日記
ザルツブルク音楽祭モーツァルテウム(ドイツ音楽三昧 その2)
2015年08月19日
ドイツ音楽三昧の第二日。
この日は、さっそくのハードスケジュール。日帰りでザルツブルクのマチネーに行き、夜はバイエルン国立歌劇場でオペラ鑑賞というダブルヘッダー。
ミュンヘンからザルツブルクは電車で2時間ほど。だいたい1時間に1本のRE(リージョナル・エキスプレス=ローカル快速電車)が出ています。コンサート開演は11時ですので、十分に日帰りが可能です。
…と思ったのですが
何かあってはと、2時間ほどの余裕を持って、7時発の列車に乗ることにしていたのですが、中央駅にたどりつくまでにとんでもない目に。週末は工事ということで地下鉄は単線運行。ホームは違うし、やっと来た電車はなかなか動き出さず、気がついた時は、予定の列車にはもう間に合いませんでした。
それでも1時間の余裕を残しているので、気を取り直して次の列車に乗り込んだのですが、なかなか出発しません。ようやく20分遅れで出発しましたが、すぐに止まってしまいました。何と、レールを間違えてザルツブルクではなく真逆のニュールンベルク方面に向かってしまったとのこと。また、駅に戻って再出発。この時点ですでに40分の遅れ。
ああ…。
ようやく何とか順調に走り出し、開演に間にあう望みをつないでいたのですが、途中の駅で突然はたと動かなくなりました。線路に人が立ち入ったとのことですが、時間はどんどん経っていきます。ようやく動きだし、もしかしたらぎりぎり間に合うかと思い直し始めたのですが、ザルツブルクの一駅手前で運行打ち切りのアナウンス。結局、後続の列車を待つことに。つまり、当初の予定より3時間後の電車に乗ることになったわけで、2時間の余裕はあとかたもなく使い果たし、さらに1時間近い遅れとなったのです。

さっそくやっちまいましたが、それでも会場にタクシーで駆けつけてみるとちょうど前半が終わったあとの休憩時間でした。

モーツァルテウム大ホールは、ミラベル庭園に隣接するモーツァルテウム大学(旧モーツァルテウム音楽院)の構内にある800席ほどのホール。中に入ってみると、ほんとうに美しい内装のホールでステージ中央には立派なパイプオルガンもあります。室内楽や古典派までの管弦楽なら理想の音楽空間。入ってみただけでも美しい豊かな響きが体感できます。前半が聴けなかったのは残念ですが、そういう恨みもこのホールを見て吹っ飛びました。何といっても、シューベルトのミサ曲が素晴らしかったからです。

シューベルトと宗教曲というのはどこか不思議な組み合わせのように思います。特に晩年の歌曲やピアノソナタを聴いていると宗教とは最も遠い世界だとさえ思います。けれどもシューベルトは宮廷礼拝堂の児童合唱団(ウィーン少年合唱団)から出発しているのですね。このミサ曲第5番は中期の作品ですが、最晩年まで手を入れていて彼が音楽家としての立身を最後まであきらめていなかったことがうかがえます。聴いてみると古典的な均整と最終章へと解決していく様式感ば美しい。それでいて、後年のフォーレにもつながるような清冽さと抒情があって近代的自我の目ざめのようなどこか危うさも感じます。

二管編成のオーケストラと4人のソリスト、合唱による比較的大きな編成ですが、昨年、紀尾井ホールで聴いたロッシーニの「スターバト・マーテル」のようなアンバランスさは皆無で、むしろオーケストラのトゥッティや、時に劇的でさえある合唱の厚みが素晴らしく、その音に身が包まれるよう。それでいてソロ・ボーカルも木管やホルンのソロもくっきりと身近に迫る音色で、このホールの素晴らしさを体感しました。オルガンはオーケストラにしっとりと馴染んで、いっそう厚みのある響きとなるのです。これだけ豊かで充実した響きがするのはこの美しいホールが木造建築であり、とりわけ客席の床も木造でよく響くからではないでしょうか。コンクリート時代の現代ホールでは望むべくもないアコースティックです。
特に、木管のオブリガートが美しく、調性が変わるたびにチューブを付け替えるナチュラルホルンは柔らかく深みのある響きです。木管のなかでもクラリネットの響きがとてもロマンチックで抒情的。ソプラノのソロが、敬虔な悔悟の念は信条告白を歌い上げるとき、クラリネットの音色が絡みその純粋な思いを強調してくれます。クラリネットを伴ったあの歌曲「岩の上の羊飼い D965」を連想させます。

ザルツブルク音楽祭は、祝祭大劇場やモーツァルトハウスでのオペラ公演が表舞台の華やかな世界ですが、このモーツァルテウムでの公演はいわば奥座敷でしょうか。モーツァルトの生地の音楽祭としてふさわしいのはむしろこちらのほう。しかも、このシューベルトの大曲の演奏は、奥まった座敷でふるまわれるとりわけ豪華な茶懐石という観があってとても贅沢なひとときでした。
これなら聴き逃した前半のモーツァルト「ジュピター交響曲」もさぞや…と残念な気もしてきましたが、シューベルトがあまりに素晴らしかったのですっかり満ち足りた気分でミュンヘンへの帰路につきました。

