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東京都在住のオーディオマニアです。リビングオーディオです。狭いスペースを与えられてやっています。MPS-5,Marklevinson No32Lなどを愛用中。クラシックはほとんど聞かず、ポップス、ラッ…

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日記

Guthrieの爪:NVS sound cable Copper1の私的レビュー

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2012年01月03日


Guthrie Govanというギタリストがいる。
ASIAのメンバーであった彼は
いわゆる超絶技巧系のミュージシャンであり、
彼の爪が弾き出す
恐るべき超高速フレーズは現代ギターの魔術の一つである。
その華麗にしてアキュレートな指の流れの先に
まばゆいばかりの音の輝きを認めるのだが、
このブライトネスとスピードを
ハイエンドオーディオの領域で表現するのは、
私の近年のテーマである。

彼の代表的なソロアルバムとして
“Erotic Cakes”(2006)がある。
録音云々以前のインストアルバムだが、
オリジナル曲の出来の良さと
演奏のテクニックは最高と言い放ちたい私。
このアルバムの一曲目、“Waves”を流しながら
新年のファーストレビューを始めよう。
今夜はNVS cables Copper1 XLRという
一組のバランスインターコネクトケーブルに
“Waves”の音声信号を通している。

私が知るケーブルの中で
現在、総合的に最も優れた
インターコネクトと考えられるJorma ORIGO。
このインタコに匹敵する能力があって、
しかも、もっと安価なケーブルはないか?
というリクエストがあったのが2011年の夏である。
この宿題に答える過程で、
年末までに
10種あまりのケーブルを借用しテストしてきたが、
このNVS sound cable Copper1は、
その中で最も優れたもののようだ。
Guthrieの運指が超快速で弦たちをつまびく様を
これほど流麗に、そして
スケール豊かに堂々と表現できたことはいままでなかった。
しかも、このケーブルはJorma ORIGOに
勝るとも劣らないハイエンドケーブルでありながら、
価格はORIGOの6割ほどに抑えられている。
(2011年末現在、XLRケーブルで0.9m、32万円となる。
実売はもう少し安いかもしれない。
なお、写真は代理店様のHPから流用させていただいた。
貴重なケーブルをお貸しいただき、ありがとうございます。)

外観:
径約15mmと、やや太く、
とても重たいケーブルである。
0.9mのXLRのペアで1.8Kgもある。
なんと一本1mあたり1kg近いのだ。
導体の周囲に特殊な金属の粉が充填されているためである。
長さを1.5m以上にすると、さらに重くなる。
しっかり締めていないRCAコネクターだと抜けてしまったり、
逆に機器がラックの後ろに
引きずりこまれたりしそうなほど
重たいケーブルである。
取り回しについては
線体自体はしなやかであるが、例によってねじりにくい。
XLRは、時にねじらないと
アンプのコネクターにはまらない場合があるが、
このケーブルの場合、
1mだと、その点で少し苦労するかもしれない。
とはいえ、上記のごとく1.5m以上というのは
本体重量の面で問題がある。
やはり1mで行くしかないと私は思う。

手元にあるものはXLRの1mであるが、
そのプラグはフルテック製となる。
このコネクターは、
外側にすっぽりと金属の筒が被せられている。
おそらく、金属粉を詰め、
さらに、それが漏れないようにシールしているのだろうが
そのシール部を覆う役割、
そしてコネクターとケーブルが
離れにくいようにある程度固定する役目が
この金属の筒にはありそうに思う。
もちろん、音響的意味合いもあろうが、
聞いていて、
これが音質の上でも大きな役割があるとは思えない。
もしそうしたいなら、
カーボンやデルリンなど他の素材も考えた方がいい。
しかし、
左右でメタリックレッド、
シルバーで色分けされたこの筒は
とても目立つ部品ではある。
この部品を入れるとXLRコネクター部は長くなり、
バックパネルから9cmほど突出する。
機器の後ろには、ゆとりある空間が欲しい。
またこのケーブルは重さがあるため、
パネルに直角にコネクターが刺さりにくい。
重さで下方にふれたり、側方にブレたりしやすい。
ケーブル本体をどこかに落ちつけておく
ケーブル台のようなものが必要かもしれない。

