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日記

「ラインの黄金」(演奏会形式)

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2014年04月09日



東京春音楽祭のメインとなるワーグナーは、今年からマレク・ヤノフスキ指揮による『指輪』シリーズとなる。そのスタートとなる先夜は「ラインの黄金」。

これが素晴らしい演奏だった。

何よりも歌手陣がとてつもなく充実していて、なかなか日本では聴けない充実した味わいのワグナーだった。コンマスにウィーン・フィルのライナー・キュッヒルをすえたN響が、ヤノフスキのタクトのもとふだんは聴けないようなテンションの高い快演を聴かせた。月曜の夜にもかかわらず東京文化会館は満席で、熱気が充溢していた。



「ラインの黄金」の魅力は、コンパクトな一幕ものに凝縮された集中度の高さ。

ワグナーは、「ジークフリートの死」(「神々の黄昏」)から着想し、物語を遡るように書き進め、最後にすべての事の始まりを集約した「ラインの黄金」の台本を書き上げた。いわばこの楽劇は、「指輪」の“エピソード・ワン”。一方で、音楽は順番通りに書き上げていった。

このことがストーリーの密度の高さをもたらし、しかも「トリスタン」による中断後に書かれた「ジークフリート」以降の室内楽的緻密さとは違ったワーグナー中期のぶ厚いオーケストラの和声進行と、原始世界の混沌を表す変ホ長調主和音の響きを原点として、その後、様々に派生し駆使されるライトモチーフが満載されている。


そういう魅力を、ヤノフスキが小気味よいペースできびきびと進める。演奏会形式だけに、くどくどした舞台装置や演出、演技がなく、音楽が流れよく一気に進行した。演奏時間は2時間20分を切っていたので相当の快速。

その原始の「序奏」の開始が素晴らしい。マゼールの時でさえ不安定だったホルンも見事で、この日、終始、重厚な低音を聞かせ大健闘の8台のコントラバスが地底の奥底から響くようだった。


アルベリヒのトマス・コニエチュニーがこの夜のヒーローだった。ダイナミックな声量とあくどい声質、演技力といいその存在感は圧倒的だった。思えば「黄金」の事実上の主役はアルベリヒなのだ。このキャスティングだけでも東京春祭のレベルの高さを誇示してよい。


ヴォータンのエギルス・シリンスは、劇が進行するにつれその良さが浸透してくる。権力の中枢にあり限りない権力欲に駆られる神々の長でありながら、神々の没落を招く優柔不断の恐妻家という二面性を実によく体現していた。


そのヴォータンが頼りにする軍師ともいうべきローゲのアーノルド・ベズイエンの歌唱と演技の巧みさにも感服。火を司る神のローゲは、《炎》がそのドラマを包み込む「指輪」の物語にとって重要なレトリックの中心となるが、ここではさながらウォール街の強欲弁護士のように人々の強欲を食い物にする駆け引きを演じて見事。

巨人ファーフナーとファーゾルトは、ステージ右手後方に配置され、演奏会形式とはいいながら効果的な立体感があった。そのフランク・ヴァン・ホーヴとシム・インスンもなかなかのキャスティングだが、歌唱はやや紋切りで単調気味だったのが残念。

ミーメのヴォルフガング・アブリンガー=シュペルハッケも、本作では活躍が限られるがなかなかの味を出していた。再来年の「ジークフリート」で本領を発揮させるべく再起用をぜひ期待したい。

フリッカのクラウディア・マーンケもよかった。短い登場ながらなかなかの存在感を示したのはエルダのエリーザベト・クールマン。エルダは突然出現して啓示的な警告を発するので劇場では《せり》などが活用され工夫が凝らされるが、今回は右二階席から登場し意表を突いた。ここでも立体的な配置が成功していた。

ドンナーのボアズ・ダニエルはやや期待はずれ。端役ながら雲を集めハンマーを振るう場面という「黄金」の大詰めのクライマックスを任されているのに迫力にかけた。しかも、これまで大健闘していたホルンがよりによってここでこけた。ハンマーを振るわず、まるで坊主の鉦みたいに「チン!」と鳴ったときは思わず力が抜けた。まだまだ私たちはショルティ盤のデッカ録音の呪術にはまっているということかもしれない。

