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ワタシハオンキョウチョットデキル  生まれ付いての不精者で飽きっぽいので多分大した事書きません。  と言うか迂闊な事書くとどこかの出版社から怒られが発生したりしませんよね??(ガクブル)  …

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データのお話 - データを読むという事

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2018年01月13日

今回はデータを読むという事についてのお話です。
過日の吸音パネルを例に出すと,例えば吸音材の特性は多くの場合吸音率αにより表されます。
吸音率はα=1-|R²|と定義されますから,複素数を取り得る音圧反射率Rと違って位相情報は持ちません。
また吸音率はある境界に“入射したエネルギー”に対する“反射されなかったエネルギー”の割合と言い換えられますから,例えば透過により反射されなかったエネルギーが生じる解放された窓は高い吸音率を持っている事になります。
基本的には広い帯域で高い値を取る物が理想的な吸音材料と言えますが,とは言え低域の吸音は一般的な物体では困難なため,複数の帯域に分割してトータルバランスを整えるのが現実的でしょう。

さて,皆様の中には吸音率が1を超えるデータをご覧になった事がある方も多いのではないでしょうか?
これは残響室法という,極めてライブで(理想的には)音波がランダムに入射すると見做せる大きな空間に有限のサイズを持つ試料を置いた場合に生じる残響時間の変化を等価吸音面積(吸音率1相当の面積)として算出し,試料の面積で割るという方法により測定された値です。
そのため試料のサイズが波長に対して十分に大きくない帯域ではエネルギーの流入,つまり“入射すると仮定しているエネルギーを上回るエネルギー”の入射が無視出来ないレベルで起きてしまい,見掛け上の吸音特性が大幅に改善している事がその一因です。
(“しまい”と幾分否定的な響きを伴った表現を選んでいるのは本来の吸音率の定義から乖離しているためであり,測定手法や測定データの質の優劣を示唆しているわけではありません。しかし算出式などその他の面でも問題を抱えており,異なる施設では再現性の低い測定手法です。)
変化の度合いは試料のサイズや特性によって異なりますが,こちらの東京都立産業技術研究センターによる研究報告を見ても残響室法による測定では一部の吸音率が1を超える事や,垂直入射と比較し低域吸音特性が1オクターブ以上低域に寄っている事が確認できます。

多孔質吸音材の特性は背後空気層によっても大きく変化しますので,場合によってはそうしたデータも目にするでしょう。
それぞれは正しいデータであっても読み違えてしまったら大変ですから,データはどのような条件下で行った測定や解析なのか,十分に注意する必要があるのです。

なお無限大のサイズを持つ試料への垂直入射しか起こらない環境と特定のサイズを持つ試料を置いた大きく極めてライブな環境は共にリスニングルームとは両極端に乖離しており,一概に垂直入射法と残響室法のどちらが優れているとは言えませんが,一般には残響室法の方がやや現実に即していると言えるでしょう。
何れにせよお部屋の大きさに対し波長が十分に短いと見做せない帯域で吸音材がどのように機能するかはその使い方にもよりますので,低域の吸音率それ自体は実際のお部屋での変化に直結するような性質のものではありません。
(因みに私の場合は主に有限要素法,伝達マトリクス法とそれに有限面積補正を掛ける手法などに関し,垂直入射及び斜め入射特性を0-π(rad)で積分したランダム入射で解析しており,最終的にどのような改善が見込めるかに関しては先日のようなお部屋も含めた解析で予測しています。)



さて,この先は気が向いたら与太話だと思って鼻でもほじりながら読んで下さい。あっ,ティッシュはこちらです!

ここまでのお話でもお察し頂ける通り,吸音材や遮音材,拡散体の特性を不適切な表現や評価法により高く見せ掛ける事は容易です。
吸音アクセサリーも測定や解析の条件が示されていなかったり,本当に機能しているならば容易に測定できる筈の低次モードの抑制が主観的な言葉のみにより謳われていたら黄色信号が灯ります。

