日記
デジタルの長所
2015年07月25日
前に紹介した本(「サウンドとオーディオ技術の基礎知識」)の中に面白い記述を見つけました。
音に限らず、コンピュータで扱うデータはすべてデジタルで、いまやデジタルなしの生活なんて考えられない(テレビ、ブルーレイディスク、デジカメ、電子メールなどなど)が、どうして何もかもデジタルなのか? というのです。
デジタルにはそれだけのメリットがあるのだが、アナログに対するおそらく最大の利点は、ノイズに強いということだろうという著者の指摘です(144頁)。
アナログ信号の伝送には、どれだけ高級な伝送ケーブルを使っても伝送系路上ではノイズが加わる、ノイズによって信号は汚れる、劣化する、一旦、劣化してしまった信号を元通りに回復させることは、ほぼ不可能である。
デジタル信号の場合もどれだけ高級な伝送ケーブルを使っても、同じようにノイズが発生するので伝送先で受信される信号が劣化する。ところが、デジタル信号は2値しかない。それを送り手も受け手も承知している。ここが大きく違う。クロックのタイミングに合わせて、0か1かの判断だけを行っていけば、伝送先で伝送元と全く同じ信号が得られる。伝送の際にノイズが加わっても、伝送先では、ちゃんと伝送された元信号を理解できている(同書に図解あり参照)。
以上が著者のかなりおおまかな説明です。素人の私が申すのもなんですが、抜けている重要ポイントがあると思います。それは、いわゆる Verify(照合作業)です。伝送先と伝送元とで、間違いなく同じ信号をやりとりしたことを確認する作業ですね。これが、デジタル信号伝送の信頼性を担保していると思います。この本の著者はみたところ電子工学の専門家でもありませんし、デジタル情報技術工学の専門家でもないようですが、そうは言っても押さえるところをきちんと押さえなければならないでしょう(笑)。
それはともかく、ここで着目したいのは、「アナログ vs デジタル」論ばかりではありません。むしろ、「デジタル・オーディオ」の中の世界についてです。
本来、デジタル信号伝送は上記のように送信エラーを排除することにより通信の信頼性を確保し、高密度な記録装置の開発と高速度通信技術により我々の生活に限りない利便性をもたらしているのですが、デジタル・オーディオをつらつら眺めるとこのようなデジタル通信の本道から外れた、Verify のない「不完全伝送」方式が横行していることに気がつきます。当然、このような「不完全伝送」方式は、エラー補正機能がないので音質劣化の原因になるでしょう。
では、デジタル・オーディオの世界で、Verify のない「不完全伝送」とは何でしょう?
かねてより説明していますが、USBアシンクロナス方式によるストリーミング再生というのは、信号の流しっぱなし、受取りっぱなしの伝送方式ですから、この方式を採用するオーディオ再生方式がまず当てはまりますね。
http://www.picfun.com/usb03.html を参照してください。非常にわかりやすくこのことを説明しています。
で、もう一つは?
