パグ太郎
パグ太郎
クラシック中心に聴いています。オーディオは手段と考えてはいるものの、気がつくと手段の魔力に取り付かれてしまうことも多く、日々修行をしております。

マイルーム

パグ太郎の部屋
パグ太郎の部屋
持ち家(戸建) / リビング兼用 / その他 / 16畳~ / 防音あり / スクリーンなし / ~2ch
Phileweb登録後1年、気が付くとスピーカー導入していました(2018/6)。所有製品はHRS130ですが、製品DBに登録がないので、一番近いもので代替しています。 10数年愛用したアン…
所有製品
  • スピーカーシステム
    GERMAN PHYSIKS HRS120 Carbon
  • プリメインアンプ
    OCTAVE V110SE
  • ハードラック
    QUADRASPIRE QAVM
  • RCA/BNCオーディオケーブル
    KIMBER KABLE KS-1020
  • 電源ケーブル

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日記

音楽を演奏し続ける虫が脳内に棲みつくお話、小川洋子の『不時着する流星たち』のモデルとなったピアニストは?

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2020年05月05日

小川洋子という小説家は、時々音楽家や音楽を素材にした独特の作品を書いてくれます。今日ご紹介したいのは、数年前に出版された短編集『不時着する流星たち』の中の一編、『測量』です。

この短編集は、実在の作家、女優、音楽家、学者にインスピレーションを受けて小川洋子が創造した、架空の世界の中で不思議なコダワリを持つ人たちの風変わりな人生を描き出したものです。中でも、この『測量』という小品は、長年連れ添った妻を亡くし、更にはある日突然視力も失う事になった老人の頭の中に住み着いた虫が、音楽を奏で続けるというお話なのです。この作品の創造の源泉になったのは、ある著名なピアニストなのですが、さて、以下に紹介する粗筋から、その音楽家が誰だか判りますでしょうか?
(ここから先は完全にネタバレですので、先に小説をお読みになりたい方は、ここでおやめ下さい。でも、ネット書店の紹介文読むと、答えが書いてあったりしますが、、、、)









妻も視力も失い、代わりに頭に虫が棲みつくことになった老人は、同居する孫の助けを借りて、家中のあらゆるものとの距離を歩数で測量・記憶し、日常生活に不自由することもありません。それどころか、街中を歩数で測量し、妄想としか思えない昔の思い出の情景を地図上に再現し始めるのです。役場の技師だったはずの老人が紡ぎだす家業の広大な塩田、塩会社の様々な施設、死んだ動物園の象を埋葬した場所、、、、などなどの記憶または妄想を、祖父と孫は歩数を図って現実の風景の上に重ね合わせていきます。日常の生活の場が全て精緻な数字に還元されて再構築されるばかりか、さらには、空想の世界が計測される数字とともに新たに創造されていくのです。そしてその数字は「単なる冷たいデータ」ではなく、盲目の祖父と孫が実際に一歩一歩を積み重ねた「体温のある体験」であることが強調されているのです。

これが祖父と孫が創り出した世界だとすると、そこで流れている音楽はどんなものなのでしょうか。孫が祖父の頭に耳を寄せても、そこに住み着いた虫の音楽は残念ながら孫には聴こえません。どんな曲か尋ねる孫への祖父の答えはこういうもの。
- いつもどこかで聴いたことがあるようでもあるし、ないようでもある
- 長い長い曲の一部かもしれないし、違うのかもしれない
- 時には丸一日、同じメロディがエンドレスで繰り返され、 また別の日には、次々と新しい局面が現れ出る
- その一局面が、何日も経ったあと、忘れた頃に、新たな装いで蘇ってくる
- 自分のいつも聴きたいと願っていたのはこういう音楽だったのか、と気づかせてくれる
- 自分の意思とも外の世界とも無関係に、ただ独自のルールに則って、演じられるばかりなのだ

描き出される世界と、そこに流れる音楽。では、その音楽を演ずる奏者はどんな「虫」なのか。その虫がオオクワガタのように恰好いい昆虫だといいのにと思う孫の望みとは裏腹に、その虫はぱっとしない容姿の持ち主だそうです。「ぷっくりとした胴体」「べたべたした脚」「長すぎる触角に薄っぺらな翅」なんて気味のいいものではないですね。それが、「脳みその奥深くまで迷い込み、とうとう出られなくなった」というのでは、モデルの芸術家が可哀そう。

ここまで、『測量』の描き出した世界と音楽、そして演奏家を延々と紹介してまいりましたが、書いている当方からすると、殆ど答えを言っている様なものと感じる程のヒント満載です。と思う程、小川洋子はこの演奏の本質をついていると思うのです。でありながら、ご紹介通りの「突拍子もない世界」を作り出しているのです。やはり小説家に限らず、本物のクリエーターというのは凄いものです。で、答えは?









