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バッハへの道 (福間洸太朗 ピアノ・リサイタル)

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2021年06月22日

プログラムの曲、ひとつひとつが興味深く、そこが魅力。ところが聴き終わってみると、そのプログラムが巧みにくみ上げられていて一本筋が通っている。しかも、そのピアノそのものにも何とも言えぬ充足感がある。そんなピアノ・リサイタルでした。



テーマは、“バッハへの道”。

1曲目は、まさにそういうテーマで福間さんがイラン人作曲家に委嘱した新作で、これが世界初演。左手の低音が闇から湧き上がるように響いて、しだいに色彩を帯びて明るくなっていき、光芒を放ちながらどんどんと展開していく。そういうバッハ的宇宙。

プログラム中央にブラームスとリストのトランスクリプション2曲をすえて、その前と後にそれぞれの作品を配置するというシンメトリックな構造をしています。いわばバッハという中心を回る銀河系。それぞれの作品が奏されることで、ブラームス、リストのトランスクリプションに内在するバッハへと自己を結びつける絆のような思いも浮かび上がってきます。

福間さんのピアノは、もちろん目にも止まらぬ指遣いの超絶技巧ですが、実に軽快、軽妙でふわっと鍵盤から浮いているような気さえします。それでいて、響きが光の帯のようで滑らかにつながっている。いかにもフレンチピアニズムという細かい音の連続なのですが、それは“真珠の珠粒を転がすよう”というのではなく、まるでドイツのオルガンのように響きが深く持続し続けるのです。

ブラームスの晩年の作品は、よく“枯淡の境地”などと決めつけられがちですが、聴いてみるととても情熱的でロマンチック。この作品118なんか、もっとも情熱的で、頭から恋人の名前を連呼しているかのようで、まさに“恋慕”そのもの。それでいて、それをしっとりと胸のうちに収めるようなところがあります。福間さんのブラームスは、発酵バターをたっぷり使った焼き菓子のよう。感情の起伏はむしろ抑制的ですが、恋慕の情感が、細やかに香ります。




前半の圧巻は、やはり「左手のためのシャコンヌ」。

始まりこそ、やはり左手だけというのは身体のバランスの取りぬくさを感じさせましたが、すぐに感覚が左手の指先だけに絞られていきます。音楽の帯域範囲が絞られることで、一層の情感の浄化があって、それはやがて祈りへと昇華してゆく。バッハは、長旅で留守をしていた間に妻を亡くしますが、このシャコンヌはその直後に作曲されています。ブラームスの“恋慕”が、ここでは“思慕”や“哀悼”のようなものに純化されていました。

福間さんの音色はとても独特で、粒の細かく速いタッチでありながら、その響きが長くよく維持されていて絹布のように流麗に拡がるピアノの音色にどんどんと引き込まれてしまいます。それにしても楽器の仕上がりは素晴らしく、さすがサントリーホールと思いました。休憩時の調律も、調律、整音というよりはキーのウェイトを確認しただけという風ですぐに終わりました。

福間洸太朗さんは、映画「蜜蜂と遠雷」で、河村尚子さん、金子三勇士さん、藤田真央さんらとともにピアノ演奏を担った四人のピアニストのひとり。なかなかハンサムな方ですが、意外にも所作はどこか垢抜けないところがあって「ウチの職場の新人くん」みたいなところがあって、それがかえって母性本能をくすぐるのかも。前半のタキシードから後半はキラキラしたスーツにお召し替えして登場すると、女性の多い会場からは「おー」というかすかなどよめきが…。

後半の、バッハのオルガンのための前奏曲とフーガも素晴らしかった。ジグザグとノコギリの刃のように激しく跳躍する音楽は、確かにリストのオルガン曲の模範となったのだろうと納得させるような華麗な響き。地から湧き上がり、高い天井へと立ち上っていくきらめきのような壮麗さを感じます。

それが、そのまま最後の「パガニーニ大練習曲」へとなだれ込んでいく。

それはめくるめくような華麗なアルペジオの連続。これほどアクロバティックな超絶技巧が、くもりひとつなく清く美しく鳴らされるのは初めての体験。波紋状に拡がる細かい音の連続を軽やかに渡っていくさまは、まさに波の上を歩く奇跡のよう。「ラ・カンパネッラ」も、《鐘》というよりは、もっとずっと小さい《鉦》や《鈴》のように華麗。

