日記
イエス・キリスト教会 (ドイツ音楽三昧 その8)
2016年01月26日
私たちの怒濤のドイツ音楽旅行も、いよいよ最終日です。
フィルハーモニーでのオルガンコンサートがはねた後は、夜のベルリンシュターツオパーまで時間があるので、少しだけベルリン市内観光を楽しみました。まずは、フィルハーモニーの向かいにある「絵画館」に行きました。

特別展示の「ボッティチェリ・ルネサンス」はラッキーでしたが、私たちのほんとうのお目当てはフェルメールの「真珠の首飾りの女」でした。紛らわしいのですが「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」は、すでに一昨年、オランダ・デン=ハーグの美術館で観ています。
絵画館の後は、夫婦別行動。
というのも、私にはどうしても訪ねてみたかった場所があるのです。

地下鉄を乗り継いで、市の中央から南西の郊外ダーレムに向かいます。ベルリン・フィルの野外コンサートが開かれるヴァルトビューネにほど近い、自然豊かな閑静な住宅街にその教会があります。

ここはカラヤン時代に数々の名録音を残したイエス・キリスト教会。
大きな教会ですが、外観はごくふつうのモダンなもの。何の案内もありませんが、中に入ると見覚えのあるステンドグラスの列が眼前にあります。

それでも内装も質素でふつうの教会です。中ではクリスマス・イブに演ずるのでしょう、子供たちのクリスマス劇の練習中でした。そのおかげで、多少なりともここのアコースティックを体感することができました。

教会といっても、残響はそれほど長くはなく、ほどよく抑制されたクリーンでバランスのとれた響きです。録音会場としては理想的な響きだったのでしょう。竣工間もないフィルハーモニーのデッドで貧しい響きに満足できなかったカラヤンが録音場所としてここにとどまり続けたのもよくわかります。
さほどスペースがあるとは思えないのですが、椅子を後方に片づけると大編成のオーケストラもすっぽりと収まってしまうのです。容量としても、十分かつ大きすぎず録音には最適だったというわけです。

白黒写真は、1972年1月のヴェルディ/レクイエムの録音セッション。ミレッラ・フレーニ、クリスタ・ルートヴッヒ、カルロ・コッスッタ、ニコライ・ギャウロフらが参加しました。

