パグ太郎
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クラシック中心に聴いています。オーディオは手段と考えてはいるものの、気がつくと手段の魔力に取り付かれてしまうことも多く、日々修行をしております。

マイルーム

パグ太郎の部屋
パグ太郎の部屋
持ち家(戸建) / リビング兼用 / その他 / 16畳~ / 防音あり / スクリーンなし / ~2ch
Phileweb登録後1年、気が付くとスピーカー導入していました(2018/6) 10数年愛用したアンプが逝ってしまったので、久々の機器更新をしました(2017/6)。
所有製品
  • スピーカーシステム
    GERMAN PHYSIKS HRS120 Carbon
  • プリメインアンプ
    OCTAVE V110SE
  • ハードラック
    QUADRASPIRE QAVM
  • RCA/BNCオーディオケーブル
    KIMBER KABLE KS-1020
  • 電源ケーブル

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日記

地獄に落ちるのはモーツァルト?、あるいは三分半のエロティックな心理劇の楽しみについて

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2018年12月05日

モーツァルトのオペラ『ドン・ジョバンニ』の中に、主人公の放蕩者の騎士ドン・ジョバンニが、村娘の花嫁ツェリーナを誘惑する短い二重唱があります。

ドン・ジョバンニというのはスペインの騎士で、モノにした女は数知れず。いや、違いました。召使が記録したカタログによると、イタリア・ドイツ・フランス・トルコ・スペインの5カ国で計2063人。高貴な侯爵夫人から素朴な村娘まで、夏は細身で冬は豊満な体型を選び、「スカートをはいてさえいれば」年代は問わず、髪の色、目の色、肌の色の種類は全て揃えています。復讐心に燃える令嬢から逃げる、捨てた女の深情けをからかいながらかわす、結婚式当日の新婦を真剣に誘惑する、そういったエピソードが続くドタバタ喜劇です。全体の筋としては、襲われた愛娘を守ろうとする騎士団長の父親を返り討ちにしてしまい、その騎士団長の亡霊によって地獄に引きずりこまれて悪者が懲らしめられ、皆ハッピーというお話です。

が、モーツァルトがこの劇作品につけた音楽は、ドタバタ喜劇の勧善懲悪ハッピーエンドの音楽だけとは言えないのです。亡霊の復讐によって地獄に落ちるという怪談としての暗くて深刻な音楽が一貫して流れていて、冒頭の序曲と最後の地獄落ちのシーンだけ聴けば、悲劇のオペラとしか思えません。その一方で、その間に挟んでモーツァルトが作った歌の、なんと明るく楽しく、そして蠱惑的なこと。

2063人の女性の容姿を記載したカタログを、記録係の召使が得意げに、被害者の女性に披露する「カタログの歌」の生き生きとした楽しさ。

夜のバルコニーに佇む捨てた女、彼女を騙すために召使に自分の衣装を着せ、その陰からドン・ジョバンニが歌う誘惑のカンツォーネが宵闇に響いていく様子。

身分違いのプレイボーイに誘惑されて浮気心に火が付いた村娘が、さえない農夫の許嫁に「私をぶって頂戴」と可愛く歌いかけて嫉妬心をなだめたり、貴族にボコボコにされて怒り狂う農夫に「私の愛の蜜は何にでも効く妙薬よ」と慰め機嫌をとったりする二つのアリアの小悪魔的なお色気。

これだけ聴くと、懲らしめられるべき悪者の魅力を称揚することが、この作品の主題であるかのようです。そんなことは当時の社会では許されないので、大義名分として、本音とは真逆の悲劇的な序曲と終曲を作り上げたとも思えます。そう感じるのは、ご紹介したシーンと比べて、正義を振りかざす側の登場人物のアリアや重唱は、正直言って、全然つまらないのです。本来の劇の流れからいえば、本筋はそっちのはずですが、モーツァルトは、その天才の輝きをそちらには殆ど振り向ける気がなかったのではと勘ぐってしまいます。