CD盤を高速回転させ光ピックアップレンズでデジタル信号を読み取ろうとするCDプレーヤー(ないしCDトラポ)ですね。ピックアップレンズで読み取ったデータが正しいかどうか、どうやってCDPは知るのでしょう? プレーヤーのカタログには「エラー補正」(でしたっけ?)という言葉が使われますが、数秒前にCDPにセットしたCDの一曲目を再生しようとするときに、それが「正しいデータ」であるかどうかをCDPはどのようにして知るのか? ということです。ここ、素人考えですから、間違っていたら教えてください。
ついでながら、CDプレーヤーの構造問題として、光学式データ読み取りレンズの汚れが問題になります。ピックアップレンズのクリーニングは日頃なかなか手が届かない部分だと思いますが、業としている人のブログをみて頂くと、その汚れ具合に驚くでしょう。そこにも「CDPは、ピックアップレンズのクリーニングと相まって一段と解像度が上がりノーメンテの物と比べると解像度、fレンジなど大きく違いを感じます」と書かれています。
前回取り上げたデータ転送速度の問題もあって、CDはそのままCDプレーヤー(ないしCDトラポ)で再生させるものではなく、その音楽データを Verify つきでリッピングし、リッピングファイルをNASやフラッシュ・メモリに収納し再生(但し、上記のUSBアシンクロナス方式は論外!)するほうが音質がよいという我々が常日頃実感していることになるのでしょう。
そしてこのことは、SACDにもそのまま当てはまるでしょう。次回は、SACDについて考えてみたいと思います。
レス一覧
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かもんさん、こんばんは。
CDでは最初にフレーム内の誤り訂正を行ないますが、フレーム内訂正できないエラーをC1エラーといいます。
C1エラーは、C2符号と呼ばれる、複数のフレームに分散されている訂正用リードソロモン符号でさらに訂正します。
C2符号では224ビット中32ビットまでのエラーを訂正できますが、もしここでも訂正しきれないエラーがあれば、これをC2エラーといいます。
C2エラーが発生した場合は前後の正常なデータの平均値をとる方法により、データ補間します。
大抵のCDはC1エラーまでなので、完全に訂正されます。 またC2エラーが1枚のアルバムに数箇所あったとしても、どこでデータ補間になったかは誰も当てられないでしょう。
CDPのピックアップレンズのクリーニングで音質が向上するのは、データが正しく読めるようになったからでは無く、サーボ電流の変動が減少して、デジタルノイズが減り、結果としてDACに供給されるクロックジッターが減少したからでしょう。
byミネルヴァ at2015-07-25 20:52
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yamamoto2002 さん、こんばんは。
いつもながら、いろいろ教えて頂きありがとうございます。
referされた2013年9月28日の日記を拝見しました。長さ1.5メートルのUSB2.0ケーブルで一旦、USB DACに信号を送出し、このUSB DACからTOSLINK光デジタル出力でデジタル録音機で受取り、そのデータを照合した結果、およそ100億ビット送信しても1ビットも違わず正しいデータが届いたということなので、デジタル通信の精度の高さを示しているということ、よく分かりました。
USBアイソクロナス転送方式は、いってらっしゃいのデータ送信だけれども、それなりに信頼性があるだろうということは分かりました。全く箸にも棒にもかからないというものではない、ということですね。ただ、ストリーミング再生というその方式の特性上、仰るように再送はタイミングの問題があって選択できないですから、エラー発生の可能性(あくまで可能性かもしれませんが)は、バルク方式とは質的に異なるということになるのでしょう。
「大抵のCD盤は何回再生してもエラー0回で再生が完走する」かどうかは何とも言えないので、CDPでのエラー補正機構については、ミネルヴァさんのレスを踏まえて勉強したいと思います。
byかもん! at2015-07-25 23:43
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ミネルヴァさん、こんばんは。
いつも教えて頂き、ありがとうございます。
さすがに詳しいですね。C1エラー/C2エラーという言葉自体、初めて聞きました(汗!)。自分の理解を深めるために「通信用語の基礎知識」というHPから拾った内容を細かく引用させて頂きます。
実際にCDを読み取ってフレーム内の誤り訂正を行なうが、ここで訂正できないことを「C1エラー」という。分散されたデータを元の順序に戻すが、この時にはC1エラーのデータの行き先は確認できているので、これをC2符号で訂正する。C2符号では224ビット中32ビットまでのエラーを訂正できるが、もしここでも訂正しきれない場合を「C2エラー」と呼ぶ。
