easterly wind
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ワタシハオンキョウチョットデキル  生まれ付いての不精者で飽きっぽいので多分大した事書きません。  と言うか迂闊な事書くとどこかの出版社から怒られが発生したりしませんよね??(ガクブル)  …

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日記

音とは何か - 我々は音をどう捉えどう扱うべきなのか?4つの音響領域と解析手法のお話

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2018年02月17日

音響の本質を理解するためには,まずは帯域によって回折や指向性が異なるなどといった広く認知されているある種の“幻想”を捨てて頂かなければなりません。

空気中の音は時間発展と共に観測対象の波長に対し十分に(1/5程度)細かい媒質の質量とバネから成るクラスターを伝播する疎密波と考えられ,高域に於ける媒質中の損失などを除けばスケーラブルな事象と見做せます。
これが波動音響の基礎であり,物理的に厳密な手法ですから正しくモデル化すれば全帯域に亘り十分な確度での予測が可能です。

しかし可聴域上限の1/5波長は僅かに3mm程ですから,可聴域全てを波動音響モデルで捉えるためには膨大な質点とバネの挙動を観察若しくは計算する必要が生じます。
また波長が不確定要素に対して短い帯域では得られたデータの確度には意味がありません。
そのため物体(部屋や吸音面,反射面等の要素)に対する波長の短さを考慮し,例えば音を幾何学的に広がる面や線と見做す等といったより簡素化した捉え方をする必要があります。

そこで実学としての側面が強い室内音響工学の世界では現実的に
f<fpz: 半波長が部屋の(最)長辺よりも長く部屋により均一な圧力を生じる“Pressure controlled zone”
fpz<f<fL: 半波長が部屋の(最)長辺よりも短く,またモード周波数が疎なため主にモードにより支配される“Normal modes controlled zone”
fL<f<4fL: 音を幾何学的に広がる面や線と見做せるものと仮定する“Diffusion and diffraction controlled zone”
4fL<f: 拡散音場が成立し音を統計的に存在するエネルギーと見做せる“Specular reflexion and absorption controlled zone”
の4つの音響領域に分ける考え方(Bolt, Beranek, Newman)が主流になっています。
実は回折や音の指向性といった考え方はこうした簡素化の過程により説明が付かなくなってしまった無視出来ない波動としての挙動を説明するための謂わば“苦し紛れから生じた辻褄合わせ”に過ぎず,スケーリングすれば他の帯域でも同様の現象が生じているのです。
またこれらは“空気を伝播する音の本質的な挙動をどの程度無視出来るか”という物理的に厳密で無い区別ですから,それ自体が曖昧さを含んだ目安とお考え下さい。


Pressure controlled zoneは最低の半波長モード以下ですから,直方体でインピーダンスが実数の場合はfpz=C/2LRD (LRD=longest room dimension)となります。
 厳密な話をするならば,この領域を支配するのはモード解析で言うところの剛体モードに相当する“真の最低次(0Hz)モード”で,場に一様な分布を生じます。
この領域の中でも特に低い周波数ではリーケージの影響を強く受けますが,ホールなどは勿論一般的な部屋であっても非常に低い周波数で起きる現象ですし,それが分かったところでどうなるものでもありませんので通常は無視します。
 例えばヘッドホンが正しく装着されていないと中低域が聞こえなくなるのはヘッドホンと耳で構成される空間が極めて小さいためにfpzが高く,リークの影響が高い周波数にまで及んでいるためです。

Normal modes controlled zoneに関し,Schroederは1965年にLarge Room Frequencyを提唱し,fL=K*(RT60/V)^0.5 (K=2,000 const)以上の帯域では音響的に大きな空間として扱えるものと,逆に言えばfL以下では個別のモードの影響が支配的であると定義しました。
 因みに元々この式はヤードポンド法(foot³)に基づいていたためKは11,250で,これをSI系に正しく換算すると約1,893となりますが一般的には2,000を使います。
この式から体積に対しRT60が短くなれば,id est,平均吸音率α‾が高ければfLは低い値を取る事が分かります。低い吸音率により個別のモードが鋭く明確に出ていればモード密度の高い周波数まで影響が及ぶであろう事は感覚的にも明らかでしょう。
 なおfLには平均自由行程(MFP)を元にした算出法(fL=(3/2)*C/MFP)やライブエンド-デッドエンド型コントロールルームで使われる部屋の最短辺(RSD)を元にした算出法(fL=3C/RSD)もあります。
音を正しく捉えるためにはRT60の実測値若しくは検討中の部屋の設計値からRT60を予測しfLを求め,fL(現実的には2fL~3fL程度)以下の帯域では波動性を考慮する必要があります。
当然モードの抑制を目的とした吸音材の検討などは波動性その物を扱っていると言っても過言ではありませんから,部屋の影響と吸音材の特性の両面から波動音響で扱わなければなりません。

