nakanohito
nakanohito
ワタシハオンキョウチョットデキル  生まれ付いての不精者で飽きっぽいので多分大した事書きません。  と言うか迂闊な事書くとどこかの出版社から怒られが発生したりしませんよね??(ガクブル)  …

マイルーム

マイルームは公開されていません

レビュー/コメント

レビュー/コメントはありません

カレンダー

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

最新のレス

日記
製品レビュー/コメント

製品レビュー/コメントへのレスはありません

お気に入り製品

お気に入り製品はありません

お気に入りユーザー

お気に入りユーザーはありません

日記

データのお話 - ルームチューニングにまつわるウソホント

このエントリーをはてなブックマークに追加
2018年01月27日

前回に続き,定在波に因る音響障害の抑制を謳うルームチューニングアクセサリーのお話です。

仮にfig.1のようなリスニングポイントに於ける特性改善の事例を示し定在波の抑制を謳う“架空のルームチューニングアクセサリー”があったとしましょう。
 (但し測定はスピーカー及びマイクロホン,その他条件を変える事無く正しく行われ,データは偽り無きものとします。)

グラフでは極めて深いディップが大幅に浅くなっていますよね!
どうでしょう? 欲しくなりましたか? 100万位で作りますよ? (本気にしないで下さいね)


さて,実際のところこの“架空のルームチューニングアクセサリー”には音響を改善する効果はありません。
それではこれがどんなカラクリなのか,紐解いて行きましょう。

まずは定在波のおさらいです。
音速を343.2(m/s),部屋の幅を5.148(m)=100 Hzで1.5波長分としましょう。
アキシャルモードの音圧(飽く迄モードの音圧です)は理想的にはsinカーブを描きますから,x軸を部屋の横方向に取り中央をx=0,波数をkとすると,100 Hzに於ける音圧分布はsin(k*x*2π)に沿い,ピークを0dBとした時の音圧レベル分布は10*log10(|sin(k*x*2π)|²)と表せます。
これをプロットするとfig.2のようになります。

ここでxを標準的な正中面から耳までの距離(両耳間距離の半分)である75(mm)=0.075(m)としてみましょう。
0.075(m)*100(1/s)/343.2(m/s)*2π≒0.137(rad)である事からこの値は約-17.3 dB,同様にxを100(mm)=0.1(m)とすると約-15dBである事が分かります。

つまり仮に100Hzの定在波により生じたピークに対し30 dBを超える急峻で深いディップ中央を小さなマイクロホンが拾っていたとしても,その少し脇では15dB程度に過ぎないと予測されるという事です。

実は“架空のルームチューニングアクセサリー”は一辺が500mmの立方体の剛体で,解析結果から影響が出やすいと思われる位置にそれを左右対称に置いただけです。
そしてそれらがもたらした変化も,ディップの位置や周波数をほんの少しずらしたに過ぎません。
画像で確認すればfig.3の通り。
 (80Hz近辺に於いてリスニングエリアで最小値を記録した周波数とその位置を通る面の音圧レベル分布です。ディップの周波数や位置がずれているので見た目上全体の音圧は変化しています。)

同じような深いディップが丁度測定ポイントを外れた位置に出ていますし,内部の音響エネルギーも殆ど変化していませんね。

ターゲットエリア内の偏りを減らす事には大きな意味がありますが,バイスで人の頭を固定するのでも無い限りはただディップを少しずらしただけでは改善したとは言えないでしょう。
環境次第では逆に深いディップが測定ポイントへ移動してしまう事だって有り得ますから,“架空のルームチューニングアクセサリー”が音響に影響を与えるとは言えても本質的に音響を改善する効果は無いわけです。

しかし単なるマイクロホンでたったの一箇所の音圧を測定していたのではこうした問題は露見しません。
ただ一箇所の音圧レベル特性に生じたディップの解消から当該周波数の定在波の抑制をアピールしているルームチューニングアクセサリーは複数実在しますが,実のところ何を示した事にもなっていないのです。
 (何を示した事にもならないだけでは定在波に対し無力であるとは言えませんが,他の定在波によるピークが変わっていなければ恐らく同様のエネルギーが室を満たしているものと思われ,やはり有効で無い可能性が高いでしょう。)

 因みに以前ご紹介した私の設計した吸音パネルの場合では50Hz付近のモードでも平均音圧が3dB以上下がっていた事からも察せられる通り,低次モードの音響エネルギーは半分以下になっています。
 半分と言えば物凄く大きな変化に思えますし,実際小さな吸音パネルでルームモードのエネルギーを半分にするのはかなり大変なのですが,しかし耳に感じられる値としては“たったの”3dBに過ぎないのです。


