日記
オープンバッフルスピーカー2号機⑫※最終回(音質と総合評価)
2021年08月11日
『私に聴こえているものは、あなたに聴こえているものではありません。(私が設計したスピーカーのうち)あなたがどれを選べばよいかを、私に尋ねないで下さい。』
by Troels gravesen
DIYスピーカーの大家であるTroels gravesenは自身のホームページにおいて、このように宣言しています。
音質評価は、それが個人の思い込みであったとしても楽しいものであり、設計者としてのインプレを彼には是非語って欲しいとは思うのですが…。
しかし多分…、多分ですが、彼の設計したスピーカーに色々と音質的注文をした人が過去にいたのでしょうね。
私はこれから自分の製作したスピーカーについて音質評価を書きますが、もちろんそれが私以外の方の感性に当てはまるわけではありません。全くの主観です。
そして、わが子可愛さに起因する補正も恐らくは入っていますので、その辺は何卒微笑ましくお読み頂けると幸いです。
【セッティング】
私のリスニングルームは一応専用ルームです。ただ、“オーディオ専用”ではなく、ただの“自分専用”ルームです。この部屋に対してオーディオに考慮した素材や構造を採用する余裕はなく、石膏ボードの壁材と幾つかの収納スペースを備えた、何の変哲もない、どこにでもある、ごく普通の7畳洋室です。ついでに言うなら天井も低いですし、遮音だってよくありませんし、床だってそれほど頑丈ではありません。
<セッティング状況>
・部屋のサイズ280cm×430cm×230cm
・後壁からフロントバッフル中心まで:90cm
・側壁からユニット中心まで:60cm(左右スピーカー中心間160cm)
・ユニット中心からリスニングポジションまでの距離:180cm
・床からユニット中心までの高さ:55cm
・内振り:バッフルの左右端(38cm)と後壁との距離が1cm違い※振り角約1.5度
オープンバッフル型スピーカーは、後方に放たれた逆相の低域が壁に反射して戻り、フロントの低域を打ち消してしまうため、後壁から結構(80cmくらいは)離さないと低域が出ないようです。
従って、セッティング位置は自ずと決まってきます。私のように狭い長方形のリスニングルームでは短辺方向にスピーカーを置くことしかできないのです。
スピーカーの大きさから考えると、近すぎるリスニングポジションであり、当初は視覚的圧迫感もあったのですが、しばらくすると慣れました。18inchに慣れた今では15inchが小さく見えるくらいです。
大型スピーカーを至近距離で聴く場合、帯域別の音が、ユニットやダクトの方向から別々に聴こえることが気になったりすることがあります。これは例えば、トゥイーターとスコーカーの時間差が10cm異なることなどよりも聴感上は深刻な問題です。当スピーカーに関しては勿論それは発生しません。
【Lii Audio F-18について】

(後ろ姿です。シルバーと紺は相性が良いです。)
・物量と音質を考慮すると、ペア530ドルはバーゲンプライスです。
・フルレンジではありますが、イコライザやLCネットワークによる周波数特性の調整が前提と思います。電子的補正なしで使用するためには、メーカーが奨励しているような、巨大なバッフルとそれに見合った広大なリスニングルームが必要と思われます。
・分割振動やウィザーコーンなどによる不快な癖はほとんど感じられません。そのため、周波数特性さえある程度整えれば寧ろ使いやすい音色です。
・高域の癖の少なさはフルレンジの中でも上位クラスと思います。
しかし、10kHzより上の帯域は出ていないですし、指向性にも難があるのでSTW使用がおすすめです。もし、ユニット軸上で聴くのであれば、STWすら必要ないという人がいても全く不思議ではありません。
・エイジングが進むにつれ、帯域バランスが大きく変わります。高域は少しまろやかになり、低域はレベルが上がり、タイトになります。従って、ネットワークをそれに合わせて調整する必要があります。BSC回路の軽量化(コイルや抵抗を小さくする)は高能率化とともに情報量の増加という副次的メリットをもたらします。
・3kHz中心のディップは左右両ユニットにあり、至近距離でも測れるのでこれは仕様と考えられます。ただし、聴感上はあまり気になりません。
【当スピーカーシステム】

(ES104のフランジにフェルトを貼ってみました)
・スピーカーセッティングの微妙な差による、音場・音像の変化が大きいです。内振りについては、深めにはとらない方が良さそうです。
・フルレンジユニットの中心の高さは、耳の高さより30cm程度低めですが、音が下方から聴こえてくることはありません。多くのボーカルは床から120cm程度の高さに定位します。
・仰角をつけたセッティングはフルレンジからの高域の音圧が上がるためか音像が下がります。個人的には角度をつけない方が好きです。
・18インチフルレンジというカテゴリから想像できるような鈍重さはありません。解像度については一般的な3WAYなどには及びませんが、ストレスを感じるまでには悪くありません。
・低域は軽い質感で低いところまで伸びています。当たり前ですが、箱の音がしないことも強みです。ただ、Qtsの低い、強力なウーハーを使用した密閉やバスレフに比べると、力感や締まりは不足しているように思います。
100Hzより下のレベルが低いため、パイプオルガンやバスドラは明らかに迫力不足で、ベースの音色が軽かったり、ホールの空気感なども不足したりします。そこで最低域のレベルに合わせてBSC回路を調整しようとすると、抵抗値がかなり高くなるせいか、中高域の質がスポイルされます。
耐入力が高いので、電気的に低域へのブーストを行うか、或いは潔くサブウーハーを付加するかが有効策と考えられます。
・録音に対する相性でみると、フルレンジスピーカーの一般的傾向と同様、マルチマイク録音よりワンポイント録音の方が得意なようです。かといってマルチマイク録音の音源を再生することで音像が横一線に並ぶような極端なこともなく、それなりに縦方向にも分散します。
