日記
ふたたび「SACDリッピング」について
2015年07月29日
多くの人には迷惑かもしれないので、昨日は沈黙していましたが、どうも良く解っていない人が多いのでもう一度整理します。「違法論者」は平成24年の著作権法改正により「SACDリッピング」が違法化したと主張しています。これについては、異論がないですね。
一方で「違法論者」が言うには、「SACDはコンテンツ保護のために技術的な保護がなされていることはフォーマット登場時から公知の事実であり、既出ですが現在も公式サイトの以下に分かり易くまとめてあります」ということですから、1999年にソニーとフィリップスにより規格化されたSACDについては、コンテンツ保護のために技術的な保護がなされていたのだから、「平成24年(2012年)の著作権法改正により、その時点からSACDリッピングが違法化した」のではなくて、平成24年の著作権法改正以前から、違法化していたことになりますね。
1999年時点でSACDが世に出たときから「要するに暗号化などの技術的保護手段によって保護されているコンテンツについては復号により暗号化解除して利用可能となる場合は私的利用の対象とはならず複製ができない」ということなのなら、「平成24年(2012年)の著作権法改正により違法化した」というのは間違いで、「平成24年の著作権法改正以前から違法化」していたと主張し直さざるを得ないでしょう。
誰も平成24年の著作権法改正以前から違法だったとは一言も言っていないのですから、既にここで「違法論者」の論理が破綻しています。
なぜこのような矛盾が起きるかというと「違法論者」の頭の中の整理ができていないからです。
この平成24年の著作権法改正に際しては、文化庁の説明HPでは、
「今般対象となる暗号方式の保護技術とは、コンテンツ提供事業者が映画などのコンテンツを暗号化することにより、機器での視聴や複製をコントロールする技術であり、現在、DVDやBlu-ray Discなどに用いられています。
具体的には、記録媒体用のCSS(Content Scramble System)やAACS(Advanced Access Content System)、機器間伝送路用のDTCP(Digital Transmission Content Protection)やHDCP(High-bandwidth Digital Content Protection)、放送用のB-CAS方式などが挙げられます。」
と書いており、そこにSACDは全く明記されていないのです。そして、同じHPのすぐ上で、
「DVD等に用いられる暗号方式の保護技術を新たに技術的保護手段の対象とすることにより、第30条第1項第2号において、私的使用目的であっても、技術的保護手段の回避により可能となった複製を、その事実を知りながら行う場合には複製権侵害となり、民事上の責任(損害賠償など)を負うこととなります。ただし、刑事罰はありません。」
とされて、ここにもSACDについての記述はありません。そしてその直後には
「なお、技術的保護手段の用いられていないCDを私的使用目的で複製すること(例えば、携帯用音楽プレーヤーに取り込むこと)は、著作権侵害とはなりません。
一方、第120条の2において、
・暗号方式による技術的保護手段の回避を可能とする装置又はプログラムの譲渡等を行った者(第1号)
・業として公衆からの求めに応じて当該技術的保護手段の回避を行った者(第2号)
に対しては、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとなります。
なお、第120条の2に規定する罰則については、非親告罪となっており、公訴を提起するために著作権者の告訴は必要ありません。」
として、技術的保護手段の用いられていないCDのリッピングは著作権侵害ではない、とわざわざ明記しています。著作権法改正に際して「技術的保護手段の用いられていないCDのリッピングは著作権侵害ではない」と明記をするのはこのときが初めてです。完全「白」であることを明らかにしたわけです。なぜこうしたかはあとで説明します。
以上のとおり、平成24年の著作権法改正では、「SACD」の取扱いが明記されていないので、「平成24年の著作権法改正により、SACDリッピングが違法化した」とはとても言えないのです。「違法論者」が現在、それが違法化しているというのなら、平成24年の著作権法改正以前から違法化していたということになるのです。そしてもし平成24年の著作権法改正以前から違法化していたのであれば、文化庁の説明HPでは、
「技術的保護手段の用いられていないCDを私的使用目的で複製すること(例えば、携帯用音楽プレーヤーに取り込むこと)は、著作権侵害とはなりません。ただし、SACDを私的使用目的で複製することはもとより著作権侵害になります。加えて今般は刑事罰が科されることになりました」
と書くべきなのです。ところがそのようなことは書いてないのです。
「それならそういう理解、平成24年の著作権法改正以前から違法だったでいいじゃないか(いやそれを言い出したら論理矛盾を露呈するのですが、それには目をつぶるとして)、なのにおまえはまだ何を言うのか?」という声が聞こえてきそうですので、追加説明します。
