思えば、
随分、いろいろなインターコネクトケーブルを通して
音楽を聴いてきたもんだ。
今、手元に残っているのは3組。
Jorma ORIGO XLR
Jorma PRIME RCA
Argento audio Flow Master Reference XLR(FMR)。
スゥェーデンとデンマークのケーブルだ。
Jorma ORIGOというケーブルは
価格を考えると最高にいいモノなのだが、
ハイエンドインターコネクトとしての
絶対音質という観点からは
やはりPrimeとFMRには及ばない。
この二人は全く異なるキャラクターを持つモノであり、
使い分けに上奉書屋個人は、
かなり悩まされてきた。
試行錯誤の末、
メインシステムの
SACDプレーヤーとプリアンプの間にPrime、
ヘッドホンシステムの
KLIMAX DSとヘッドホンアンプの間にFMR
という具合に今は落ち着いている。
落ち着くと音楽に没頭できるものだ。
昨夜、久しぶりにヘッドホンでLet it beを聞いた。
この、ビートルズの代表曲は
もう30年以上も前、
映画の主題歌で使われていたのを聞いたのが最初。
その当時、
いい曲だな、と思って、中学生の私が鼻歌で歌っていると、
母親が水色のカセットテープを買ってくれた。
東芝EMIのビートルズのベストアルバムである。
Let it beが特に好きだったので、
その夜は
テープを何度も巻き戻し、
このポールの曲だけを繰り返し聴いたのを思い出す。
Let it be. Let it be. Let it be. Let it be.
すべてなすがままに。
その真の意味は
最善をつくした後は神にまかせよ、ということなのだそうだが。
月日は流れ、
そのテープは擦り切れて聞けなくなってしまったが、
あの遠い夜から昨夜までの間、
何度も何度も、
様々な場所で聞いた。
Let it beを。
不景気をぼやくタクシーのラジオから、
昭和の喫茶店のスピーカーから、
テントに吊るしたレシーバーから、
祖父の店の厨房にかけてある油まみれのラジオから、
友達のオープンリールシステムから・・・・・。
数え切れないほどの多くの場面で
Let it beという言葉を、あのメロディを
ポールの声に乗せて聞いてきた。
しかし、
昨夜ほど、
Let it beを聞いて感心したことがなかった。
そんな気がする。
Klimax DSにハイレゾデータのありかを指してやり、
プレイボタンを押して、
歌が始まった、まさにその刹那。
イギリスにあったであろう、
私の知らぬはずの室内で、
淡々と歌いだす、
ポールの涼しげな横顔と口元が
リアルな映像として目蓋の奥に鮮やかに見えた。
当たり前の事ように。
遠い昔に自分が立ち会った光景のように。