パグ太郎
パグ太郎
クラシック中心に聴いています。オーディオは手段と考えてはいるものの、気がつくと手段の魔力に取り付かれてしまうことも多く、日々修行をしております。

マイルーム

パグ太郎の部屋
パグ太郎の部屋
持ち家(戸建) / リビング兼用 / その他 / 16畳~ / 防音あり / スクリーンなし / ~2ch
Phileweb登録後1年、気が付くとスピーカー導入していました(2018/6)。所有製品はHRS130ですが、製品DBに登録がないので、一番近いもので代替しています。 10数年愛用したアン…
所有製品
  • スピーカーシステム
    GERMAN PHYSIKS HRS120 Carbon
  • プリメインアンプ
    OCTAVE V110SE
  • ハードラック
    QUADRASPIRE QAVM
  • RCA/BNCオーディオケーブル
    KIMBER KABLE KS-1020
  • 電源ケーブル

レビュー/コメント

レビュー/コメントはありません

カレンダー

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        

最新のレス

日記
製品レビュー/コメント

製品レビュー/コメントへのレスはありません

お気に入り製品

お気に入り製品はありません

日記

ジャンスの歌声で聴くショーソンの『愛と海の詩』、あるいは偉大な作曲家二人の谷間をつなぐものについて

このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年04月13日

ジャケット・アートが全く同じCDが二つのレーベルから同時にリリース予定なのだが、どうなるのか?という、どうでも良いお話を以前の日記のオマケに書きました。(ハイペリオンのフランク・ヴァイオリン・ソナタ)(アルファのショーソン作品集)

結局、アルファ・クラシックがハイペリオンに道を譲った形で決着がつき、ヴェロニク・ジャンスのショーソン歌曲集のジャケットはこうなりました。ピエール・ボナールの『地中海』だそうです。ボナールと言えば、陽光に映える花を色彩の輝きの面として描き、そこに母や娘を家庭的な親密さの形として点在させる画家というイメージです。元々使うはずだったベルギー象徴派の、海辺に佇む女の、ザラっとした不安を呼びおこす絵とは世界が違うのではと思いました。が、この作品の寒色系の海の様子は、何やらその不穏さと通じる所もあり、急遽の差し替えとしては善戦?

今回の作品でジャンスが歌っているのは、ショーソンの代表作の一つ『愛と海の詩』。ピアノ伴奏で聴く機会の多い『リラの花咲くころ』という歌曲であれば、ご存知の方もおられるかもしれませんが、あの曲は、このオーケストラ伴奏曲の一部を作曲家自身が編曲したものだったのです。でも、ショーソンって誰?という方もおられますよね。

ショーソン、19世紀後半(1855-1899)のフランスの作曲家。世代的には、サンサーンス、フランク、フォーレなどのロマン主義を引継ぎはしたものの、ワーグナーの絶大な影響を目の前にあって、ドビュッシーの象徴主義という出口もまだ見えていなかった時代。そして、ドイツとの普仏戦争に敗れたことへの反動として起きたフランス回帰の社会的要請にも応えなければならないという事情も。実際、ショーソンもフランス国民音楽協会なるものに参加し、「フランス人でも交響曲を作ることが出来るのを見せてやろう」なんて、無理な(?)活動をしていたりします。19世紀後半のフランスの作曲家のおかれた苦しい状況は、漠然とではありますが察することが出来ます。

そういう時代に生きたショーソンの代表作が『愛と海の詩』です。この作品、オーケストラ伴奏の歌曲集とも言えるのですが、漠然とした一つの筋書きがあったり、情景を描く短い管弦楽曲が歌の間に挟み込まれていたりと、オペラの様でもあり、カンタータの様でもあり・・・一体何者? そして、この不思議な構成の楽曲を一つにまとめているのが、曲を跨いで何度も登場する、特定の意味を持たせた主題の繰り返しです。これはワーグナーや、その強い影響下にあった師匠であるフランクの作曲手法なのでしょうか。でも、ここにはロマン主義やワーグナーの様な大きな物語は何処にもありません。登場するのは水、光、花、香り・・・。個人的感傷を自然に託して象徴的につぶやいて見せるだけ。ここまでくればドビュッシーまで、もう一歩です。

もう少し詳しく見てみましょう。第一部は「水辺の花」。海辺で、陽光を浴びて白く、薫り高く咲き誇っていたリラの花と共に登場する美しい少女。これだけであれば、通常のボナールの絵画らしい明るい世界。しかし、そこに不穏な空気が漂い始めます。広大な海と波、照り付ける厳しい太陽、そして吹き渡る風が、人間の儚い想いなどを残酷に踏みにじってしまう、その予兆が歌われるのです。背後に描写される波と風と光は、印象派のオーケストラ曲そのもの。

