パグ太郎
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クラシック中心に聴いています。オーディオは手段と考えてはいるものの、気がつくと手段の魔力に取り付かれてしまうことも多く、日々修行をしております。

マイルーム

パグ太郎の部屋
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持ち家(戸建) / リビング兼用 / その他 / 16畳~ / 防音あり / スクリーンなし / ~2ch
Phileweb登録後1年、気が付くとスピーカー導入していました(2018/6)。所有製品はHRS130ですが、製品DBに登録がないので、一番近いもので代替しています。 10数年愛用したアン…
所有製品
  • スピーカーシステム
    GERMAN PHYSIKS HRS120 Carbon
  • プリメインアンプ
    OCTAVE V110SE
  • ハードラック
    QUADRASPIRE QAVM
  • RCA/BNCオーディオケーブル
    KIMBER KABLE KS-1020
  • 電源ケーブル

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日記

ブニアティシビリとシューベルト、相性が良いとは思えぬ組み合わせから、演奏者の意外な内面告白を知る

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2019年03月21日

ブニアティシビリというジョージア出身のピアニスト。

独自の解釈に基づく自由な演奏。そしてその奔放さは音楽や文化にとどまらず、政治・社会に及ぶ発言や行動の数々。外見の派手さもあって眉を顰める向きもいらっしゃるようです。が、その高度な技巧と、内面の全てをさらけ出すようでいながら独善には陥らない包容力あふれる豊かな表現力には、有無を言わせぬ魅力を感じてしまうのです。

(ピアノに乗るな!)

その彼女の新作はシューベルトの最後のピアノ・ソナタ21番(D.960)と4つの即興曲集(D.899)です。意志の強さに煌めく眼差しで挑みかかるようなスタイルの彼女が、か弱く従順で夢見る乙女の代表格(ちょっと言い過ぎですが)のシューベルト? おまけにジャケットがこれです。イギリスの画家、J.E.ミレイの『溺死するオフィーリア』を自身で演じて見せるパロディです。

(本家はこちら)

オフィーリアとはシェークスピアの『ハムレット』の登場人物。ハムレットへの恋に破れて狂気に陥り溺死する、従順さと純潔という古い女性観を象徴するような存在です。マクベス夫人の剛腕とも、ポーシャの賢明さとも、ジュリエットの様な自立性とも異なる、言ってみればシューベルトの『死と乙女』に通じる文脈に乗ったシェークスピアには珍しいキャラクターかもしれません。そのことを表すためのジャケットデザインであれば、ミレイの絵画をそのまま使えばいい話です。が、そうではなく自らを作り物にして、あからさまに、作為的に、現実世界の自身の在り方と真逆の姿を演じて見せている。そこに何かの意図が込められていないはずはない、一体それは何?というのが、聴く前から楽しみだったのです。
(ジャケット写真以外にも、こういうモノもあり。ちょっとやりすぎ?)

以前、Orisukeさんのシューベルトの『死と乙女』についての日記のレスやり取りの中で、イブラギモヴァの演奏は「本当に死にそうな乙女がメランコリックになると思っているの?」という現実を突きつけるという至言を頂戴しました。ブニアティシビリの新作もそれに通じる現代風演奏になるのかと思っていたのですが、その予想は外れました。

一言でいえば、これはシューベルトの情緒的な世界観への深い共感が感じられる演奏。それでいて、意志の強さと、柔らかく全体を包み込む様な大らかさと、そして最後に残る孤独感、この三つの特性は、これまでの彼女の作品にも共通するものがあります。相反すると思っていた二つの世界観が融合・合体できているのです。そうです。彼女がオフィーリアを演じたのは皮肉でもパロディでもなく、そこに自分自身に通じる何かを見出していたからだということが、演奏から感じられるのです。それが実社会の彼女自身とも内面で共存できていなくては、こういう聴く者の心に響く演奏にはならないはずです。不思議です(そうは言っても彼女の色は濃くでていますので異論が出るのは否定しませんが)。

この不思議さの秘密でも書いていないかと、ブックレットを真面目に読んでみました。そこにあったのは、読み応えのある興味深い二つのエッセイでした。

一つは、「あるフェミニストの覚書」。シューベルトの時代の女性観に対する異議申し立ての一文。『糸を紡ぐグレートヒェン』の歌詞の一節を引用しながら、恋人ファウストの口車の欺瞞をバッサリと切り捨て、自分の中の弱さ・優しさを押し殺して一人で歩む決意したが、行き着く先は男も女も共通に抱える孤独でしかなかった。それでも、この道を歩むことは正しいという想いは変わらないという宣言です。

もう一文は彼女自身のシューベルト観を述べたもので、タイトルは、なんと『死と乙女』です。シューベルトの中にはロマン主義の時代の「耐えて待つ」、繊細な感受性を持つ女性らしさがある。現代の強い女性は、その弱さを殺して生きている。それは、もう一文のグレートヒェンが自分の弱さを捨てたのと同じですし、逆にオフィーリアはそれを抱えたままでは自死するしかなかったこととも通じます。しかし、ここからブニアティシビリは逆説を展開します。本当の創造性には、その「耐える力を持つ女性らしさ」が必要で、シューベルトの作品の力の根源はそこにあるのだと。そして、その弱さは自分も含め男女問わずだれの中にもあるが、それを自分はこれまで遠ざけてきた。その「耐えて待つ力」をテーマにしたのが、今回の作品だと言っています。