ミラベル庭園のなかを散策しつつ駅に向かいましたが、寄り道もせず、昼食がわりのサンドイッチを買い込んでそそくさと予定より早い列車に乗ったのは言うまでもありません。

ザルツブルク音楽祭・モーツァルトマチネー
2015年7月25日(土) 11:00
ザルツブルク モーツァルテウム大ホール
Andres Orozco-Estrada, Dirigent
Anna Lucia Richter, Sopran
Katharina Magiera, Alt
Julian Pregardien, Tenor
Alex Esposito, Bass
Salzburger Bachchor
Alois Glasner, Choreinstudierung
Mozarteumorchester Salzburg
PROGRAMM:
WOLFGANG A. MOZART ・ Symphonie Nr. 41 C-Dur KV 551, “Jupiter”
FRANZ SCHUBERT ・ Messe As-Dur fur Soli, Chor, Orchester und Orgel D 678
レス一覧
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こんにちは、
前回に続いて素晴らしい音楽旅気分を味あわせていただいています。
それと、海外に全くもって疎い自分なのですが、ベルウッドさんの日記を見て、思い描いていたドイツのイメージが覆されました。
そのコンサートに間に合っている他の方々はどのようにして目的地に到着しているのでしょうか?ベルウッドさん以上に余裕を持ってものすごく早く出発しているのか、そもそもあてにならない電車より車移動なのか、前日から現地に宿泊しているとか、あるいは近場の人達ばかりで遠方から出向いて音楽は聴き行かないとか、、?
すごく先進的なイメージを持っていたのですが、驚きました。ビジネスマンとかどうやりくりしてるのだろうか・・
色々と考えさせられました。
byにら at2015-08-19 15:43
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ベルウッド様、
楽しく読ませていただきました。シューベルトは好きな作曲家ですが、ミサ曲は聴いたことがありません。機会を見つけて聴いてみます。しかし大変な旅の締めくくりが世界一のビールピルスナーウルケルとは!羨ましいですぅ。
byちょさん at2015-08-19 21:22
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にらさん
私も今回ドイツのイメージが変わりました。かつては、定刻になると静かに滑るように走り出す…そういうイメージがDB(デーバーン)だったのですが。日本在住のドイツ人も「10分、20分の遅れは遅れのうちではない」と言っていましたが、たった1週間のうちに何度も「途中打ち切り」を体験したと言ったら驚いていました。
それにしても「レール間違えた」のアナウンスには、列車内のドイツ人たちもいっせいに吹いてました(笑)。さすがに呆れていましたね。「民営化のせいだ」と息巻く老婦人もいらっしゃいました。
ビジネスマンは、(通勤は別として)あまり鉄道は利用しないのでしょう。日本人駐在員もほとんどが車での移動ですから、こういう鉄道事情に疎くて、そういう話しが日本には伝わってこないのでしょうね。とかく駐在員というのは海外経験を得意げに言うわりには世間知らずで、現地の実情には疎いのです。
まあ、ザルツブルクにミュンヘンから日帰りだなんて、我々が無謀なんですよ。ザルツブルクは観光地なのでほとんどのひとは市内やちょっと離れた高級ホテルに泊まっています。大きな祝祭劇場にはこうしたホテルからの送迎バスが何台も止まっていました。
同じ夏の音楽祭といっても、ニューヨークのセントラルパークとか、シカゴのラヴィニア、あるいはベルリンのヴァルトビューネなど、都会の野外コンサートは観光客目当てというわけではないので、ちょっと別風景ですね。
byベルウッド at2015-08-20 09:31
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ちょさん
そっちですか(爆)。
今回のドイツ旅行では、毎日、違うブランドのご当地ビールを飲んでいました。この日は、駅なかのスーパーで買ったこのピルスナー。唯一の輸入銘柄でしたね。
ピルスナーウルケルはマスプロなので、プラハではもっとおいしいビールがありましたよ。とにかく日本人はピルスナータイプを飲みつけているのでプラハはミュンヘン以上にビール天国です。
byベルウッド at2015-08-20 09:39
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ザルツブルクでは祝祭大劇場と、正確には覚えてないけどミラベル宮の中でやってる観光客向けの室内楽の演奏会しか聴いたことが無いので、モーツァルテウム羨ましいです(´∀`)。むしろホールより魔笛の小屋を見学したいのですが^^;、そちらはご覧にならなかったですか?
大昔、学生の頃にミュンヘン(というのは、観光客が沢山来る街だけど、案外観光客に優しくない人たちが多いように思うし、体感的にシュツットガルトの次ぐらいに何でも高いように感じるので、あまり好きになれないのですが)で夜にオペラを観る日に、フュッセンまで日帰りで行って、危うく帰りの列車に間に合わなくなりそうになってヒッチハイクまでやったのを思い出しました(^^ゞ。
byGEA01171 at2015-08-21 05:07
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GEA01171さん
魔笛小屋というのは知りませんでした。事前に知っていればちょっと覗いてみようと思ったかも知れませんが、今回のようなスケジュールでしかも大遅刻とあっては難しかったかも知れません。
ミュンヘンは、EUひとり勝ちのドイツでのひとり勝ちのバイエルンの経済中心ですからほかの町と違って観光客には冷たいかもしれませんね。さらに学生時代の武者修行的観光体験ですしね。それがミュンヘンが好きになれないということだったのですね。
しかも、かつてはドイツの人々や街並みには独特の規律感があって冷たい印象が強かったのだと思います。今回はそういう規律がすっかり緩んでしまったという印象を受けました。その表裏の関係だと思うのですが、移民や異国の人々に対してとても寛容になり、親切で優しくなった気がするというのが今回のお話しです。
byベルウッド at2015-08-24 09:05