※ネタ日記になります
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203×年 夏
今日は昔のオーディオ仲間であるCENYAさんに会いに行く。
CENYAさんとは以前ファイルウェブというオーディオ専用のコミュニティサイトで知り合い、十数年ぶりの再会になる。
今の日本は暗黒の時代を迎えている。
東欧情勢は泥沼化し、憲法改正とアメリカの陰謀が交錯してズルズルと世界大戦に巻き込まれる形になってしまった。
そして軍需優先政策の中、電力はもちろん国産食材までもがポイント制度となり、国民は日々我慢を強いられている。
運転中の車のモニターには、今日の放射線数値予測と、テロ警報を発令する元おニャン子クラブの特命大臣の姿が映し出されている。
何もかもが悪いジョークのようだ。
それもこれもまさかあの時の衆院選が起点になろうとは、誰も想像などしてなかっただろう。
庶民のオーディオはデジアンが主流になっている。
軍事技術の転用によるローコスト・高音質化も大きいが、嗜好品に大きな電力は無用とされる世の中だ。
一方で海外製ハイエンドはもはや手の届かないものとなり、デジアンの最高峰デビアレは3000万円を超えている。
しかし、厚さ5ミリというあの超極薄ボディーは魅力であり、技術もブランディングも日本のモノづくりは世界から取り残されつつある。
ちなみに新潟のあの人は買ったらしい。
副業の海外富裕層向けコシヒカリビジネスが大当りしてると聞く。
そういえば、当時のファイルウェブ会員はコミュニティ閉鎖後にTwitterという別のSNSに流れるも、みんな問題ばかり起こして永久凍結されてしまったようだ。
そんな中でもCENYAさんは、周囲に流されず独自のサイトを立ち上げ、昔からの突き抜けたクリエイティビティで海外のマニアからも「日本の奇才」と評価され、エロナーデやその他イカアースやオロチタップ(※それぞれCENYAさんの自作品の名称で、エロナーデは彼の出世作でもあるスピーカー)も市販化されている。もはやかつての長岡氏を超えたカリスマ、そして成功者だ。
最後に聴いた20年式エロナーデも十分魅力的だったが、あれからどう進化したのだろうか・・。
私は首都高を走らせている車をフルオートレベル5に設定してシートを傾け、東京の空を行き交う米軍機の編隊飛行を眺めながら、最後に聞いたエロナーデのサウンドを脳裏に蘇らせた。
2022年 7月
まだ空が静かな時代だった。
そして、何よりも平和だった。
CENYAさんのエロナーデは、本来の軽快なレスポンスの良さはそのままに、一気に吹き上がるターボチャージャーを手に入れたチューンマシンのように変貌していた。そして、かつてのジオラマ的な表現に下支えとなる広大なフィールドが付加され、独自の精緻な音世界が構築されている。
昭和の八代亜紀からジャズやポップス、マリスヤンソンスとコンセルトヘボウまで、その誇張の無い「自然」な空間と音像描写は、市販品を買い揃えただけでは到達できないオリジナルな境地を見出している。
基本的に私は自作派の人を信用している。
何故なら、皆さん共通して言える事は、まず音楽愛が先にあり、次にモノづくりを通じた近視眼的目線と俯瞰が行き来することで、理屈と音楽性の絶妙なバランス感覚をお持ちなのである。どちらかに偏り過ぎるときっとこの趣味は成立しない。
なので、音楽とオーディオの両方を語れる人達との感想戦はお酒も美味しい。(ちなみにこの日は車だったため、感想戦はお酒ではなく猫カフェだった)
下積み安アパート時代のCENYA宅
フルオートの車は目的地到着を知らせた。
車の電源を切り、事前に聞いておいた建物のセキュリティ番号を端末に入力し、CENYAさんに発信する。
エントランスドアがスーッと開き、遠目から懐かしい姿がこちらに向かって歩いてくる。
「CENYAさん、お久しぶりです。」
「にらさん、元気そうで何よりです。」
「十数年ぶりですね。ファイルウェブ終期にお会いしたのが最後でしたか。」
「そうそう、そういえばあの頃は不織布マスクを付けてオフ会してましたね。」
「そんな時代もありましたね!懐かしい。」
「さあ、オーディオ部屋はこちらです。早速始めましょう。」
二人はガスマスクを外し、地下核シェルターの中へと消えていった。
核シェルター需要の増大から、今やオーディオは世界的なブームを迎えている。
騒音問題も無く、核戦争中の娯楽には丁度いい。
そうそう、オーディオ雑誌のソフト評「最後の晩餐にオススメの一枚」も人気企画である。
今日は楽しめそうだ。
おしまい

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過去日記はこちら→にらの過去日記(オフ会中心に抜粋)