日記
新スピーカ導入記(その1)人間ヒマだとロクなことをしない
2018年12月24日
今年も残すところあと1週間、一年をふりかえる時期の到来ですね。皆様の今年の一年のふりかえりを楽しく拝読しています。
私も今年は大きな動きがありました。少々前の話ですが、新しいスピーカを迎え入れました。海外フリマでの個人売買だったこともあり、ちょっとした冒険、といいますか、個人的にかなり楽しい経験になりました。多少は同好のみなさまのお役に立つ情報を提供できるかもしれないとの思いもあり、その記録を残しておきたいと思います。長くなると思いますので何回かに分けて投稿していきますが、ご興味あればお付き合いいただければ幸いです。
なお、私事ですが、今年の4月で現在の勤務先に勤続25年となり、今年の8月最終週から1ヶ月の特別休暇をいただきました。仕事は結構立て込んでおり、休暇初日は在宅勤務状態、2日目も何故か取引先に出向いて打ち合わせ、と先行き思いやられるスタートでしたが、「これは一生に1回しかない機会なんだから、どれだけ周りに迷惑をかけてもちゃんと休むべきだ」と、複数の先輩からありがたいお言葉を頂戴、3日目から1週間ほど家族と海外旅行に出かけたあたりから徐々に休暇モードに突入、暇に飽かせて新スピーカ導入、と相成りました。
以下、永井荷風「断腸亭日乗」風にふりかえってみます。
9/5
帰国後の数日間、仕事と旅行の疲れでほぼ「引きこもり」状態、本を読んだり音楽を聴いたりして過ごしていたが、そんなときに事件は起きるもの。ボーっとネットサーフィンをしていたら、ドイツのオーディオマーケット(audio-markt.de)に、欲しくて仕方なかったスピーカを発見してしまう。
ドイツ語は読めないが、幸い英語に切替が可能、全部は切り替わってくれないが、Googleセンセに頼るのも面倒なので、読めないところは飛ばしながらおおよその仕組みを理解する。
- 売主は1ヶ月4ユーロでオーディオ機器の個人広告を出せる
- 個人間売買に関するガイドライン(契約書テンプレートなど)は一通りある(全てドイツ語)
- 売買は直接当事者間でやる仕組みで、決済などの仕組みの提供は一切なし
要はオーディオのフリマのようである。

お目当ての品物の売主は名前から明らかにイタリア人。だが説明文はなかなか流暢な英語。既に5件程度の売買実績があり、いずれのフィードバックも高評価であることを確認。品物の写真と、シリアル番号の記載もある。
「まずそうだと感じたら引き返せばいい。ヒマだし、ひとまずコンタクトしてみるか」と軽い気持ちでメールする。ガイドラインに従い、品物の詳細な写真を送って欲しい、PayPal決済できるか?日本に送ってもらうことは可能か、その場合の費用を教えて欲しい、など、こちらの要求事項を伝える。
就寝前に返信が来る。配送料は調べて連絡するので送付先の都市名を教えてほしい、Paypalは今回の品物の金額からするととても高額になるのでできれば銀行送金にしてほしい、写真はWeTransferというクラウドに上げて送る、とのこと。
(、、ここに、合計で往復約60通となるメールのやり取りが始まりました。時差の関係から返事がくるのは大抵日本時間の夕方から夜、私のほうは、寝る前にチェックして返す、というサイクルです。)
9/6
連絡がくる。パレットをつけると1,950ユーロ、つけないと1,150ユーロだが、曰く、パレットはつけたほうがいいと思っている。明日、もう一つの運送会社もあたってみる予定で、そちらのほうがもう少し安い値段を出せると思うが、そのためには詳細な住所が必要、知らせてほしいとのこと。
「パレット」がなんだか分からなかったので「パレットって何?オリジナルの梱包箱の一部?」と、今にして思えば少々間抜けな質問をする。「荷役台」で、梱包箱とは別につけるものだが、今回はデカモノで重量もあるので、経験的に今回は絶対あったほうがいい、と写真入で返事がくる。更に、オリジナルの梱包箱をラップで包んでダメージを防ぐ対策を講じるとのこと。

