日記
ハンブルクのエルプホール Elbphilharmonie
2022年06月21日
かねてより聴いてみたいと願っていたハンブルクのエルプホール Elbphilharmonie に行って来ました。ドイツ第二の人口規模を有するハンブルクは、北ドイツに在する中世からの港湾都市で、ロンドンからは実質飛行時間が1時間10分程度の近さです。私はNHKのドキュメンタリーで、このホールの建設と音響設計に要した苦労談を観て以来、特に興味を持っていました。
4月中旬に6月のハンブルクへの出張が決まった際、ホテルより先にエルプホールのサイトをチェックしました。自由になるのは6月16日の一晩だけですが、ちょうどNDRエルプフィルハーモニー(NDR Elbphilharmonie Orchestra)とヘルベルト・ブロムシュテット(Herbert Blomstedt)によるブルックナー第7番のコンサートが予定されています。早速、予約を試みたものの全席Sold Out。その後、折を見てチェックしてもずっとSold Outで、ネットでは他の入手手段が見つかりませんでした。
13日にハンブルクに着いてホテルにチェックインした後、すぐにコンシェルジュにコンタクトしたところ「確約は出来ないが8割以上の確率でチケットを取れる」という心強い返事。値段は構わないので出来るだけ良い席をとってもらうようにお願いして仕事に出かけました。2時間ほどして、「5段階のうち3番目のクラスのチケットが取れた。結構なプレミアムがかかるが良いか」という電話があり、確保してもらうよう回答しました。という訳で、正価49ユーロのチケットに80ユーロを要しましたが無事取ることが出来ました。
エルプホールはエルベ川に面したハンブルクの古い倉庫地区にあります。その建設には当初見積もりの10倍以上の費用と7年を超す年月を要し、大きな社会問題に発展したようですが、出来上がった建物は素晴らしくドイツ人の執念を感じさせるものです。


この2枚はhttps://www.elbphilharmonie.de/en/the-hallsから

さて、今回のコンサートに際しては2つの関心事がありました。一つ目はエルプホールの音、そして二つ目は御年94歳のブロムシュテットの指揮。当日のプログラムは、モーツァルト交響曲第34番KV338とブルックナー交響曲第7番の組み合わせで、実質1時間半程度ですが、94歳の指揮者がどう振るのか興味津々です。


次回はいつ来られるか分からないので、思わずオーディオ的にも聴いてしまいました。第一印象は「音が良い」。弦から管まで非常に解像度が高く、個々の楽器の音が鮮明に聴き取れます。音色に関しては、冷たい音ではありませんが、有機的というより無機的な響きを感じます。また木質系の「濡れた音」とも違います。
総じて普段よく聴くBarbicanより音は間違いなく良いのでしょうが、自然素材で造ったホールを聴く機会が多い私にとってはあまり馴染みの無い音色です。木や漆喰の響きを感じるMusikvereinとも相当異なります。この響きの違いは、ShoeboxかVineyardかといったカタチの違いからでは無く内装素材の違いに因ると思います。

私の席(3階の最前列)でも音量は十二分で、フォルテの音量は自宅なら飽和しそうなレベルでした。勾配が急なので、教会のドームのように音が上に伸びて床と天井で共鳴しそうなのですが、天井の比較的低い位置にある巨大な反射円盤の効果かコモることはありません。ただ、コモりそうなのをコモらないようにコントロールしているなと何度か感じました。同じ形態のBerlin Philharmonieの音ともかなり違います。エルプホールはより狭く深いことから音響処理は遥かに難しそうです。
リスニングルームに例えると、「理想的な環境で造りっぱなしでも良い音がする部屋」ではなく「多くの問題を巧みな音響コントロールで解決した部屋」という印象でした。また極めて感覚的ですが「新しい音」を感じます。新しい設計のホールという点ではルツェルンのKKL Luzernも聴いたことがあるのですが、あそこは伝統的なShoebox型だからか、解像度の高い音ながら新しい音という感じがあまりしなかったのと対照的でした。
Brucknerの7番はナマで初めて聴きました。普段あまり聴かないのですが、同じ主題を何度も繰り返しながらオーケストレーションを多彩に聴かせるところなど極めてオーディオ的でした。
94歳のブロムシュテットは、前半のモーツァルトでも後半のブルックナーでも指揮中に一度も手すりも触らず、ずっと立って指揮をしていました。これには心底驚きました。2018年に90歳のハイティンクを聴いた時は第一楽章の途中から席に座って指揮をしていて、それでもずっと手を振っているのは凄いと思ったのです...
