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クラリネット・ヴィオラ・ピアノ (日経ミューズサロン)
ちょっと地味な組み合わせのアンサンブル・トリオ。 もともとは、元ベルリン・フィルの首席オーボエ奏者のシェレンベルガーを迎えての公演予定でしたが、新型コロナ感染対策の制約で来日中止を余儀なくされ、クラリネットに代わっての公演となったもの。 1曲目は、この組み合わせの元祖ともいうべきモーツァルトのクラリネット三重奏曲。 お弟子さんの令嬢一家のために作曲されたそうで、その令嬢のピアノ、ヴィオラはモーツァルト自身、クラリネットは、あのアントン・シュタードラーが受け持ったのだそうです。 題名の「ケーゲルシュタット」というのは、ボーリングみたいなゲームの名前に由来し、作曲当時、モーツァルトはこのゲームに夢中。ゲームをしながら作曲したという伝説が残っているそうです。そういう天才とクラリネットが巡り会った天国的な音楽。協奏曲、弦楽四重奏との五重奏曲はよく聴かれますが、この三重奏曲もお忘れなく…という名曲です。 2曲目は、シューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」。 チェロでの演奏が最もポピュラーだと思いますが、こうしてヴィオラで聴いてみると、こちらの方がいいなあ、と思えてきます。楽器には個性があって、演奏者の個性や技能とも相まって音色が違うのが常ですが、ヴィオラはとてもそれをよく感じます。そのことは、今井信子さんが主宰する「ヴィオラ・スペース」で痛感させられました。 赤坂さんのヴィオラは、みかけも大きめでそういう音がします。低弦は柔らかく深みがあるアルトで、高域はとても張りのあるメゾソプラノ。自分の不幸はあくまでも内に秘めて表には出さず、他人への思いやりに満ちた優雅な歌を唄うソナタが素晴らしい。 後半の最初は、シューマンの作品73の幻想小曲集。ドレスデンのオーケストラのクラリネット奏者のために作曲されたものですが、チェロやヴィオリンなど様々な楽器でも演奏されます。むしろ、オリジナルのクラリネットは多勢に無勢なほど。おそらくシェレンベルガーもこの曲を演奏する予定だったのではないでしょうか。 伊藤さんはN響首席ですが、こうして改めてソロを聴くと、まだ若いのにほんとうに名手としての貫禄を感じさせます。とても安定したリードの発音と、倍音に富んだ音色と響きはとても多彩で豊か。この曲の自由でプライベートなくつろぎがとても心地よい。 続いては、ピアノのソロで同じシューマンの「アラベスク」。 軽くて優しく穏やか。それでいて細かくてとりとめもないのがシューマンらしい。幼い子供に語りかけているような短い言葉を穏やかに連ねているところに、心情の優しさがにじみ出てきます。 ピアノの津田さんは、もう何度も聴いていますが、一度も主役として聴いたことがありませんでした。常に、伴奏などの黒子役に徹しておられるピアニスト。「トリオ・アコード」などのアンサンブルも組んでおられますが、まるでアルバイトの学生のような風貌からして、とても地味な存在。「アルペジオーネ・ソナタ」でも感じましたが、やはり、こうして聴いてみると大変な実力者です。このシューマンの家庭的な優しさはほんとうに格別な味わいです。 最後は、この組み合わせの定番ともいえるシューマンの「おとぎ話」。 晩年のシューマンは、狂気にとりつかれてしまい、ライン川に飛び込んでしまうという事件まで引き起こしますが、作品そのものはとても理性的に響くのが不思議に思えます。この作品もそういうデュッセルドルフ時代のもの。わくわくした開幕から、起伏に富んだ第2曲を経て、穏やかで柔和な第3曲、子供達が森の中を意気揚々と行進するような終曲と、構成もバランスが取れていて、プログラム最初のモーツァルトと呼応するかのようです。なぜ「おとぎ話」というのかは不思議な気がしますが、やはり、家庭的な愛情に満ちていると感じさせるのは、「アラベスク」の誘導のせいでしょうか。 日経ホールは、講演会などのイベント用を主とした多目的ホールで、音楽的な響きではありませんが、ステージ間近でこういう渋い音色のアンサンブルを聴くとかえって音や響きが明瞭で細かい綾がよく見えるし、音楽がとても率直に前へ迫ってきて親密さを強く感じます。 もちろんシェレンベルガーも聴きたかったとは思いますが、そんなことを忘れさせる素晴らしいコンサートで幸せな気持ちになれました。 第510回日経ミューズサロン 伊藤圭・赤坂智子・津田裕也 2021年5月19日(水)15:00~演 東京・大手町 日経ホール (D列2番) 伊藤圭(クラリネット) 赤坂智子(ヴィオラ) 津田裕也(ピアノ) モーツァルト/クラリネット三重奏曲変ホ長調 K.498「ケーゲルシュタット・トリオ」(クラリネット、ヴィオラ、ピアノ) シューベルト/アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821(ヴィオラ、ピアノ) シューマン/幻想小曲集 作品73(クラリネット、ピアノ) シューマン/アラベスク 作品18(ピアノ) シューマン:おとぎ話 作品132(クラリネット、ヴィオラ、ピアノ)
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