WeTransferから通知が来る。アップされた写真を見る。巨大な写真が数十枚、見る限りいいコンディション。日差しが明るく、気持ちよく音楽に浸れそうなリスニングルーム。傍らにはLammという知らないメーカの巨大なモノラルパワー、ラックにはCD, LPがズラリ。羨ましい。どんな音がするのか、叶うことなら聴いてみたい。
9/8
連絡がくる。パレットつきで1,650ユーロ。もう一つ別の運送会社をあたっていて、週明けまた連絡をくれるとのこと。
...関係ない話だが、録画しておいた「100分de名著」を観る。なんと今月はウンベルト・エーコ「薔薇の名前」。学生時代にチャレンジするも、あまりの難解さにご他聞に漏れず「挫折」した一冊。これは「この休暇中に読め」、という神の啓示。よし、イタリア繋がりということで読んでやろうではないか。どうせヒマだし。
9/11
連絡くる。パレットつきで1,500ユーロ。これは通関手続き、自宅までの配送を含む価格。通関と自宅まで運ぶのを自分でやるなら、1,050ユーロ。
しばし自問す。通関手続きなどやったことはない。そもそもあれ程かさばるものを自分でクルマに積んで持って帰ってこられるのか?
...いまの時代、Googleセンセに訊けば何でも教えてくれる。運ぶのは息子か誰かに手伝ってもらえばいい。何とかなるであろう。カネはないけどヒマならある。後者(安いほう)でお願いしたい旨返信する。
「薔薇の名前」を順調に読み進む。平々凡々な我が人生ではあるが、そうであっても25年の歳月の賜物、今回は読んでいて理解できる、うんうんと頷ける。
ただ、難解なので時間はやたらとかかる。同じ箇所を何度も読み直したりする。ヒマはたっぷりあるから構わない。「100分de名著」のガイドブックも買ったが、残り3回の録画ともども、これらは読了までは紐解かないことに決めた。
9/12
連絡くる。言い忘れたが保険を先方もちでかけてくれるという。ありがたい。
ところで、到着時の連絡はどういう形でくるのか、どこの航空会社を使う予定なのだろうか。質問する。
ものごとの順序として多少おかしくはあるが、そろそろ契約書を取り交わさないとならない。audio-markt.deのテンプレートそのまま使うということで良いのだろうか。PDFをダウンロードして手書きで記入/サインし、それをまたPDFとしてスキャンしてメールするのだろうか?それとも実筆で郵送?まさかね、この時代に。こちらはなにもかもはじめてなので、先方にそのあたりもあわせて質問する。
9/13
過去に取り交わした契約書をサンプルとして、また、本人確認用のパスポートのコピーを送付してくれた。自分は建築家で弁護士ではないので、法律の観点から厳密に何が正しいのかは正直分からないが、実筆でハードコピーを郵送というのはやったことがなく、PDF化したソフトコピーで契約書を取り交わす方法でやっている、との率直なコメント。それでいいとおもう。こういう率直な物言いで信頼が徐々に築かれていく気がする。
一応、売主をGoogleセンセで検索する。個人で建築事務所をやっているお方らしい。事務所の住所と契約書の住所が一致している。Googleマップで住所を検索すると、ローマのほぼど真ん中。その気になればバチカン美術館に通いつめることもできる。羨望。
ブランクの契約書を印刷して、こちらの情報を記載し、パスポートのスキャンとあわせて先方に送る。紙に手書きしてスキャンして、という一連の作業は久しぶりにやったけど、面倒極まりない。

9/15
今回の配送を手配してくれる運送会社の担当者の連絡先が送られてくる。訊きたいことがあればメールなり電話なりで直接訊けるよう手配してくれたらしい。ありがたい。
9/18
契約書の取り交わし完了。PayPalで決済手続きを始める。
PayPalは大分前からeBayで買い物するときに何度か使ったことがあり、今回も気楽に考えていたが、高額な買い物のため、一度の決済金額上限に収まらないことが判明。では2回に分ければいいのかというとそう簡単ではなく、複数回に分けた場合はバイヤープロテクションが適用されない旨条項に記載あり。PayPalのサポートに連絡すると、おそらく東南アジアのどこかにあるサポートデスクのお姉さんが対応してくれる。やはり適用除外らしい。関係ないが、流暢な日本語に感心する。