CD-DA(音楽CD)の場合、「C2エラーが発生した場合は前後の正常なデータの平均値をとる等の方法により、推測することで補間」する。そのため、音質は劣化するが、辛うじて再生はできる。しかしエラーが激しい場合には誤り訂正しきれず、音飛びしたりノイズが混じったりすることになる。かつて使われた偽CD「コピーコントロールCD」では、このC2エラーが意図的に混入されていた。
ということですので、C1/C2エラーは発生する。C2エラーが発生した場合は前後の正常なデータの平均値をとる等の方法により、推測することで「補間」する。そのため、音質は劣化するが、辛うじて再生はできる、とのことですので、USBストリーミング再生で、yamamoto2002 さんが指摘されているように、推測「補間」が間に合わないということを念頭に置く必要があるようですね。(以下、つづく)
byかもん! at2015-07-25 23:46
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つづきです。
いずれにしても、偶発的なエラー発生は不可避、「補間」にしろ「補正」にしろ、問題はそれがタイミングよく間に合うかということが音質に直接反映するので、やはり、本文で述べた二つはデジタル・オーディオの中では「鬼子」扱いせざるを得ないようです。
レンズの汚れと音質悪化との関係は、なるほど、そのような見方もあること、勉強になりました。ただ、このようにして、物理的汚れは不可避である、それもCDPの大きな問題のひとつであります。
CDPの問題は、たとえばヒラリー・ハーンのシベリウス・ヴァイオリン協奏曲のCDをお持ちでしたら、第一楽章、第二楽章、第三楽章のそれぞれで、彼女のメイン・マイクと立ち位置の距離が異なるのが聞き取れますか? CD再生ではとても無理ですが、リッピングファイル再生すると、第一楽章では2-3メートル、第二楽章では、そこから2メートル奥まって、第三楽章で、1メートル戻るという具合に奥行きがそれぞれずれていることが聞き取れます。お試しを。
次のテーマにも絡んできますが「個人的には、回転したディスクにレーザー光を照射してデータを読み取るという非常に不安定な再生方式で、無闇矢鱈と高額なだけのSACDプレーヤーは利用価値が無いと考えます」(http://audiomyhobby.at.webry.info/201205/article_3.html)とありますように、この人も問題意識は同じですね。音質改善効果がなければ、手間と時間をかけて、わざわざリッピングなどしないですからね。
byかもん! at2015-07-25 23:47
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かもんさん、おはようございます。
ヒラリー・ハーンの件は後ほど確認してみます。
デジタルデータの音楽再生において、データの読み取りエラーによる音質変化は考える必要性は無いでしょう。
一楽章を通じて楽器の定位をあいまいにする一様な音質変化は、偶発的なエラーを集めても起こしようがありません。
昔、オーディオ雑誌でエソテリックの技術者が自社の超高級CDトランスポートと1万円のCDプレーヤーで、そのS/PDIFの出力にはまず1ビットの違いも無いと語っていました。
出力で違うのはオーディオ再生クロックのジッターだけだそうです。
「クロックジッター」については。「オーディオ品質とクロックジッター」で検索するとヒットするEDNの記事が参考になります。
ネットワーク経由での音楽ファイル再生のメリットは、「デジタル技術の素晴らしさ」によりまず完全であることが確保されている0,1データの正確さにあるのではなく、クロックジッターの低減が行いやすいという点にある、と考えています。
byミネルヴァ at2015-07-26 05:32
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ミネルヴァ さん、こんにちは。
>一楽章を通じて楽器の定位をあいまいにする一様な音質変化
ヒラリー盤の例で申し上げたかったのは、このような微細な表現力がCDP再生と「ネットワーク経由での音楽ファイル再生」とでは異なる。私は、その原因が、CDPでは元の音源データを寸分違わず正確に把握できないというデータ採取に問題があるからではないかという意味で持ち出したものですが、これを短絡的に「データエラー」事象として取り上げたのは迂闊でした。
仮にそのようなことがあるとしても(これは別途、ご確認頂くとして)、それは、「クロックジッターの低減の行いやすさ」の違いにあるのではないか、というのがミネルヴァさんのご指摘ですね。