今でもここで盛んに録音セッションが行われていることは、その響きのよさの証左です。録音会場としていまだに現役なのは、響きのよさとともにそのアクセスの良さと抜群の周囲環境に恵まれているからだと思います。周囲は森や林に囲まれていてほんとうに静かです。地下鉄の駅から徒歩10分ほどでの場所ですし、自動車もほとんど通りません。
テルデックのスタジオも、ここから歩いて2~30分ほどの距離にあるのですが、さすがに徒歩で往復するのは時間もかかります。外観だけでもとは思いましたが、夕闇も迫ってきてさすがに断念しました。
こんなところを訪ねたところで何もないのですが、やはり音楽ファン、オーディオファンとしては、とても豊かな気持ちになります。よい想い出になりました。
さて、いよいよ、今夜は最後のイベント、グノーの歌劇「ファウスト」です。
(続く)
レス一覧
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DG全盛期の録音はほとんどこの場所でされたのでしょうね。
ところで、大きなステンドグラスは、何か思い出せませんが、LPレコードのジャケットで見たような?
ベルウッドさんなら知ってますか?
by椀方 at2016-01-26 12:39
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ベルウッドさん、
こんばんは。
イエス・キリスト教会、ステンドグラス以外はあまり装飾もないシンプルな内装なのですね。ドイツらしいと言えばそうなのかもしれませんが…
僕の好きなウゴルスキーの小品集や原田育代さんのシューマンなどのピアノ録音の場所として記憶していますが、ここでオーケストラも録っていたことは知りませんでした。
写真からは大編成のオーケストラではかなりぎっしりといった感じなので、それでもここで録るというのは関係者の執念を感じます。
やはりここの響きにほれ込んでいたのでしょうね。
カラヤンはシューボックス型の響きをあまり好まなかったとどこかで読んだような気がしますが、録音場所としてフィルハーモニーではなくここを選んだというのは興味深いです。
byK&K at2016-01-26 18:47
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椀方さん
もしかして、チャイコフスキーの交響曲のジャケットのことでしょうか?
http://www.amazon.com/Tchaikovsky-Symphony-No-The-Swa/dp/B0073Y12CQ
私も実はこの一連のジャケットを思い浮かべたのですが、今回、確認してみると似てはいますが違います。古い内装がその後に改装されたのでしょうか。実際、クレジットされているのはイエス・キリスト教会なのです。
もう少し調べてみます。
byベルウッド at2016-01-26 22:21
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K&Kさん
今回、あらためて実感したのですが、プロテスタントの教会はとても内装がシンプルですね。ほんとうに飾りっ気がありません。
私の好きな河村尚子さんも、RCA移籍後はもっぱらこのイエス・キリスト教会で録音しています。やっぱり響き(残響)がとてもよいそうです。私の実感では、演奏家にとって自分の音がとてもよくとらえやすいというような気がします。
カラヤンがシューボックス型ホールを好まなかったというのは初めて知りました。私も好みは、ややデッドなホールですね。ベルリン・フィルハーモニーも、サントリーホールとは違って、分離のよいクリアな響きのホールでした。ちょっと誤解していたところがありましたが、見直しました。実際に聴いてみると、とても好きなアコースティックです。
byベルウッド at2016-01-26 22:28
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ベルウッドさん
こんばんは。
イエス・キリスト教会は私の耳の原点であるカラヤンやシャルプラッテンレーベルの録音が行われた場所ということで、是非一度「聖地巡礼」したいと思っています。
ステンドグラスのジャケットですが、カラヤンの1963年録音のブラームス1番は違いますでしょうか。カラヤンの横顔にフォーカスされているためピンボケになっているとはいえ、ステンドグラスの印象はかなり強いです。
http://www.amazon.co.jp/ブラームス-交響曲第1番-カラヤン-ヘルベルト・フォン/dp/B00005FIOJ
byIncognito at2016-01-27 02:27
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Incognitoさん
シャルプラッテンは旧東ドイツのレーベルですので、カラヤンらの録音会場となった、このダーレムのイエス・キリスト教会ではありません。実は、東ベルリンにも同名のイエス・キリスト教会というものがあってそこが東側の録音会場として使われました。偶然とはいえ面白いお話しです。こちらはダーレムよりも教会らしいやや長めの残響だと思います。
http://columbia.jp/kono1mai/042.html
カラヤンのブラームスですが、この写真に限らずオリジナル盤のジャケットではないものは取り上げませんでした。そうしたらどうもこれはというものが見つからないのです。
1960年代の第1回のブラームス交響曲全曲のシリーズは、その前に録音したベートーヴェンと同じで真っ黒な背景に浮かび上がるカラヤンのモノクロームの姿というデザインでした。
ご指摘のジャケットは、確か第2回目(1977)の全曲録音のものの国内再発盤のデザインに使われたものだったと思います。
byベルウッド at2016-01-27 10:18
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椀方さん
このチャイコフスキーのシリーズの写真は、なんとウィーンのムジークフェラインでした。さるお方のご指摘です。
高校生のころから「イエス・キリスト教会での録音」というクレジットとともにこの一連のジャケ写は刷り込まれていました。当時は、こういう海外のコンサート会場の知識に乏しかったので、これがイエス・キリスト教会なんだと思い込んでいました。今回、確認しようとして「あれ?」と思ったわけですが、まさか、ウィーンの写真を使っていたとは思いもよりませんでした。
私と同じような思い込みをしていたひとは多いのかもしれません。
イエス・キリスト教会のステンドグラスが写り込んでいるジャケットで印象的なのは、ワイセンベルクとのラフマニノフ(EMI)ですね。
byベルウッド at2016-01-27 13:24
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ベルウッドさん
小生の気まぐれな興味から、新しい事実?の発見ですね?
確かに、あのような縦長のステンドグラスだと、録音場所の画像だと勝手に思い込んでしまいますね。
勉強になりました。
by椀方 at2016-01-27 20:48
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ベルウッドさん
イエス・キリスト教会、同じ場所に2つあるんですね…。確かに、スウィトナーを中心に東独の録音は残響感が大きいです。憧れの場所が分裂して2倍になった感があります笑
byIncognito at2016-02-02 01:49