グレン・グールドです。そして演奏されている作品は、バッハ、それも『ゴ―ルドベルク変奏曲』と『平均律第2巻』が示唆されています。上でご紹介した作品の世界と音楽の描写を読めば、この二つの作品であることはほぼ間違いないと思います。それにしても、「脳みその奥深くまで迷い込み、とうとう出られなくなった、ぱっとしない容姿の持ち主」って酷いじゃないですか。いや、言いえて妙とはこのことでしょうか?

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  1. こんばんは

    音楽の方は、なんとなく「ミニマル的なものかな、現代音楽では話にならなそうなので、多分ゴルドベルクあたり」とは思いました。

    演奏家の方は、山下洋介御大でないことだけは一発で分かりました(笑)。

    小説の伏線になりそうな面白みを持ったバッハ弾きって、やっぱりグールドなんでしょうかね。個人的には、リヒテルとかレオンハルトも使って欲しいですけど、単なる音楽オタク小説で終わりそうですね。

    byOrisuke at2020-05-05 21:38

  2. orisukeさん 今晩は。 お久しぶりです。 レス有難うございました。

    確かに、グールド のゴールドベルクでは素材としてありきたりで、そちら方面にコダワる読者には物足りないかもしれませんね。ただ、この有名な素材を使ってこう言う話に仕立てつつも、素材の味はそのままということに物書きとしの凄腕を感じてしまったのです。逆に知る人ぞ知る演奏で、コレをやられても、どこまでが素材で何処から創造なのかが分からなくなってしまうかも。

    ただ、この短編集には、カタツムリ フェチの女流作家へのオマージュ作品もあるのですが、米国からフランスに移住することになった彼女は、庭に飼っていた400匹を、数匹づつ乳房に隠して何度も行き来することで輸入禁止の規制を潜り抜けたなんて逸話の持ち主なのです。でも小川はそれに太刀打ちできる飛んでも話を創り出していますので、リヒテルでもレオンハルトでもいけるのかもしれません。逆にリヒテルやレオンハルトに小川の創作意欲を刺激できるだけの「カタツムリ度合い」があるかどうかの方が大切かもしれません。

    byパグ太郎 at2020-05-06 00:19

  3. パグ太郎さん

    こんな興味深い投稿をなぜか見落としていたのですが、パグ太郎さんの引用部分はグールドの平均律の本質を見事に捉えていますね。早速注文しました。グールドの平均律は、私にとってはもはやこれ無しでは生きていけない精神安定剤でして、全48曲、いや前奏曲とフーガを別カウントで全96曲でもいいですが、その時の気分でどことなく聴き始め、満足したら止める、というのがここ5年ほど続いているでしょうか。散文を楽しむのと同じなのですね。

    ご存じかもしれませんが、グールドも愛読した漱石の草枕(英語のタイトルは The Three-Cornered World - コーナー(角)が一つ足りない”いびつな世界”という意味なのだそうです)にもまさにそんなくだりがありました。主人公の青年画家がその逗留先で読んでいた本についての、那美という女性との会話です。

    「西洋の本ですか、むずかしいことが書いてあるんでしょうね」
    「じつは私にも、よくわからないんです」
    「ホホホ、それで御勉強なの」
    「勉強じゃありません。だた机の上へ、こう開けて、開いたところをいい加減に読んでるんです」
    「それで面白いんですか」
    「それが面白いんです」

    とまぁ、延々続くのですが、、、だいぶ脱線したので戻しますと、、小川洋子の本は届いたら早速読んでみたいと思います。また是非いろいろご紹介ください。

    by柳緑花紅 at2020-07-20 01:30

  4. 柳緑花紅さん

    レス有難うございます。グールドが草枕の愛読者とは存じませんでした。それに、草枕にそういう英訳題が付いているということも。芸術家というのは、一般人の世界の四つの角の内の、常識という角が擦り減って三角になった世界に住んでいる人間だというような一節が草枕にあったと思うのですが、そこから取っているのでしょうか。確かに、小川のこの短編集に登場するのは、常識の角がなくなった不思議な世界を創り出してそこに棲みついた人達ばかりですね。久しぶりに、草枕を再読したくなりました。

    byパグ太郎 at2020-07-20 09:11

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