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東京都在住のオーディオマニアです。リビングオーディオです。狭いスペースを与えられてやっています。MPS-5,Marklevinson No32Lなどを愛用中。クラシックはほとんど聞かず、ポップス、ラッ…

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日記

ARION Line Preamplifier(ライン プリアンプ)の私的レビュー

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2011年03月24日

この世には二種類のアンプがあるように勝手に思っている。
一つには禁欲のアンプというのがある。
入力された信号になにも足さず、なにも引かず、素直に音を出す、そういうアンプだ。
理性のオーディオを実践するアンプである。
それに対して欲望のアンプというのがもう一つある。
入力された信号にまるでなにかの力を与えたかのように、
その存在感を強調するようなアンプ、
あるいは音楽信号の中の繊細な情緒や詩的なニュアンスを
増幅して伝えるように聞こえるアンプがある。
結果的に感情のオーディオとも言えそうな不思議な世界がそこには醸し出される。
今回は、
後者のアンプに属すると思われる、
ARION Line Preamplifierついてレビューしたい。


(写真はAVCAT様より。いつもいい情報をいただき感謝です。)

かつてコニサーというアンプメーカーがあり、
(今でもあるのかも知れないが)
一種独特のアンプを世に送り出してきた。
その代表作はコニサー3.0という金色のボリュームダイアルと、
ウッドのフロントパネルを持つ一度見て、一度聞いたら忘れない、
強烈な音の主張を持つプリアンプである。
あまりに音が強く短時間しか浸れない感じだが、その訴求力は空前絶後で
プリアンプの介在の意味を深く考えさせられるものだった。
その後、その簡易版とも言える4.0、5.0が出て、これらも忘れがたいアンプだった。

今回のレビューのテーマであるARION Line Preamplifierは
このコニサーアンプの後継者と言えるものである。
あの当時を思い起こしつつレビューしたい。

(ところでコニサーとは英語で玄人、鑑定家などの意味であり、
スペルは難しく、Connoissuerである。
覚えにくいし、読みにくい。
同じ文字が二箇所も重なる単語がそもそも少ないのだ。
当時、ここのアンプをいろいろな条件で聞いて、
それぞれメモを取って研究していたが、このスペルに出会うたび、
なぜあえてこんな名前を使ったのか、いぶかしく感じたものだ。)

外観:
なかなかシャープで精悍な印象だ。
ヘアライン仕上げがあるグレーのアルミ板をフロントパネルにした筐体二つから成り、
これを電源供給ケーブル一本で接続するのである。
筐体の一つは電源部、もう一つはアンプ部である。
筐体一つ一つはコンパクトで奥行きも浅く、セッティングはかなり楽そうだ。
二つの筐体のフロントパネルは両方とも平面でなく立体的な面取りがされている。
さらにアンプ部はサイドパネルも面取りがなされている。
なお、アンプ部の筐体と電源部とは全くつくりが違い、
アンプ部は分厚いアルミ板を切削し精巧に組んだものであるが、
電源部は筐体本体は板金加工である。
コスト削減のための適材適所であろうか。
真ん中からやや右側に、本当に豆でもつまむ感じの、小さなボリュームツマミがある。
回すとクリック感があり、段階的に音量が変わるタイプ。
(この手のアンプにありがちなことだが)
もともとゲインがやや高くもあり、音量調整にはコツがいる。
隣には同じデザインのツマミでチャンネルセレクターがあるのみ。
ブランドロゴは小さな文字で印刷され、読めるか、読めないかぐらいに控えめなもの。
このミニマルな顔立ち。
小顔なアンプである。
天板は特殊なネジで4点留めされているが、
このネジもコニサーで使っていたそのものじゃないのか。
もう十年近く前のアンプだが、懐かしい気もする。
このネジを見ていると、
あの頃もそうだったが、
天板をカーボンや硝子やアクリルなどに換装して音を変えてみたい誘惑に駆られる。
バックパネルにはRCAとXLRの入出力がそっけなく並ぶだけだが、
RCA端子の数の方が多い。
出音や回路構成、コニサーでの経験などから見てもアンバランス接続重視かもしれない。
筐体の中身はかなりスッキリスカスカで空間が多い。
こういう構成を持つアンプは、経験では思い切りのいい音がすることが多いようだ。
回路基板は左右独立、小さな基盤が二枚積み重ねられ、相互に接続された複雑な配線。
このコニサー3.0や4.0Lを彷彿とさせる回路の外観は、
その音質に期待を持たせる要素だ。
足はスパイクの四点支持である。
スパイクをさらに鋭いものに換装すれば、
もっとスパルタンなイメージのアンプになりそうだ。
このアンプを運良く購入できたら試してみたい。

