日記
ディスプレイキャリブレーション:その意義と実践1
2012年01月20日
キャリブレーションという言葉は「較正、調整」を意味します。入力値と出力値の関係を決定し、入力が1だったときに機器によって出力が2だったり−1にならず、常に1になるようにする作業です。映像に関して言えば、入力される信号については色々な取り決めがあり、規定されています。例えばHDTVに関してはITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)という団体によって、勧告が出されており(ITU-R BT.709-5)この規格に従って作られた製品であれば互換性がとれるようになっています。そして、映画やテレビ番組制作に使用される、業務用の製品はこの規格に厳密に合致するように作られています。一般的に業務用製品が家庭用製品に比べて高価なのは、高性能だからという場合もありますが、より信頼性が高い(正確であり、耐久性が高い)ことが大きな理由なのです。
しかしコスト制限の厳しい家庭用製品は業務用製品ほど「正確」には作られていないことがほとんどです。冒頭の例で言えば、1が1.1になったり、0.9になったり平気でします。しかし、さすがに赤が緑になったり、白が黒になったりはしないので、普通のユーザーは気にせずにそのまま使用します。また、メーカーもユーザーがある程度映像の映り具合を選べるように、いくつかのプリセットや調整パラメーターを用意しています。明るさやコントラスト、色の鮮やかさを好みに合わせて調整できるようにしてあるのです。一般ユーザーだと、これらの存在さえ知らなかったり、知っていても自分の感覚的な好みに合わせて好きな映像を基準にパラメーターをいじっているかもしれません。
もう少し高度なユーザーになると、画質を調整するための基準信号が入ったブルーレイなどのソースを購入し、目視でブラックレベルやホワイトレベル、カラーバイアスやカラーゲインを調整する人もいるでしょう。これは機器の性能を引き出す有効な手段ですし、キャリブレーションの最初の一歩として大事なステップでもあります。ただ、この状況ではその機器の元々の特性の中で相対的にバランスを調整しているに過ぎません。
先に、制作に使用される業務用製品はより規格に厳密に合致していると書きました。例えば、ARIB(Association of Radio Industries and Businesses:電波産業会)は「平面ディスプレイ(LCD、PDP)に対するマスタモニターとしての要求条件」という技術資料を発行しています。まぁこれはご参考まで、ということですが、つまり映像制作者はこういうディスプレイを使ってコンテンツの色や明るさの調整を行っているということです。今日、映像制作において高度なカラーコレクションは調整というよりは完全に表現の一部になっており、その正確な再現はホームシアターの重要な課題の一つになっています。
制作者が見ているそのままの映像をホームシアターでも再現することは可能でしょうか。そのまま100%、というのはハードルが高いですが、少なくともブルーレイをエンコードする際に制作者側がチェックしている映像をかなり近いレベルで再現することは可能です。それには、制作に使用しているディスプレイと同じ特性に家庭のテレビを較正(キャリブレーション)すればよいのです。と書いてしまうと簡単なように聞こえますが、この先が実はかなりの泥沼です。まず、規格に対して特性を近づけていくわけですから、目視ではなく客観的に特性を測定できる必要があります。また、コンテンツの作成において使われている各種の規格を理解しておくことも重要です。測定には、これまた業務用には様々な種類の測定器がありますが、家庭で現実的に利用できるのは、ディスプレイの調整に使用されるカラーメーターです。おすすめはDatacolor社のSpyderシリーズです。対応している測定ソフトが多く、無料のものもあります。直視型のディスプレイを測定する際にはケーブルを上に本体をつりさげ、確かに蜘蛛のように見えます。添付のソフトウェアによってバリエーションがありますが、これから紹介する測定方法では添付のアプリケーションは使いません。本体とドライバーが同じなら安いパッケージでかまいません。

オーディオにも同様のステップが存在します。スピーカーを設置し、音楽を再生して聴感で気に入るように調整するレベルから、調整用のリファレンスCDを使用して調整するレベル、マイクや計測信号CDを使用して周波数特性や残響特性を計測して音響特性を整える(時には機器のキャラクターを尊重して電気的に調整するのではなく、部屋や環境の調整で周波数特性フラットを獲得する)レベルの間にはそれぞれ大きな差がありますが、ここでも同じことが言えます。
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カラーメーターというものを初めて知りました。キャリブレーション…なるほど、確かにそうですね。私はビジュアル系はやっていないので直接具体的にどうするということはないのですが、とても勉強になりました。オーディオ系でも私程度でも扱えるハンディな測定器があるようですが、私のような直結派・EQ否定派にとってはパラメーターを動かす手段が、セッティングやルームチューニングに限られるのでちょっと考えあぐねているところです。
byベルウッド at2012-01-21 01:01
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ベルウッドさん、EQを使わなくても例えば低音の周波数特性はスピーカーの設置位置の前後によって大きく変わりますし、高音は残響特性で大きく印象が変わるので、いろいろ出来ることはあると思います。また、自分が聴いている音がどんな音なのかを知っておくことも有用だと思うので、あまりハードルが高くなく、ご興味をお持ちなのならまずは測定をしてみることをお勧めします。
by元住ブレーメン at2012-01-21 15:53
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ちなみに私はオーディオの方も測定機材を活用してセッティングの一助としています。部屋作りからの過程はこちらにまとめてあります。ご参考まで。
http://blog.livedoor.jp/bremenfx1/archives/cat_50029364.html
by元住ブレーメン at2012-01-22 00:32
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