easterly wind
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ワタシハオンキョウチョットデキル  生まれ付いての不精者で飽きっぽいので多分大した事書きません。  と言うか迂闊な事書くとどこかの出版社から怒られが発生したりしませんよね??(ガクブル)  …

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日記

大きな空間と小さな空間,ライブな空間とデッドな空間のお話

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2018年03月03日

前回のコラムに続き音響領域に絡めたお話です。
今回はより具体的な条件として,まずはコンサートホールの場合を考えてみましょう。
前回のおさらいになりますが,fLはK*(RT60/V)^0.5 (K=2,000 const)と定義される,特にモードの影響の度合いを推し量る基準となる値です。

一般的なコンサートホール(大ホール)に多いV≒20,000m³/RT60≒2sec程度では概算でfL≒20Hz程度となります。
残響時間の実測値からfLを算出すると東京文化会館で21Hz,NHKで17Hz,オーチャードで19Hz,サントリーで20Hz,オペラシティで23Hz,ごく小規模のホールですと第一生命で31Hz,浜離宮朝日で34Hz程度。
海外ですと美しい響きで名高いシューボックス型のウィーン楽友協会で24Hz,同じくシューボックス型で華やかな響きが特徴のコンセルトヘボウで22Hz,ワインヤード形式のベルリンフィルで20Hz,80,000m³超と巨大なロイヤルアルバートでは11Hz程度となります。
 因みに音響工学や心理音響が現在よりももっと未開だった1867年に建設が始まり1871年にオープンを迎えたロイヤルアルバートホールは,当初“イギリス人の作曲家が確実に自分の作品を2度聴けるただ一つの場所”と評される程に酷いものでした。皮肉と自虐が利いた何ともイギリス人らしい言い回しに思われて私は凄く好きです。(笑)
モチーフのスペクトルからスピーチで80Hz/音楽で30Hz以上としていますから,コンサートホールはソースに対し全域で音響的に大きな空間となり,基本的に音響設計で波動性を考慮する必要は殆どありません。
コンサートホールではその大きな寸法により低い周波数から高いモード密度を得られる事から,周波数特性全体のバランスこそあれ,内装に顕著なペリオディシティ(椅子の間隔など)があるといった問題が無い限り波動性固有の極端に大きなピークやディップは生じないのです。
寸法比などもモードのコントロールでは無く反射音の到来や全席に亘り十分且つ一定した音の強さを得られるかが大きな関心事です。
 講堂などのスピーチを目的とした部屋では明瞭性確保のため音楽と比較し高めの平均吸音率(空間に対し短めの残響時間)とする場合が多く,こちらも帯域及び音響の両面からルームモードの影響は小さくなります。


今度は一般的なスタジオのコントロールルームの場合を考えてみましょう。
コントロールルームは100m³程度の容積が多く,ITUの勧告ではTm=0.25*(V/100)^(1/3)を基準に定めたある範囲にRT60を収めるよう規定しています。
この値から仮に6畳間相当の3.6m*2.7m*2.4m (V=23.328m³, S=49.68m²)として(勿論コントロールルームとしてはあまりにも手狭ですが)平均吸音率やfLを算出すると,Tm≒0.154sec, α‾≒0.39, fL≒160Hzとなり,コントロールルームに求められる音響はかなりデッドである事が分かります。
高い吸音率は単にfLが低い値を取るだけでなくfL以下で各モードを強力にダンプ出来る事をも意味しますから,小さな空間ながらフラットな周波数特性を得られやすい条件と言えます。
低域まで高い吸音率を得るための吸音構造により床面積が半分になるといった事は決して珍しくありません。
コントロールルームは様々な面でシビアですが,求められる高い平均吸音率を広く深い吸音構造により達成できる事が厳しい要求仕様のクリアを可能にしているのです。


大きな寸法がもたらす高いモード密度により平滑な周波数特性を得られるコンサートホールと,高い吸音率がもたらす強力なモードのダンピングにより平滑な周波数特性を得られるコントロールルーム。
さて,これがリスニングルームではどうなるのでしょうか?


仮に部屋の寸法を3.6m*2.7m*2.4m (V=23.328, S=49.68)とし,平均吸音率α‾を0.1及び0.2として計算してみましょう。
平均吸音率からNorris-Eyringの式(RT60=55.3V/(-C*S*ln(1-α‾)))によりRT60を予測すると
α‾=0.1の場合 RT60≒0.72sec fL=K*(RT60/V)≒350Hz
α‾=0.2の場合 RT60≒0.34sec fL=K*(RT60/V)≒240Hz
となる事が分かり,小さくライブな部屋ではルームモードの影響がミッドバスにまで及ぶため,より重大な問題として知覚されるのではと予測されます。
 なお,大空間の高域など空気による減衰を無視出来ない場合はRT60=55.3V/(-C*S*ln(1-α‾)+4mV)とします。
 また吸音率が低い(α‾<0.3)場合はSabineの式(RT60=0.161V/(S*α‾))もよく使われますが,α‾=1(無響室)だとしてもRT60が正の値を持ってしまう事からも分かるように高い吸音率では不精確であり,特にα‾>0.3では避けるべき算出法です。
 実は残響室法による吸音率の測定では残響時間の変化からの吸音率の算出にSabineの式を用いている場合が多く,これも残響室法が抱える大きな問題の一つです。