・オーケストラなどの大編成ものよりも、どちらかというと小編成が得意です。ただし、低域を補償することで多少は改善します。
・現代的な水準においては、音像は大き目かもしれません。ただ、音離れが良く、後方展開傾向なので、暑苦しくはありません。また、大きくPanningされた音像もスピーカーにへばりつかず、ある程度の奥行き感を伴った再生ができます。
・音場の描き方は、“緻密で高精度な箱庭”タイプとは対象的な、“拡散的没入型”タイプです。多少輪郭は滲んで良いから、大きな音楽の海に浸りましょうという感じです。以前紹介したレビューには”映画館の最前列でスクリーンを見ているよう”という表現がありましたが、これは的を射た表現と思います。
・暴力的な超低域を入れても振動板は殆ど揺れず、危なげがありません。
・Dipole-AMTによる超高域の付加は空間の透明度に大きく貢献するため、外すことは考えられません。
・音質的な強みは、勢い・生命感・躍動感・まとまりなどだと感じています。
インプレは以上です。
実は、音色のバランスで参考にしたのは、“iPhoneの付属イヤホン”です。質の悪い録音の欠点を詳らかにしてもらっては困るからです。
『良い録音でなくてもストレスを感じにくいように、かつ優秀録音もほどほど良さが分かるように』みたいな感じを目指しました。
ですから、似ている音はあるかと訊ねられると、“iPhone付属イヤホンの音に音場が付加された音”というのが近いようが気がします。
※音決めに使用した音源は、リッピングやダウンロードものがメインですが、Spotify connectも結構活用しました。プレイリスト“Xenos Audio”に40曲ほど集約してあります。ご興味のある方はご覧くださいませ。
これにて、当プロジェクトの記事は一旦終了します。ユニットのエイジングがまだ50時間程度なので、ネットワークの最終決定もまだ先です。仕上げもあと1工夫考えています。機会を見つけてまた追加記事を書こうと思います。
最後に、現時点での構成をまとめます。
【ユニット構成】
STW: Dayton ES-104AMT※Dipoleで使用
FullRange: Lii Audio F-18
Sub Woofer:FOSTEX CW250A(40Hz、正相、Symphonyモード)×2
【バッフル】
カバ桜30㎜厚。800mm×600mm樽型。バターミルクペイントで塗装。
【スピーカースタンド】
F-18マグネットとSoundAnchor(B&W805用)圧着※金属製スピーカースタンドのデッドマス化
【ネットワーク】※サブウーハー追加による適正化施行。日々実験・更新中
今回、私がスピーカー自作に走ったのは、「メインスピーカーを新調したい」という願いに対し「欲しいスピーカーが予算不足にて購入不可」という現実に直面したためです。
自作する以上は、市販にはないタイプのものを求めたので、特異な構造のシステムとなりました。実験機を通すなどの時間と手間をかけて、回り道はしましたが、なんとか実用に足るものができたと思います。
今作が、自分にとって人生最後のスピーカーになる可能性も十分に感じています。できることなら、これからはスピーカー買い替えの欲に囚われないようになりたいです。
私はオーディオにあまり予算をかけられません。しかし、低予算であっても、できることは沢山あります。
この趣味においては「足るを知る」ことが極めて重要と思います。今後は今の自分自身の環境や能力に満足しつつも、あまり無理はしないように、しかし諦めることもなく、マイペースに前進していきたいと思います。
長い連載に目を通して頂き、誠に有難うございました。
(当連載、了)
※以下連載リンク
オープンバッフルスピーカー2号機①(2つの候補)
オープンバッフルスピーカー2号機②(Lii audioのスピーカーユニット)
オープンバッフルスピーカー2号機③(ユニットとバッフル)
オープンバッフルスピーカー2号機④(ネットワーク)
オープンバッフルスピーカー2号機⑤(ユニットとバッフルの固定方法)
オープンバッフルスピーカー2号機⑥(ユニット到着)
オープンバッフルスピーカー2号機⑦(Dipole型AMT導入)
オープンバッフルスピーカー2号機⑧(バッフル作成)
オープンバッフルスピーカー2号機⑨(ネットワーク一旦完成と周波数特性)
オープンバッフルスピーカー2号機⑩(塗装)
オープンバッフルスピーカー2号機⑪(サブウーハーCW-250A導入)
レス一覧
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taketoさん、こんにちは。
完成おめでとうございます。
自分好みの「音」を目指して、自分が今持っている知識と技術を総動員させてDIYする。
苦節の上に完成したソレを聴いて満足感に浸るってのが最高ですよね。
狙い通りにいった部分とあれれ?って部分が有って一喜一憂して、またやり直してみたいなのも楽しみの一つですし。
taketoさんは事前準備を念入りにされた様で、ほぼ思った通りに鳴った様ですね、おめでとうございます!
お互いに唯一無二の音を楽しみましょうね〜。
byCENYA at2021-08-12 12:07
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CENYAさん、レス有難うございます。
オーディオを始めたばかりの頃は、会話を交わしたことすらない設計者を盲目的に信じて、出来上がったものと自分の感覚との齟齬にストレスを感じたりしていました。自分の工作の腕や組み合わせる機器が悪いのではないかと。
で、今回のようにほぼ自己責任で組み上げてみると、良いところもダメなところも掌の中にあり、非常に楽しかったです。
勿論、完璧ではないものの設定したハードルは超えられたので満足してます。
CENYAさんの存在も大きかったですよ。
有難うございました。
bytaketo at2021-08-12 20:34