重い腰をあげて適用条項を読んでみると、そもそも業者登録していない個人間の取引はバイヤープロテクションの対象外だということがわかる。
PayPal使う意味なし。さぁ、どうする。だがここまで来て引き返すのは癪だ。男が廃るというものだ。ちょっとリスクはあるが、海外送金するか。
状況を伝えて少々待ってもらうことにする。えぇ?そうなの?PayPalのポリシー最近変わったのだね、ちょっと前は大丈夫だったのに、と先方も驚いた様子。
9/20
そろそろ決断せねば。いけ、いってしまえ。いざとなったら、旅行がてらイタリアまで出向けばいいではないか。送金先の銀行のSWIFTコード、口座番号を教えてくれと依頼する。
同じ職場に勤めているカミさんも同じく25周年の特別休暇をもらっていたが、この週の頭から仕事再開。専業主婦ならぬ、専業主夫生活始まる。
自分だけならどうにでもなるが、育ち盛りの2人の息子の食事だけはちゃんと用意せねばならない。起床後、まず洗濯をして、今日の晩ご飯何にしようかを考える毎日。そんなことを考えながら新聞を読んでいたら、不漁といわれていた秋刀魚が一転豊漁らしい。もうそんな季節か。とりあえず今日は秋刀魚を焼くことにする。
9/21
送金先の情報が届く。ダブルチェックの意味で、先方は取引先の銀行からも自分の口座情報を私宛に直接メールするよう伝えたとのこと。なるほど、そういうことができるのか。それはかなりの安心材料になる。邦銀もそういうサービスをしてくれるのかどうかは未確認のため不明。
9/24
「薔薇の名前」上巻読了。これほどに上等な本は本当に久しぶり。子供の相手と音楽鑑賞の時間以外はほとんど釘付け状態。
9/25
秋雨の中、取引先の銀行に出向く。銀行と病院と役所はできることなら行きたくない。まるで磁石の同極が反発するかのように重い足取り。
別銀行の口座から代金を下ろす。半世紀ほど生きているが帯つきの100万円の札束を手にするのははじめての経験。まずこれを今回使用する銀行の口座に入れてくれと依頼すると、あちらにATMがありますのでご自身で、、いきなりこれか。
海外送金は以前にやったことがあるが、とにかく面倒である。
「何の代金ですか?」> オーディオ機器です
「購入先に関する情報を教えてください」> ドイツのフリマです
担当のお姉さんが怪訝な表情をする
「サイトの名前は?」 オーディオマーケットです
「送金金額はいくらですか?」 > x万x千ユーロです
まるで珍しい生き物を見るような表情でこちらを見る > まぁ、それがフツーの感覚であろう
「所得証明を提示してください」>あの、お宅の銀行を給与振込み先に指定してるんだから、私の所得に関する情報はすでにお持ちでしょう、といいたいところをぐっと押さえ、給与明細を持参したPCで見せる
「ちょっと待っててください。サイトの情報を確認してきます」
サイト名を教えようとすると、検索するから大丈夫という。いや、ググッたってそう簡単には見つかりませんよ、ドイツ語分かるなら別だけど、と、サイト名を紙に書いて渡す。
ちぐはぐなやり取りがようやく決着し、指示にしたがってiPadに詳細な情報を入力していく。
海外送金のお作法でいまだに信じられないのが、どの中継銀行を経由するのか、いくつ経由するのか、中継手数料がいくらかかるのか、一切分からないということである。しかも、中継手数料は中継銀行の言い値で、送金金額から勝手に差し引くというルールなのである。以前この話をはじめて聞いたときは「はぁ?」思わず口にしたが、そういうものらしい。念のため、100ユーロ上乗せした金額で送金を依頼する。
もう大変すぎて細かいことは忘れてしまったが、一件海外送金するのに3時間ほど費やしたような気がする。自宅と銀行の往復に1時間。半日仕事である。どっと疲れる。
最大一週間かかるらしいから、申し訳ないがちょっと気長に待ってくれと先方に連絡する。
(つづく)
レス一覧
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柳緑花紅さん、はじめまして。
臨場感が伝わってくる楽しい日記ですね。
続編を楽しみにしています。
