パグ太郎
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クラシック中心に聴いています。オーディオは手段と考えてはいるものの、気がつくと手段の魔力に取り付かれてしまうことも多く、日々修行をしております。

マイルーム

パグ太郎の部屋
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持ち家(戸建) / リビング兼用 / その他 / 16畳~ / 防音あり / スクリーンなし / ~2ch
Phileweb登録後1年、気が付くとスピーカー導入していました(2018/6)。所有製品はHRS130ですが、製品DBに登録がないので、一番近いもので代替しています。 10数年愛用したアン…
所有製品
  • スピーカーシステム
    GERMAN PHYSIKS HRS120 Carbon
  • プリメインアンプ
    OCTAVE V110SE
  • ハードラック
    QUADRASPIRE QAVM
  • RCA/BNCオーディオケーブル
    KIMBER KABLE KS-1020
  • 電源ケーブル

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日記

『革命前夜』を読んで、世界の変貌と音楽家達の運命に思いを寄せる

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2020年03月24日

前回、東西冷戦の時代の旧東ドイツで録音された、シューベルトの『鱒』を取り上げました。演奏していたのはライプチヒのゲバントハウス弦楽四重奏団のメンバーと、ドレスデン出身のピアニスト、ペーター レーゼル。収録はドイツ・シャルプラッテン・ベルリン(正式名称を直訳すると「ドイツ・ベルリン レコード人民公社」という国営独占企業)傘下のエテルナ。

ベルリンの壁が崩され、米ソ二大国を軸とする世界の構造が大きく変化したのは、この収録の3年後の1989年のこと。ちょうどその大転換の年(日本では昭和が平成に変わった年)の、ドレスデン、ライプチヒ、東西ベルリンを舞台にして、若き音楽家達が歴史の変化に翻弄されながら、自らの音楽を掴み取ろうとする姿を描いた小説が、須賀しのぶの『革命前夜』(2015年 文藝春秋)です。大藪春彦賞受賞作品ですから、ジャンルとしてはサスペンス?


主人公は、日本からドレスデンの音楽大学に留学したピアニストの卵。彼に絡んでくるのはハンガリー、ベトナム、北朝鮮というソ連の衛星国から留学してきた才能と個性にあふれる学生達、そして、東ドイツという全体主義の監視国家の中で様々な人生を歩んでいる若い音楽家達です。彼らが歴史の転換点の一瞬を経て、どう変化することになったのか、音楽を捨てる者、自由を掴む者、別の形で音楽を続ける者、自らの音楽を再発見する者、歴史の闇に消えていく者、各々の人生が描き出されています。

驚かされたのは、音楽作品の使い方の巧みさです。特に主人公が得意とするバッハの鍵盤楽曲の平均律クラヴィーア曲集の1巻4番や、恋人のオルガン奏者が演ずる教会音楽の一部であるBWV106番、686番の描写は、まるで音楽評論かと思うほどの詳細さです。それ以外にも様々な楽曲が登場しますが、その使い方は、登場人物の心理状態や、人間関係を表現するために周到に選ばれ、必然性を持って描かれており、良くある音楽小説の「小洒落た小道具」の域を超えています。

一例をあげると、、ハンガリーの留学生が、ドイツの老人会でリストの「前奏曲」を演奏しよう言い張り、日本から来た主人公はそれを止めようとする逸話。ユダヤ系ハンガリー人の留学生の、母国の大作曲家リストへの想い、祖国を蹂躙し親族を殺したナチスがその曲を利用したことへの怒り、そして戦後のドイツ人がその曲をタブー視していることへの憤り、その禁忌をあえて破ろうとする彼の音楽観や人生観が浮き彫りにされます。そして、主人公の日本人の危ういものを避けて通ろうとする歴史観と処世術との摩擦も。そういったこと全てが音楽を通じて活写され、登場人物の性格描写に現実味を与え、物語を動かしていく彼らの行動を裏付けしているのです。こういう音楽の使い方をした小説はあまり見たことがありません。