どことは申しませんが,定番とされる定在波の抑制を謳うルームチューニング製品の中には,吸音率と称してパネル表面の音圧を1本のマイクロホンで(!)取っていたり,明らかに音場を崩すのが容易な条件で行った模型実験の結果から単一の周波数を抜き出して比較している製品もあり,こちらは赤信号を灯しても良いかも知れません。
・前者は進行波の何たるか,定在波の何たるか,或いはインピーダンスチューブでの測定法などの基礎を押さえていれば,これがあまりにも短絡的で危険な考え違いである事は明らかです。恐らく製品の構造自体は取り立てて変な物ではありませんが,吸音率も謎のdBで表されていたりと色々凄いです・・・
 また公式ページを見ても所々知識の無い方には技術的な解説に見えるものの見る人が見れば頓珍漢な内容を掲載してしまっている事から音響を学んだ形跡が見られず,ユーザーを騙すと言うよりは純粋に物理の心得が無く誤った評価法に基づいて製品を作ってしまっているのではと思われます。頑張っている感じは伝わってくるのですが,正しく頑張らなければ駄目なんです・・・
・後者に関しては低次アキシャルモードの抑制を謳っているわけではありませんが,実験結果として提示されているデータは実際に起きている定在波による音響障害の解消とは殆ど無関係でしょう。
 無響室でのインパルスレスポンスを示し初期反射音の抑制も謳っていますが,フーリエ変換を知っている人には高域が削がれればピークが顕著に落ちるのは当然ですから何のアピールやらさっぱりですし,ぱっと見には効果がありそうに見える2次元時間領域有限差分法の画像も製品の奥行きと波長から同様に考えれば低次のモード抑制には寄与しないであろう事が読み取れます。
 公式ページでは嘘や捏造まではしないというラインを守りつつの無意味なデータと然りげ無いミスリード,各メディアのユーザーレビューなどは徹頭徹尾比較対象の無いデータと主観的な言葉のみによって飾られている辺りも流石にプロらしく実にそつの無い仕事ぶりで,何やら深遠な大人の事情を感じさせます。(流石に学会発表では“大人げない”物言いが付いていましたが・・・)
また他にも物理を超越した何かを主張をするメーカーなどがあり,酷い場合は自らもその奇妙な世界に溺れていたり古典物理学すらもあっさり覆してしまう始末で,私の目には魑魅魍魎が跋扈しているように見えてなりません。

間違いがあったり謳い文句が不誠実だからと言って悪い製品であるとも暴利を貪っているとも言い切れませんし,そうした製品に価値を見出すユーザーが居られるのもまた事実。
個々人の感じ方を否定する意図はありませんが,低次の定在波に関しては恐らく皆様が文面から期待される程の効果は得られないでしょう。
(この文章でぴんと来るような方は既にこうした問題にお気付きだったのでしょうから,少々暈かしが足りなくてもご容赦下さい。m( _ _ )m また具体的な製品名はお問い合わせ頂いてもお出し出来かねますので悪しからずご了承下さいませ。)


お口直しに比較的真っ当な売り方をしている製品を例に出すと,Y社さんの複数の片開管気柱共鳴を使った2種類のパネルでは制御周波数を125-4,000 Hz及び80-4,000 Hzとしており,カタログにはISO 266に基づく125-4,000 Hzのオクターブ周波数に於ける残響室法吸音率でα=0.25程度の値を維持している様子が示されています。
この帯域はパネルの寸法を考えれば順当で,音速(m/sec)/最大の管長(m)/4=最低周波数(Hz=1/sec)ともほぼ一致します。
80 Hzがどの程度なのか少々気になりますが,概ね妥当な表記と言えると思います。
ROCK ON PROさんで掲載されているY社内研究センターの方が書いた記事ではW2.0*H1.4*D1.2(m)=3.36(m³)というかなり小さめのお部屋を更に50%にスケールダウンしたかのようなアクリル製残響室の5面に現物の調音パネル(125-4,000 Hz)を計14枚使用した実験結果が示されてています。
非現実的に小さく極端にライブな空間に相対的に大きなパネルの現物を大量(計約0.21m³≒全空間の6.3%!/定価総額50.4万円税別相当)に投入し,更に86 Hzに生じる(1,0,0)モードは表示範囲外としつつ100 Hz以上の(0,1,0)や(0,0,1)の1次アキシャルモードへの抑制をアピールしています。
あたかも普通のお部屋でも1次アキシャルモードを抑制出来るかのような心象を与えようとしているように思われ若干雲行きが怪しくなりますが・・・ それでもよく見て常識で考えればどの程度の効果を期待できるか察せられる事から,多くのメーカーと比較すれば堅気な商売に見えます。
(パネルを相対的に大きくするためにお手洗いよりも小さな空間に大量投入してなおこの程度ですから,当然ですが普通に暮らせるサイズのお部屋をお持ちの場合,1次アキシャルモードの抑制は殆ど全く期待できないでしょう。部屋の1次モードは半波長,λ/4気柱共鳴は読んで字の如く1/4波長ですから,それらの周波数を等しくするとパネルは最低でもお部屋の最長建築寸法(直方体の場合)の半分の管長を収める必要があるのです。)