音質:
音の鮮度が高く、
音楽的表現において感情の振れ幅が非常に大きいアンプだ。
光と闇、喜びと悲しみ、動と静の落差のコントラストが
普通のアンプよりよりクッキリハッキリ表現される。
こういうビビッドで情緒的なアンプはなかなかない。
しかし、こういうタイプのアンプにありがちな、
音場の真ん中に音像が集まる傾向はあまりなく、
比較的広い音場の中に音像が互いに近い距離感で強固に屹立する。
このアンプは薄味な音は一瞬たりとも聞かせない。
かといって、この音を表すのに濃厚という言葉は適切ではない。
鮮烈なサウンドと言うべきだ。
このプリアンプは、広いレンジ感を確保しているが、
やや中高域に重点が置かれた音調となっているように思う。
高域はキツく刺す感じではないのに耳にはインパクトが強い。
ハリのある高音がスピーカーから飛んできて、直接に鼓膜を打つような感じである。
高域にあっても、音量が落ちないようであり、
よくある微細繊細な高域というのとは異なる。
中域は厚みで聞かせるタイプではなく、
立ち上がりと立下りのスピードの速さ、反応性の俊敏さで魅了するもの。
そして、この帯域では音像の解像度が異例に高い。
ここのところのスピード感と高解像度とのブレンド感は格別で、
演奏の微かなニュアンスの変化を描き切るだけでなく、
音の大小のコントラストをより強める感じにつながる。
これは音楽の情念の深層を理解するには、
とても大きな助けとなる。
このアンプで聞くと、他のアンプで聞くより、
音楽の訴えるものが切々としていて、
より深く心を打たれるのだが、
これらの中高域の威力によるところがだいぶ大きいと思う。
低域の解像度も十二分に高いが、
やや硬めのスレンダーな印象が先行し、
量感や粘りのある表現を演出することはない。
そういう表現を必要とする曲は苦手の範疇に入る。
確かに、このアンプを組み込んだシステムでは、
アルバムのイメージにアンプの音が合う、合わないという、
音楽的なマッチングが問題となることがあろう。
ヘビィメタルやロック、ラップ、ハウス、エレクトロニカ、
さらにはエレクトリックマイルスなど、
当方の常用するスピード感やリズム感を重視すべきアルバムでは、ハマるソースは数多い。
これらのソースとの適合性はまさに絶妙で、
きっぱりと他のアンプの音は否定したくさえなる。
こういう音楽、
いわゆる格調のあまり高くない音楽の深層心理へと分け入っていくためのツールとして、
このARION Line Preamplifierは他では代え難い存在であると思う。
シンプルなマイクセッテイングで録ったオンマイク気味のギター音楽なども
情感豊かに再生されて素晴らしい。
優秀録音系のソフト、ECM系のアルバム、エフェクトがかかったJpop、
ハイテクニックでスタンダードナンバーを聞かせるコンテンポラリージャズなども、
原曲のイメージとはやや異なるの場合もあるが、かなり面白く聞かせる。
ただのHi-Fiにはない意外性の世界がこのアンプの真骨頂でもある。
しかし、一部のブルースやソウル、クラシックや女性ボーカルでは、
このアンプがややコクや粘りを目指してない感じがあるので、
私に言わせれば最高のマッチングとは言いにくい時もあった。
これらのソースは私が現用しているNo.32Lの方がいい。
あるいは以前レビューしたアインシュタインの真空管アンプの方がはるかにいい。
ARION Line Preamplifierというアンプは
真に自己主張のあるアンプであり、
その独特の語り口に説得されてしまうが、
完全な一本調子にならない、ギリギリの線で留まっているところがいい。
コニサー3.0から5.0まではやはり独自の表現が強すぎ、
方向性が違う音楽を受け付けない傾向がありすぎたように思うが、
このアンプの守備範囲は十分に広い。

まとめ:
欲しくなってしまった。
このアンプの音と形が気に入った。
こういうアンプはなかなかないと思う。
今使っているプリアンプNo.32Lはそのままにして、
聞くアルバムによって、このアンプに適宜スイッチして使いたい。
先代とも言えるコニサーの3.0、4.0、5.0の音は十分に聞いたが、
大金を出して買おうとまでは思わなかった。
背景ノイズが大きすぎるような気がしたし、ボリュームも使いにくいのに、
値段がかなりのものだったからである。
しかしこのアンプは違う。
もっと普通に使えるアンプでありながら、
音には、あのコニサーの唯一無二の音楽観が生きている。

追伸:
なお、私のこのレビューを読んで、
このアンプを本格的に試聴したい、知りたいとお思いになった方は
私の拙い文章は忘れて、
実は某有名オーディオ雑誌の2011年冬号にある評論家の方が書いた
素晴らしいレポートがあるので
是非そちらを見ていただきたい。
無駄なく最もよくまとまった決定版的なレビューである。
それをよく読んでから試聴されるとよいと思う。

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レス一覧

  1. 上奉書屋さん、こんにちは。
    いつも良質なレビューありがとうございます。

    以前コニサーのことはうわさ(くらいしか知りません(^_^;))に
    聞いたことがあります。特に3.0が素晴らしいと・・・

    その後一度だけ3.0の中古が出たことがありましたが中古価格でもとても買えるような値段ではありませんでした。どんなテイストなのかというのは味わってみたいと思っていましたがこのレビューでそれは一層強くなりました。

    機会があればこのプリを聴いてみたいですね~

    PS
    STAXのSR009もかなり気になっています。

    by小林二郎 at2011-03-26 09:13

  2. レスありがとうございます。
    このアンプはなかなかいいアンプです。
    しかしSR009はもっと誘惑があります。
    すぐ手が届く値段だということも含めて。
    SR009のベストパートナーと考えられる
    STAXのヘッドホンアンプの到着を、
    今は待っている状態です。
    それとのペアでなければ、おそらく目指す音は得られないでしょうから。それまでまだ様子見です。

    by上奉書屋 at2011-03-26 16:31

  3. 上奉書屋さん、こんにちは。
    そうですね。現状では推奨ドライバーは3種ありますがドライバーのほうがリリースが早いので009を使用する前提で作られていないのでおっしゃるように目指す音は得られないでしょう。

    ということでこれに適合するドライバーがリリースされるで
    しょうね。(真空管を使ったハイブリッドとトランジスターとがリリースされたら悩みますね~(^_^;))

    これはこれとして、上奉書屋さんがレビューされたアンプも聴いてみたいですね~

    by小林二郎 at2011-03-26 17:55

  4. SR009とペアになるアンプについては、
    購入する可能性がそれなりにあるので、
    もし入手したら私的にレビューすると思います。
    そのときはまたよろしくおねがいします。
    それでは。

    by上奉書屋 at2011-03-26 18:22