日記
時には娼婦のように――とりさん邸訪問 (岡山遠征 その2)
2018年12月05日
焼肉定食をいただいて、そこから真っ直ぐにとりさん宅を目指します。
ひとことで岡山と言いますが、地域としてはけっこう大きくて、皆さんのお宅を回るのは車の移動でそれなりの時間を要します。スイートサウンドさん宅からの移動時間は、2Hくん宅の四国の坂出・丸亀地区とそう変わらないといっても決して誇張ではないかもしれません。そういう距離を乗り越えて緊密に交流されておられる岡山地区の皆さんは素晴らしいですね。
とりさんは、大変なハイエンダー。
他の皆さんは、いずれも、こだわりの自作派ですが、とりさんはそういう意味で岡山おと会のお仲間のなかではちょっとユニークな存在ということになります。

お部屋に入ると、まずは小ぶりのマジコ(MAGICO “Mini”)が目に入ります。キャビネットは美しい木目のエレガントな意匠で小柄な2wayの丸みを帯びた姿態をさらに優美に見せていますが、フロントバッフルはマジコのウリである航空機グレードの黒のアルミニウムでとても精悍な顔立ちです。リスナーの気持ちをきりっと引き締めるところがありますね。

とりさんによるとマジコはなかなか鳴りにくくてドライブするのにずいぶんと苦労されたそうです。ソニーの渾身のデジアンプでもなかなか満足がいかなかったとか。それをやっと思うように鳴らせるようになったのは、アコースティックアーツのアンプ(Accustic Arts AMP-Ⅲ)を導入してからとのこと。センターのコンソールの後ろ、両スピーカーの間にさりげなく置いてありますが、巨大な躯体の超弩級アンプです。
よく鳴らしにくいスピーカーというとB&W800のように大型スピーカーを思い浮かべますが、必ずしもそうとは限りません。巨大なAMP-Ⅲが目の前にあれば、小型のマジコ・ミニとは視覚的に不釣り合いなだけではなく、ちょっと威圧されるような感覚を覚えるかも知れません。あくまでも主役はマジコ。従者は目立たぬように後ろに控えるということですが、そんなレイアウトにもとりさんのご苦労がしのばれます。

プリアンプはマークレビンソン(MARK LEVINSON No38SL)。DACはワディアのCDP(Wadia16)のSPDIF入力と、このあたりはハイエンドとは言っても90年代のハイエンド名機。

最初は、なぜかパナソニックのハイビジョンブルーレイディスクレコーダーをトランスポートとしてかけておられましたが、皆さんから「何で??」との声が上がり、結局、これもハイエンドのエソテリックのユニヴァーサル・トランスポート(P-03Universal)に変更。一聴して皆さんから「なぁーんだ」との声があがり、その差は歴然。以降は、このラインアップでの試聴となりました。

それまでは、オーディオ・オフ会の雰囲気で、特にこの会は口うるさい(笑)自作派の面々らしい、いささかにぎやかな空気でしたが、ここらあたりから怒濤のように連続で女性ボーカルがかかり、すっかり音楽鑑賞モードに突入。聴いたソフトは、私がざっと数えただけでも17枚、20曲以上に及びます。すっかり音楽モードになって聴き入ってしまいました。
なかでもインパクトの大きかったのは、

森田童子「ぼくたちの失敗」より、1.ぼくたちの失敗
そして

Fride Pride「musiCream」より、2.リバーサイドホテル
いずれも、声質が独特で、音楽的な立ち位置や視点がとてもユニーク。
森田童子は、私と同じ全共闘世代。90年代にTVドラマの主題歌でリバイバルヒットして再発見されたシンガーソングライターとのことですが、私はよく覚えていませんでした。今年の4月に死去していたとは、後で知りました。
Fride Prideは、ボーカルとギターのデュオ。こういう組み合わせは、オーディオファンに好まれるスカッとした録音の良さが際立つ構成とサウンドのユニットが多いのですが、このデュオは、どちらかと言えば湿気の多い、アンニュイな雰囲気があって思わず引きずれ込まれるような魅力に満ちていました。
いずれも何ともディープな世界です。他にもいろいろツッコミどころのあるソフトの連続でしたが、とりさんの「細く狭く、けれども、絶対的に深い」音楽世界でした。
そのサウンドは、透明で純度の高い、少しもイヤな音のしない、破綻のないサウンド。あえて言えば、ちょっと真面目過ぎる音です。
マジコはマジな子…ということなのかもしれませんし、マークレビンソンを好まれるマニアはそういう傾向があります。ドイツのパワーアンプも、あれだけの図体にもかかわらず同じように自分の存在を消してしまうというような自己抑制的なところを感じます。エソテリックもそういう冷静さがやや引き立つ傾向ですから、ラインアップのなかでは、唯一、ワディアだけが少しだけ暖色系の音味ということでしょうか。
こういうサウンドは、ストレートに音を出すと、辛い…というのか、キツい…というのか、そういうテンションの高さが出てしまうので、そこをとても苦労されてこういうバランスのよい音に仕上げてこられたのだろうと想像しました。反面、音色の鮮度や音楽の活気のようなものが抑えられてしまっているような気がします。
つまり…、「時には娼婦にように」というところでしょうか。(*)