続いて幕間の間奏曲の様な短い管弦楽曲。聴き手は、海辺で出会った二人のその後は平穏なものではなかったことを感じます。ここでは第一部で登場した主題が容貌を変えて登場し、その間の事情を匂わせる語りの様です。

それに続く第二部のタイトルは、なんと「愛の死」。あからさまなワーグナーへのオマージュ。
快活で、楽観的な歌いだしは、間奏曲で二人の事情を知ってしまった聴き手にとって、愛の終わりに目を背けた男性の空元気であることは明らか。直ぐに主人公は現実に対面します。日の光の世界から夜の世界へ場面は転換し、孤独と追憶と悲しみは、次第に、風に散らされる枯れ葉の乱れ飛ぶ激情と狂気へ、ついには恋人の瞳の中に読み取れる残酷な最終宣告に帰着してしまうのです。更に場面は変わり、失った愛への追悼の歌が柔らかく歌いだされる、それが有名な『リラの花咲くころ』です。この春、リラはもう咲かない。いや、あの春は二度と戻ってこないという嘆きの歌です。

劇の様に表現してみましたが、ここにあるのは、その様な目の前の人間のドラマではありません。自然を前にした個人の記憶と予感の印象だけなのです。殆ど自然描写でドラマが無いのに、感情の振幅が大きいこの曲を歌うのは、簡単な話ではなさそうです。劇的要素が少ない嘆きの最終部分だけを取り出して演じられることが多いのもそれが理由かもしれません。しかしジャンスは、この心象風景にからめとられた自然の描写を、巧みに再現しています。声の質感の変化が、詞の一つ一つに込められた心情を浮きだたせているという細部の心遣い、そして、このワーグナーともドビュッシーとも言えない作品の不思議な世界を演出して見せる構成力。この二つがあって初めてこの作品の真の姿を知ることができた気がします。これは、ショーソンという作曲家の音楽史上の意義を知ることにもつながる演奏とも言えます。

次回の日記→

←前回の日記

レス一覧

  1. こんにちは

    ちょうど昨日、ゴダールのことを調べていまして、この日記の内容も興味深く拝見しました。ゴダールの6歳下がショーソンなんですね。以下ちょっと日記の話題から離れてしまいます。ごめんなさい。

    『愛と海の詩』が1882年から1890年にかけて作曲された間の1887年にゴダールはパリ音楽院の教授に就任します。でもすぐに結核が悪化して隠遁、91年に亡くなります。ゴダール自身はワーグナーも好きだったらしいのですが、彼の残した作品を聞いてみると、ブラームス風、もっといえばメンデルスゾーン・シューマン風の作風で、ご紹介のショーソンは当然ですが、彼らに先立つサンサーンス、フランク、フォーレなどのフランスロマン主義の作風のほうがモダンで、色彩感があります。そういうわけでゴダールは忘れ去られていくのか~と、このショーソンの作品を聞いて妙に納得してしまいました。

    byゲオルグ at2019-04-14 16:02

  2. ゲオルグさん

    レス有難うございます。19世紀後半のフランスの作曲家達の悩みの深さを感じてしまうようなお話ですね。彼らは今でも、前世代・次世代の作曲家、外国の作曲家との相対的比較として語られて、自身の絶対的なポジションが取れないままでいたような気がします。そういうことは、いつの時代、どこの国でもあるはずなのですが、それが極端に表れているようです。

    byパグ太郎 at2019-04-14 19:31

  3. こんばんは

    パグ太郎さんとゲオルグさんのやり取りで、フランス音楽の深みをのぞき見させて頂いている気がします(感謝です!)。ゴダールは、本当に「遅れてきた男」なんですね。あの憂いと構築感の不思議なマッチング、フランス音楽としては時代遅れだったのでしょうが、とても魅力的です。

    ショーソンは、高校生の頃にフランス音楽をはじめて知った作曲家で、愛着があります。交響曲のむせ返るような色気がなんとも言えません。この曲をミュンシュが振ったRCA盤が最近良い音でリマスターされて驚喜しております。

    byOrisuke at2019-04-21 00:38

  4. Orisukeさん

    レス有難うございます。フランス音楽の「深み」というか、「屈折」ぶりなのかもしれません。あの、個性と独自性に対する強迫的なこだわりは、プラスに働くときも多いですが、それに足を取られているのではと思うこともしばしば。ワーグナーに対する彼らの反応を見ていると本当にそう思います。

    フランス音楽の原体験がショーソンという方は珍しいですね。それも交響曲とは。またお話伺わせてください!

    byパグ太郎 at2019-04-21 20:23

レスを書く

レスを書くにはログインする必要があります
ログインする