byumetaro at2018-12-24 09:50
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柳緑花紅さん
久々の ワクワク導入記です。 過去にも様々な方が導入記を記しており ワクワクドキドキで楽しく読ませて頂きました。
個人売買・相手が海外!(それも外人!(当たり前か。))・モノは大物! いやいや楽しみですね。
海外に送金するって・・・ 面倒なんですね。 やはり高額だから? 映画の中じゃ「エンタ-」(パソコンの)で終わりなのに(笑)
帯封の万札。 私も一度だけ・・・ 住宅ローンの頭金。 おろす銀行、いれる銀行が違ったので なにしろ車中はドキドキ。 (爆)
モノは欧州系かな?
ウチはスッカリ米系。 “C’mon baby アメリカ” (笑)
byアコスの住人 at2018-12-24 11:18
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umetaroさん、はじめまして、こんばんは。
拙文を読んでいただきありがとうございます。クリスマスパーティもようやくお開きになったので、このあと続きを書きたいと思います。
by柳緑花紅 at2018-12-24 22:09
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アコスさん、こんばんは。
アコスさんの4365ツインタワーのようなスケールの大きい話ではありませんが、時間をみつけてがんばって書いてみます。
海外送金は面倒ですね。振り込め詐欺対策と一緒で、万一の事故に対する予防措置を当局からあれこれ指導されているのだと推測しますが、最後は「自己責任」のひとことで片付けられるのがオチです。
おっしゃるとおり、パソコンから「Enter」ひとつ、、というのがひとつのあるべき姿だと思います。実際、PayPalなんかはそれに近いですからね。
モノは、、アコスさんのツインタワー導入記に倣ってもうちょっと引っ張らせてください。笑
by柳緑花紅 at2018-12-24 22:19
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柳緑花紅さん、はじめまして。
タイトルに思わず反応してしまいました。あまりに身に覚えがありすぎて(笑)
自分の海外からのスピーカー購入の際も、結局銀行とのやりとりが一番めんどくさかったなぁ、と思い出しました。
続編も楽しみにしております。
by眠り猫 at2018-12-24 22:41
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眠り猫さん、はじめまして、こんにちは。
ストラドとエリプサのツーショット、壮観でした。眠り猫さんのインプレッションは違和感がなく、私もほぼ同じ印象を持っていました。是非今後とも定期的に情報をアップいただけると嬉しいです。
銀行とのやりとりはもう少し何とかならないものかといつも思います。ただ、IT系各社による新銀行設立や新しい決済サービスに関するニュースを見ている限り、この領域も創造的破壊がしばらく続くことはほぼ間違いないと見ています。
by柳緑花紅 at2018-12-25 13:36
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平蔵さん、こんにちは
個人輸入は基本的に自己責任の世界なので、人様に勧められるかといわれるとなかなか難しいですね。とくに個人体個人の取引は素人同士のママゴトみたいな側面がどうしてもありますから、その行為そのものを楽しいと感じるか、また、相手がどういう人か、に大きく依存するように思います。
ただ、眠り猫さんもしかりですが、個人輸入に関するノウハウをお持ちの方はいらっしゃると思いますので、こういう場で有用な情報を共有できる、する、というのはとても貴重なことだと思います。
by柳緑花紅 at2018-12-25 13:52
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