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日記

「子供たちは森に消えた」(ロバート・カレン著)

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2015年09月17日

映画「チャイルド44」を観てとても面白かった。



映画の原作は、2009年の「このミステリーがすごい!」一位(海外編)を得た超一級のミステリだが、本書「子供たちは森に消えた」はそのモデルとなった旧ソ連の連続殺人犯を追った8年にも及ぶ捜査の顛末を描いた犯罪ノンフィクション。いってみれば原作のそのまた原作だ。

犯罪の実態も犯罪者の素顔も映画や小説をはるかに超えたおぞましさで包み隠さず記述していて、それでもなお犯罪捜査ノンフィクションとしても一級で、まるで悪夢にうなされるように読み進み、一気に読み終えた。

ちょうどこれを読んでいる最中に、大阪・高槻での殺人・死体遺棄事件が同時進行的に起こった。逮捕された容疑者はいまだに自供に至っていないとのことだが、その異常性は社会体制や時代を超えて共通のものだとの感も深くした。また、同じく「少年A」の独白記の公刊が大きな反響となっていた時でもあった。

犯人のチカチーロは、現ウクライナ生まれの連続殺人犯で、1978年から1990年にかけて旧ソ連邦のかなりの広範囲の地域で、一時は二週間にひとりというハイペースで殺人を重ね52人の男女を殺害した。当時のソ連社会にあった「楽園(社会主義)に殺人はない」とのテーゼや「もともと保守的だったロシア人の性道徳はスターリン主義によってますます保守化した」社会、血液型判定や犯罪心理分析の稚拙さなどもあって捜査は困難を極める。

映画(原作小説)では、時代はスターリン時代に置き換えられ、親しい友人や家族との会話さえ利用される密告社会の恐怖や官僚エリートたちの妬みや嫉み、私怨による暗闘が描かれ、犯人のプロファイルはより鮮明にデフォルメされてミステリーとして巧みなプロットが構築されているが、80年代ソ連の時代背景や社会描写はこのノンフィクションのほうがはるかに深刻な実相を克明に語っているところがある。

けれども、不完全な血液型判定による冤罪や自白重視の捜査手法などは、まったく今日の現代日本と変わるものではない。特に犯罪犠牲者も冤罪もすべてが社会的弱者や被抑圧者に向けられる実態を容赦なく露わにしていて衝撃は大きい。知的弱者がかんたんに自白して冤罪が仕立てられてしまうことも、こうした誘拐が駅やその周辺など公衆の面前で実行されたこと、深夜の徘徊や家庭事情など被害者に責任があるかのように言う世論、犠牲者の父親が世間から道徳的誹謗中傷を受けて自殺するなど、数々の既視感に震え上がるような思いがする。

犯人が逮捕に至ったのは、地方警察や中央、KGBなどを総動員した人海戦術によるというのはいかにもソ連らしいが、よく考えるとこの捜査は主に駅での徹底的な監視、面通し、諜報員による行動追跡などによるもので、その本質(=サーベイランス)は現代日本の監視カメラと全く変わらない。そのことに気がついて震撼させられた。

犯人は、映画(原作小説)と同じで、社会一般から見れば高学歴で知的エリートだったと言ってよい。ドイツ国防軍の捕虜となって内通者との誹謗を受けた父親のもとで屈折した思春期を過ごし、受験競争に生き残り教育者になったものの生徒への性的いたずらをきっかけに転落し、社会からの疎外感や孤立を深めて犯罪をエスカレートさせていく。精神異常の犯罪者として典型的な軌跡をたどっている。

高学歴を得た社会的エリートであればあるほど深い挫折を味わい、劣等感や嫉妬、僻みが、次第に疎外感となって孤立を深めて精神を病んでいく者は少なくない。そうした精神異常の犯罪者がどこかで自己抑制を失い、常識人としての相貌を一変させ急激に異常行動をエスカレートさせていくというパターンは、性犯罪の異常性というにとどまらず現代のネット社会、バブル崩壊を遠景とする私たちの身の周りの高齢化社会においてもしばしば見られること。

判決を受けたチカチーロは、判事に「イカサマだ! お前の嘘なんか聞かねぇぞ!」と罵倒したという。政治体制、政治指導者、自身の性的不能、そして1930年代のウクライナ飢饉を非難し、「何の価値もない人間を掃除する」ことで社会に貢献したと主張したという。

心を病んだ異常性は、自省と自制を決定的に欠いていて自己修復されることがない。おぞましい自己顕示欲とともに常に再犯の危険性をはらんでいることを社会はよく認知しておいたほうがよいと思う。



子供たちは森に消えた
ロバート・カレン 広瀬順弘訳
ハヤカワ文庫NF

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