ラインの乙女、フライアを歌った日本人歌手陣も好演。音楽的にとても高いレベル。惜しむらくは言葉の力に欠けることで、ラインの河底でのアルベリヒとの絡みでも、ひたすら「助けて!」と叫ぶ美神の自尊心のゆらぎも、どこか実がなくて他の歌手と噛み合わない。一般論として日本人歌手が乗り越えなければならない言葉のハードルなのだろう。

ステージ奥の映像も控えめで、それでいて視覚的な退屈さを避けながら、場面を表象するという機能は十分。クローズアップというミニマルな動画要素も抑制が利いていてよかった。広瀬大介氏の字幕がよい。平易・明解で、なおかつ、映画の字幕のように表示されるワンフレーズがうまくまとめられ歌唱とよく同調していた点が特筆されてよい。この公演の影の立役者だと思う。

こんなに充実した「指輪」が、日本で堪能できることはほんとうに幸いだ。来年もいまから待ち遠しいほどに楽しみ。






東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.5
『ニーベルングの指環』
序夜《ラインの黄金》(演奏会形式・字幕映像付)

指揮:マレク・ヤノフスキ [インタビュー]
ヴォータン:エギルス・シリンス
ドンナー:ボアズ・ダニエル
フロー:マリウス・ヴラド・ブドイウ
ローゲ:アーノルド・ベズイエン
アルベリヒ:トマス・コニエチュニー
ミーメ:ヴォルフガング・アブリンガー=シュペルハッケ
ファーゾルト:フランク・ヴァン・ホーヴ
ファーフナー:シム・インスン
フリッカ:クラウディア・マーンケ
フライア:藤谷佳奈枝
エルダ:エリーザベト・クールマン
ヴォークリンデ:小川里美
ヴェルグンデ:秋本悠希
フロースヒルデ:金子美香
管弦楽:NHK交響楽団
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

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レス一覧

  1. こんにちは

    近年のお話を聞くと国内でもワグナーの秀演を聞く事が出来る様になったそうですね。
    私たちの若い頃から比べると隔世の感があります。

    さて、ヤノフスキーで実演とはなんとも羨ましい体験でした。
    80年代の初頭にエテルナで入れた全曲盤を(誰も評価してくれないので)こっそりと愛聴しています。造形的に確固たるものがあり、書かれている様に曲の素晴らしさが良く分かる演奏だったと思います。

    >まだまだ私たちはショルティ盤のデッカ録音の呪術にはまっているということかもしれない
    全くおっしゃる通りです。曲を聴き進めて行くうちに私たちの脳の中では、目の前の音ではなくいつの間にか遥か昔のウイーンの音をトレースし始めるので現実の音の「ちゃち」なことにドキッとして我に返ることありますよねえ。

    最後に、
    Logeに感服ですか。すんばらしい!
    しかしまあ、Loge役の声色はなんともLogeな声を作りますよね、ワグナーも歌手もすごいと思います。まさに意図伝達手段の最高峰です。

    byLoge at2014-04-10 11:40

  2. ベルウッドさんこんにちは

    ラインの黄金を東京で観に行かれたのですね。私はオペラはまったくの素人なのですが、ショルティの指輪は貧乏学生時代に手に届かない高嶺の花として象徴的に覚えています。
    実はNHKのミラノスカラ座指輪放映と、WOWOWのMETの指輪放映分を全部録画しているのですが、何年も経っているのに未だに全部観れていません。。。衛星放送で全部を放映するというのは恵まれた時代で、まさに隔世の感がありますが、指輪をすべて観るのは相当な気合(?)が必要ですね。。。

    byモニオ at2014-04-10 14:14

  3. やはり、東京文化会館だと、N響でも、コントラバスは鳴るのですね。NHKホールで弾かせるのは、酷なのかな。

    byGRF at2014-04-10 20:01

  4. ワタシも聴きに行きました。ラインの乙女がモタりまくっていて酷かったので、あんなに端で歌うんじゃ無くて、指揮者の目の前に来させれば良かったのに、と思いましたです(苦笑)。快速っていうか、第1場は幾ら何でもテンポが速すぎるんじゃないかと思いましたが、土曜日はもっと速かったらしいです(・・;)。

    byGEA01171 at2014-04-10 20:49

  5. Logeさん

    >80年代の初頭にエテルナで入れた全曲盤を(誰も評価してくれないので)こっそりと愛聴しています。

    SKDとの録音ですね。歌手陣がすごいですね。「東京・春・音楽祭」のHPで音楽評論家の東条禎夫氏が何やら言わずもがなのことを言っています。どうもこのひとは評論家としての本分を忘れたもの言いが多いですね。

