となる作品について語ってみたいと思います。(おっと、「語る人」というのが抜けていましたね)
 
ピアニストを主人公にした作品は沢山ありますが、ピアノそのものが主人公といえば、まず思いつくのは、やはり「ピアノレッスン」でしょうか。
心ならずもニュージーランドの未開の地の打算的な夫に嫁いだスコットランドの女性の心を象徴する存在としてピアノは描かれいます。ピアノ(=主人公の心)は箱図詰めにされ、大海原を船に揺られて運ばれた末に、乱暴に小船に乗せられ、原住民に担がれてやっとの思いで上陸しても、夫に受け取ることを拒否され浜辺に放置されるところから映画は始まります。子供の頃に口を利くのを止めてしまった彼女が、心を伝える方法として選んだのはピアノの演奏ですが、その声を聞き取ることが出来るのは、現地人と伴に生活をしている野獣のようなもう一人の男だけです。夫はその野獣に、土地と交換に、ピアノ(妻の心)をレッスンつきで売り払います。そして、野獣はピアノの黒鍵を一本づつ返すのと交換に彼女の愛情を手に入れようとする。これ以上はネタばれですので止めますが、この3人の全ての葛藤がピアノそのものを中心に廻ります。そして、その葛藤は、終幕、主人公がモノとしてのピアノを海に沈め、自身も死の淵から回復して自身の心を取り戻すことが出来た時に始めて、収束に向かうのです。

この映画を語る上で忘れてはならないのは、やはりマイケル・ナイマンのピアノ曲です。小さな音形が繰り返し繰り返し、強迫的に延々と積み上げらていく世界は、ピアノに憑かれ、それに振り回される3人の葛藤を最も雄弁に語っています。内に閉じこもり口を利かない主人公の心が「楽器としてピアノ」であれば、その声は、美しくも強迫的な闇の深さを感じさせるこのピアノ曲だと感じます。この主演者は、肉体としての女優、心としてのピアノ、声としてのピアノ曲の3つで、文字通り三位一体をなしており、原題の「The Piano」はそのことを明確に示しています。


さて、もう一つのピアノそのものを主人公にした作品。今度はコミックです。島田虎之介作「トロイメライ」。ベヒシュタインの弟子であるドイツ人兄弟が、アフリカ・アジアの植民地の暑さと湿気でも狂うことのない、「植民地向けピアノ」をカメルーン産のブビンガの木で作り、「ヴァルファールト(=巡礼)」というブランドで1903年に売り出すという、マニアックなエピソードから話が始まります。「機関車のように頑丈でベヒシュタインよりも安い」、無骨で音は今一つではあるが、決して音は狂わないこのピアノは、植民地のヨーロッパ人社会に受け入れられ、あっという間に世界中に広まります。その内の1台がジャカルタから、訳有って日韓ワールドカップで盛り上がる2002年の東京に持ち込まれ、日本人の調律師とイラク人の不法入国仏壇職人が修理を請け負うことなります。「ドイツ、カメルーン、日韓ワールドカップ、100年の時、日本、イラク、精霊の宿るブヒンガの木」、何のつながりがあるか、さっぱり判らないこれらの要素が、ある大イベントに向かって収斂していくストーリーの組み立ては、ちょっと力技で無理が有る気もしますが、中々のものです。

ピアノ好きには笑えるコネタが仕掛けてあり、楽器職人ではなく仏壇職人を紹介されて怒る調律師に、紹介者のピアノ修復の名工が返す言葉。「ファツオリだって元をただせば家具職人、仏壇とピアノも遠い親戚、どちらも綺麗なハコで、蓋を開ければ中は金ぴか、叩けば音は鳴るし、歌とお経で・・・・」には、思わず苦笑。調律師の師匠の音大講師の講義「オールド・プレイエルで弾くショパン」の一節「ピアノとは、小さな声。が、現代のピアノは大ホールでの演奏のため、華やかで大きな音を獲得しようとあらゆる技術を駆使しようとしてきました。はたして、それがピアニストとってプラスであったのかどうか。弱音を弾き分けられるタッチこそ・・・」フムフム、納得・共感です。

この作品、ピアノが主役の作品であってもピアノ音楽そのものは、最後の最後まで登場しません。ピアノが弾かれるのは、大イベントに収斂していく表のストーリーと並行して流れている、修復の依頼主の側の隠れたもう一本のシナリオ、ピアノを壊され、同時に聴く力を失った依頼主の回復(それは世界の回復でもあるらしい)の時です。そして使われたのが、タイトルとなっている「トロイメライ」。でも、何故この曲が選ばれたのか、それがどんな演奏で、ピアノはどう鳴ってくれたのか、本当に呪いが解けて世界は救われたのか、それについては一つも具体的説明はされず、読者の解釈に委ねられています。すべては夢物語(トロイメライ)ということ?

