nakanohito
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ひっそりと音響設計をしている中の人です。  生まれ付いての不精者で飽きっぽいので多分大した事書きません。  と言うか迂闊な事書くとどこかの出版社から怒られが発生したりしませんよね??(ガクブル…

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定常波(定在波)のお話

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2018年01月01日

オーディオ愛好家の皆様の中には定常波,或いは定在波という言葉を目にした事がある方も多いと思います。(オーディオでは何故か定在波の方がメジャーですね)
近年では雑誌などに於いても音響の重要性が訴えられており,そうしたコラムで決まって悪者として描かれているのが定在波です。
定在波とは壁間の距離が半波長や1波長に相当する減衰しにくい共振で… という文句に続き,ルームチューニンググッズの主観的なレビューへと続けるのは最早お定まりの流れとすら言えましょう。
また平行面を持たない不整形の部屋形状を採る事で定在波を消散できる,或いは定在波を抑える魔法のような寸法比がある等といった主張を目にする事も珍しくはありません。

しかし乍らそうした認識は物理的には間違いであると言わざるを得ません。
まず定在波とは一つ以上の音源と音響的に連続な空間の再生上限周波数の半波長を超える距離に一つ以上の反射面があれば必然的に生じるものです。
音源を半無響室(反射面を一面を残した無響室)の反射面から10mmの位置に固定し20kHzまでの帯域を再生しただけで定在波は発生します。
スピーカーの背後壁や床で生じる周波数特性の乱れも本質的には定在波が原因なのです。
ですから定在波を消散するなどという謳い文句は物理的には荒唐無稽としか言えません。


この辺りは半ば常識でしょうが,オーディオルームで主に問題とされる定在波とはルームモードで,低次のモードはしばしば強い共振として周波数及び時間特性に悪影響をもたらします。
中でも特に厄介なのは部屋の各長さを半波長や1波長とするモードで,6畳間なら長辺が半波長に相当する50Hz付近が一番低い1次元のモードになります。
次に短辺が半波長に相当する60Hz付近,70Hz付近には高さ方向のモードが加わり,更に2次元や3次元のモードも加わります。
次第にモードはより密に,より複雑に空間を満たすようになるため,中域(厳密にはシュレーダー周波数)以上では十分に均一な特性を得られます。
より広くより吸音の行き届いた(単に吸音面積が広いだけでなく低域まで十分な吸音特性を持っている事が重要です!)お部屋ではより低い周波数から均一な特性が得られるため,定在波の観点でも広い部屋は好ましいと言えます。


閑話休題,不整形の部屋形状に関しては定在波の抑制が期待できるという根強い迷信が多く見られます。
しかし定在波を消散或いは大幅に抑制するといった効果が望めないであろうという事は,少なくとも感覚的には明らかでしょう。
何故ならそれは不整な四角形に切り出した金属板は平行な辺を持たないから落とした時に固有の音がしないと主張するようなものだからです。
直方体と不整な6面体の音響特性の比較は特に妥当な比較条件の設定という点で困難ですが,Gilfordは不整形の部屋形状が音響障害を取り除く事は無く単に予測を困難にするだけであると否定し,Geddesもまた5種類の部屋の解析から部屋形状は定在波に大きな影響を与える事はないと結論付けています。
私自身もこれまで様々な部屋形状に関し解析を行っていますが,低次の定在波を抑制するという点に於いては不整形の優位性は認められないという認識です。


fig.1は2.7m*3.6mの矩形と同面積を持つ4種類の不整形の部屋のモードです。(仮に左から-10,-5,Rectangular,+5,+10と名前を付けます。)
不整形にしても各モードに有意な改善は認められない事が分かります。


更に前述の部屋の壁面に反射率0.95相当のインピーダンスを与え,左下の隅に音源を置いた場合の部屋の平均音圧特性がfig.2です。
こうして大幅に変形させれば大きな変化が生じるものの,不整形とする事自体に明確な優位性は認められません。


一方で寸法比は特に定在波を上手く周波数軸上に散けさせる鍵です。
特に大掛かりな吸音構造を持たない場合には,元々周波数軸上で疎らな低次の定在波が偏ってしまうと更に大きな問題を起こしてしまいます。
これが単純な寸法比,特に8畳間などの正方形の部屋形状で深刻な音響障害に悩まされる原因です。
ルームモードを素晴らしく均等に割り振る魔法のような寸法比があるのでは?といった探求は,古くは1940年代から80年代に掛けてBonerやSepmeyer,Rettinger,Louden,Bonello,Volkmann,日本では石井伸一郎など多くの人が取り憑かれたある種の幻想です。
しかし90年代から近年に掛けてLinkwitzはそれらの探索プロセスに関し極めて疑わしいと,Coxもある寸法比が他の寸法比に対し明確に優れている事は無いとし,Fazendaはモードの分布や強さと主観的な音響の良否との相関性が十分でない事を指摘しています。
私自身の音響設計プロセスでも適切な吸音構造を持たせられるのであればルームモードを十分に抑制出来るため,寸法比はある範囲に収まっていれば良好な特性を得られています。
逆に若し十分な音響設計を行えないのであれば寸法比の選定が重要になります。


音響に限った話ではありませんが,"完璧"や"理想"といった言葉は大凡絵空事に過ぎません。
些か夢の無い話にも聞こえますが,物理的には単純で,しかし現実的にはパラメータが多く複雑な音響という現象を限られたリソースで扱うのは困難なのです。


お膝元のここで書くべき事かは甚だ疑問ですが(笑),音響に関する雑誌の記事やタイアップ企画は目を疑うほどに杜撰な内容も珍しくありません。
リスニングルームの新築・リフォームに際し参考にするのはあまりにも危険です。
ご自身の手で設計するのでなくても,必ずご自身が十分な勉強をした上で設計事務所を選ぶようにして下さい。



後記
あんまり迂闊な事書いてBANされないように気を付けます・・・
物言いたげな煮え切らぬ表現が散見されるかも知れませんがお察し下さい。

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