あのブニアティシビリが、昔ながらのオフィーリアと変わるところがない「弱さ」を、矛盾として抱え込んで生きていることを吐露しているというのは衝撃的ではありますが、この演奏に感じられる作品との一体感はそういう自己認識から生れていたのかと納得できるものがあります。そして、ジャケット・アートでオフィーリアに扮するのは、自分の中のオフィーリアを認め、それに同化するという真剣・真摯な行為で、そういうことを体を張って表現するのは、やはり彼女らしい姿だとも思えるのです。

作品と演奏が、奏者の生き方につながっている時の力、それを感じることのできる貴重な体験でした。
(しかし、いくら弱さの告白をしたからといって、体調不良で2月の来日を全キャンセルされたのには参りました。本当は、この収録曲のお披露目だったはずなのに・・・)

という無理やりの落ちをつけたのですが、書店でこういうモノを見つけてしまいました。あの個性派女優も、オフィーリア的弱さを内面に抱えていることを自覚し、人生の最後にこういう姿を演じて見せた・・・とは、到底思えず。とは言え、こちらの装丁画の真意に深く分け入ろうという気力がわかないのも事実で、それではフェミニスト陣営から批判をうけるとは思いつつ、このあたりで今回の日記は締めさせていただきたく存じます。
(この写真は、数年前、癌の告白直後に発表された出版社の企業広告がオリジナルで衝撃的でしたが、記憶の彼方でした)

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レス一覧

  1. パグ太郎さん

    当地では4月1日にバービカンで彼女のコンサートがありタイムリーな話題です。
    家内は友人のピアニストの「聴いて絶対損はない」という言葉に誘われて出かけます。
    コンサートはその「Schubert Sonata in B-flat major, D960」からスタートするようです。

    私は、翌2日に「運命の力」に行くのでパスしましたが、空席をチェックするとStallsの端に2席あるだけですからロンドンでも結構な人気です。

    ちなみにその「運命の力」はネトレプコとカウフマンの共演で、ダフ屋で1枚£3435の値段が付いたという話題作です。
    私は、ジーンズとポップコーンがOKのライブ・シネマ・ビューでお茶を濁します。

    byのびー at2019-03-22 16:39

  2. のびーさん

    レスありがとうございます。
    新作収録曲をプログラムにしたワールドツアーの一環ですね。2月の東京はその世界お披露目になるはずだったのですが、聴き(見?)損なってしまいました。イギリスでも人気なのですね。

    それにしてもネトレプコ/カウフマン、いくら当代トップ歌手の2人とはいえ、3435ポンドってメチャクチャですね。 日本でも5月から映画上映されるらしいです。私も「お茶を濁し」てみようかと思いました。

    byパグ太郎 at2019-03-22 20:37

  3. パグ太郎さん
    今晩は

    ブニアティシビリというと、私はギトリスとの共演での懐の深い演奏が最近では印象に残っていまして、そのイメージで、このシューベルトも聞こうとしていた感がありました。CDを入手したらブックレットを読んでみようと思いますが、「耐えて待つ」ですか。。。やや強引ですが、受けも強いっていう意味合いも含まれているとしたら、伴奏的な演奏も上手いっていう線につながりそうな気もしました。

    それと希林さんの最晩年のドキュメンタリーをNHKで見たとき、だんだんあの粋な姿を演じ切るのが辛くなっていたのでしょう、「こんなの撮って放送しても面白くない」って科白を何度も呟かれていたことを思い出しました。。。残酷だったかもしれないけれど、ちょっと安心もしました。妙なコメント、失礼しました。

    byゲオルグ at2019-03-22 21:55

  4. ゲオルグさん

    レス有難うございます。ギトリスとの共演は聴いてないですね。最近のギトリスの型にとらわれない闊達な演奏を前にすると流石に受けに回ったという事でしょうか。でも、そう言われてみれば、ルノー カピュソンとのヴァイオリン ソナタ集も良い感じの伴奏ぶりでしたね。

    それでもオフィーリアのキャラクターかと言われると、今だに落差を感じるところではあります。

    byパグ太郎 at2019-03-22 23:36

  5. パグ太郎さん、こんにちは。
    またしてもビジュアルに釣られて読んでしまいました。
    私はダメですね〜。
    トリの樹木希林さんも凄い。
    パグ太郎さんのおかげで、マニアックな知識ばかりが増えていく私でしたとさ。(笑)

    byCENYA at2019-03-23 17:41

  6. Cenyaさん

    レスお待ちしておりました! 何を隠そう、この記事の裏ターゲットはCenyaさんで、その戦術として選んだのが、最初の写真です(笑)。関心を持っていただきありがとうございます。演奏する姿もYouTubeに沢山ありますので、是非!

    byパグ太郎 at2019-03-23 18:28

  7. 横レス失礼します。

    のびーさん。義妹も「運命の力」に行って感動したようです。最近、内田光子とかウィーンフィルとか盛んに出かけているようです。でも気が小さい(もちろん財布も小さい!)せいで安い席ばかりで頑張っているようです(笑)。

    byベルウッド at2019-03-23 18:43

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