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ダウランドの「涙(ラクリメ)」

ゲオルグさんの日記に触発されてしまいました。

ダウランドの「涙(ラクリメ)」は、ほんとうにメガヒット曲で、様々な派生曲を生んでいて、そのそれぞれが名曲となっているというのも希有のこと。そして、それをフィーチャーしたアルバムがこれまた名盤・名録音の誉れが高いのです。

ダウランドは、この曲をたびたび取り上げていて、主なもので3通りあります。

最初は、リュートのために作曲された「涙のパヴァーヌ("Lachrimae pavan")」(1596年)です。さらにはダウランド自ら作詞して歌曲を作ります。これが「流れよ、わが涙("Flow, my tears")」。これがまさにルネサンス期のグレーテスト・ヒットになるわけですね。

当時の大作曲家がこぞって様々な楽器に編曲しているのはゲオルグさんの仰る通り。そういう編曲版のひとつにオランダのヤコブ・ファン・エイクのリコーダー独奏曲があります。



フランス・ブリュッヘンの「ブロック・フレーテ名曲集」(Warner Classics)が日本で発売されたのは1972年。このLPのA面最後にそのファン・エイクの曲が収録され、日本盤のアルバムタイトル「涙のパヴァーヌ」になりました。日本のブロック・フレーテ・ブームの火付け役となり古楽ブームを次の段階へと飛躍させた記念すべきLPです。録音は今聴いてもほんとうに素晴らしいと思います。

この曲が魅力的なのは、冒頭の♪ラ~ソファミー♪という哀愁に満ちた4度の下行音型です。これは通称「ラクリメモティーフ」と呼ばれ、当時のヨーロッパの人々の死生観の琴線に触れたのだと思います。



大塚直哉さんらによる「うつろな瞳("Eyes Look No More")」(WAON Records)には、歌は唄っていませんが、リーフレットには波多野睦美さんが、「流れよ、わが涙」の対訳を寄せいます。なお、「うつろな瞳」は、ダウランドの弟子ション・ダニエルの歌曲で、師の遺した「流れよ、わが涙」へのオマージュともいうべき作品のこと。日本のハイレゾ録音をリードしたワオンレコードの傑作アルバムのひとつだと思います。

「ラクリメモティーフ」については、このCDのリーフレット解説が詳しいのですが、このモティーフはさらに様々な作曲家によって取り上げられています。その代表曲のひとつが、ゲオルグさんも触れられているベンジャミン・ブリテンの「ラクリメ("Lachrymae")」です。ヴィオラ独奏のための曲ですが、ピアノ伴奏版とオーケストラ版のふたつがあります。



オーケストラ版を収録しているものとしてヨーロッパ室内管弦楽団によるブリテン追悼コンサート(ライブ盤)があります。文字通り「ラクリメ("Lachrymae")」と題されたアルバム(Warner Classics)で、私の愛聴盤となっています。

収録曲には、アーヴォ・ペルトがブリテンの死を悼んで作曲した「カントゥス―ベンジャミン・ブリテンの思い出に("Cantus in Memoriam Benjamin Britten")があります。この曲は、「ラクリメモティーフ」に秘かに刻印されている死者への限りない哀悼という音楽言語を徹底的に繰り返していて、その限りなく下落していく下降感覚には戦慄さえ覚えるほどです。

さて、ダウランドの曲の話しに戻りますが、著作権という概念すらなかった当時、作曲者に断りもない海賊版も横行しダウランドは相当に不満に思ったそうで、1604年、この曲にいっそう磨きをかけた決定版としてヴァイオル合奏(コンソート)のための「ラクリメ―あるいは七つの涙("Lachyraem or Seven Tears")」を作曲しました。



ラクリメモティーフを基に七つの変奏曲と七つの舞曲の連作となっているこの曲は、ペルトの曲以上に徹底したところがあって、延々とCD一枚分の長さで5つのヴァイオルとリュートのハーモニーと対位法が充溢した音楽が続けられます。ヴァイオル・コンソートのファンタズム(Phantasm)とリュート奏者エリザベス・ケニーによる録音(LINN Records)が格別の雰囲気を醸します。

いずれも、オーディオ的にも素晴らしい録音音質で、私はたびたび取り出して聴いています。

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