オーケストラの編成は、1st Violin:16、2nd Violin:16、Viola:10、Cello:10、Contrabass:6、Horns + Timpani:25でまずまずの大編成。音楽的には、少しゆったり目のテンポで、弦の響きが印象的...スミマセン、コメント出来るほどこの演目を聴き込んでいません。
北緯53度のハンブルクは引け後の22時20分でもまだ明るいですね。
音響設計会社のサイトです。
エルプフィルハーモニーのサイトです。
レス一覧
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のびーさん、エルプフィルハーモニーホール聴かれましたか!
オープニングコンサートシリーズはFMでも放送され聞いたのですが、総じて残響は薄いけれどもデッドではないと感じましたので「無機質」と表現されているのに納得です。
また、ブロムシュテット氏の指揮ぶりも普段ベルリンフィルのストリーミング配信で拝見していて年齢を感じさせない若々しさに驚きますね。
by椀方 at2022-06-21 09:17
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ハンブルクのエルプホール、よさそうですね。
>3階の最前列でも音量は十二分で、フォルテの音量は自宅なら飽和しそうなレベル
>弦から管まで非常に解像度が高く、個々の楽器の音が鮮明に聴き取れます
この二つの感想で、音のよいホールということがわかりますね。
響きがなければ音量は稼げませんし、響きがあるのに解像度が高い・・・とは理想的です。後は、演奏の力次第ですね。
ちょうど昨日に、6月コンサートのリハーサルがあったのですが、サルビア音楽ホールもその2点を兼ね備えています。
エルプホールが、「多くの問題を巧みな音響コントロールで解決した部屋」とするなら、
サルビア音楽ホールは、「理想的な環境で造りっぱなしでも良い音がする部屋」という感覚です。何の変哲もないホールですが、小編成演奏にはうってつけのホールです。
労せずに音楽向きな音響が得られたのは、偶然の産物かと感じています。
byヒジヤン at2022-06-21 13:19
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のびーさん、
なかなか興味をそそるホールですね。来年ハンブルクを訪問する計画を立てていますので、上手く日程が合えば、是非行ってみたいと思います。もっとも演奏されるのがブルックナーですと連れが寝てしまいそうですが。(笑)
上手く取れなかった場合には、コンシェルジュに頼むのも覚えておきましょう。このくらいのお値段でしたらよろしいのではないでしょうか。
byHarubaru at2022-06-21 15:49
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椀方さん
レスありがとうございます。
>総じて残響は薄いけれどもデッドではない
まさにそういう感じです。「新しい音」と記しましたが、まるで最新の解析技術で作ったスピーカーを彷彿させるような音でした。良い音だと認めるけど、何か馴染めないような...これはホールの問題ではなく聴衆が慣れる必要があるのかもしれません。スピーカーの評価と共通するものがあります。おっと、やはりオーディオ的に聴き過ぎたかもしれません(-_-;)
byのびー at2022-06-21 17:09
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ヒジヤンさん
こんにちは。コンサートの準備にお忙しそうですね。
朝日新聞デジタルに設計を担当した豊田氏のコメントが載っていて興味深いです。
『音響でよく言われるのがホールの残響時間だが、豊田氏によると、優れた音響には原音と壁などに反射した音が混ざり合う「初期反射音」の方が重要。残響時間はホール内のどこでも同じだが、初期反射音は席の位置によって異なる。ぶどう畑型では、この反射音を得るため、客席をブロックごとに分けて客席の近くに壁を作っている。』
あと、椅子の座面が異常なほど厚いことに驚きました。これは観客数の多寡による影響を最小にするためらしいです。注意深く見ると随所に音響対策が施されています。あ、またオーディオ目線になってしまいました(苦笑)
byのびー at2022-06-21 17:20
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Harubaruさん
>来年ハンブルクを訪問する計画を立てていますので、上手く日程が合えば、是非行ってみたいと思います。
コンサートの有無にかかわらず、これを観ずしてハンブルクを去れません。人気の旧倉庫街の一等地にあり、何せ人が入居する建物としては街一番の高さ(108m)を誇る威容です。近くに行くととにかくデカイです。
>ブルックナーですと連れが寝てしまいそうですが