逆に、その天才ぶりが最大限に発揮されているのが、冒頭に申し上げた、花嫁ツェリーナとドン・ジョバンニの二重唱『お手をどうぞ』なのです。狙った美人を落とそうとする主人公の渾身の誘惑の力、それに頭では抗おうとする新婦の村娘の心と体の葛藤、そして抗しきれず陥落した後の開放感と期待に震える女心、自分の力を再確認した男の歓喜、そういった内面の変化が三分強の間に交錯する様子が、音楽と歌声により赤裸々に表現されています。地獄に落ちるとすると、こういう音楽を作ったモーツァルト、あなたではないかと何時も思うのです。


<長くなりましたので、息抜きに、最近の若手でお気に入りのスマートで美しいヴァレンティーナ ナフォルニータが花嫁を演ずる映像を>
https://www.youtube.com/watch?v=a4YjKmsXyds

さて、この二重唱では、誘惑する側と誘惑される側の内面の変化が交錯すると申し上げました。が、それを歌声で演じ分けて聴かせるのは、意外と難しいのです。例えばソプラノ。最初は拒む、直ぐに耐えきれない自分に気づく、それでも迷う。相手を信じちゃいけないとわかっているから、婚約者への疚しさがあるから。でも最後はそれらを打ち捨てて割り切る。一旦腹を括ると女は怖い。相手を挑発し、更に誘う。これだけの感情の変化を歌に込めなければいけません。バリトンは、誘惑し陥落させるという攻めの一手の一本調子で良いかというと、そうでもない。最初は女心に忍び込むように優しくささやき、そして揺らぎ出した心を支えるよう誠意を装い、最後は共に喜びを目指すことを祝うかのように力強く、段階を踏むように、心変わりの舞台へソプラノをエスコートする必要があります。

その上、演出的には、女心の変化は台詞の通りのものであったという素直な解釈もあれば、元々男を誘う気持ちがありながらも表面的な拒絶・揺らぎを演じている、それも、火遊びとして割り切った軽いものという受け止め方もあれば、玉の輿を狙った真剣勝負という設定もあります。台詞通りであれば純朴な娘の危機として、火遊びであれば喜劇の主役のコミカルな楽しみとして、真剣だとすればドン・ジョバンニにも匹敵する愛欲に突き動かされる一人の人間として表現されなければなりません。中々、一筋縄ではいかないのです。

有名な作品ですから、昔から多くの録音が残されています。でも、これまで長々と書いてきたこの三分強の心理劇を、どういう演出上の設定で、どう演じるかは、一つとして同じものがないかもしれません。歴代の名歌手・指揮者たちが作り出す違いを聴くだけでも、本当に面白いと思うのです。

ジュリーニ指揮 (バリトン:ヴェヒター&ソプラノ:シュッティ) (1959年録音)
どこまでも優しく甘いバリトンと、愛らしいソプラノ。純粋に甘い二重唱を楽しむならこれが一番かも。

(ジュリーニとベーム旧盤)

ベーム(旧)(ディースカウ&グリスト)(1967)
ディースカウのイメージと役柄のギャップで知的すぎるという話がありますが、この計算しつくされた色っぽさは只者ではありません。標的のグリストがまた清純派ですので、抵抗のしようなど端からないのです。

ベーム(新)(ミルンズ&マティス)(1977)
立派な男性と真面目な女性の愛の二重唱。高尚ではありますが、もう少し艶っぽさというか、潤いがあっても良いかも。全幕を通してベーム・ウィーンフィルの実力が遺憾なく発揮されて、地獄落ちの悲劇に仕上がっているのも、そう感じさせる一因でしょう。

(ベーム新盤とショルティ旧盤)

ショルティ(旧)(ヴァイクル&ポップ)(1978)
野獣と猛獣使いの麗しき美人。これは、女性が酸いも甘いも噛分けたというやつでしょうか。最後は完全に猛獣は手懐けられてしまっています。

カラヤン(レイミー&バトル)(1985) 
上から目線で最初から偉そうで強引な男性と、軽い女の火遊び。バトルのいつもながらのコケティッシュな発声と歌いぶりが存分に楽しめます。

(カラヤンとムーティ)

