日記
Saidera Ai SD-9003 XLRケーブルの私的レビュー
2011年11月29日

ケーブルにもいろいろある。
一本入れただけで、
システムの音質を一変させてしまうような
支配力の強いケーブルがある一方で、
新たなケーブルを導入したことをほぼ意識させない
「普通さ」をウリにするケーブルもある。
前者は設計の意図はどうあれ、
結局は音に「ドーピング」するケーブルである。
このようなケーブルさえあれば、
どんなにダメダメなシステムでも、
超ハイエンドな音に変貌することもある。
後者は
意図的に自分の存在感を消し去る方向性をもつケーブルである。
これらは音楽スタジオで長尺で用いられるような
安価なケーブルたちであり、
色づけの有無はともかく、いわゆるハイエンドケーブルに比べて、
ドーピング感はほとんどないものである。
完全に自分の存在感を消し去るわけではないが、
つないだことによる音質の変化は、とにかく少ない気がする。
一般のオーディオファイルは
色づけのないケーブルが欲しいとかなんとか言っておきながら、
高価なケーブルを買ったことに対する対価を無意識に求めているので、
結局、自分の好みの「ドーピング」してくれるケーブルを選ぶ傾向にある。
理由などというものは概ね願望に基づくものだ、と言うが
ケーブル選びにおける無色透明とは
まさにオーディオファイル個人の願望に基づく無色透明なのだ。
しかし、熟練したオーディオマニアの中には
その存在感を消し去る方向性をもつケーブルを求める人は
後を絶たない。
もし、それがあれば、
ケーブルをとっかえひっかえする
時間と労力、投資を終らせることができるし、
手持ちのアンプの本当の実力も知れると思うからだ。
高名な録音エンジニア、音響空間デザイナーである
オノ セイゲン氏が主催するサイデラマスタリングで
メインで使っている特注ケーブルが
Saidera Ai SD-9003という製品名で一般販売されている。
音楽制作現場で求められるのは正確な音、
足し引きの少ない音であり、
そこでは、
良かれ悪しかれケーブルによって音が変わることを嫌悪する。
このケーブルは
オノ セイゲン氏とつながりのある、
あのグレッグ カルビ氏もマスタリングに使っているという。
(最近出たマイルスのTUTU限定版はかなりいい音だったが、
あれもカルビ氏のマスタリングという。
サイデラのケーブルを使ったのだろうか)
また、この赤いケーブル、
開発の意図としてDSD録音での使用も意識しているとのこと。
私には「何足さない、
何も引かない」ケーブルのひとつとしてだけでなく
DSDをフューチャーする数少ないプレーヤー、
MPS5のオーナーとして
以前から並々ならぬ関心を持ってきた。
このサイデラマスタリング御用達の、
XLRケーブルを先ごろ入手し、テストできた。
遅ればせながら、
備忘録として私的レビューを書いておこうと思う。
(画像はサイデラマスタリング様のブログから拝借いたしました。
有難うございます。
私の文章よりもあちらを読むほうがいいかもしれません)
結論を先に言えば、
高級ケーブルに大枚をはたきたくないが、
ベルデンやモガミはちょっと、という方に
ぜひ、
選択枝に加えていただきたいケーブルということになる。
実際、私のMPS5からのバランス出力については
Jorma No.1に代わって
このケーブルが担当することになった。
やはり、DSDの良さをうまく引き出すと思えたからだ。
外観:
細身の真っ赤な線体を持つプロ用のケーブル。
やや硬く、クセの付きやすい感じだが、
それ以外はなにも特記すべきことはない。
赤色という比較的珍しい被覆の色と若干の取り回しにくさ以外は、
本当にごく普通のケーブルとしか言いようがないのだ。
あまり書くことはない。
なお末端はノイトリックの銀メッキ端子のXLRで仕上げられている。
5mペアで45000円である。
1mあたり一万円前後というところだろうか。
高くはないが、安いとも言えない。
音質:
非常に見通しがよく、誇張の全くない音調である。
聞いていて爽快であり、音の鮮度が高い。
高域はやや鋭いが、すっきりと伸びきって破綻なし。
現代的なオーディオの音質傾向にマッチした高域のあり方。
中域は濃厚ではなく、
クリアーな透明感をベースとして、清清しく押し出す。
ボーカルのカツゼツはとてもよく、
細かい音まで非常に良く聞こえる。
低域はスレンダーで活発。非常にスピードが速く、
サッと出て、サッと引く感じだ。
低域の取り扱いの巧みさは
DSDへの指向性を感じさせてやまない。
実際、MPS-5にベストマッチのケーブルである。
全体に音を明瞭に見渡せるうえ、
細かい音もよく出してくるケーブルだ。
とにかく、この音楽がどのような音でできているのか、
細大もらさず正確に分かり切ることが可能である。
先述したように、演出感がほとんどないケーブルで、
設計者はこれを通すことで、
音がどこか変わるのを極度に嫌っているように思われる。
INとOUTが
全くイコールになることを狙ったケーブルとされているが、
まさにそれがうなづける音調だ。
また、バランスがとれてクセの少ない音質なので
長尺で使っても、あるいはシステム全体に何本も使っても、
音質的なデメリットが累積することがほとんどなさそうだ。
素晴らしいのは音量をグーンと上げたとき。
他の同価格帯のケーブルだと若干混濁を生じてきたり、
音が飽和するような、
天井につきあたったような閉塞感を感じるが、
このケーブルは強靱で、まったく腰砕けにならない。
音像は大きくなるが、くっきりとしたままで、緩まない。
迫力だけが増してゆく。
このケーブルを買って、エージングが済んだら、
是非ボリュームを上げて楽しんでいただきたい。
実際、私は大いに楽しんでいる。
ハイエンドなプラスαの音質は期待しないでいただきたい。
何も足さず、引かないを真剣にやったケーブルだから。
これは、いわゆる「普通の音」というやつではない。
巷でいう「普通の音」というケーブルを使って出るのは、
往々にして、
高域の穏やかにし、中域をやや薄味に、
低域の解像度を控え目にして、ややファットに振る、
そういう音だ。
これでは、そのケーブルを使うことによって
むしろソースの音の良さがリスナーに分かりにくくなる。
実はこういう音質傾向は廉価なケーブルには非常に多いようだ。
それは、その会社の高級なラインナップとの差別化に
必要なことらしく、仕方ないとは思うが。
サイデラのこのケーブルはそういうケーブルではない。
だいたいこれには、上位モデルも下位モデルも存在しない。
ブランド唯一のケーブルとして販売されている。
まとめ:
いままで何度聞いたことか。
「何足さない、何も引かない」というケーブル。
実際はそういうものはなかなかないし、
このサイデラのケーブルも
その意味で完璧と言い切ることはできないが、
理想に最も近いケーブルではあると思う。
いわゆる電線病というものは
止めるのではなく、治すのだ、というなら、
このSaidera Ai SD-9003は
プロ畑から出てきた特効薬となりそうだ。