交響曲7番は、退屈という印象でしたが、真面目に聴くと多彩なオーケストレーションが聴きごたえがあり1時間超でも非常に短く感じました。演目にかかわらず、席が取れれば是非お出かけください。
byのびー at2022-06-21 17:38
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私はハンブルクは通算で30回くらい訪れていて、しかもそれはNDR(北ドイツ放送)への営業が目的だったのですが、エルプフィルハーモニーには行く機会がありませんでした。ヴァント指揮のブルックナーを生で聴いてみたかったですね。
ブルックナーというと、他にミュンヘンフィルが定番で、こちらも10回近くミュンヘンに出張に行っているのですが、生で聴く機会はやはりありませんでした。
率直に羨ましいです。
ハンブルクは港のそばの肉市場のステーキハウスがおすすめです。500gとか(欲しければいくらでも)いけちゃいます。
ブルックナーの7番は4番と並んで最も好きで、アマオケで両方とも演奏したことがありますが、非常に聞き応えのある曲だと思っています。
by元住ブレーメン at2022-06-21 18:26
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元住ブレーメンさん
こんにちは。30回ですか!それは凄い。私は今回が初ハンブルクです。ミュンヘンは何かと立ち寄る機会がありますが、ハンブルクはそこに用が無いと行かないですよね。
>アマオケで両方とも演奏したことがありますが、非常に聞き応えのある曲だと思っています。
元住ブレーメンさんは只者ではないと思っていましたが、演奏したことがあるとは!
私の方はコンサートに行けることを願って最近、ヴァント=NDRの92年のライブで予習していました。
この組み合わせをElbphilharmonieで聴けることは現実にはあり得なかったのですが、出来れば聴いてみたかったです。
byのびー at2022-06-21 19:41
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のびーさん
こんにちは、ハンブルクのエルプホール 初めて知りました。
画像から拝見しただけでも凄く斬新な設計ではと感じますね
どうもオーディオ的な目で見てしまいますが、壁全体がディンプル
加工されてるようで、成る程なあと感心させられますね、
壁材は何かな興味が湧きます、発泡コンクリートかな?
ホールの高さも相当ですね、浮雲も大きいのでしょうね。
革新的なホールですね。
一度訪れて見たいものです。
by田舎のクラング at2022-06-21 21:17
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田舎のクラングさん
こんにちは。基本的に上下に深い造りなのでステージの音が上に向かった行くようです。
壁面は、触ってみたところ硬い材質で、漆喰だと少しヒンヤリ・しっとりするのですが、乾いた感触でした。資料によると散乱面の素材は比重1.5の繊維強化石膏ボードとのことです。
浮雲は巨大です。真ん中の円形の部分が可動式で、コンサートが始まるまで大きな筒のようなものが下がってて、演奏開始直前に雲の中に収納されました。容積が大きく吸音するとエネルギーが減少してしまうので、上手に拡散させて聴衆に音圧を浴びてもらおうという趣旨だと理解しました。
いずれにせよ一聴に値しますよ。
byのびー at2022-06-21 21:49
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のびーさん、
こんばんは。
エルプフィルハーモニーでのコンサート体験、うらやましい限りです。
天井がすごく高くて写真からも奥の席でも演奏者からの水平距離は近いけれど高さ方を利用して席の数を確保しているように見えます。ミューザ川崎をさらに発展させたような…
興味を持たれたのはNHKのドキュメンタリ―がきっかけだったんですね。
そういえばと日記をさかのぼって調べてみたら、2019年のことでした。月日の経つのは何と速いことか…
エルプフィルハーモニーの音響でテノールが聴こえない騒動があって、それを踏まえてのドキュメンタリーだったと思います。
https://community.phileweb.com/mypage/entry/3806/20190610/62712/
https://community.phileweb.com/mypage/entry/3806/20190702/62886/
あれから何か対策が採られたのかもしれませんね。
3階席でも十分以上の音量が得られたというのはすごいと思います。
ベルリンフィルハーモニーやコンセルトヘボウも含めていつか聴いてみたいけれど…ヨーロッパは遠いです。
ザリャジエ・コンサートホールはもはやあり得ないでしょうが…
byK&K at2022-06-21 23:00
