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日記

ケント・ナガノ指揮チェコフィル(プラハ音楽三昧その1)

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2013年12月19日



プラハ音楽三昧の旅日記。

その第一夜は、「ルドルフィヌム」内のドボルザークホールでのチェコフィルの演奏会。

実を言うと、これがとんでもないドタバタ。事前にネットでEチケットを買っていたのですが、日付を間違えてしまったのです。

プラハ空港到着は18:45。その日は、ホテルにチェックインするだけで、チェコフィルのコンサートは翌日のつもりでした。それがついネットでポチの押し間違い。気づいたのは出発の前日という体たらく。もうなかばあきらめていたのですが、とにかく空港からホテル、ホテルからホールまで、ダッシュ、ダッシュの連続。

おかげで、さすがに開演には間に合わなかったものの、プログラム前半のマルティヌーの「二重協奏曲」の第二楽章から入れてもらいました。

途中入場ということで案内されたのは、2階の左バルコニー席。まず、ホールの美しさとその響きのよさにたちまち魅了されました。このホールは変わった構造をしていて1階席は両側を取り囲むように壁があって、その壁の頂点に3列ほどのバルコニー席があります。2階席入り口から入ってもその壁が立ちはだかっていてステージは見えません。階段を登って席につくと初めてステージが見えるという風になっていました。



1885年の開場でネオ・バロック様式の荘重さと華やかさが共存する美しい内装に心奪われる思いがします。同じ頃に建てられたウィーンのムジークフェラインとともに、近現代のホールとは一線を画した残響の長さと美しいアコースティックを誇りますが、ドボルザークホールは約1000席で、空間容量もウィーンの約3分の2、アムステルダム・コンセルトヘボウと比較するとその半分でしかないのです。



その長い残響であっても、そのサウンドは澄んでいてとてもクリア。現代曲のマルティヌーであってもその音のキレはいささかも損なわれていません。マルティヌーは二十世紀前半に活躍したチェコ出身の作曲家。弦楽オーケストラを二手に分け、ピアノとティンパニーをソロとする二重協奏曲は初めて聴く曲で、しかも途中入場とあって、鑑賞したうちには入らないのかもしれませんが、ものすごい集中力を体感しました。スメタナやドボルザークとはまた違ったものですが、自国出身作曲家作品に対する、演奏家、聴衆と一体となった熱い思いを感じます。



…さて、後半は、いよいよブルックナーの9番。

いよいよ本来の1階席の鑑賞です。この1階席はたった600席ほどしかありませんが、それでもステージに所狭しと並ぶ16型フルオケの大音響であってもいささかも飽和しません。バルコニーから1階フロアーをながめた時は、ステージと強めの傾斜の客席がほとんど半分ずつという眺めで、何と贅沢なホールだろうと驚いたほどです。

そのほぼ中央の良席を得て聴く「9番」は、これこそブルックナーというべき中低域がたっぷりとした立体的な厚みがあって、広々とした雄大な響き。ホールの響きが豊かであっても、ステージがとても近いので、各パートが明晰で、特に、チェコフィルの弦パートの熱い高まりが直接伝わってきます。

特徴的だったのは金管。向かって左手の8本のホルン(うち4本はワーグナーチューバと持ち替え)と、右手のトランペットとトロンボーンは、いずれもひな壇上ではなく弦楽器群と同じ平土間に座っていて、視覚的にも音響的にもオーケストラ全体の中に溶け込んで一体となって下から湧き上がるように響きます。あの第3楽章開始早々のフォルティッシモの高まりのなかで鳴らされるトランペットの鋭い32分音符のついた音型もあくまでもトゥッティの内部で内声的に響き、決して突出しない。これがチェコフィル伝統の配置なのか、ケント・ナガノのブルックナー解釈なのかは不明ですが、この響きはいかにもブルックナーらしいと言えます。

対照的なのはコントラバスの配置で、こちらはオーケストラの最後方、最上段に8台並んでいます。パイプオルガン直下の壁を背にしている低音が上から流れ落ち、オーケストラを押し流すようにして渾然となった響きが客席に押し寄せてくるのです。

3秒もあるドボルザークホールの残響は、二階バルコニー背後のデッドスペースの効果もあるのでしょうか、ほんとうに遠くて、尾をひくように長い。だから、ひんぱんに登場する「ブルックナー休止」でも響きは途切れることがありません。フェルマータ付きの長い静寂であっても残響音がホールを満たし続けていて、直後の楽想の転換に唐突な感じを与えない。これは、まさに大聖堂でのパイプオルガンの響きだと思い当たりました。「ブルックナー休止」とは、こういうことだったのか、と目からウロコが落ちた思いがしました。