    今回の公演では、ローゲの役どころが本当に鮮やかでした。歌手のアーノルド・ベズイエンさんの力量だと思います。まさに「キャラクターテノール」のお手本です。

    byベルウッド at2014-04-11 10:08

  6. モニオさん

    私も「指輪」を実際の公演で接するようになったのは最近のことです。通しで観たというのは、新国立劇場が2001年から04年にかけて上演した「トーキョー・リング」が初めてでした。

    学生時代はもっぱらFM放送でした。毎年末、その年のバイロイトでの録音を放送していたのでそれを、家の大掃除を手伝いながら聴いていたのです。ショルティ盤もFMで聴くだけでしたね。それも放送時間や話題性の点で「ラインの黄金」、しかも、ドンナーが雷雲を呼び寄せ鉄板をバーンと鳴らす場面が多かったのです。

    METライブビューングは、映画館で観ていますが、あまり音がよくないのが残念です。メットの舞台はカネがかかっていてさながらラスベガスのショーのようで豪華ですが、音楽的にはちょっと空疎です。「ラインの黄金」では、大きな斜面に半ば吊されるようにして歌手が歌わされるのは気の毒でした。特に、ローゲは足元が悪い状態でへっぴり腰で歌わされて台無しでした。

    byベルウッド at2014-04-11 10:18

  7. 和室のユニコーンさん

    東京文化会館だからというより、やはりヤノフスキの力量なのではないでしょうか。正直言って、8台だけであれだけ十分な低域バランスで鳴っていたことが意外でうれしかったです。N響の低弦パートにブラボーです。(女性奏者もいたので“ブラビー”かな)

    面白かったのは金管の配置です。右手にトランペット(高域)。左手にホルンやワーグナー・チューバ(低域)、中央にトロンボーンを並べますが、やはり右から左へと並べ最左翼がバストロンボーン(最低域)。弦楽器の配列と対称的で、これがなかなか面白い立体音響になっていました。

    byベルウッド at2014-04-11 10:25

  8. GEA01171さん

    いらっしゃっていましたか!?

    第1場の、乙女はよくなかったですね。最後の舞台裏から聞こえてくる乙女がよかったので、やっぱり音楽的には素晴らしい力量の人たちなんだなぁと思い、それで日記のような評としました。

    ヤノフスキの快速ぶりは評判だったようですが、私は少しも「速過ぎる」とは感じませんでした。東条禎夫氏の評あたりから伝播・拡大したのではないでしょうか。

    私にとっては、明晰・明快、ストーリーの展開としてもほどよいテンポでした。演出が優先されてしまうと、こうは行かないかもしれませんし、抜粋のオーケストラル演奏でもちょっとあっさりし過ぎるかもしれません。演奏会形式ということでのテンポ設定なのかもしれません。

    byベルウッド at2014-04-11 10:35

  9. ベルウッドさん、今晩は。

    通常であればベルウッドさんの日記にレス出来るレベルではないのですが、指輪と聞くとつい嬉しくなってしまいまして(笑)

    日本で指輪4部作が堪能できるとは思いも掛けませんでした。
    いつかゆっくり国内で指輪を楽しめる日を夢見てております。

    ちなみにハンマーは見せ所ですから、「チンッ」はありえませんねぇ。NHK-BSでスカラ座の神々の黄昏を録画し損ねた矢切亭主人でした(笑)

    by矢切亭主人 at2014-04-12 19:53

  10. 矢切亭主人さん

    レスありがとうございます。

    ハンマーには誰もが期待しますよね。それを外されるとちょっと痛い。今回の公演は、演奏会形式ですが「指輪」は、演奏会形式のほうが音楽が濃密ですね。それでもナマの楽劇も観てみたいという気持ちはあります。「トーキョー・リング」のようなナマ「指輪」の本格的でハイレベルな公演もまたあるのではないでしょうか。

    byベルウッド at2014-04-14 15:36

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