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日記

能・狂言の時空世界 (国立能楽堂 9月普及公演)

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2021年09月18日

ここのところ日本の伝統芸能に足を運ぶことが多くなっています。



今回は「普及公演」ということで、解説付きの公演です。以前、出かけた公演がたまたま解説付きの公演で、その解説がなかなか面白く本番鑑賞のよい助走になったので、今回も「普及公演」を選んで出かけることにしたのです。

国立能楽堂は、このコロナ禍のなかでも、いつも満席です。今回は最前列の席も入れていましたので文字通り完売満席の状態でした。幸い、早くに申し込んだせいか初めて正面中央の最上席が取れました。能舞台は、脇正面、中正面などどんな角度からでも面白さは尽きないのですが、初めて正面中央から観劇してみるといろいろ発見や気づきもあり、興味は尽きません。





名取川は、忘れないようにと袖に付けた戒名を、川を渡ろうとして深みに足を取られて流してしまうという出家僧の間抜けなお話し。在所の男の名前が名取(なとり)と聞いて、おまえが名をとったのかと詰め寄るという滑稽話。男のふとした言葉からなくした戒名を思い出し、めでたし、めでたしというわけです。



名取川というのは、宮城県中部を流れる大河のこと。比叡山からの遠い旅路があるわけですが、ミニマルな能舞台ではそれを何周か周回するだけで表現します。舞台中央前面から、前縁へと進み、そこから向かって右に進み、そこから左手奥へと対角線上へと進み、反転して正面へ進み、左に曲がり正面前縁に戻る。そういう律儀な幾何学的直線移動を繰り返して長大な移動を表現してしまいます。

舞台転換ももちろん何もありません。面白いのは、顔を常に進行方向に向け続けることによって、人物が発する台詞の色合いが立体的な変化を帯びることです。横を向けばそれだけで声色は変わります。斜め後ろを向けばさらに遠くなり、それが奥へと進むことで遠ざかる。前に向き直ればそれが近くなり、前進するにつれてクローズアップされてくる。ミニマル舞台での映像的な移動(=旅路)に加えて、声のそうしたわずかな移動感覚がよりいっそう立体感を演出する。そのことの面白さに気づきました。




熊坂は、牛若丸の盗賊退治のお話し。当然、主役は若き元服前の少年・牛若丸ですが、舞台にはその姿は一切現れません。旅の僧(ワキ)が美濃の国・赤坂にたどり着くと、主も知らぬ古塚の回向を頼まれる。深夜、旅の僧が弔っていると大盗賊・熊坂長範の亡霊が現れ、三条の吉地(金売り吉次)の一行を襲って牛若丸に討たれた時のことを語るというお話し。

亡霊の昔語りというのは、能の世界によくある仕掛けですが、中世の時空世界の森厳さと、人間の怨念や情愛が霊魂となって現世と来世をさまよう幽玄の世界というわけですが、それがこうした活劇の世界で、なお、二重の時空の飛躍として表現することの面白さに魅了されてしまいます。

舞台中央で帷子に身を固めた熊坂が長刀を振るって、大格闘を立ち回るという華やかな舞台。その大剣劇のリアルなこと。しかし、それはあくまでも亡霊の問わず語りであって、あくまでも幻想幻影。しかも、右へ左へと身も軽く跳躍し、長刀を振るう大男を翻弄する牛若丸は目に見えない。二重の幻影に観客すらも翻弄されるわけですが、ついには具足の隙間を斬られて熊坂がどっと崩れ落ちて体を落とす瞬間には、確かに牛若丸の姿を見たような幻惑すら覚えるほど。


ここではもちろん、見えない牛若の跳躍を見せる後シテの身体をはった至芸があるわけですが、足を踏みならす床の音、息づかい、翻る衣づれの音など様々な自然音(ノイズ)が効果音として舞踏劇を盛り上げることになります。もちろん、龍笛、小鼓、大鼓に太鼓も加わった囃子も音曲のクライマックスにあるのですが、それに埋もれずこうした自然音も極めて大事な要素となって、この幻想の活劇を盛り上がているのです。

踏みならす音のために吟味し尽くした檜が選別され、それを床板として根太に張られ、床下にはその床板を直接支える形でいくつもの束が立てられていて念入りに張力を調整しているそうです。さらには床下の地面には壺がいくつも埋め込まれ吸音チューニングが仕掛けられている。床下の地表は目の細かい土で覆い固めて残響を適度に保つ工夫もされていたそうです。そこまで音響面の仕掛けがしてあるわけで、その音響の立体空間マジックに知らず知らずのうちに取り込まれているのです。

今回は、つくづくそういう視覚だけではない音響、聴覚による能・狂言の時空世界のトリックを堪能できた思いがしました。





国立能楽堂
9月普及公演 名取川・熊坂
2021年9月11日 13:00~
東京・千駄ヶ谷 国立能楽堂
(正面7列10番)

解説・能楽案内
 牛若の盗賊退治 表きよし(国士舘大学教授)

狂言 名取川 山本則重(大蔵流)

能 熊坂 替之型 梅若紀彰(観世流)

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