線体そのものは、黒いネットで仕上げられた
ごく普通のもののように見えるが、
持ってみると既述したとおり、とても重い。
タングステン粉でも入っているのか?
下位モデルのCopper2より、
三倍の重さのある特殊な粉体を導体の周囲に詰めて、
完璧な制振とノイズシールドを期しているという。
導体は6N銅のリッツワイヤーであり、
直径の異なるもの混合し、撚り合わせたものだとか。

NVS soundというメーカー名は創業者である
Nathan Vander Stoep氏のイニシャルから来たものである。
彼は、このケーブル専業メーカーを
純粋なオーディオへの関心から、
2010年に起こしたものらしいが、
製品自体の仕上げには
素人じみたものがあまり感じられず、
十分に洗練された雰囲気のケーブルとなっている。

かつてフォノンという日本のケーブルメーカーがあり、
高純度プラチナの単線を導体とし、
周囲にタングステンの粉を詰め、
面白いケーブルを作っていた。
やや地味な音ではあったが、
ピンポイントで定位する確かな音像の実在感は
この粉体の充填による制振と
電磁シールドによるものと聞けた。
あのような音が再び聞けるのだろうか?
実際には、全く予想外の展開が待っていた。

音質:
SACDプレーヤーからプリアンプの間に
このケーブルを通すと
実体感、躍動感ともに豊かでありながら、
細部にしっかりとフォーカスの合った
有機的なサウンドが聞ける。
これは色づけなく音を素通しするような、
無色透明系のケーブルには聞こえない。
ややモニター的と言いたくなるほど
ソースを素のまま、裸の音を出せる側面はあるが、
Saideraのケーブルのような客観性が、あまり感じられない。
むしろ主観的であると思える。
時に音楽的とさえ言える、
ダイナミックな鳴りの良さが、この主観性の本態だろう。
これほどの鳴りの良さは、
滅多には聞けないほどのメロディの流れの力強さ、
芸術的な滑らかさにまで通じてゆく。
ことに人の声や弦楽器の旋律の訴えかけは強力。
ともすれば発散する倍音の美しさに頼って、
美的に演出されることの多い、弦楽、声楽を
音の芯の訴求力、緊張感で描き切ってしまう。
どちらかというと
シンプルな直接音優先のサウンドで、
ここまでインスピレーションを
かき立てられた例をほとんど知らない。
時に利己的とさえ言えそうな主張の強さがなければ、
このサウンドにして、この感動は得られぬだろう。
単に優等生的なハイエンドケーブルが多い中で、
音の軸がしっかりとある
個性的なサウンドと聞けて好感度は高い。
このケーブルは音像の主張が強く、
空間性の表現に、むしろ乏しい。
それでいて全くストイックにならず、
これほど濃厚で豊かなサウンドが得られるのは不思議だ。
音像がしっかり立つ定位感はもちろんあるのだが、
それよりも、
音像を流麗な音のうねりとして捉えることが優先されている。
なにを聞いても、全く静的な印象がなく、
この手の金属粉による
振動、ノイズ対策を施したケーブルにありがちな
閉塞感、過剰な静寂感はまるで感じない。
むしろ、常に音声が大きく動き、うねる。
時に、もがきにも似た狂おしい表現すら登場する。
この音世界の中で、
楽曲が、歌詞が、時に声高に、時に饒舌に
メロディーに乗って流れ、滔々と歌い綴られてゆく。