漫画としては独特の画風ですし、コマ割りも凝っていて好き嫌いはあるかもしれませんが、一冊読み切ですので、ご興味があれば是非。PhileWeb関連で言えば、話の大元になった精霊の宿る木、ブビンガ、これをボードにしておられた方も何人かいらっしゃいますね。またスピーカーやギターでも使われています。そのピアノの音を想像するのもまた一興ですね。(ブビンガ材のスタインウェイ)

シューマンは聴くことが少ないのですが、アルゲリッチのこのCDは時々手にします。

三作目は、ダニエル・メイスン作『調律師の恋』。舞台は19世紀後半の植民地時代の英領ビルマです。つまり、前2作品と同様、19世紀の西欧諸国の世界制覇の過程で起きた文明の衝突が物語の背景になっています。お話は、ビルマ奥地の最前線で現地藩侯を従属させるという困難な任務に華々しい軍功を上げている将校が、1840年製のエラールのグランドピアノを修理・調律できる専門家の派遣を本国に要請しているという所から始まります。(エラールの美しいマーク)
そして派遣される調律師は、ビルマのジャングルの奥深く分け入り、カリスマ的存在である将校と接しいる中で、現地文明の中に自己の本質的欲求を見出し、そこに取り込まれれていく過程が丁寧に描かれています(お気づきの通り、これは映画『地獄の黙示録』のベースになったコンラッドの『闇の奥』へのオーマージュなのでしょう)。

本書の扉に引用されているプルタルコスの言葉『音楽が調和を為すためには、まず不調和を知らねばならない』は、二つの文明の衝突と調和というこの作品の主題を端的にあらわしています。エラールのピアノはその一方の主題であり、もう一つの主題である熱帯雨林の自然と東洋文明に触れることによって、不調和(破壊と調律の狂い)が生じます。その不調和を回復させるために登場するのが調律師です。主人公は一旦は調和の回復に成功します。そのクライマックスは、修理・調律のなったエラールで調律師が『平均律クラヴィア曲集第1巻』をその第四番「プレリュードとフーガ嬰ハ短調」から弾き始めるシーン、そして彼が惹かれて行くビルマ女性にバッハのピアノ演奏を手ほどきするシーンでしょうか。しかし、その調和を成し遂げる過程で変質してしまった調律師も、更にはエラールのピアノでさえも、元の西洋文明にとっては不協音でしかなくなってしまいます。そして元の世界に戻ることが出来なくなります。

エラールで演奏された平均律の録音をと思ったのですが、残念ながら見当たらず。この曲の愛聴盤は、個性が真逆なこの二つです。(ハインリッヒ・シフ)(フリードリッヒ・グルダ)

今日は、この3作にしておきましょう。書いてみて気がつきましたが、3作ともピアノは海を渡り、地球を半周以上、引き回され、銃で撃たれたり、海に沈んだり、激流を下ったりと、中々ハードボイルドな運命に晒されています。これ以外にも、『パリ左岸のピアノ工房』『のだめカンタービレ』『ピアノの虫』『羊と鋼の森』などなど、思いつくだけでもまだまだ出てきます。続きは、また次回以降ということですが、もう少し平和な題材の方がいいかもしれませんね。

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  1. パグ太郎さん、こんばんは。

    映画の方はなんとなく見ただけですので、音楽についてだけですが…
    「ピアノレッスン」でナイマンを知って何枚か購入しました。
    「ピアノレッスン」はCDでは飽き足らずにSACDも収集してしまいましたが。
    ちなみに、限定発売のアナログは買い逃しました(笑)
    ナイマン自身が演奏したサウンドトラックですが、結構激しいですね。
    心の動きをストレートに出すような直線的な響きです。
    初期のサントラではピアノの打鍵がちょっと詰まり気味なのですが、SACDではしっかり鳴ります。
    CDの方もデジタルリマスターされた盤が現在は流通していますが、結構改善されているとの評判です。

    …で、このナイマンのピアノ曲をもう少しロマンティックに聴きたい、という時にお勧めするのが、Valentina Lisitsaの「Chasing Pianos-the CD」です。
    ナイマンの映画音楽の中からピアノ曲を選びだして演奏しています。
    ちょっと情感豊かすぎる気もしないではありませんが、オリジナルとは違った解釈で弾かれるナイマンというのも面白いです。
    調子に乗ってグラスのCDも買ってしまいました。

    CDを買ってから知りましたが、Valentina LisitsaはYOUTUBEにもチャンネルを持っていて、メインテーマの「THE HEART ASKS PLEASURE FIRST」を視聴することが出来ます。
    ある意味、有名なピアニストだったみたいです。

    …コレ以前はヒラリー・ハーンのアイブズの伴奏をしているくらいしか知らなかったのですけれども(汗)

    byfuku at2017-10-08 20:56

  2. fukuさん お早うございます。

    ナイマン、お好きなんですね。サウンドトラックのナイマンは確かに激しいですね。映画としては、ピアノが一番、雄弁で、それに全てを語らせようとするので、こうなるのでしょうね。サントラでしか聞いたことがなかったのですが、色々なバージョンがあるのですね。Listiaも試してみます。

    byパグ太郎 at2017-10-09 09:51

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