ムーティ(シメル&メンツァー)(1990)
これはまた、淡白なお二人で….。ムーティ指揮のウィーンフィルと共に流れるように美しい声を味わうことができます。

ショルティ(新)(ターフェル&グローブ)(1996年)
ショルティは旧盤同様、欲望と悪意むき出しのドン・ジョヴァンニに、大人の成熟した女性を対面させるのが、お好みの様です。

(ショルティ新盤とヤーコプス)

ヤーコプス(ヴァイサー&イム)(2006年)
ちょっと若いお二人さん、急ぎすぎ。行き着く先が見えていて最初から盛り上がっていませんか?

ネゼ=セガン(ダルカンジェロ&エルトマン)(2011)
最初にご紹介した動画で主人公役だったダルカンジェロは下心ありありの悪人ぶり。エルトマンは純情な乙女風のオーソドックスな演奏です。今が旬の現役スター歌手をそろえた正統的な録音。

(ネゼ=セガンとクルレンティス)

クルレンティス(ティリアコス&ガンシュ)(2015)
クルレンティスのモーツァルト・オペラは、今までにない斬新さを持ちながら、でも奇抜ではない説得力のある表現が細やかに埋め込まれています。この二重奏も、思いがけない求愛に息を飲んだソプラノ最初の発声が吐息とともにややかすれ声で出てくる、このリアルさだけでドキドキします。

どれも、それぞれに魅力があって、どれか一つに絞るのは難しいのです。全部、揃えるわけにもいかないですし・・・・。このまま集めて2063枚までやってみますか?

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  1. パグ太郎さん、こんばんは!

    またまた面白い切り口の日記ですねえ。
    私もこの聴き比べをしてみたいです。
    新生CENYAサウンドが成った暁には連絡を差し上げますので、この音源達を持参してお越し頂けないでしょうか?

    ユーチューブを観ました、高田純次に見えました。

    皿に虫が3匹乗っかっている漢字が読めないのでルビを振って下さいませ。

    byCENYA at2018-12-05 21:31

  2. パグ太郎さん 

    いつも 力作ありがとうます。 私はいつも ボケーっと 観ているせいか,(聴いてる) 村娘は バカな 軽薄な女だなぁ!!
    そして 亡霊に地獄に引きずり込まれ!!
    ざまあみろ。   いつも心の中で思っていました。
    思いを新たに 思考力を奮い立たせたいと思います。ちなみに 私の所有物は 1955年のカヘルベーム, あとは 同じもの? カラヤン,ショルティ, クルレンティスでした。

    楽しいですね。ありがとうございます。

    byX1おやじ at2018-12-05 22:17

  3. CENYAさん

    レス有り難うございます。この日記は、CENYAさんの甲州なみだ旅のケニティー邸のエロ声編に刺激を受けて書いたものでもあります。新生サウンド楽しみにしています。

    あれで高田純次⁈ まあ、武田鉄矢とどっちに近いかといえば、そうですね。もっとチャランポランのだとどういうご感想になるのやら。

    皿の上に虫? なんでそうなんだろうと調べて見ました。色々な毒虫を一つの容器で飼って、最後に勝ち残った最強の虫の毒を「蠱毒 こどく」といい、それを呪いに使うのを蠱術(こじゅつ)といい、蠱術で人を惑わす事を蠱惑(こわく)というそうです。なるほど!

    byパグ太郎 at2018-12-06 09:11

  4. X1おやじさん

    先日は失礼いたしました。普段通りのマイペース日記にレス有り難うございます。

    素直にご覧になれば、仰る通りの見方が正統なのでしょうが、演る側も、聴く側も変化球が欲しくなって、あの様な色々な演奏が出てくるのではないかと思っています。それで袋小路入っていると、いきなり直球を投げ込む様な演奏が出てきて、かえって新鮮、且つ強力ということもあり、それもまた面白いです。

    今、面白さで言えばクルレンティスが一番でしょうか。若手歌手で言えば、映像のナフォルニータを追っかけています。

    byパグ太郎 at2018-12-06 09:21

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