因みに以前少し触れた私が設計したお蔵入り吸音パネルによる音場の変化はこの程度です。
コンターは高さ0mm(床)及び1000mmに於ける約3dB刻み(正確には10*log10(2)dB)/同一レンジ50dBの等音圧レベルを色の明るさとして示しています。
fig.1-○-○は空部屋(吸音は壁のみ),fig.2-○-○はお蔵入りパネルを四隅に,fig3-○-○はパネルと同サイズのグラスウールを置いた場合,fig.○-1-○は標準的な洋室程度の壁,fig.○-2-○は少し硬めを想定したインピーダンス,また末尾のMとDはそれぞれモノポールとダイポールを示します。
レンジをかなり広く取っているので,縮小画像を比較してコントラストが落ちているエリアでは定在波の影響が抑制されていると言えるでしょう。

音源は画像左上の方ですから,仮に部屋を横長に使えばリスニングエリアは下部中央になります。(ダイポール型は内振りが関係しますので横長のみです。)
床の図の四隅の欠けは吸音パネルのフットプリントで,この吸音パネルは部屋(6畳間)の2.8%の体積ながらとても邪魔くさく角に足の小指をぶつけると物凄ーく痛そうな事が分かります。(粗忽者の私は多分やります。)
またリスニングエリアを含むコンターの間隔が有意に広がっている事から,1次のアキシャルモードに因る音圧の偏りにもある程度の効果が見込めそうです。
特に80 Hz付近のオブリークモードに関してはディップがリスニングエリアとして想定した範囲を直撃しているので,最大値と最小値の差がモノポール・ダイポール共に顕著に減少しており,家具など様々な要因により偏差が少なくなるであろう事を差し引いても有意な差を感じられる方は少なくないのではと思います。
でも重ねて比較すれば分かりやすい,と言うより重ねなければ判然としないようなデータでは見栄えは全く,全然,これっぽっちもしませんよね!
余程の変わり者で無い限りこれを見て欲しいとは思わない筈です。私も思いませんよ,足の小指痛そうですし。
そんなわけで大手のメーカーとは言え,否,幾多の同僚の食い扶持が双肩に担っている大手メーカー所属であればこそ,技術者としての誇りをかなぐり捨ててでも効果を誇張したくなるのは人情とも言えるのかも知れません。



何やら他メーカー様の批判めいた内容になってしまいましたが,私からただ一つお願い出来るならば私に依頼して欲しい!
・・・では無く(そもそも所属を公開していませんが),ユーザーの皆様も漫然と提灯持ちの書いた記事を読むだけでは無く少しぐらいは能動的に勉強して物事(勿論私のコラムも含めて!)をもっと厳しく正しい目で見て頂きたいという事です。

数字やデータが嘘をつく事はありませんが,嘘つきは数字やデータを好みます。
斯く言う私だってそんな一人かも知れません。その真偽を知る術は読者やユーザーの学びを措いて他に無いのです。
このご時世メディア関係者に知見を求めるのは些か酷ですし,寧ろ広告収入が入るならこの先も喜んで提灯記事を並べる事でしょう。
データを正しく読めないユーザーが多く居る限り,尤もらしいデータとこじつけでユーザーを騙そうとする不届き者は跡を絶たないのです。
数十万円単位のルームチューニングならまだしも,それがリスニングルームだったなら?そんな残念なお話が少なくないのが悲しい今日この頃です。



後記
かつてエイブラハム・ウォールドというハンガリー系の数学者が居ました。
第二次世界大戦中,アメリカ軍に爆撃機の帰還率を上げるための手法を問われた彼は,帰還した機体の被弾位置を調べる事にしました。
機首と胴体,それに両翼に集中する弾痕から導き出される結論はただ一つでしょう。

しかしこのデータから被弾率の高い機首と胴体,それに両翼を強化しろと結論付けるかのような無茶苦茶な言説は世の中珍しくありません。
実のところデータを不適切に扱いこじつければ大概の望むデータは得られますし,それに騙されてしまう人は詐欺師の腹を肥やして余り有る程度には居るのが現実です。
前回の吸音パネルも“ふつう”や“ちょい硬”のデータなんて載せずに“ばり硬”のデータだけを載せなければ,オーディオに携わる者として失格だったのかも知れませんね・・・

さて,コクピットやエンジンに被弾した機はそもそも帰還を果たせなかった事(サンプルバイアス)に気付き,被弾していない位置への装甲の追加を進言したエイブラハム・ウォールドは戦後程なく奇しくも飛行機事故で亡くなりました。
しかしこの含蓄に富んだお話は数十年の時を経てなお,些かばかりの寓話的な趣すら纏って今の時代を生きています。

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