Diffusion and diffraction controlled zoneは拡散や回折の影響が支配的な領域で,幾何音響の成立条件は反射面や吸音面といった構成要素の寸法が波長に対し十分に大きい(一般的には第2以上のフレネルゾーンを含む)事,表面の凹凸が波長に対し無視出来るサイズである事などです。
多くの方は音を幾何的にしか捉えていないように思われますが,幾何音響の適用範囲は恐らくご想像よりも相当に狭い事がお分かり頂けるのではと思います。
 スピーカーのカタログなどで,エンクロージュア内の図に音線を引きラウンドや奇妙な形状のエンクロージュアで反射や定在波の抑制を謳った説明を目にしますが,エンクロージュアの小さな空間は当該帯域の幾何音響の成立条件を満たしていませんから無茶苦茶です。
 エンクロージュア内の定在波を抑制するのであれば多孔質吸音材を粒子速度の腹に置いた方が余程効果的なのは明らかでしょう。しかしお部屋ではど真ん中に吸音材を置くわけにも行かないのが悩ましいところですね。

Specular reflexion and absorption controlled zoneでは拡散音場の成立,id eet 音場が十分に拡散するために鏡面反射と平均吸音率が支配的となる事を条件に統計音響で扱います。
適用範囲は空間に対し波長が十分に短い帯域の残響成分などに限定されます。


ここでほんの少しだけ個人的な面白ポイントを盛り込ませて頂きますと,波動音響は本質的に空気の振る舞いに則った物理的に厳密な手法であり個体への伝播なども含め諸現象は数学的に極めて美しく書き表されますが,(少々乱暴な表現をするならば)基本的にはコンピューティングパワーに物を言わせた手法ですから,些か許り趣に欠けているようにも思われます。
他方幾何音響は生得的に不完全で不精確な手法であるが故により実用的な解析手法を求め,波動音響が計算資源の点で非現実的だった半世紀前から幾多の試行錯誤が成されている領域なのです。
どんな解析手法が現実的・実用的なのかはその時代のコンピューティングパワーによっても大きく変わりますからこの点も注目です。

幾何音響の解析手法は虚像法(鏡像法)と音線法に大別されます。

虚像法は虚像がどのように展開されるか,そして虚像から音源と受音点までそれぞれどのような経路を辿るかを解析しその特性を予測する手法で,音線法は音源から放たれ受音エリアに到達する線が経路に応じた変化を保持しておりそれを積算する事でその特性を予測します。

虚像法は基本的に曲面を扱えませんし面数と反射回数次第ではそれなりに膨大な計算量になります。
音線法は音線が十分な確率で観測エリアに到達するためには受音エリアには有限なサイズのエリアが必要になるため,現実には存在しない経路を検出する可能性がありますし,音線の密度が時間発展に伴い受音エリアに対し荒くなると誤差が大きくなります。

幾何音響解析では音線の先端に有限な領域を持たせたり(Neylor, et al.),重ねると球面波(3次元の場合)となるようなガウス分布の指向性を持たせたり(Maercke, et al.),或いは音線法の結果を虚像法により検証する(ハイブリッド)事で受音エリアの大きさと精度の両立を図ったり(Neylor, Vorländer, et al.)と,改善に向けたアプローチも多種多様です。
また音響拡散体(ディフューザー)など波長に対して作用する要素も,当該帯域の散乱を個別にモデル化した上で幾何音響で扱う(Nakagawa, et al.)といった手法があります。
更に散乱では愚直に計算すると反射のたびに新たに多くの音線が生じ計算量が跳ね上がってしまうため,後期の残響成分に関しては統計音響的なアルゴリズムを導入する(モデル化した散乱に応じた確率関数による重み付けをした上で乱数により決定された単一の反射を返す)などの手法も採られています。
勿論厳密な手法ではありませんが,時間領域で直接音と(離散的な)初期反射音のディレイや強さを検討したり減衰を俯瞰的に観察する場合には大変便利な手法です。

他には波面追跡法などもありますが,音線と違って密度の低下に伴う誤差の心配が無い反面,波面の面積は時間の2乗に比例してしまいますし反射によっても肥大化してしまいます。
本質的に波動性を無視している事に因る誤差がメリットを超越してしまうようにも思われますし,何より事前解析では考慮していない不確定な要素もありますので,私の使い方でどこまでのメリットが得られるのかは疑問です。
(サラッと目を通しただけで実際に組んだ事が無いので何とも言えませんが,感覚的にはメリットは大きくないと見ています。見積もりが甘くてメモリが足りなくなったとかそんなポカをやらかしそう・・・笑)

余談ですが直方体の部屋の壁面を一律な反射率として扱うなど,複雑な境界条件を無視したプリミティブなシミュレーションを行う場合はモードの形状は自明であり,その特性はモードの重ね合わせにより容易に計算出来ますので,幾何音響を使うまでもありません。
REWのRoom Simなどはこの手法を使っている筈です。
(直方体と反射率,音源と聴取位置のみで予測するようなベーシックな機能しか持たないのに何故か虚像法を使っているソフトもあるようですが,正直なところ理解に苦しみます。)

こうした不完全であるが故に生まれたユニークな発想,学ぶだけでも心躍るという方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?



後記
実は最後の“面白ポイント”は後記として書いていたのですが,膨れ上がってしまったので無理矢理記事中にぶち込みました。(笑)
音の本質を捉えられるか否かで見える世界が全く異なりますから,音響工学はオーディオを掘り下げるならば必要不可欠な視点です。
尤もオーディオを愉しむだけならこんな事はどうでも宜しいのでしょうから,詰まる所オーディオとどう向き合うか次第なのでしょう。
次回(何時になるんでしょうね・・・)はもう少し具体的な話を盛り込んで行ければと思います。

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