ケント・ナガノは、終始、にこりともしない。実に峻厳な顔つき。それは、このブルックナーの演奏そのもの。厳格荘重、ゆっくりとしたテンポで決して揺るぐことがない。チェコフィルは、実は、アンサンブルが粗っぽくてしばしば乱すし、キズも少なくないのだけれど、力があって情感の流れが乱れません。ケント・ナガノがいかに峻厳であっても、その音楽には人間的な熱い感情があり、超越的な存在への憧憬と敬けんな祈りがこもっていて、とても暖かく柔らかい。欧米メジャーのスターオーケストラがとうに失ってしまったその土地の伝統や、素朴で土の香りのするような人間性があって、音楽にかける情熱が赤々と燃えているのです。アダージョの後、ナガノのタクトが降ろされてもしばらくは咳ひとつ聞こえず、深々とした訣別の静寂が続きました。

プラハに来てよかった。このブルックナーは日本ではとうてい聴くことができない。

…どたばたの初日でしたが、そういう幸福感で胸がいっぱいになりました。



(蛇足)当日の演奏は、チェコ放送局によりライブ放送がされていました。



チェコ・フィルハーモニー管弦楽団第118期B定期演奏会
2013年12月11日(水) 19:30
チェコ・プラハ ルドルフィヌム(芸術の家)・ドボルザークホール

指揮:ケント・ナガノ

ボフスラフ・マルティヌー:
二つの弦楽オーケストラ、ピアノとティンパニのための複協奏曲 (ピアノ、ティンパニ独奏)
ピアノ:ヴァーツラフ・マーハ
ティンパニ:ミハエル・クロウティル(チェコフィル首席)


ブルックナー:
交響曲第9番ニ短調(未完成)

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  1. ベルウッドさん

    こんにちは。

    本場でチェコフィルとは羨ましい限りです。
    といってもとんだ珍道中だったようで・・・
    チケットが無駄にならなくて良かったですね。

    ホールやオケ編成の様子がとてもよく伝わってきます。
    残響と「ブルックナー休止」ウロコの話もとても興味深く拝読しました。

    チェコフィルはサントリーホールで妻と聴いたことがあります。
    私はベルウッドさんほど詳しくありませんが、華やかさとは反対の、素朴な演奏だった記憶しています。

    静岡在住なので、国内の演奏会でも地方のハンディがありますが、10月チョン・ミョンフン(静岡)、11月ヒラリーハーン(東京)、1月庄司紗矢香(横浜)、4月ギドン・クレーメル(名古屋)、5月マゼール=ボストン(東京)と東海道を妻と転戦しています。

    続編を楽しみにしております。

    bymerry at2013-12-19 12:43

  2. merryさん ありがとうございます。

    私も、チェコフィルは何やかやこれで3度目でした。でも本拠地で聴いたのは初めて。予想はしていたもののやはり本拠地での演奏は格別です。響きがよくて小さめのホールで育ったオーケストラなので、西欧や北米、日本のような現代的な大ホールはちょっと苦手のようです。

    東海道沿岸の転戦、すごいですね。

    マゼール=ボストン響だなんて、私のプラハ4晩分のコンサートのチケット代全部に相当します。逆にうらやましいです(笑)。

    byベルウッド at2013-12-19 13:13

  3. こんにちは

    旅立ちましたね、無事の到着何よりです。
    東側は50年程冷凍保存(笑)されていたので欧州が残っていてキレイですね。
    そして残っている音楽を取り巻く文化全体も色が濃い様子、素晴らしいです。

    この後はいよいよエルベ川を北上でしょうか?
    旅の無事を祈っています。ボン・ボヤージュ

    byLoge at2013-12-20 12:24

  4. Logeさん こんにちは

    プラハは、二度の大戦でも戦禍を免れたために美しい中世以来の街並みが残されていてほんとうに素晴らしいです。もちろん共産政権下で戦後の経済成長に取り残されたこともありますが、そもそもチェコ人は古い建物を壊すことをせずに継ぎ足し継ぎ足しで使っていく性格らしく、本当に見所の多い町で飽きることがありませんでした。

    当初は、ドレスデン、ライプチヒ、ベルリンとまわるツアーのはずだったのですが、そのツアーがつぶれてしまい、超格安ツアーでのプラハ行きになりました。いわゆる「売れ残りツアー」でツアーコンダクターも無し、往復のチケットとホテルだけであとはとにかく自由行動というプラハ滞在だけのツアーです。

    おかげさまで音楽三昧のしたい放題でした(笑)。

    byベルウッド at2013-12-20 18:10

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