音の質感表現はかなり精緻であり、
アルバムによっては、ボーカルと伴奏が別々に録音され、
最終的に一つの音にモンタージュされている様子が
つぶさに分かるほどだ。
ボーカルの響きと伴奏の響きが微妙に溶け合っていないので、
その仕掛けが一聴で分かる。
その意味、楽器の分離が良いとも言える。
過剰なほどの制振、ノイズシールドの威力が、
ここに出ているようだ。
私の環境で聞くかぎり、
裏に回った楽器たちの活躍に耳をこらすことも容易だ。
後ろで、こんなことをやってたのかと
ニヤリとする瞬間は少なくない。
こうなると
制作側としては知られたくない
アルバムの音作りの細部さえ白日のもとに曝される。
このケーブルでは、
このように些細な音がよく聞こえるが、
それは直接音が
倍音成分に溺れて聞こえにくくならないためのようで、
解像度そのものは非常に高い方ではないし、
音数は実はそれほど多くはない。
こういう聞かせ方は
現代ハイエンドケーブルの正攻法ではないだろう。
しかし、確かに成功しているのだ。

高域は過剰な表現はなく、慎み深い。
伸び切り、抜け切る、
なにかプレミアムな高域は期待できない。
一方、中域の充実度は、
このクラスでは最強の類かもしれない。
このシンセサイザーの音すら
有機的な生物音として聞かせる、
人肌の温度感、密度を伴う弾力感、
そして音楽を先へ先へ進展させてゆくエネルギー。
これらのオーガニックな要素が
中域に集中しているようだ。
低域はやや膨らんでいてソリッドさに欠けるが、
それは現代のケーブルが排除した
低域の豊かさに通じる道だ。
この膨らみもこのケーブルの音作りにおいて
欠くべらからざる感覚かもしれない。
当然と言うべきか、この低域のインパクトは強い。
剛直なこの低域の衝撃音には荒々しさが宿っている。

Guthrie Govanの爪が紡ぎ出す
黄金のハイスピードリフが、これほど輝かしく、
豪壮に鳴り響いたこともない。
演奏者そのものにくっきりとフォーカスした、
極彩色の音たちの乱舞が
アメリカンサウンドのカッコよさを私に堪能させる。

ブラックミュージックの多くも上手くハマるソースだ。
ディ・アンジェロのボーカルが
これほど凄々と歌うケーブルを私は知らない。
ブラックミュージックを好む方は一度は聞いて欲しいものだ。

スピーカーオーディオだけでなく、
ヘッドホンオーディオにおいても上記の美点が
すべからく継承される。
ヘッドホンアンプにCopper1を結線した音は
Jorma ORIGOの時よりも、
さらに近くでギターが鳴っているように感じられ、
音の密度感、ドライブ感は3割増しほどとなる。
ヘッドホンオーディオにおいて、
これほどに輝く、強力な音像を得られるケーブルは、
今のオーディオ界には、まずないはずだ。
空間性をことさらに重視せず
極上の音像感を手に入れたい
ヘッドホンファイルたちに薦めたい。

告白すると、スピーカーオーディオよりは
ヘッドホンオーディオにおいて
このケーブルの良さが
明確に発揮されるように個人的には思えた。
現在はヘッドホンシステムでばかり
Copper1をテストしている自分に気づく。

Jorma ORIGOはCopper1に比べて、
音像感と音場感のバランスが良い。
どのような聞き方を嗜好しようとも、
そのニーズに十分対処できる。
一方、Copper1は音像の克明さ、存在感に
スポットライトを強く当てられるケーブルである。
音場の表現を強く求めるならやや合わない。
単純に言えば上記のような違いが
これら二つのケーブルにはっきりと感じられる。

Copper1は、
過去に体験したケーブルの中で言えば、
強いて譬えるなら、
NBSやCardasのトップラインのサウンドと
若干の類似性があるように思う。
これらのケーブルのサウンドをNVS流に洗練したもの
そう解釈してもらっても、
それほど外れることはないように思う