この後、岡山市の中心街に出て懇親会。EDさんも駆けつけてくれて、瀬戸内の新鮮なお魚と備前の銘酒を味わいつつ、オーディオ談義に花が咲きます。
翌日は、そのEDさん宅に集合。いよいよクロメバルです\(^o^)/
(*)
時には娼婦のように
(作詞・作曲:なかにし礼)
時には娼婦のように 淫らな女になりな
真っ赤な口紅つけて 黒い靴下をはいて
大きく脚をひろげて 片眼をつぶってみせな
人さし指で手まねき 私を誘っておくれ
バカバカしい人生より
バカバカしいひとときが
うれしい ムームー ムームー
時には娼婦のように
たっぷり汗をながしな
愛する私のために
悲しむ私のために
レス一覧
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ベルウッドさん
とりさん邸では曲が多くて何が何だか・・・記憶が
ただFride Pride「musiCream」だけは 男?or女? のインパクトが強くて覚えています。
聞いた事のない種類の曲が多かったですね。
そう云えばマジコの2Hさんも独特の曲選びだったような?
byhelicats at2018-12-05 10:43
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ベルウッドさん
以前、ラズパイをトランスポートとして、ワディアから音出しをした時は、もう少し躍動感があったような気もしますが、単に緩かっただけか・・・。
いずれにして、トランスポートによる音の違いは、大きいですね。
今回聴けなかった、ソナス(マジコの奥にある)でも楽しまれているそうです。そちらなら、もっと色気がありそう。・・・
byスイートサウンド at2018-12-05 16:30
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こんばんは
岡山でメバル(赤でしたが)の煮付けを初めて食べた時の事は忘れられません。ふわっと絹のように甘く溶ける食感に、これは本当に魚なのかという衝撃を受けました。
岡山は個性的なショップもいくつかあるようで、熱心なマニアの方も多そうで楽しそうですね。
森田童子はアナログ数枚持ってますが、現役当時はかなりカルト的な存在だったという伝説的アーチストなのですよね。テレビドラマの主題歌になった時は驚きました。
byにら at2018-12-05 20:54
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ベルウッドさん、こんばんは。
システムのそれぞれの個性についてですが、ご指摘のとおりです。
何とかケーブルで音色を変えたいと試行錯誤しています。
当日は、クラッシックはあまり持っていないので、女性ボーカルばかりかけてしまい失礼しました。
ハイレゾ音源に対応できる環境にしたいとは思っているのですが、現実的になかなか・・・。
同じ所にサブシステム(ソニーのデジアンにソナスのミニマアマトール)を置いていますが、音色比較がすぐにできるのでなかなか別の部屋に移動できません。
色気で言うとサブの方があると思います。
byとり at2018-12-05 21:59
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helicatsさん
とりさんのボーカルの世界はディープでしたねぇ(笑)。ちょっとジャンルは違いますが、2Hくん宅のディープさによく似ています。やっぱりマジコ派はディープなんでしょうかね??
Fride Pride、よかったですね。クラシックで言えばコントラアルトですね。ああいう女声の低い声は、オーディオ再生としては勘所なんです。サウンドとしては華やかな色香、可愛さ、伸びやかな純真さとは対極にあるので見過ごされがちですが、音楽ではけっこうキモになります。とりさんサウンドはそういう裏側のアンニュイなところがよく出てましたよね。
byベルウッド at2018-12-06 13:28
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スイートサウンドさん
トランスポートはほんとうに大事ですね。つまり、上流が大事なのはアナログもデジタルも同じ。でも、デジタルの上流のほうがよりクリティカルです。
ワディアは、マルチビットでしたかね?現在主流のデルタシグマ変調(1ビット)よりも暖かみがあってナチュラルですが、確かに精度が甘い感じがします。それでトラポの甘さをうまく丸めてくれるのではなないでしょうか。
とりさんのワディアDACは、甘いとか緩いとかというよりも温度感をうまく補ってくれていたような気がします。なにしろトラポがエソですから。
byベルウッド at2018-12-06 13:38
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にらさん
>ふわっと絹のように甘く溶ける食感
それそれ、それですよ。メールでそっと教えてくれれば、そのまま盗作したのになぁ(笑)。
>森田童子はアナログ数枚持ってますが、現役当時はかなりカルト的な存在だったという伝説的アーチストなのですよね。テレビドラマの主題歌になった時は驚きました。
さすが、にらさん。LPも数枚お持ちですか。今度、ぜひ、聴かせて下さい。今さら買うならLPと思いましたが、昭和館にも無いようです。キタサンにお聴かせいただいた内藤やす子もそうですが、けっこうレアかも。
byベルウッド at2018-12-06 13:42
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とりさん
ハイレゾ音源いいですよ!MFPCは、究極のトランスポートだとさえ思います。
ただしディスクメディアの音源を活かすのなら、やはり、CD/SACDプレーヤーです。エソはある時期から音味がかなり改善しています。現行機種の導入で上流を一気にリプレースすればさほどコストもかからず合理化進化できるのではないでしょうか。
ソナスのアマトールいいですね。ソニーのデジアンはそのためにあったのですね。次回はそちらもじっくりお聴かせ下さい。
byベルウッド at2018-12-06 13:49
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