アンコール1曲目は、「マタイ受難曲」からの有名なアリア。おや?この曲のトランスクリプションなんてあったかしら?と思ったら、福間さん自身の編曲でした。
(直後にサントリーホールのサイトでは、別の曲名が上がっていましたが、これはご愛敬。翌朝には訂正されていました。)

久々のサントリーホール。記憶の限りでは、ここでのピアノソロリサイタルは初めて。よい席にも恵まれて大満足のコンサートでした。





福間洸太朗 ピアノ・リサイタル
~Road to Bach~

2021年6月19日(土) 19:00
東京・赤坂 サントリーホール 大ホール
(1階 14列16番)

ピアノ:福間洸太朗

ファルハド・プペル:“Road to Bach” 〔2021年委嘱作品・世界初演〕
ブラームス:6つの小品 Op. 118
J. S. バッハ/ブラームス編:左手のためのシャコンヌ ニ短調 BWV 1004

J. S. バッハ/リスト編:前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543
リスト:パガニーニによる大練習曲 S. 141 (ラ・カンパネッラ付)

(アンコール)
J.S.バッハ/福間洸太朗編:アリア「憐れみ給え、わが神よ」~マタイ受難曲 BWV 244より
J.S.バッハ(サン=サーンス編曲):序曲(カンタータ BWV29より)

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  1. ベルウッドさん、こんにちは。あいかわらず精力的ですね。

    これは生で聴くには羨ましいプログラムですね〜。CDを発売する前なのでしょうか、レビューからすると相当に気合入ってそうですね。

    溜池山王のホールにピアノを何度か聴きに行ったことがあるのですが、なんか小さいなと。(爆) いつも下の席なのが悪いのでしょうね。やっぱりデカいとこのチケットは奮発しないとなんでしょうかね。

    関係ないですが、久しぶりにマタイを聴いているのですが、「私はこの男を知らない」からの「神よ、憐れみたまえ」が何故かあまりぐっとこない、、、うーむ。こいつはうちのシステムには難しい。(^^)

    byベルイマン at2021-06-22 14:53

  2. ベルイマンさん

    ここのホールはどうも難しいですね。今回はちょっとツテがあって、しかも、たまたま1階の最上の席でしたが、ピアノソロを大枚はたいて聴きに行くホールではないと思います(汗)。

    マタイのあそこに感動するかどうかは、音楽の問題であってオーディオ的に録音がいいものかどうかだとか、再生システムが高貴なものではないとだめとか、そういうことではないと思います。長年くり返し聴いてきた同じディスクでも、ある時、突然、感動を覚えて涙がとまらなくなるとか、目からウロコみたいなことでその演奏がたまらなく好きになったりとか…そういうところがあるのではないでしょうか。

    名演名盤もいっぱいあって、それぞれが重なり連なるようにそびえ立っているわけですから、ヒマラヤ山脈でどれが最高峰かを探すようなお話しです。

    ちなみにバッハ研究の第一人者磯山雅さんは37の演奏を取り上げて短評を書いていて、G.レオンハルト/ラ・プティト・バンドの演奏については次のように言っています。

    「至高の境地に達したレオンハルトが、清水のように澄みきった心境で綴った、静かなる《マタイ》である。こうした演奏を聴くためには、こちらも耳を澄まし、心を澄まして向かわなくてはいけない。」

    こんなふうに言われてしまうと、音質云々のオーディオ邪心が何だか恥ずかしくなってきてしまいます。

    byベルウッド at2021-06-23 00:54

  3. ベルウッドさん、おはようございます。

    仰ること、よく分かります。セッティングを変えたから、第二部の途中からちょろっと聴いてみてどうかなぁ、なんてやって掴める代物ではないということですよね。今回私が試聴したのはジキスヴァルトクイケン氏が主導したものでぎりぎり存命中だったレオンハルト氏は関与していないと思われますが、one voice par partの清廉な演奏は、まったく心を澄ませて聴くべきなのでしょうね。

    まるっと通して聴いてこなかったマタイ、ヨハネ、そしてモンテヴェルディの夕方の祈りは、積年の課題曲である気がして来ました。磯山氏を併せて読んだものでしょうかね。

    byベルイマン at2021-06-23 08:19

  4. ベルイマンさん

    失礼しました。この本は1994年初版で最新のものではありません。レオンハルト指揮ラ・プティト・バンド盤というのは、1989年録音のものです。違う録音のようでしたね。

    とはいえこの磯山氏の本は多くの啓示を与えてもらいました。大部ですがファンにはおすすめします。

    byベルウッド at2021-06-23 09:51

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