このお話には更に裏があります。
100Hz程度だとルームモードにより生じる余りにも深いディップは,多くの場合人間には聞き取れないのです。
音は音圧だけがその実態ではありません。空気というバネを圧縮する時,同時に空気という質量を持った物体が運動しているのです。
先の例のx=0に生じたアキシャルモードに因るディップでは,モードの音圧が0を取ると同時に粒子速度は最大値を取ります。
言うなれば1[atm](若しくは一定の圧力)を保って流れる“風”ですから,モードとモードの周波数軸上の狭間で音響エネルギーが低い事に因り生じるディップとは本質的に異なり,そこの音響エネルギーが低いとは限らないのです。
 (“面”で存在する音圧のみのディップとは違い音響エネルギーの深いディップは基本的に“線”や“点”といったより局所的な事象であり,そこにリスニングエリアが位置するのはレアケースです)
ルームモードの本質は共振によりエンクロージュアを満たす高い音響エネルギーと音圧や粒子速度の関係及び空間的な偏りであり,音圧特性に生じるディップは一つの“付随的な” 側面に過ぎません。
私がシミュレーションでエネルギー,インテンシティ,粒子速度,音圧といった様々な尺度で部屋の平均特性,リスニングエリアの平均特性,エリア最小値/最大値といった視点から変化を追っているのも,有意な情報を正しく捉えるためなのです。
また急峻なピークやディップは,ピークやディップの真の峰を十分に捉えられているとは限らない点にも注意が必要です。
(因みに実空間でも3Dインテンシティプローブで走査するかアレイでも構成して波動方程式を解けば同様の情報が得られますが,波長の1/5程度の細かさで情報を見なければならないので6畳間のような小さな空間の低域でも全体の情報を捉えるには莫大な金銭的・時間的コストが掛かります。)

さて,風が吹く中に顔を出すとどうなるでしょう?砂埃が目に入って桶屋が儲かる?
かも知れませんが,何より顔に風圧を感じる事でしょう。
丁度同じように,粒子速度場にあるインピーダンスの境界があればそこには音圧が生じます。

fig.4は100 Hzのアキシャルモードに相当する20μPa相当の音場のx=0に人の頭模した回転楕円体(150*150*200mm)を置いた時,球体表面に生じる音圧レベルを示しています。
20μPa=0dB SPLですから,0dB SPL対し-何dBの音圧レベルになるかは,丁度ルームモードのピーク音圧に対し粒子速度が人の頭の表面に-何dBの音圧レベルを与えるかと読み換えられるわけです。
なお楕円回転体表面には人の肌に似せた以下の複素インピーダンスを与えています。

グラフを見ると頭部に対し横方向の粒子速度場が100Hzで-22dB程度の音圧を生じている事が分かります。


因みに音場中の物体がもたらす散乱としては,kを波数,aを物体の半径,Qsを散乱された音響パワーに対する入射インテンシティの比とすると,k*a<<1且つ物体のアドミッタンスが十分に低い場合の球体で
Qs=7/9*(ka)⁴
となる事が知られています。
因みに円柱の場合は
Qs=3π²/8*(ka)³
です。(Mechelの本に載っていた筈ですので導出など気になる方はどうぞ)
仮にaを75mm(直径150mm)としてこれらをlog-logでプロットするとfig.5のようになります。

また音響は概ねスケーラブルな事象でありこの式でもQsを固定した場合の波数と半径は反比例を取る事から,fig.5-2のように高々60mmの細い円柱を並べた程度ですと散乱体としては概ね1kHz以上でしか有効に機能しない事が分かりますね!


何の話でしたっけ?そうそう,粒子速度場に頭部があった場合に生じる音圧でした!
頭部のサイズを考慮して先の式を見ると,100Hz程度では粒子速度は素通りするかのように思ってしまいますが,入射した音響パワーを散乱するには全く以て不足でも物体を避ける時には小さな圧力を生じるのです。
一方でのx=0であれば音圧の変化はネグリジブルですから,最大値と最小値の差がほぼそのまま22dB程度まで減少する事になります。
またこのシミュレーションでは胴体を省き,頭部の詳細形状や耳介の存在も無視しているため,実際にはより強く場が乱されより多くの音圧を生じるものと思われます。
なお前後方向成分のみの粒子速度に対してはあまり有効に音圧を得られないものと思われますが,ある程度の対称性を保つ必要がある左右と違って前後は音圧の節を避けるのが容易ですので問題になる事は少ないでしょう。

こうした事からも小さなマイクロホンで取っているたった一箇所の音圧は必ずしも人間にとって有意であるとは限らない事が分かります。



後記
因みに“円柱の場合のお話”ですが,実はこの式“円柱を用いた拡散体”の特許情報でも示されておりまして,その,配列の工夫等もアピールして居られるものの・・・
その実直径165mmや216mmといった市販製品よりも大幅に太い円柱を使っていたり500Hz以上を“低音域”として扱っていたりと,商品説明とは結構なディスクレパンシーを生じており,読み手としても少々苦しい思いを強いられます。
皆さんお馴染みの某メディアでは“低域の定在波を見事に解消”なーんてキャッチーな見出しと共に紹介されていますが・・・ いやあ,世の中には不思議な事もあるものですねえ!(棒)
(あまり突っつくと蜜月の仲の某誌から怒られが発生しそうなのでチキンな私はこの辺で止めておきます。)

次回の日記→

←前回の日記

レスを書く

この記事はレスが許可されていません