ここで先ほどのコントロールルームを想定した条件も含めて(6面α=0.1,0.2,0.4)解析するとfig.1のようになります。

(尚音源は部屋の角で,Pointとしているのが音源の対角の音圧特性,Averageは部屋全体の平均音圧特性,それぞれの1/3 Octスムージング,それに部屋全体の総音響エネルギーです)
“仮に”低域まで一定の音響インピーダンスを維持するある意味理想的な特性の壁を想定しても,α‾=0.1や0.2だと中低域の周波数特性は相当に暴れる事が分かります。
現実の壁面は構造に応じた共振周波数を持ちますから当該帯域では高い吸音率を示しますが,言う迄も無く壁面の強い共振は好ましからぬ現象ですし,それが複数ある強烈なルームモード全てを抑制する事は考えにくいでしょう。

またそれぞれのfL≒350Hz/240Hz/160Hz付近で高い音響エネルギーを持つ周波数について解析するとfig.2のようになります。

(図は音源と隣接していない3面の音圧レベル分布で,壁面の平均音圧を基準に音圧レベルの高さを明度で示した約3dB刻みのコンターです。またα‾=0.1と0.2及びα‾=0.2と0.4の平均音圧にはそれぞれ5dB程度の差があります。)


リスニングルームは高々数百m³ですからコンサートホールの僅か1/100オーダーで,コントロールルームと概ね似通ったサイズと言えます。
他方リスニングを楽しむためには一般に再生環境での反射音や残響音を適切に付加する事により空間的な情報を補完する必要がありますから,ソースに含まれる空間情報を評価するためにデッドで初期反射音を抑制するような設計(こうした設計思想がコントロールルームとして理想的か否かは別として)が多く見られるコントロールルームとは大きく異なり,どちらかと言えばややコンサートホールに近いと言えます。
また完成後に低域の吸音力を下げる事は容易ですが吸音力を向上させる事は極めて困難であり,他方低域の吸音には非常に大きなスペースが必要とされますから多くの場合余計な調整幅を持たせる事もまた困難です。
つまりライブで小さな空間,更には多くの場合で吸音層は浅くせざるを得ず工費も桁違いに低いという,良好な周波数特性の達成という観点ではまるで貧乏籤の束でも引いたかのように殆ど最悪の条件が揃っている中で,マージンを削ったギリギリの設計を強いられているわけです。
言う迄も無くコンサートホールやスタジオの設計はそれぞれにとても大変なプロジェクトですが,真面目に突き詰めるとリスニングルームはリスニングルームでまた異なった性質の難しさを抱えている事を少しだけご理解頂ければと思います。



後記
原理的に膨大な計算コストの掛かる波動音響解析を使った設計を行う目的の一つは,こうした厳しい制約の中で中高域に対する等価吸音面積を保ちながらも低域のルームモードを強力に抑制するための最適化です。
下世話な事を申せば工費の高いコンサートホールやスタジオなら兎も角も個人のリスニングルームで頂戴できる設計費では設計と解析の反復は割に合うものではなく,業界の常識では“そんな事やっていられない”というのが本音でしょう。
悪条件揃いとは言え本来は要求仕様も然程シビアではない個人のリスニングルームでここまでするというのはある意味でアンプロフェッショナルなのですが,生憎と負けず嫌いで大人げない性分に生まれ付いて居るもので随分と大袈裟な設計プロセスを採っています。

とは言え,巧みな設計により小さな部屋のfL以下を“adequately flat”に整える事は出来ても,空間印象(音像の広がり感や初期包まれ感,水平方向及び垂直方向の明瞭さなど)を司るのは主に中域以上且つ80mS以内の初期反射,言うなれば“室の絶対的なサイズ”とされていますので,依然として小さな部屋のハンデは計り知れません。
こうした心理音響の側面も鑑みますと,周波数特性だけに目を向けるのはあまりにも早計で,やはり設計者としては20m²/60m³程度は欲しいのが正直なところであります。


そうそう,1/3オクターブバンドスムージングで20Hz以下の低域が微かにヒョコッとしている事に気付かれた方・・・ 稀にいらっしゃるんですよね,そういう鋭い人。
これはリニアで離散的(1Hz刻み)な解析結果の間を補完せずに1/fで重み付けして平均したためで,要するに低域で周波数方向の分解能が不足しているのであります。面倒くさがりで済みません,fL付近では十分なので堪忍して下さいね(笑)
本当はオクターブバンド解析にはIECが定めるフィルタ(アナログベース)があるので,その辺りに準拠した厳密な処理と比較するとここでもごく僅かながら誤差が生じている筈です。

さて次回のテーマは何にしましょうかね・・・ (ルームモードの観点から語るセッティングでもと思って書き溜めているのですが,内容的にいよいよCDFを埋め込みたい感じになるので辛いのです・・・)

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