今回は刑事罰が創設されていることがポイントです。平成24年の著作権法改正で、当該技術的保護手段の回避を行った者には刑事罰が科されることになりました(創設)。刑事罰を科すについては、「罪刑法定主義」という大原則があります。つまり、刑事罰創設の際に「何が罪になるのか」を明らかにしなければならない、という大原則です。
その意味で、わざわざ技術的保護手段の用いられていないCDを私的使用目的で複製することは著作権侵害になりません、と断っているのは、この大原則に沿った措置ですね。国民を曖昧な刑罰不安から予め解放するという目的・趣旨です。
そして仮に「違法論者」が言うように「平成24年の著作権法改正」によって、「SACDリッピング」が違法化したのであれば、そこに、次のように明記すべきなのです。
「技術的保護手段の用いられていないCDを私的使用目的で複製すること(例えば、携帯用音楽プレーヤーに取り込むこと)は、著作権侵害とはなりません。ただし、SACDを私的使用目的で複製することはこの法律の今次改正により今後著作権侵害になりますし、刑事罰の対象にもなります」
私は、文化庁がこのことを書き忘れたといって揚げ足をとっているのではなく、著作権侵害とはならないとして書かれている「技術的保護手段の用いられていないCD」にはSACDも入っていると読める、ということを申し上げているのです(「違法論者」がとかく技術・技術と言っているSACDのコンテンツ保護のための技術的な保護といっても、それはこの文章の「技術的保護手段の用いられていない」技術の一種として包括的に把握されているとも読める、ということです)。
「違法論者」が冒頭のようにSACDの技術に固執するのであれば、「平成24年の著作権法改正」以前にSACDを私的使用目的で複製することが違法だったと言うことになるはずなのに、そのような認識は日本中の誰にもないです。現に「違法論者」のどなたも「平成24年の著作権法改正」以前から違法だったとの指摘は一切ありません。「平成24年の著作権法改正」によりSACDリッピングが違法化したと「違法論者」が言うのです。そして「平成24年の著作権法改正」は刑事罰を導入しているのです。
罪刑法定主義とは何ぞや、これは法律概論を勉強した人ならよく分かるのですが、全く勉強していない素人には分かりづらいでしょう。また、この罪刑法定主義の法理からいって民事・刑事責任の創設にかかわる条項を創設するときには、こと細かく内容を国民に告知すべきですし、現にそうしています。文化庁HPで、DVD関連について細かく説明し、2012年8月4日には明治大学で公開セミナーも催してこと細かく説明しているのです。
「違法論者」は「対象としてSACDが直接記述されていませんが、『実演、レコード若しくは放送若しく は有線放送に係る音若しくは影像』とあることからSACDも含まれることは明らかです」と言います。刑事罰を創設するのに、そのようなぼやけた表現の中にSACDを紛れ込ませるようなことは立法当局は絶対しません。それをやったら恐怖政治の始まりです。これは民主主義の根幹にかかわることです。
既に一読された方はお気づきでしょうが、そこのセミナーでの講演録・配付資料・シンポジウム議事録・質疑応答すべての資料において「SACD」の用語は全くないし「SACDリッピング」の用語も全く出てきません。とくに法改正を議論していた時期にプレステを使ったSACDリッピング(2011年夏~2012年初夏)のことは広く世の中に知られていたにもかかわらず一言も出てきません。これに対してDVDリッピングは何度も出てきます。違法ダウンロードも同じように出てきます。Youtubeその他こまかいことが出てきます。
罪刑法定主義は非常に重い概念です。立法当事者はそのことに神経を配ります。ですから新設罪に該当するのにその事例を説明し忘れるなどということはあり得ません。つまり説明し忘れたのではなく「著作権違反に当たらない」とHPで説明しているから、SACDのことを取り上げるまでもないと当局が考えていたとしても何の不思議もないのです。
ところが多くの「違法論者」が殆ど罪刑法定主義の原則を知らずにただひたすら「違法論」を振り回しているのは見ていて気の毒です。
それから、これはまじめに論理的に議論を展開しているのであって、相手の感情を傷つけるだけの不適切表現の使用は自制すべきです。冷静・客観的に読んでいる読者はきちんとそのことを読み分けていることでしょう。
この記事はレス不許可にしますので、反論は自分の日記で展開してください。
但し、その場合、SACDリッピングが違法になったのは何時の時点からなのかについて、自分の立場を明確にすべきでしょう。
SACDがどういう技術の製品なのかを持ち出してももはや意味がないこともよく理解したうえで、立論すべきでしょう。
つまり、罪刑法定主義の大原則があって、「平成24年の著作権法改正」によりSACDリッピングが違法化したというのなら、なぜ、そのような明確な規定や説明がないのか、当局からそのような明確な規定や説明もないのに、素人の「違法論者」が「平成24年の著作権法改正」によりSACDリッピングが違法化したと主張する論拠は何か? そしてそれにどれだけの説得力があるのか? ということを理路整然と述べて頂く必要があります。