教えて頂いたEDNの記事を通読しましたが、「CDプレーヤのデジタル部とアナログ部を別筐体に収めるセパレート型CDプレーヤが開発された。ノイズの発生源となるメカやデジタル回路などと、そのノイズの影響を受けやすいD-Aコンバータ以降のアナログ回路を別筐体に収めたものだ。それにより、デジタル部からのノイズがアナログ回路に及ぼす影響を極力排除し、また独立した電源回路によってそれぞれの干渉を最小限にして、高音質を達成することを目的としている」とありますので、CDP再生はノイズ問題に原因がありそうで、データ読み取りエラーとは直接関係がないようにも見えますね。
つづく
byかもん! at2015-07-26 08:53
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つづきです
そこで、
>データの読み取りエラーによる音質変化を考える必要性は無いでしょう
とのことですが、
「一般的なデジタル回路の世界でジッターが問題となるのは、それによってタイミングマージンがとれなくなり、データエラーが発生するケースである。つまり、ジッターが存在していても、タイミングマージンさえ十分にとれていればまったく問題はない。一方で、デジタルオーディオシステムにおけるジッターの問題は、データエラーが起きるということとは異なる。デジタルオーディオシステムでは扱うクロック周波数が低いため、タイミングマージンは十分にある。従って、多少のジッターではデータエラーは発生しない」とあります。
ここで筆者が想定している「デジタルオーディオシステム」というものがストリーミング再生なのか、そうでないのか曖昧ですが、仮に後者だとするとストリーミング再生は「一般的なデジタル回路の世界」に匹敵し「それによってタイミングマージンがとれなくなり、データエラーが発生するケース」に該当することになるので、「ネットワーク経由での音楽ファイル再生のメリット」が「データエラーがないこと」にあるのか「ジッターの低減」にあるのかは、まだまだ綱引き状態(というよりもニワトリとタマゴ)のように見えますね。
ただ、話を元に戻しますと、C1エラー/C2エラーという概念は、CDP再生に特有の概念であって、USBバルク転送やLANによる音楽データ転送には全く出てこないコンセプトだと思うのですが、どうでしょうか? つまりこれらはデータ読み取りエラーという固有事象に対応したものであり、それに呼応するために訂正用リードソロモン符号がふってある訳でしょう。
byかもん! at2015-07-26 08:54
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かもんさん、
先ほどヒラリー・ハーンのCDとリッピングファイルのネットワーク再生を比較してみました。
第一楽章より第二楽章の方が、バイオリンの音像がやや大きく遠くになりますね。
第三楽章では、第一楽章の音像表現に近づきますが、第一楽章ほどの音像の引き締まり感と距離の近さは感じられません。
これはCDプレーヤー(SA-13S1)でもSC-LX88によるネットワーク再生でも同じように感じられました。
DACの違いによるものか、アナログ回路の違いによるものか、クロックジッターの差によるものかは判然としませんが、我が家の場合、ネットワーク再生の方がよりくっきりとした高解像度表現になりました。
EDNの記事で理解して頂きたかったことは、
1.DACの入力には0,1のデジタルデータとオーディオ再生クロックがある。
2.0,1のデジタルデータはまずエラーなく正確に入力されるが、オーディオ再生クロックは時間軸情報を与え、このアナログ情報はノイズにより簡単にジッターが載るため、時間軸がふらつく。
3.時間軸がふらつくと音質が劣化する。
ということでした。
byミネルヴァ at2015-07-26 11:34
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ミネルヴァ さん、どうもです。
ヒラリー盤、ミネルヴァさんのCDPでも再現できましたか。それは何よりでした。ただ、「ネットワーク再生の方がよりくっきりとした高解像度表現になり」ました。というのは、共通の認識ですね。
「データエラー」なのか「ジッター差」なのか、いろいろあると思いますが、ご承知のように私がこのテーマにこだわったのは、「アナログ vs デジタル」という観点で理解を深めること、さらには、なぜ同じCDを使用しているのに放送局の再生音質があんなに良くなるのか?という例のポイントに少しでも迫りたかったからですが(隔靴掻痒ですが)、今回も、いろいろと教えて頂き、まことにありがとうございました。
なお、別稿の「「SACDにコピープロテクト手段があるのか」という点についても、アドバイス頂ければと思います。
今後とも、よろしくお願いします。
byかもん! at2015-07-26 12:50
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