音楽と並ぶこの小説のもう一つの主役は、1989年に起きた東欧の自由化の大きなうねりという時代背景そのものです。その歴史的事件が、様々な立場の登場人物の体験として丁寧に表現されて、ドキュメンタリーやニュース映像で見たことのある史実が物語にしっかりと組み込まれています。それにより、この作品が青春群像や音楽小説以上のスケールの大きな構造物になっている気がします。

終盤近く、主人公と真の敵がぶつかり合う場面は、89年8月7日にドレスデン国立歌劇場で演じられたベートーヴェン のオペラ『フィデリオ』のシーンが選ばれています。この日は東ドイツ建国40周年の記念演奏会に当たり、ドイツ社会主義統一党の幹部が居並ぶ中で、メーリッツの新演出が初披露されたのです。その演出は「無実の罪で捕らえられた囚人の自由」をテーマにしたベートーヴェン のこの作品の舞台を、東独の秘密警察シュタージと強制収容所として再現するというとんでもないものでした。そして、その歌劇場は政府に抗議するデモ隊の大群衆に取り囲まれていたのです。この史実に即した情景の中で交わされる、主人公と国家警察の密告者とのやり取りが、この小説のクライマックスとして描き出されます。社会と個人、自らの想いを貫くことと芸術表現、そして友情、恋愛、家族愛という複雑な人間模様、、、その全てが、歴史の大事件のエネルギーの脈動とシンクロしているのです。

先日、この小説を書店で見かけて読み始めたのですが、ちょうどその時に聴いていたのが、冒頭の旧東ドイツの遺産と呼べる様なシューベルトの『鱒』でした。ここで聴くことのできる郷土色の強い伝統的響きは、グローバル化が進んだ現代、耳にすることが減ってしまったわけですが、それを懐かしむだけでは済まされない現実が一方にあったことを、この小説は思い出させてくれます。乗り越えることが出来ないと思われていた永遠の対立の壁を打ち壊し、より良い世界への一歩を踏み出した予感で歓喜に沸いていたあの時から、僅か30年という年月で、世界の様子は一変し、超大国の関係も、文明の対立構造も、様々な情報環境も、経済の結び付きも、全く違う社会になっています。小説のあの若者達は、その後の世界をどう生きて来たのでしょう。東欧、旧ソ連の国々から登場する才能豊かな演奏家達が、自身の人生、家族の歴史を語る言葉と、登場人物の姿と重ね合わせたくなってしまいました。

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  1. パグ太郎さん

    面白そうな本ですね。ご紹介ありがとうございます。

    ベルリンの壁崩壊後は、それまで体制に支援されていた音楽家がかえって冷遇されました。それが10数年の時を耐え忍びよき伝統を温存させてくれた音楽家として再登場したペーター・レーゼルを日記で取り上げたことがあります。

    http://community.phileweb.com/mypage/entry/2408/20131119/40046/

    演奏はまさにライプツィヒ弦楽四重奏団とのシューベルトの「ます」でした。

    以来、レーゼルの大ファンですが、楽しみにしているこの5月の来日公演もコロナウィルス感染拡大で風前の灯火となっています。

    byベルウッド at2020-03-25 09:42

  2. パグ太郎さん こんにちは

    数日前店頭で偶然目にとまり購入しましたよ。
    まだ読みだしては無いですが
    ピアニストがドイツ留学を通して音楽を絡ませて物語が展開
    していくような。

    たしか著者は女性の方でしたね。

    byいなかのクラング at2020-03-25 13:03

  3. ベルウッドさん

    レス有難うございました。
    そうですね! レーゼルの再評価に紀尾井は大きな貢献をしたのですよね。日記では話が複雑になってしまうので取り上げませんでしたが、登場人物の親の世代の話として、ナチスに追われて日本にやってきたローゼンシュトックのマタイ受難曲の演奏会に参加した学徒出陣直前の若者とドイツ人青年の友情という話も出てきます。レーゼルもそうですが日本とドイツの縁を感じます。

    byパグ太郎 at2020-03-25 19:57

  4. いなかのクラングさん

    レス有難うございました。
    購入されておられたのですね。ネタバレになっていなかったか、慌てて日記を読み直しました。周辺情報ばかりですが、興を削ぐようなことになってしまったら御免なさい!

    著者は確か女性だったと思います。

    byパグ太郎 at2020-03-25 20:03

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