今回は同時に
Copper1の改良型とされる
Signature edition XLR(1.5m)も試聴できた。
外見はほぼCopper1と区別がつかない。
これは従来の6Nリッツ線に
4+4の特殊なブレイド構造を持つ導体を加え
ハイブリッド構成として、
空間性の向上を狙っているケーブルであるという。
その音はCopper1よりも、左右の広がりがあり、
かなり音のスケールが大きい。
このケーブルを使うと
大音量のオーケストラ曲は本当に聞きモノで、
クラシックに限らず、
オーケストラ編成ばかり聞いている人には
ぜひ一聴を薦める。
(代理店であるアイレックス様のHPを開くと
自宅試聴の申し込みができる。)

とはいえ、
この音場感、製作側の狙い通りなのかもしれないが、
Copper1のような有機的な流麗さ、
動的な音像感という主張が薄くなり、
個人的には、どこかつまらなく聞こえることもあった。
この方向性なら、スケール以外の点で
他のメーカーのケーブルでも
優等生がいるだろうとも思う。
もし、私がグレードアップするなら、
導体自体を7N、8Nに上げてみたい。
また、粉体の重さだけで制振するのではなく
さらに材質、構造等を工夫し追加することで、
複合的な制振を施す方策もあったのではないか。
私的には
Copper1の方が主張がはっきりしており、
製品としての完成度が高く感じられた。
(余談だが、この音のスケールの大きさは
ヘッドホンオーディオにあまり合わない。
やはりスピーカーオーディオ向けだ。)

さらに、銀線を用いたSilver2(RCA,1m)も試聴できた。
被覆の色がグレーに変更された、
普通の太さのケーブルであり、重くないし、
しなやかで扱いやすいものだ。
その音はといえば、
やはり銀線ケーブルらしい倍音成分が伸びる音。
しかしながら銀の過剰なクセは抑え込まれ、
ナチュラルでとても聞きやすい。
レンジ感、スピード感、表現の正確さ、
どれも完全に及第点以上の優秀さであり、
価格によってはお薦めのケーブルになりうる。
ただ、
こちらにも、はっきりした主張を私は感じなかった。
やはり、Copper1の方が
極限まで音を追い込まれた製品であり、
完成された音づくりを誇示できるケーブルと聞けた。

まとめ:
現代には優れたケーブルは多々あるが、
キチリとした主張を聞かせうるケーブルは、そう多くない。
その主張が
確信犯的に狙ったものであるにしろ、
たまたま行き着いた場所であるにしろ、
そこに差別化を生む特徴がない限り
ケーブルによる音質の向上を願う立場において
大金を払う価値は無いように思えてならない。
無色透明を目指すのも一種の主張であるし、
徹底的に曲想を改変するほどの主張もアリである。
音の各要素が優秀で、
それらのバランスが取れているというだけで、
存在価値を見いだせるほど、
今のオーディオ界は甘くないのだろう。

逃げるJorma ORIGOを追い詰める
NVS Copper1という図式は、
今回の試聴中、終始一貫していた。
いささか稚拙に過ぎると言われようとも、
そのイメージから、どうにも逃れ難い。
Jorma ORIGOが高価で・・・という方には
試聴をお薦めしたい。

私はこれからも
あまたのケーブルを聞き、実際に買うであろうが、
このNVS Copper1の音は決して忘れないだろう。
そういう根拠のない自信が、数々の試聴を経た今はある。
これは生理的な欲求に基づく自信なのかもしれない。
また、およそオーディオ的ではないにしろ、
Guthrieの爪が掻き鳴らす、
あのサウンドが忘れられないのと同じかもしれない。

自分が、どんな音を聞きたいのか、
はっきりと分かっている者だけに許される一途な情熱。
それにのみ衝き動かされ、
書き始めた今回のレビュー。
サウンドに陶酔しつつ、快調に書き進めるうち、
その情熱が
ギタリスト、
Guthrie Govanのものなのか
ケーブルメーカー、
Nathan Vander Stoepのものなのか
とうとう私には分からなくなってきた。
この意外な展開、見ようによっては新たなる境地と言えなくはないか。

こんな調子では
どうやら、今年も
オーディオという悪趣味から足を洗えそうにない。

追伸:
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