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K&Kさん
レスありがとうございます。
日記を書きながら「誰か以前まとめていたな?」と記憶を辿ったのですが...ご紹介の日記を再読して思い出しました。
3階席でも十分以上の音量が得られるのは、勾配が急なので3階席でもオケからの物理的な距離は結構近いことと、音が上に伸びるようなカタチであることが奏功しているのだと思います。
カウフマンの騒動の後、小さな調整はともかく大きく何かを変えたとは聞きません。
個人的には、カウフマンにも問題があると思っています。彼はロンドンに頻繁に来るので何度かBarbicanで聴いたことがあります。彼が出るオペラは法外なプレミアムが付きますが、ソロリサイタルは案外簡単に予約できます。彼の人気が上昇していた2015年頃まではハリも声量もあるという印象でしたが、マチュピチュ旅行で喉を傷めて休養した後は、明らかに声量が落ち、他の一流歌手よりも声の通りが良くないと思います。彼もそれを自覚しているのか、表現をより重視した歌い方に変化しているようです。
このNHKのドキュメンタリーは非常に良いプログラムでした。再度録画を観たら、後半の相当時間をザリャジエ・コンサートホールに割いていました。いつか訪問できるような時が来るのでしょうか?神のみぞ知るです。
byのびー at2022-06-22 05:54
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NDR Elbphilharmonie Orchestraの演奏は、ベルリンフィルのデジタルコンサートホール同様にiPadにアプリがあるので、のびーさんが聞かれたコンサートが登録されているか確かめてみましたら、音声のみでしたが登録済みでした。
常任指揮者のアラン・ギルバートのはビデオ登録されているので、契約の関係があるのでしようね?
残念ながらAppleTV4Kにはアプリが登録されてないようなので、音質は落ちますがAirPlayで飛ばして聞いてみます。
by椀方 at2022-06-22 08:50
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椀方さん
情報ありがとうございます。
実際に聴いたコンサートが録音でどのように聴こえるのか非常に興味深いです。
コンサートでは、少しオーディオ的に聴き過ぎていた(汗)と思うので、プレイバックでは音楽に浸りたいと思います。
byのびー at2022-06-23 05:34
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のびーさん、昨夜はBS録画していたラトルLSOがバービカンホールで演奏したベートーヴェンのオラトリオ「オリーブ山のキリスト」を視聴してましたが、幾らベートーヴェン作曲とはいえオラトリオですからラトルの指揮が力強すぎて、、、。
iPad OSとiPhone OSにはベルリンフィルの他にPhilharmonie
Liveでパリ管を、BRKlassikでバイエルンを無料のビデオ映像付きでアーカイブを視聴することが出来ますが、AppleTV OSにはアプリが登録されてないのが残念です。
この点をAppleサポートに対応するよう要望して何年経っても変わりません。
小生は生のコンサートの補完としてこのようなコンサートライブの配信やFM放送を通じて、現在活躍しているアーティストたちの音楽を視聴して楽しみたいと考えているので、 TV付属のアプリやAppleTV4Kのアプリが無い事による不便さを解消するにはどんな手段があるのか思案中です。
いっそMacminiを使えば高音質化が図れるのなら導入考えたいですね。
by椀方 at2022-06-23 09:11
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椀方さん、
>生のコンサートの補完としてこのようなコンサートライブの配信やFM放送を通じて、現在活躍しているアーティストたちの音楽を視聴して楽しみたいと考えている
配信を主要なソースにすると、新しいフォーマットやアプリに触れる機会も多いし、興味も湧きますよね。私は、コンサートには出かけるものの、古い録音ばかり聴いています。一時、新しいものの方が録音も良いし演奏も斬新と思って、新録音に熱を上げた時期もあったのですが、古い録音も音が良いことに気付いてから、演奏に馴染みのある旧録音ばかりを聴くようになってしまいました。新録音であればマルチチャンネルもありなのでしょうか。
コロナ禍を経て、世界的に配信の質・量ともに充実しているようですから、これからは新録音も聴いていかないと、と思っている次第です。
byのびー at2022-06-24 21:46
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